36 / 73
《第2幕》8章 鼠
02
しおりを挟む
SPや警備員は一斉に銃を構え、エレベーター前で待ち受けた。
エレベーターは徐々に上に向かうにつれ、周りの緊張感は増していった。
そして、
チンッ
ゴクリと唾をのみ込むSPとその場にいる官僚達。首相も大統領も大量の汗をかいていた。
エレベーターが到着した合図から、扉が開くまでの時間はいつもより長く感じられた。
ガタン
開かれた扉を前に、銃を構えていた者は一斉に引き金を引いた。
銃口から放たれた弾丸は、空中を通過し、直進して標的へと向かう。しかし、扉が開かれ中を確認せずに発射された弾丸は標的には当たらず、標的をそのまま通過しエレベーター内部の壁に直撃し、無数の小さな穴をつくる。
「なっ!?」
標的が通過したと言ったが、正確には標的をすり抜け壁にぶち当たったのだ。つまり、弾丸は全弾命中したように一瞬見えたが、傷一つつけることなく終わり、銃にはすでに弾丸は残されていなかった。
さて、普通なら弾丸がすり抜けたりはしない。命中し、血を出し、エレベーターにいた者は無事ではすまないところだ。しかし、その者が人間であった場合に限られる。では、もしエレベーターの中にいたのが人間でなかったらどうだろうか?誰がそれを想像できたか?おそらく、この場にいた全員は間違いなくこの状況は予期出来なかっただろう。
たが、それは不思議なことではない。人間が予期できる範囲は狭く、全ての方向性は予期しなかったことだ。だから、人間は将来に不安を感じ、選択には慎重を重ねる。
この場の失態は、誰もが予期した通りの結末を望んだことだった。だから、この事態に警戒しなかった。選択を誤り、なおかつ保険をかけなかった。
携帯した銃しか持ち合わせなかった彼らは、全ての弾丸を銃口から放ってしまった。残りの弾丸はゼロ。武器はなくなった。無防備になった瞬間である。これが保険をかけなかった結果であり、その結末は彼らの血がこの場で流れることだった。
「きゃああぁぁーーー!!」
人ではないそれは黒いフードを被った何かだった。顔は深くフードを被っているため見えない。しかし、明らかにおかしい点は弾丸をすり抜けた他に、外見にもあった。フードから先の下は足がなく、完全に地面から宙に浮いてる状況だった。また、体事態、透けるように薄かった。
これが、奴の体質なのか?実態が不完全な存在は、ただ確実に物理的攻撃は彼の体をすり抜けるということだった。
ポタ…ポタ…ポタ…
何かの攻撃を受けたわけでもないのに、銃を構えていたSPや警備員は、全員腸から血を突然流していた。そして、次々と倒れていった。
「え!?攻撃が見えなかった」
山吹はその場を見ていた。でも、奴が何かをしたようには見えなかった。もしくは、すでに銃撃の際に攻撃を仕掛けていた!?
「いや、さくらさん。攻撃は見えなかったんじゃない。奴は何もしなかった。何もせずに殺したのよ」
「そ、そんなことって」
「あり得ない。だけど、能力者か、または人間でない化け物が再びあらわれたか」
「そんなはずは・・・・だって、世界構築の少女も、トリニティも、嘆き姫もいなくなったんですよ。能力もなくなった世界にあんなことは」
「山吹さん。嘆き姫を倒し、世界構築の少女が消える前に、最後に何か言ったのよね」
「あっ!まさか・・・・」
「『死神』・・・・もし、あれがそれなら納得できると思わない?それに見るからにしても死神みたいだし」
『死神』、それは世界構築の少女が最後に言った言葉に、確かにあった単語だった。
「死神には気をつけて」
あれが、そうなのか!?
山吹の頭の中に疑問が残るなか、さくらにひっついていた赤ずきんは、ぐいぐいと山吹の服の裾を引っ張る。
「こわい・・・・」
先程から黙りだった赤ずきんが初めて山吹に言葉を発した。
「珍しい。私以外には人を激しく避けるのに」
山吹は赤ずきんの頭をなでなでしながら言う。
「確かにこわいね。とにかく、さくらさん。どこか逃げませんか?このフロア以外の所に行ける場所を教えて下さい」
「分かった。でも、真紀さんは?」
その時、また悲鳴が響く。赤ずきんはすぐに耳をふさぎ、体をプルプルさせる。
「真紀ちゃんなら大丈夫です。こうゆう時こそ、私より強いので」
「そう?」
「はい。ですから、案内お願いします」
「分かった。お兄ちゃ・・・キャプラ首相も護衛がいるし、なにより最初の『空のない世界』から生き延びたんだから、大丈夫よ。私達は私達でとにかくこの場から離れましょう」
そう言ってその場から立ち去ろうとした時、山吹の目の前にいた女性、恐らくどこかの国の大統領婦人だろうか、いきなり首が吹っ飛び、残された体の首筋から赤い噴水がおきた。
「きゃああぁぁーーー」
山吹は思わず叫ぶ。
+ + +
その頃、真紀は山吹の悲鳴を聞いてトイレから飛び出してきたところだった。
「何これ・・・・」
トイレから出てきた先にあった光景は、はちゃめちゃに騒ぐ光景だった。まさに、あちこちで悲鳴が出ては血を吹き出す現状を疑ってしまうものだった。
「何がおきたって言うの?」
現状を理解できないでいると、
ガシャ…ガシャ
鎧を着た者があらわれた。
「強者よ。そして我が主よ。お久方ぶりである」
「鎧武者!」
かつて、山吹が誰かの手によって操られた時にあらわれた鎧武者だった。
真紀は睨む。
「これはあなたの仕業なの」
「違う。我は主の危機を察知し、素早く参上した者。我が主の為、再び武器となりて主の支えとなりて来た」
「なら、これはいったい何なの!」
「これはかつての我が主の仕業である」
「それって、ふきちゃんを操った奴のこと?」
「そうだ。そして、そやつにつかえる武将が引き起こしたことである」
「武将?」
「かつての主は陰陽師を使えて、その力で色を手にしていたが、世界構築の少女が消えたことにより、今は陰陽師のみの力しかない。しかし、かつての主なだけに協力な陰陽師の力を持っていた。その力で私を含む六人の武将を召喚したのだ。今日はその六大武将が一人、鬼」
