空のない世界(裏)

石田氏

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10章 隠

04

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冂獣との戦いでもうすっかり日が暮れていた。
「大丈夫か」
「なんとか……」
そうブライアンに言うと、真紀は首に風穴が開いた冂獣から飛び降りた。
「よいしょっと」
「よく倒せたな」
「えっへん」
ブライアンが関心していると、まだデコに当てたままの携帯が鳴り出し、デコが携帯で振動した。
「ん、誰だろ?」
そう言って、真紀はデコから携帯を外すと、携帯の画面を見た。
「ふきちゃん?」
画面に出ていたのはその名前だった。
 とにかく真紀は電話に出た。
「もしもし」
「真紀ちゃん!」
「どうしたの?」
「大変なことが起きてるの。今、さくらさんが行方不明で探してたら見つかって、でも燃えてるの。これは悪魔の仕業だって言ってたけど、私と一緒に探していたドッドが私を庇ってムスペルヘイムを受けて、ドッドもさくらさんと同じく燃えてるの。ムスペルヘイムは水じゃあ消えないからどうしたらいいのか分からなくて………ねぇ、このままじゃドッドがやられちゃう。真紀ちゃん、どうすればいいの」
「ふきちゃん、とにかく落ち着いて。今、その場所を教えて」
真紀はブライアンに言ってメモとペンを預かる。それを、電話ごしで住所を話す山吹の言うことをメモしていった。
「今そっち行くから」
「早く来て真紀ちゃん」
「分かった」
真紀は電話を切るとブライアンにかけよった。そして、メモを渡して言った。
「ここの住所分かる?そこに今すぐ連れて行って。ふきちゃんが何かあってるみたいなの」
ブライアン刑事はメモに書かれてある住所を確認する。
「あぁ、大丈夫だ。この住所なら分かる。俺の車に乗れ。連れて行ってやる」
「ありがとう」
そうと決まると、二人は車に乗り込みすぐにその場所へと向かった。


ーーーーーー


「しっかりしてドッド!今、助けを呼んだから」
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああーーー」
ドッドはまだ悲鳴をあげていた。
 山吹はジャケットを使いなんとか、かかしから少し離すことができた。しかし、それでも未だに燃え続けているドッド。
 かかしはというとその場から動かず、また先程のように話しかけたりはしなかった。ただ、不気味に地面に突き刺さったかかしのままだった。
 もしかすると、あのかかしはあの場所から動けないのかも知れない。まぁ、かかしが勝手に移動するなんて聞いたことないし、恐らく奴に近づかなければあのムスペルヘイムとやらを受けないだろう。そう思うと、尚更自分のせいでこんな目に遭ったドッドに私はどのように謝ればいいのかと思うばかりだった。
「ああああああああああああああああああああああああああああああーーー」
苦しみ続けるドッドを見て、山吹は思う。


 早く来て真紀ちゃん  


ーーーーーー
 

 もうスピードでとばすブライアン。
「あとどれくらい」
「もうすぐだ。それより何があったんだ?」
「あまり詳しく聞いてる時間はない感じだったからよく分からないけど、どうも私達がホテルを出たあとにふきちゃんはさくらさんが行方不明と知って探していたみたい。それで見つけたんだけど」
「その場所で何かに巻き込まれたわけか。行方不明事件なら警察に任しとけば良かったものの」
「それが、どうも普通じゃないらしい」
「?」
「ふきちