空のない世界(裏)

石田氏

文字の大きさ
55 / 73
外伝・魔

01

しおりを挟む
 世界初の宇宙エレベーターの完成により、宇宙産業の進展と言える記念日に、各首脳が集まる中、真紀と山吹はさくらに招待され一緒に参加する。
 しかし、エレベーター頂上に到着した後に問題が次々におき、その際にキャプラはアメリカ大統領によって射殺された。
 その頃、地上でもハッカーによる仕業だと判明し対応するが、その間に警察署の署長が事件を起こすなど問題が発生。そのどの背景にも巫女の少女の姿があった。


 真紀達はなんとか自力で解決し、地上に戻るも今回の一件の重要な証人として、アメリカに長期滞在を余儀なくされた。


 そして、現在。アメリカでは大混乱の最中、再び事件が発生する。大量の無差別殺傷事件である。
 メディアでは『近代の切り裂きジャック』という見出しで大々的に報道したが、未だに犯人は見つかっておらず、アメリカ市民は恐怖に怯える日々を過ごしていた。


ーーー 


 そんなアメリカ市民の思いも知らずして、真紀と山吹は泊まるホテルでやんちゃしていた。
「なんか水が噴き出してきた!」
「そりゃ……蛇口をひねれば、ヒクッ!……水は出てくるでしょうが、このバカちんが!」
そんな二人のやりとりを見たブライアンは頭を抱える。
「おい、お前ら何やってんだ!ドアが開いてたから何かあったのかと思って来てみりゃあ、なんだ?酔ってるのか?」
「真紀ちゃんが私を騙して酒を飲ませたの……ヒクッ」
「ふきちゃん、ひどい!酒だと分かっていて飲んだんでしょ!私には分かる。ふきちゃんは犯人だ!真実はいつも一つ!」
「意味分かんないよヒクッ!何、真実って?汚い大人が隠したエロ本雑誌のこと?」
「おいおい、やめるんだ二人とも。かなり酔ってるな。どれぐらい飲んだか分からないが、お前らアメリカの外は今殺人鬼がうろついてるんだぞ。そうでなくても、ドアを開けっぱなしにして・・・・」
そこでブライアンの説教は中断した。何故なら、カーテンが破け、水道管が破裂した部屋を見たからだ。
「お前ら・・・・」
ブライアンはとにかく二人を寝室に連れて寝かせた。二人は、ベッドに入るなりすぐに熟睡した。
 ブライアンは一人取り残され、再び散らかった悲惨な部屋を見渡した。
「さて、これは後片付けが大変だぞ」
ブライアンはため息をつきながら、部屋を掃除していった。


ーーーーー


 後日、目が覚めた二人はお互い目を合わせ、顔色を真っ青に変えた。山吹は、昨日自分が色々とやらかしたことを思い出し、青ざめたのに対し、真紀は二日酔いで今にも吐きそうな気分で顔色を真っ青にしていた。
 二人は同時に部屋に出て、真紀はトイレへ、山吹は散らかしたリビングへ向かった。
 そこにあったのは片付いた、綺麗な部屋だった。
「どういうこと?」
すると、低音のいびきがソファーから聞こえてきた。見ると、そこにはソファーで寝っころがるブライアンがいた。
 山吹は、この状況をさとり、少しでも恩を返そうと、横で寝るブライアンに毛布をそっと掛けた。


ーーーーー


『今日もこのニュースからです。昨日新たな被害者があらわれました。被害者の名前はワイリさん。これで24件目の被害となります。警察は全力で捜査にあたっていますが、いまだ犯人の目星は見つかっていません。
 今回の被害者、ワイリさんは腹部に数ヶ所の刺し傷があることから、すぐには致命傷には至らず、何度も刺しながらワイリさんの息の根が止まるまで犯行におよんだと思われます。
 犯人の手口からいって、ワイリさんは苦しみながら命をおとしていったと思われています。これを受け、アメリカ全土では殺人犯〈近代の切り裂きジャック〉を皆で捕まえようという動きがでまわっています。
 しかし、専門家からはこの犯行は一端素人に見えるが、ナイフの突きが深く、相手は力があることから軍人ではないのかと言う意見があります。わざと致命傷を避けてできるだけ長く苦しめてから殺しているのではないのか?とすれば、相手はかなりの殺し屋である可能性があります。
 警察は市民に犯人に刺激を与える行動は避けるよう呼び掛けていますが、市民の動きは止まることはありません。
 とある一家は、子供に銃の使い方を教えるところもあります。
 我々も、犯人が無事に捕まり厳しい処罰を受けることを望んでいます』