「鬼?」
「武将は特殊な武具を装備する。我は不死の鎧。鬼は未知の剣。悟られず、見えず、触れられず、ただ一方的に斬られることしか相手はできないと。回避不能な斬撃に構えは不要で、ただ殺す相手を指名するだけで勝手に斬ってくれる武器だ。故に見えない剣、最強の剣と言われている。しかし、それは万能にはならず、相手の指名なければ無防備同然。剣自体に実態があるわけではない。空気中に溶け込むそれは、使い手が察知されなければ鬼は容易く斬れよう」
「じゃあ、その鬼を斬ればいいんだね」
「左様。奴の身体は常に透けており、通常の武器では傷一つつけられないが、我が武器を使えば斬れよう。あとは、奴の視界に入らずに斬れればいい」
鎧武者は簡単だろという感じに言ってきた。勿論、そんな簡単でもないはずだが、しかし、真紀は時に気にせずただやるべきことだけしか、すでに考えていなかった。
「ふきちゃんを守る。ふきちゃんを助けれるのは私しかいないんだ」
そう言って、悲鳴に死体と生者の混沌の中に足を進めた。
+ + +
「山吹さん、大丈夫?」
「はい、すいません大声出しちゃって。ちょっと、驚いたもので」
「いいのよ、無理しなくて」
「いいえ、大丈夫です。早く行きましょう」
さくらは頷いた。
「じゃあ、ついてきて」
そう言って、三人はこの場をとっとと立ち去った。
+ + +
逃げ惑うスーツを着たお偉いさんを避けながら、真紀は二刀を両手に握りしめながらこの元凶犯の元へと急いだ。
「恐らく山吹という者はこの場をうまく逃げきったようだ」
刀に変幻した鎧武者は、そこらに横たわる死体をあらかた判別したらしい。
「なら、尚更奴に集中できる」
「であろうな。先程から周りばかり視線にいってる様子から、山吹とかいう友人を探していたのだろう。だが強者よ、今は奴に集中すべきだ」
「分かってる!」
真紀はそう言いながら、鬼とかいう六大武将の居場所を確認した。まだ、鬼には見つかっておらず、不意討ちは可能だ。しかし、それは一度きりのチャンスであり、失敗すれば間違いなく奴の視界に入り殺される。だが、そんな心配をしている場合でもない。このチャンスをみすみす逃すわけにはいかなかった。
「参る!」
真紀は人を視界の壁にし、瞬時に移動しながら奴の背後へと回り込む。同然、いくら無防備になった人間だからといって警戒を怠っているかどうかは分からない。いや、恐らく警戒するだろう。武将はいっさいの気の許しはないはずだ。ならばこそ、こちらも慎重に背後をとるにこしたことはない。
真紀はタイミングを計った。それは一瞬であるが、奴が次の標的を選び殺すことには恐らくタイムラグが存在する。その僅かな時間を狙う。危険な賭けではあるが、この場合はそれしかない。それに、人を殺すのにどうも同時は出来ないらしい。ずっと見ていたが、一人、一人殺している。こんな不効率なやり方をする理由は、同時攻撃が出来ないと考えて問題ないはずだ。
真紀は慎重に見計らう。手には少し汗を感じる。汗で矛先を間違えてずらさないようしっかりと握りしめる。
そして、その時がきた。
「今だ!」
鬼が顔を横にしたのを合図に走りこむ。鬼は他の人間を指名する為、顔を少し動かし視界をずらそうとしたのだ。それを見計らって、真紀は二刀を鬼の首と背中を深く切り裂いた。
血は出なかったものの、首は胴体から切り離され、遠くへと飛ばされた。
「 頭が空を飛ぶことなんてそうそうないでしょ。どうだった、飛んだ時の視界は」
そう、皮肉を述べながら真紀は刀を鞘に納めた。
その瞬間、周りに歓声があがった。と言っても、ほとんどの人は殺され僅かしか生き残っていなかった。
「倒したんだよね?」
「あぁ、見事であった。流石は我が主。にして我が主よ、そのあとはどうする?やはり、友人とやらを探しに行くのだな」
「勿論」
そう言って、辺りをぶらぶら探し回った。
「適当に他の場所探せば見つかるよね」
「もしくは周りの者に声を掛け、目撃しなかっか聞くのも手だろう」
「成る程」
「もしくは、事が終わったことが知れわたれば、おのずと合流できよう」
「それもそうだね」
そう言って、ゆっくりぶらぶらと探すことにした。
「しかし、いくらこの場にいないからと言って、そこまで安心するものなのか」
「うーん、まぁ大丈夫でしょ」
「随分いい加減だな。先程までは友人の悲鳴一つで顔色を変えたというのに」
と、突然真紀の足が止まった。真紀の視線は強化窓ガラスから見える宇宙にあった。
「どうした、我が主よ」
「ねぇ、あれ月だよね?」
「んん?あぁ、月だな」
「何で月があんなに赤いの?」
真紀の言う通り、月は不気味に赤く光っていた。
+ + +
その頃山吹達は、展望フロアから立ち去り、非常口から倉庫エリアに来ていた。
倉庫エリアは、他のフロアより広く、そこには幾つかの機材があった。ここは、元々宇宙産業を革新的に進めるために必要な機材を、地球から運び受け取る為の施設である。それはロケットを放つより低コストだからだ。
「さくら!?」
「お兄ちゃん!」
「まさか、考えることが同じだったとは」
キャプラとさくらは再会に喜び抱き合った。
「残念ながら、私についてくれたSPも護衛も皆やられた」
「そう・・・・でも、お兄ちゃんが無事でよかった」
「山吹も一緒なのか。あれ?あと一人、真紀ちゃんとか言う子がいないが」
「キャプラ首相、真紀とは今はぐれてしまって。でも、多分大丈夫だと思います」
「だといいが。本来は彼女にも私同様、SPがつかなければならない方なんだが」
「お兄ちゃん、その事は真紀さんには内緒だと」
「ん?」
キャプラは山吹をもう一度見て謝る。
「あぁ、そうだったな。忘れてくれ」
「あ、はい……」
「それより、ここにある機材にはできるだけ触れないでくれ」
「ここにあるのって、宇宙産業に使われる機材ですか?」
「あぁ、おそらくは。しかし、おかしい。本来なら開幕式までは試験運用以外は使用されていないはずだ。なのになんであるのか」
「怪しいですね。お兄ちゃん、ここにある機材、調べた方がいいかも」
「え?でも、触らない方がいいんですよね」
「あぁ、機材と言ったが実際にどんな物があるのか知らないわけだ。危険な物だってあるだろう。それに、宇宙に出た部品は、地球と違って大量の放射能を浴びている可能性がある。勿論、放射能を取り除く作業をするのだが、それでも幾つかは放射能の注意マークのついた物が幾つかあるようだ。
だが今回の件、アメリカの大統領が怪しいと俺は考える。さくらの言う通り、調べた方がよさそうだ」
「ちょっと待って下さい。どうしてですか?アメリカ大統領も命を狙われてるんですよ」
「いや、それがエレベーターが再び開く時には姿がなかったんだ」
「え!?」
「実は、あの式からずっとアメリカ大統領を見ていたんだ。アメリカ大統領の様子がおかしいと実はあの式で、アメリカの官僚達に言われてね。本来、自分の首相の不信を他の国に話すことはないんだが、その官僚とはちょっとした付き合いがあるんだ。それで、その相談にのったわけだ」
「それで、あの時からずっとおかしな動きをしていたんですね」
「やはり、バレていたか。まさか、こうなるとは考えていなかったんだ。だから、他の二人にこの事を話すことは出来なかった。その点はすまなかった」
「こちらこそ、すいませんでした。さくらさんとずっと一緒にいたから、さくらさんに話せなかったんですよね」
「君が気にすることじゃない。それに、さくらのことは信用している。
こう見えても、さくらは勘が働く。それで助かったこともある」
「そうなんですか!?」
「いやいや、変なこと言わないでよ」
「さくらが、ここにあるものが気になると言うなら調べよう。さて、では早速調べてみよう」
キャプラは手をすりながら、荷物や機材入れを開け中身を順に確認しようとした・・・・が、
「ヒュー、一発目で当たりを見つけたよ。そうなると、多分全部がそうなんだろうな」
そう言って、中身を凝視する。
気になった二人は中身を見る。
「はあ?」
「嘘!?」
カチ…カチ…カチ…カチ
さて、問題。赤く光るランプと爆薬にタイマーが一緒になったものはなーんだ?
三人は、それを凝視する。
どうやら正解を言う必要はないようだ。
+ + +
「誰か日本人見ませんでしたか?」
「あっ、それなら非常口から出ていくのを見たよ」
「ありがとうございます」
以外に日本語が通じたことに驚いたが、その人が通訳士だと知り納得する。
真紀は、そのまま先程言われた通り、非常口から倉庫エリアに向かった。
+ + +
「何でこんなところに爆弾があるんでしょうか?」
山吹は聞いた。出来れば、何かに使うものなんだよと、決して今いる場所を爆発させるつもりではない。そんなアメリカン映画のようなことはないから心配はいらないと、そんな答えを求めた。それが、少しの希望になりそうだからだ。でも、答えはいつも残酷だった。
「まさか、アメリカ大統領がテロリストと組んでいたとは・・・」
「え、でも先程の死神はテロリストと関係ないんじゃ」
「いや、あれは予想外だった」
その言葉はキャプラでも、さくらが答えたわけでもない。山吹達の視界に入ってきた大統領だった。
「大統領、これはどういうことか説明を頂きたい」
「何を今更言っているのだ、キャプラ首相。各国のトップや各国の企業のトップが集まることなんてそうそうあることじゃない。が、実際宇宙エレベーターの開幕式には君らは集まってくれた。宇宙産業はかなりの希望があるからだ。
まぁ、端的に話すと君らは私を信用し、まんまと殺されるわけだ。トップがこの場でたくさんいなくなれば、世界で混乱がおきそれに伴い、株式市場も大きく変動するだろ」
「そんなことをすれば、アメリカは世界で孤立してしまうし、アメリカの信用を失えば一番株が暴落するのはアメリカ自身だろ」
「確かにその通りだ。いくらアメリカの兵が優秀でも、世界を敵にまわせば勝ち目がないことも理解している。しかし、私にはそうすことしか出来なかった」
「?」
突然、大統領は涙を流した。
「まさか、大統領の婦人が来なかったのは巻き込まれない為だと思っていましたが、違うんですか?」
「私の妻なら死んだ」
「何っ!?」
この場にいた三人は一斉に驚いた。
「情報規制で隠したんですか。なぜ、そのようなことを」
「私の妻が殺されたと、世界に報道をか?」
「殺された!?」
「そうだ。そして、わが子は人質にされている」
「成る程、では大統領、あなたはテロリストに屈したのですね」
「私にとって、たった一人の家族になってしまったんだ。どんなことだってする」
「お子さんのことはお悔やみ申し上げます。しかし、だからといってこんなことをする大統領ではないでしょ?誰ですか、あなたを操っている人物は」
「それを答える必要はない」
そう言って、大統領は胸ポケットから拳銃を取りだし、キャプラに銃口を向けた。
「やめるんだ!お子さんは本当にテロリストに捕まったのか?私にできることなら何でも協力する」
「いや、テロリストじゃない。ただ、ここを襲撃するのはテロリストだと聞いたからだ」
「なら、誰に言われた!」
「日本人の格好?確かお寺の女が着るような服を着ていた」
「犯人は女?」
「あぁ、少女だった」
「少女!?」
「うっ・・・・」
急に大統領は頭をおさえる。
「どうした?」
「うっ・・・急に頭が」
「頭痛がするのか」
それを見て、山吹は後退りをする。
「どうしたの?」
「わ、私この状況がなんなのか分かった気がする」
「え?」
「大統領今、お寺の女の人が着るような格好って言ったよね。それって、巫女さんのことじゃないかな」
「まさか・・・・」
「私を操った奴。なら、あの死神はあの巫女が送った奴なんだ。間違いない。真紀はその時、鎧武者に襲われたと言ってた。他にも似たようなものがあるんだ!」
「なら!お兄ちゃん、そいつから離れて。そいつは大統領じゃない。完全に洗脳された別人よ」