ーーーーー


「あ、起きた?」
「んんーー」
ブライアンはソファーから体を起こし、頭をかいた。
「なんか昨日はごめんなさい」
「あぁ、そのことか。お前ら、酒飲んだの初めてだろ。流石の俺も、あんな酔い方する奴は初めて見たが、日本だと確かお前らは未成年にならないか?」
「・・・・はい」
「まぁ、今回は見逃すがあまりハメをはずしすぎるなよ」
「はい」
「よし。それじゃあ俺はそろそろ仕事に向かわせて頂くよ」
「これから仕事ですか?」
「あぁ。殺人鬼とやらを捕まえなきゃならんからな」
「殺人鬼・・・・あの〈近代の切り裂きジャック〉のことですか?」
「そうだ。だから、お前達もくれぐれドアは開けっぱにしないで、ドアはちゃんと鍵をかけろよ」
そう言いながらネクタイを締め直し、ブライアンは行く支度を完了させる。
「では行くぞ」
「いってらっしゃい」
まるで夫婦のようなやりとりをしたあと、ブライアンはホテルを出た。


ーーーーー


 ホテルから15分~20分した所にある警察署に、ブライアンは到着した。
「お疲れ」
「おう、お疲れ」
そんなやりとりを警官としながら、自分の席に向かった。
 警察署内では相変わらず、検挙された人間のごった返しでいつも騒がしかった。
 ブライアンはデスクを開くと、昨日残っていた資料を整理し始めた。すると、間もなくしてブライアンの友人があらわれた。
「よぉブライアン」
「なんだスコッチ」
「実は殺人鬼についてなんだが、新たな情報が入って、裏サイトに殺人予告のようなものが見つかったんだ」
「その情報、どっから手に入ったのかは聞かないでやる」
「そうしていただくと助かる。それで、その裏サイトによる情報だと、次の犯行がこの警察署の近くにあるホテルだって分かったんだ」
「それは確かなんだろうな」
「あぁ、間違いない。過去の犯行もバッチリ裏サイトに掲示してあった。これは警察か犯人にしか分からない情報だ。この裏サイトに掲示している奴こそ〈切り裂きジャック〉なんだ!」
「だが、何故わざわざ掲示板に犯行予告なんてするんだ?」
「彼の場合、目立ちたいとかじゃなくて金の為なんだと思う。裏サイトで人気をとると金が入ってくるんだ。だから、皆派手なことして閲覧者を増やしていこうとするんだ。それがどんどんエスカレートしていって、若い奴等が違法にまで簡単に手をだしちまうんだ」
「金の為に人を何人も殺したっていうのか」
「僕はそっちよりも、人殺しに金を払う奴等に怒りを感じるよ」
「いや、どっちもだ。それで、そのホテルがどこなのか分かるか?」
「あぁ、分かるよ。御丁寧に地図まで載せてあったからすぐに分かったんだ」
そう言って、コピーした地図をブライアンに渡した。
「おい、このホテルって・・・・」
ブライアンは地図を見て、思わず立ち上がる。
「どうしたの?」
「これはマズイ!」
ブライアンは地図を片手に走り車へと急いだ。


ーーーーー


 その頃、真紀達は昨日とは別の意味でやんちゃしていた。
「ねぇ、昨日あんなことしておいて今日も変なことしたら絶対にブライアン刑事に怒られるよ」
「大丈夫だって。ブライアン刑事も、切り裂き魔で忙しくてこっちに毎日なんて来ないよ」
「でも・・・・」
山吹は、真紀が室内にバケツを用意し花火のセットを持ってきる。天井には汚い字で『花火大会』と書かれてあった。
「一度でいいから室内花火やってみたかったんだよね」

※よい子は絶対に真似しないように

真紀はチャッカマンがなかったので代わりにライターを用意していた。
「わくわくさんもワクワクしてるよ、きっと」
「いや・・・・つくって遊ぼうじゃないよね。工作関係ないし、わくわくさんもワクワクしないでヒヤヒヤしてるよ、きっと」
「ふきちゃん、つくって遊ぼうじゃないよ。つくって壊して遊ぼうの番組のわきわきさんのことだよ」
「それ知らない番組」
「それじゃあ火つけるよ」
そう言って、ライターから火を出し花火の先端を近づける。

ボッ!

ジリジリジリジリジリ!!

スプリンクラーが作動し、一瞬で水浸しになる。


ーーーーー


「なんだあいつら、バカなのか!?」
そう言いながら全身ずぶ濡れで逃げる男。階段をかけおり、ホテルのロビーに出た所でブライアン刑事と出くわした。
「!」
ブライアン刑事はずぶ濡れの彼を見るなりすぐにこいつだと刑事の長年の勘が働いた。
 男は相手が刑事だとも知れずに、そのまま立ち去ろうとする彼の手を本能的に動いたブライアンは捕まえ、そのまま投げ飛ばした。
「ぐっ!」
ブライアンはそのまま男の腕を後ろに回すようにひねり、その状態のまま手錠をかけた。