「何っ!」
キャプラが驚き、すぐさま大統領から離れようとした。
ドンッ
銃声。その後、キャプラはうしろに倒れる。
「お兄ちゃん!」
大統領は目を真っ赤にし、キャプラに近くさくらを次の標的にしたかのように、銃口の向きを変える。
「次はお前だ!」
さくらはそれに反応しきれず、大統領はそのまま銃の引き金を引こうとした時、大統領の人差し指が一瞬で消えた。それと同時に銃も解体される。
「あああぁぁぁ!!!」
大統領はなくなった人差し指辺りに、手を必死に当てながらわめいた。
「真紀ちゃん!」
真紀は刀の先を大統領の首筋に当てる。
「動くな。私の友達に手を出したこと、後悔させてあげる」
「うっ・・・人間がぁ!」
そう言って、刀の先を素手で掴み、自ら自分の首の大動脈を切り裂いた。
「なっ!?」
血が首から勢いよく吹き出す。大統領は、真紀と顔を合わせ、ニヤリと笑いながら倒れた。
真紀は背筋がこおった。
+ + +
その頃、地上では各大統領や首相と連絡途絶になったことに驚きまわっていた。そのなかでも一番の騒ぎになっているのはアメリカだった。
そして、ここは宇宙エレベーター前。
「おい、説明しろ。どうなってるんだ」
「こちらも上の様子がどうなっているのか分からない状況になっておりまして」
「何っ、分からないだと」
「どういうこどだ!」
「この事態に君らは責任取れるのか。つまらない嘘をはいてないで答えろ!」
既に事態を知った各政治家達は、直ぐ様現地に向かい責任者と話しをしていた。いや、話しとは程遠く、実際は一方的な口論だった。それもそのはず、情報は全く知らされずにただここで待たされるだけだったのだ。ものも言いたくなる政治家だが、上の状況を知ることができない責任者も、伝えようがないのだった。
「上の監視カメラをこちらで見ることは出来ないのか?」
「それが、監視カメラの電源が入っていないのか、モニターに接続が出来ないんです」
「なぜ、監視カメラの電源が入っていないんだ」
「どうも電源ブレーカーが一度落ちているようで、非常用電源が稼働してるんですが、ブレーカーが落ちると監視カメラの電源も同時に切れてしまうんです」
「ブレーカーが落ちた?そんなことがあるのか?」
「いいえ。ただ、ブレーカーは複数あり、一つが落ちても基本的上の人が気づくことはありません。電気も、エレベーターも他の設備も動きます。それはつまり、一つのブレーカーが落ちても、一瞬電気が消えるといったことがないようにする為です。そのようなことがあれば危険ですから。
しかし、監視カメラだけは違います。監視カメラに繋がれる電線は一つのみで、一つのブレーカーにしか繋がれていません。そのブレーカーが落ちたのです。本来、ブレーカーが落ちる要素はありません。まだ、今日の視察用の展望フロア以外に使われていないからです」
「つまり、何が言いたいんだね」
「監視カメラに繋がれたブレーカーが落ちたのが偶然だとは思えません。おそらく、誰かが意図的に落としたと思われます」
「何だと!?」
「宇宙エレベーターを直ぐ様動かし、救出することは出来ないのか?」
「それが、何者かにハッキングをされているようで、今エレベーターを動かすことが出来ないのです。
現在、警察に連絡を入れハッキング元の場所を捜索にあたってもらっています」
「なら、我々はこうしてただ、この場で口をくわえて無事を祈ることしかできないのか・・・」
責任者は深々と頭を下げる。彼もまた、各それぞれに頭を下げるしか現状それしか出来なかった。
+ + +
場所が代わり、ここは倉庫エリア。
「真紀ちゃん!」
山吹に言われ、真紀は正気を取り戻した。
「大丈夫?」
「うん。ちょっとビックリしただけ。それより、キャプラさんは?」
山吹は黙って、ただ顔を横にふった。
真紀は、さくらがキャプラの胸元で泣いているのを見た。
「それより真紀ちゃん、聞いて欲しいことがある」
山吹はここにある爆弾のことを話した。
「なら、脱出しよ。エレベーターを使って、生き残った人だけでも、ここから離れよう」
「うん」
山吹はさくらにかけより、この場を離れようと説得する。最初は抵抗し、キャプラから離れようとしなかったが、山吹の説得あってかなんとか決意してくれた。
「じゃあ、行こっか」
「うん」
さくらも涙をぬぐいながら頷く。
「じゃあね、お兄ちゃん。一緒にいて、楽しかったよ」
すると、ぐいぐいと引っ張る赤ずきん。
「大丈夫だよ、お姉ちゃん」
さくらは赤ずきんを抱きしめ「うん、うん」と頷く。
「皆さん、先程の鬼は私が倒しました。ですが、ここに爆弾があることが分かりました」
真紀は叫ぶ。それを聞いてざわめく。ある者は今度こそ絶望した目をする。
「皆さん、落ち着いて聞いてください。これから、生き残った我々だけでエレベーターに乗り込み、ここを脱出します」
「ちょっと待って。私の旦那はどうなるの?」
「死体は一緒には連れていけません」
「そんな!私の旦那は国のトップなのよ。どうして、あなたにそんな権限があって言ってるのかしら。知っているのよ、あなたはただの付き添いの、ただの一般人だってことを。私の旦那はーー」
すると、背後にいた男性が女性の首筋辺りにチョップをきめた。
「安心しろ、気絶させただけだ。こうでもしないと黙らないだろ。俺はあんたの考えに賛成だ。
さぁ、皆!お嬢ちゃんが言った通りエレベーターに乗り込むんだ」
皆は、その一言に動いた。各々、別れの挨拶を述べながら、その場を離れていく。
「全員乗ったか?」
一様の確認をおこなう。
「よし、じゃあボタンを押すぞ」
そう言って、ボタンを押した。しかし、反応がない。
「ん?」
もう一度ボタンを押す。しかし、いくら押してもエレベーターは反応しなかった。
「おい、エレベーターが動かないぞ!」
「なんだって!?」
「私達はどうなるんだ?エレベーターが動かないってことは地上に戻れないんだろ?」
それは即ち、この場所に閉じ込められたことになる。
エレベーターは徐々に上に向かうにつれ、周りの緊張感は増していった。
そして、
チンッ
ゴクリと唾をのみ込むSPとその場にいる官僚達。首相も大統領も大量の汗をかいていた。
エレベーターが到着した合図から、扉が開くまでの時間はいつもより長く感じられた。
ガタン
開かれた扉を前に、銃を構えていた者は一斉に引き金を引いた。
銃口から放たれた弾丸は、空中を通過し、直進して標的へと向かう。しかし、扉が開かれ中を確認せずに発射された弾丸は標的には当たらず、標的をそのまま通過しエレベーター内部の壁に直撃し、無数の小さな穴をつくる。
「なっ!?」
標的が通過したと言ったが、正確には標的をすり抜け壁にぶち当たったのだ。つまり、弾丸は全弾命中したように一瞬見えたが、傷一つつけることなく終わり、銃にはすでに弾丸は残されていなかった。
さて、普通なら弾丸がすり抜けたりはしない。命中し、血を出し、エレベーターにいた者は無事ではすまないところだ。しかし、その者が人間であった場合に限られる。では、もしエレベーターの中にいたのが人間でなかったらどうだろうか?誰がそれを想像できたか?おそらく、この場にいた全員は間違いなくこの状況は予期出来なかっただろう。
たが、それは不思議なことではない。人間が予期できる範囲は狭く、全ての方向性は予期しなかったことだ。だから、人間は将来に不安を感じ、選択には慎重を重ねる。
この場の失態は、誰もが予期した通りの結末を望んだことだった。だから、この事態に警戒しなかった。選択を誤り、なおかつ保険をかけなかった。
携帯した銃しか持ち合わせなかった彼らは、全ての弾丸を銃口から放ってしまった。残りの弾丸はゼロ。武器はなくなった。無防備になった瞬間である。これが保険をかけなかった結果であり、その結末は彼らの血がこの場で流れることだった。
「きゃああぁぁーーー!!」
人ではないそれは黒いフードを被った何かだった。顔は深くフードを被っているため見えない。しかし、明らかにおかしい点は弾丸をすり抜けた他に、外見にもあった。フードから先の下は足がなく、完全に地面から宙に浮いてる状況だった。また、体事態、透けるように薄かった。
これが、奴の体質なのか?実態が不完全な存在は、ただ確実に物理的攻撃は彼の体をすり抜けるということだった。
ポタ…ポタ…ポタ…
何かの攻撃を受けたわけでもないのに、銃を構えていたSPや警備員は、全員腸から血を突然流していた。そして、次々と倒れていった。
「え!?攻撃が見えなかった」
山吹はその場を見ていた。でも、奴が何かをしたようには見えなかった。もしくは、すでに銃撃の際に攻撃を仕掛けていた!?
「いや、さくらさん。攻撃は見えなかったんじゃない。奴は何もしなかった。何もせずに殺したのよ」
「そ、そんなことって」
「あり得ない。だけど、能力者か、または人間でない化け物が再びあらわれたか」
「そんなはずは・・・・だって、世界構築の少女も、トリニティも、嘆き姫もいなくなったんですよ。能力もなくなった世界にあんなことは」
「山吹さん。嘆き姫を倒し、世界構築の少女が消える前に、最後に何か言ったのよね」
「あっ!まさか・・・・」
「『死神』・・・・もし、あれがそれなら納得できると思わない?それに見るからにしても死神みたいだし」
『死神』、それは世界構築の少女が最後に言った言葉に、確かにあった単語だった。
「死神には気をつけて」
あれが、そうなのか!?
山吹の頭の中に疑問が残るなか、さくらにひっついていた赤ずきんは、ぐいぐいと山吹の服の裾を引っ張る。
「こわい・・・・」
先程から黙りだった赤ずきんが初めて山吹に言葉を発した。
「珍しい。私以外には人を激しく避けるのに」
山吹は赤ずきんの頭をなでなでしながら言う。
「確かにこわいね。とにかく、さくらさん。どこか逃げませんか?このフロア以外の所に行ける場所を教えて下さい」
「分かった。でも、真紀さんは?」
その時、また悲鳴が響く。赤ずきんはすぐに耳をふさぎ、体をプルプルさせる。
「真紀ちゃんなら大丈夫です。こうゆう時こそ、私より強いので」
「そう?」
「はい。ですから、案内お願いします」
「分かった。お兄ちゃ・・・キャプラ首相も護衛がいるし、なにより最初の『空のない世界』から生き延びたんだから、大丈夫よ。私達は私達でとにかくこの場から離れましょう」
そう言ってその場から立ち去ろうとした時、山吹の目の前にいた女性、恐らくどこかの国の大統領婦人だろうか、いきなり首が吹っ飛び、残された体の首筋から赤い噴水がおきた。
「きゃああぁぁーーー」
山吹は思わず叫ぶ。
+ + +
その頃、真紀は山吹の悲鳴を聞いてトイレから飛び出してきたところだった。
「何これ・・・・」
トイレから出てきた先にあった光景は、はちゃめちゃに騒ぐ光景だった。まさに、あちこちで悲鳴が出ては血を吹き出す現状を疑ってしまうものだった。
「何がおきたって言うの?」
現状を理解できないでいると、
ガシャ…ガシャ
鎧を着た者があらわれた。
「強者よ。そして我が主よ。お久方ぶりである」
「鎧武者!」
かつて、山吹が誰かの手によって操られた時にあらわれた鎧武者だった。
真紀は睨む。
「これはあなたの仕業なの」
「違う。我は主の危機を察知し、素早く参上した者。我が主の為、再び武器となりて主の支えとなりて来た」
「なら、これはいったい何なの!」
「これはかつての我が主の仕業である」
「それって、ふきちゃんを操った奴のこと?」
「そうだ。そして、そやつにつかえる武将が引き起こしたことである」
「武将?」
「かつての主は陰陽師を使えて、その力で色を手にしていたが、世界構築の少女が消えたことにより、今は陰陽師のみの力しかない。しかし、かつての主なだけに協力な陰陽師の力を持っていた。その力で私を含む六人の武将を召喚したのだ。今日はその六大武将が一人、鬼」
「鬼?」