ーーーーー


『皆さん、今日は素晴らしいニュースからお届けしましょう。今日の昼頃、ホテルにあらわれた〈近代の切り裂きジャック〉がブライアン刑事によって逮捕されました。こちらがその映像です』
そうニュースキャスターが言うと、映像がホテルのロビーが映る監視映像にきりかわった。そこにはブライアン刑事が切り裂き魔を逮捕している映像が映っていた。
『見たでしょうか。見事な技で犯人は簡単にブライアン刑事によって逮捕されました。本来はここでインタビューとしたいところですが、今日もブライアン刑事は次の事件の対応におわれ、スタジオには来れないとのことですので、ブライアン刑事には今後もアメリカ市民を守る活躍を期待したいと思います。最後にブライアン刑事、あなたはアメリカの英雄です』


ーーーーー


「何でうちらのことニュースにならないの!?私達が犯人やっつけたのに!」
「ホテルの部屋で花火していたバカを、アメリカの英雄には出来ないからだよ」
「ぶーー、何でテレビ出ないのさ!次の事件におわれてるんじゃなかったの?」
「これがその事件さ」
そう言って、ブライアン刑事は部屋を見渡した。
 スプリンクラーで部屋が一晩で滅茶苦茶になっているのをブライアン刑事は呆れ、悲しい顔になった。
「ストレスがあるなら言ってくれ」
「じゃあ言うけど、いつになったら帰れるの?」
「それは……俺にも分からない。だが、分かって欲しい。君らは重要な証人だ。君らが危険な目に近づいたら私が君らを全力で守る」
「今日、守れなかったんじゃないの?」
「確かに犯人は君らの部屋に侵入していた。君らは気づかなかったが、犯人は君らを殺そうとした。ただ分かって欲しいのが、犯人の標的には特に意味はなく、君らはたまたま標的にされたんだ。証人とは関係ない」
「本当?」
「あぁ、本当だ。だが、君らが危険な状態だったことに変わりはない。その点は反省している。この部屋は犯人退治として必要だったと上とホテルの両方に話しはつけてある。それで、君らには新しい部屋が提供される。それと、この件を受け護衛をつけることにした。これも君らのためだ。他に必要なことがあれば言ってくれ」
「本当に証人とは関係ないんだよね」
「あぁ。心配するのは分かるが、信用してくれ」
「分かった。でも、ふきちゃんに何かあったら私はあなたを許さない」
「肝に命じとく。そう言えば山吹はどうした?」
「トイレだよ」
「……そうか」
すると、本当にバスルームから山吹が出てきた。(※アメリカではトイレはバスルームの中にある)
 ブライアンは少し気まずくなるが、山吹は「へ?」と首をかしげた。


ーーーーー


 夕刻。ブライアンは警察署に戻り、後処理に向かった。すると、そこへスコッチがあらわれた。
「やぁ、ブライアン」
「どうしたスコッチ」
「あぁ、実はあの犯人に金を払っていた奴の身元が分かったんだ。捕まった犯人のパソコンにバッチリアドレスが残っていて、それで身元が判明したんだ」
「凄いな。それで、そいつはどうなったんだ?」
「いや、実はまだ逮捕に至っていないんだ」
「どうして?」
「・・・・はっきり言うけど、君を疑ってるわけじゃないからね」
「何を言ってる?」
「パソコンのアドレスによると場所はここなんだ」
「警察署!?」
「詳しく言うと君のパソコンから送られている」
ブライアンは固まった。
「勿論、君のパソコンが乗っ取られてる可能性があるから、それを今から調べるんだ」
「どれくらいで済むんだ?」
「短時間で済むよ」
「じゃあ俺はその間にトイレに行っても大丈夫なんだな」
「あぁ。行って戻って来た時には終わってると思うよ」
「分かった。じゃあちょっと行ってくる」
「あぁ」
そう言って、スコッチはパソコン作業にうつった。そして数分後、重要な証拠がブライアンのパソコンからあらわれてきた。
「これは!?」
それはメール文の内容を記したファイルと、〈近代の切り裂きジャック〉がおこした被害者全員分の情報が記載されたファイルが見つかった。データこそ消されていたが、それを復元したのだが・・・・
 スコッチは急いでブライアンがいるトイレに向かった。
 しかし、そのトイレにブライアンの姿はなかった。

ーーーーー


『皆さんに悲報です。あの〈近代の切り裂きジャック〉を見事逮捕した男、ブライアン刑事が警察から先程指名手配されました。手配の内容は〈近代の切り裂きジャック〉に依頼と資金を提供した罪となっております。これがもし本当だとしたら、まだ恐怖は過ぎさってはいなかったことになり、アメリカ市民からは警察の批判がやみません。
 ブライアン元刑事は、同僚の目を盗み逃亡し、いまだ発見に至っておりません。警察は市民の皆様からの情報を求めております』
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

処理中です...