「武将は特殊な武具を装備する。我は不死の鎧。鬼は未知の剣。悟られず、見えず、触れられず、ただ一方的に斬られることしか相手はできないと。回避不能な斬撃に構えは不要で、ただ殺す相手を指名するだけで勝手に斬ってくれる武器だ。故に見えない剣、最強の剣と言われている。しかし、それは万能にはならず、相手の指名なければ無防備同然。剣自体に実態があるわけではない。空気中に溶け込むそれは、使い手が察知されなければ鬼は容易く斬れよう」
「じゃあ、その鬼を斬ればいいんだね」
「左様。奴の身体は常に透けており、通常の武器では傷一つつけられないが、我が武器を使えば斬れよう。あとは、奴の視界に入らずに斬れればいい」
鎧武者は簡単だろという感じに言ってきた。勿論、そんな簡単でもないはずだが、しかし、真紀は時に気にせずただやるべきことだけしか、すでに考えていなかった。
「ふきちゃんを守る。ふきちゃんを助けれるのは私しかいないんだ」
そう言って、悲鳴に死体と生者の混沌の中に足を進めた。
+ + +
「山吹さん、大丈夫?」
「はい、すいません大声出しちゃって。ちょっと、驚いたもので」
「いいのよ、無理しなくて」
「いいえ、大丈夫です。早く行きましょう」
さくらは頷いた。
「じゃあ、ついてきて」
そう言って、三人はこの場をとっとと立ち去った。
+ + +
逃げ惑うスーツを着たお偉いさんを避けながら、真紀は二刀を両手に握りしめながらこの元凶犯の元へと急いだ。
「恐らく山吹という者はこの場をうまく逃げきったようだ」
刀に変幻した鎧武者は、そこらに横たわる死体をあらかた判別したらしい。
「なら、尚更奴に集中できる」
「であろうな。先程から周りばかり視線にいってる様子から、山吹とかいう友人を探していたのだろう。だが強者よ、今は奴に集中すべきだ」
「分かってる!」
真紀はそう言いながら、鬼とかいう六大武将の居場所を確認した。まだ、鬼には見つかっておらず、不意討ちは可能だ。しかし、それは一度きりのチャンスであり、失敗すれば間違いなく奴の視界に入り殺される。だが、そんな心配をしている場合でもない。このチャンスをみすみす逃すわけにはいかなかった。
「参る!」
真紀は人を視界の壁にし、瞬時に移動しながら奴の背後へと回り込む。同然、いくら無防備になった人間だからといって警戒を怠っているかどうかは分からない。いや、恐らく警戒するだろう。武将はいっさいの気の許しはないはずだ。ならばこそ、こちらも慎重に背後をとるにこしたことはない。
真紀はタイミングを計った。それは一瞬であるが、奴が次の標的を選び殺すことには恐らくタイムラグが存在する。その僅かな時間を狙う。危険な賭けではあるが、この場合はそれしかない。それに、人を殺すのにどうも同時は出来ないらしい。ずっと見ていたが、一人、一人殺している。こんな不効率なやり方をする理由は、同時攻撃が出来ないと考えて問題ないはずだ。
真紀は慎重に見計らう。手には少し汗を感じる。汗で矛先を間違えてずらさないようしっかりと握りしめる。
そして、その時がきた。
「今だ!」
鬼が顔を横にしたのを合図に走りこむ。鬼は他の人間を指名する為、顔を少し動かし視界をずらそうとしたのだ。それを見計らって、真紀は二刀を鬼の首と背中を深く切り裂いた。
血は出なかったものの、首は胴体から切り離され、遠くへと飛ばされた。
「 頭が空を飛ぶことなんてそうそうないでしょ。どうだった、飛んだ時の視界は」
そう、皮肉を述べながら真紀は刀を鞘に納めた。
その瞬間、周りに歓声があがった。と言っても、ほとんどの人は殺され僅かしか生き残っていなかった。
「倒したんだよね?」
「あぁ、見事であった。流石は我が主。にして我が主よ、そのあとはどうする?やはり、友人とやらを探しに行くのだな」
「勿論」
そう言って、辺りをぶらぶら探し回った。
「適当に他の場所探せば見つかるよね」
「もしくは周りの者に声を掛け、目撃しなかっか聞くのも手だろう」
「成る程」
「もしくは、事が終わったことが知れわたれば、おのずと合流できよう」
「それもそうだね」
そう言って、ゆっくりぶらぶらと探すことにした。
「しかし、いくらこの場にいないからと言って、そこまで安心するものなのか」
「うーん、まぁ大丈夫でしょ」
「随分いい加減だな。先程までは友人の悲鳴一つで顔色を変えたというのに」
と、突然真紀の足が止まった。真紀の視線は強化窓ガラスから見える宇宙にあった。
「どうした、我が主よ」
「ねぇ、あれ月だよね?」
「んん?あぁ、月だな」
「何で月があんなに赤いの?」
真紀の言う通り、月は不気味に赤く光っていた。
+ + +
その頃山吹達は、展望フロアから立ち去り、非常口から倉庫エリアに来ていた。
倉庫エリアは、他のフロアより広く、そこには幾つかの機材があった。ここは、元々宇宙産業を革新的に進めるために必要な機材を、地球から運び受け取る為の施設である。それはロケットを放つより低コストだからだ。
「さくら!?」
「お兄ちゃん!」
「まさか、考えることが同じだったとは」
キャプラとさくらは再会に喜び抱き合った。
「残念ながら、私についてくれたSPも護衛も皆やられた」
「そう・・・・でも、お兄ちゃんが無事でよかった」
「山吹も一緒なのか。あれ?あと一人、真紀ちゃんとか言う子がいないが」
「キャプラ首相、真紀とは今はぐれてしまって。でも、多分大丈夫だと思います」
「だといいが。本来は彼女にも私同様、SPがつかなければならない方なんだが」
「お兄ちゃん、その事は真紀さんには内緒だと」
「ん?」
キャプラは山吹をもう一度見て謝る。
「あぁ、そうだったな。忘れてくれ」
「あ、はい……」
「それより、ここにある機材にはできるだけ触れないでくれ」
「ここにあるのって、宇宙産業に使われる機材ですか?」
「あぁ、おそらくは。しかし、おかしい。本来なら開幕式までは試験運用以外は使用されていないはずだ。なのになんであるのか」
「怪しいですね。お兄ちゃん、ここにある機材、調べた方がいいかも」
「え?でも、触らない方がいいんですよね」
「あぁ、機材と言ったが実際にどんな物があるのか知らないわけだ。危険な物だってあるだろう。それに、宇宙に出た部品は、地球と違って大量の放射能を浴びている可能性がある。勿論、放射能を取り除く作業をするのだが、それでも幾つかは放射能の注意マークのついた物が幾つかあるようだ。
だが今回の件、アメリカの大統領が怪しいと俺は考える。さくらの言う通り、調べた方がよさそうだ」
「ちょっと待って下さい。どうしてですか?アメリカ大統領も命を狙われてるんですよ」
「いや、それがエレベーターが再び開く時には姿がなかったんだ」
「え!?」
「実は、あの式からずっとアメリカ大統領を見ていたんだ。アメリカ大統領の様子がおかしいと実はあの式で、アメリカの官僚達に言われてね。本来、自分の首相の不信を他の国に話すことはないんだが、その官僚とはちょっとした付き合いがあるんだ。それで、その相談にのったわけだ」
「それで、あの時からずっとおかしな動きをしていたんですね」
「やはり、バレていたか。まさか、こうなるとは考えていなかったんだ。だから、他の二人にこの事を話すことは出来なかった。その点はすまなかった」
「こちらこそ、すいませんでした。さくらさんとずっと一緒にいたから、さくらさんに話せなかったんですよね」
「君が気にすることじゃない。それに、さくらのことは信用している。
こう見えても、さくらは勘が働く。それで助かったこともある」
「そうなんですか!?」
「いやいや、変なこと言わないでよ」
「さくらが、ここにあるものが気になると言うなら調べよう。さて、では早速調べてみよう」
キャプラは手をすりながら、荷物や機材入れを開け中身を順に確認しようとした・・・・が、
「ヒュー、一発目で当たりを見つけたよ。そうなると、多分全部がそうなんだろうな」
そう言って、中身を凝視する。
気になった二人は中身を見る。
「はあ?」
「嘘!?」
カチ…カチ…カチ…カチ
さて、問題。赤く光るランプと爆薬にタイマーが一緒になったものはなーんだ?
三人は、それを凝視する。
どうやら正解を言う必要はないようだ。
+ + +
「誰か日本人見ませんでしたか?」
「あっ、それなら非常口から出ていくのを見たよ」
「ありがとうございます」
以外に日本語が通じたことに驚いたが、その人が通訳士だと知り納得する。
真紀は、そのまま先程言われた通り、非常口から倉庫エリアに向かった。
+ + +
「何でこんなところに爆弾があるんでしょうか?」
山吹は聞いた。出来れば、何かに使うものなんだよと、決して今いる場所を爆発させるつもりではない。そんなアメリカン映画のようなことはないから心配はいらないと、そんな答えを求めた。それが、少しの希望になりそうだからだ。でも、答えはいつも残酷だった。
「まさか、アメリカ大統領がテロリストと組んでいたとは・・・」
「え、でも先程の死神はテロリストと関係ないんじゃ」
「いや、あれは予想外だった」
その言葉はキャプラでも、さくらが答えたわけでもない。山吹達の視界に入ってきた大統領だった。
「大統領、これはどういうことか説明を頂きたい」
「何を今更言っているのだ、キャプラ首相。各国のトップや各国の企業のトップが集まることなんてそうそうあることじゃない。が、実際宇宙エレベーターの開幕式には君らは集まってくれた。宇宙産業はかなりの希望があるからだ。
まぁ、端的に話すと君らは私を信用し、まんまと殺されるわけだ。トップがこの場でたくさんいなくなれば、世界で混乱がおきそれに伴い、株式市場も大きく変動するだろ」
「そんなことをすれば、アメリカは世界で孤立してしまうし、アメリカの信用を失えば一番株が暴落するのはアメリカ自身だろ」
「確かにその通りだ。いくらアメリカの兵が優秀でも、世界を敵にまわせば勝ち目がないことも理解している。しかし、私にはそうすことしか出来なかった」
「?」
突然、大統領は涙を流した。
「まさか、大統領の婦人が来なかったのは巻き込まれない為だと思っていましたが、違うんですか?」
「私の妻なら死んだ」
「何っ!?」
この場にいた三人は一斉に驚いた。
「情報規制で隠したんですか。なぜ、そのようなことを」
「私の妻が殺されたと、世界に報道をか?」
「殺された!?」
「そうだ。そして、わが子は人質にされている」
「成る程、では大統領、あなたはテロリストに屈したのですね」
「私にとって、たった一人の家族になってしまったんだ。どんなことだってする」
「お子さんのことはお悔やみ申し上げます。しかし、だからといってこんなことをする大統領ではないでしょ?誰ですか、あなたを操っている人物は」
「それを答える必要はない」
そう言って、大統領は胸ポケットから拳銃を取りだし、キャプラに銃口を向けた。
「やめるんだ!お子さんは本当にテロリストに捕まったのか?私にできることなら何でも協力する」
「いや、テロリストじゃない。ただ、ここを襲撃するのはテロリストだと聞いたからだ」
「なら、誰に言われた!」
「日本人の格好?確かお寺の女が着るような服を着ていた」
「犯人は女?」
「あぁ、少女だった」
「少女!?」
「うっ・・・・」
急に大統領は頭をおさえる。
「どうした?」
「うっ・・・急に頭が」
「頭痛がするのか」
それを見て、山吹は後退りをする。
「どうしたの?」
「わ、私この状況がなんなのか分かった気がする」
「え?」
「大統領今、お寺の女の人が着るような格好って言ったよね。それって、巫女さんのことじゃないかな」
「まさか・・・・」
「私を操った奴。なら、あの死神はあの巫女が送った奴なんだ。間違いない。真紀はその時、鎧武者に襲われたと言ってた。他にも似たようなものがあるんだ!」
「なら!お兄ちゃん、そいつから離れて。そいつは大統領じゃない。完全に洗脳された別人よ」
「何っ!」
キャプラが驚き、すぐさま大統領から離れようとした。
ドンッ
銃声。その後、キャプラはうしろに倒れる。
「お兄ちゃん!」
大統領は目を真っ赤にし、キャプラに近くさくらを次の標的にしたかのように、銃口の向きを変える。
「次はお前だ!」
さくらはそれに反応しきれず、大統領はそのまま銃の引き金を引こうとした時、大統領の人差し指が一瞬で消えた。それと同時に銃も解体される。
「あああぁぁぁ!!!」
大統領はなくなった人差し指辺りに、手を必死に当てながらわめいた。
「真紀ちゃん!」
真紀は刀の先を大統領の首筋に当てる。
「動くな。私の友達に手を出したこと、後悔させてあげる」
「うっ・・・人間がぁ!」
そう言って、刀の先を素手で掴み、自ら自分の首の大動脈を切り裂いた。
「なっ!?」
血が首から勢いよく吹き出す。大統領は、真紀と顔を合わせ、ニヤリと笑いながら倒れた。
真紀は背筋がこおった。
+ + +
その頃、地上では各大統領や首相と連絡途絶になったことに驚きまわっていた。そのなかでも一番の騒ぎになっているのはアメリカだった。
そして、ここは宇宙エレベーター前。
「おい、説明しろ。どうなってるんだ」
「こちらも上の様子がどうなっているのか分からない状況になっておりまして」
「何っ、分からないだと」
「どういうこどだ!」
「この事態に君らは責任取れるのか。つまらない嘘をはいてないで答えろ!」
既に事態を知った各政治家達は、直ぐ様現地に向かい責任者と話しをしていた。いや、話しとは程遠く、実際は一方的な口論だった。それもそのはず、情報は全く知らされずにただここで待たされるだけだったのだ。ものも言いたくなる政治家だが、上の状況を知ることができない責任者も、伝えようがないのだった。
「上の監視カメラをこちらで見ることは出来ないのか?」
「それが、監視カメラの電源が入っていないのか、モニターに接続が出来ないんです」
「なぜ、監視カメラの電源が入っていないんだ」
「どうも電源ブレーカーが一度落ちているようで、非常用電源が稼働してるんですが、ブレーカーが落ちると監視カメラの電源も同時に切れてしまうんです」
「ブレーカーが落ちた?そんなことがあるのか?」
「いいえ。ただ、ブレーカーは複数あり、一つが落ちても基本的上の人が気づくことはありません。電気も、エレベーターも他の設備も動きます。それはつまり、一つのブレーカーが落ちても、一瞬電気が消えるといったことがないようにする為です。そのようなことがあれば危険ですから。
しかし、監視カメラだけは違います。監視カメラに繋がれる電線は一つのみで、一つのブレーカーにしか繋がれていません。そのブレーカーが落ちたのです。本来、ブレーカーが落ちる要素はありません。まだ、今日の視察用の展望フロア以外に使われていないからです」
「つまり、何が言いたいんだね」
「監視カメラに繋がれたブレーカーが落ちたのが偶然だとは思えません。おそらく、誰かが意図的に落としたと思われます」
「何だと!?」
「宇宙エレベーターを直ぐ様動かし、救出することは出来ないのか?」
「それが、何者かにハッキングをされているようで、今エレベーターを動かすことが出来ないのです。
現在、警察に連絡を入れハッキング元の場所を捜索にあたってもらっています」
「なら、我々はこうしてただ、この場で口をくわえて無事を祈ることしかできないのか・・・」
責任者は深々と頭を下げる。彼もまた、各それぞれに頭を下げるしか現状それしか出来なかった。
+ + +
場所が代わり、ここは倉庫エリア。
「真紀ちゃん!」
山吹に言われ、真紀は正気を取り戻した。
「大丈夫?」
「うん。ちょっとビックリしただけ。それより、キャプラさんは?」
山吹は黙って、ただ顔を横にふった。
真紀は、さくらがキャプラの胸元で泣いているのを見た。
「それより真紀ちゃん、聞いて欲しいことがある」
山吹はここにある爆弾のことを話した。
「なら、脱出しよ。エレベーターを使って、生き残った人だけでも、ここから離れよう」
「うん」
山吹はさくらにかけより、この場を離れようと説得する。最初は抵抗し、キャプラから離れようとしなかったが、山吹の説得あってかなんとか決意してくれた。
「じゃあ、行こっか」
「うん」
さくらも涙をぬぐいながら頷く。
「じゃあね、お兄ちゃん。一緒にいて、楽しかったよ」
すると、ぐいぐいと引っ張る赤ずきん。
「大丈夫だよ、お姉ちゃん」
さくらは赤ずきんを抱きしめ「うん、うん」と頷く。
「皆さん、先程の鬼は私が倒しました。ですが、ここに爆弾があることが分かりました」
真紀は叫ぶ。それを聞いてざわめく。ある者は今度こそ絶望した目をする。
「皆さん、落ち着いて聞いてください。これから、生き残った我々だけでエレベーターに乗り込み、ここを脱出します」
「ちょっと待って。私の旦那はどうなるの?」
「死体は一緒には連れていけません」
「そんな!私の旦那は国のトップなのよ。どうして、あなたにそんな権限があって言ってるのかしら。知っているのよ、あなたはただの付き添いの、ただの一般人だってことを。私の旦那はーー」
すると、背後にいた男性が女性の首筋辺りにチョップをきめた。
「安心しろ、気絶させただけだ。こうでもしないと黙らないだろ。俺はあんたの考えに賛成だ。
さぁ、皆!お嬢ちゃんが言った通りエレベーターに乗り込むんだ」
皆は、その一言に動いた。各々、別れの挨拶を述べながら、その場を離れていく。
「全員乗ったか?」
一様の確認をおこなう。
「よし、じゃあボタンを押すぞ」
そう言って、ボタンを押した。しかし、反応がない。
「ん?」
もう一度ボタンを押す。しかし、いくら押してもエレベーターは反応しなかった。
「おい、エレベーターが動かないぞ!」
「なんだって!?」
「私達はどうなるんだ?エレベーターが動かないってことは地上に戻れないんだろ?」
それは即ち、この場所に閉じ込められたことになる。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる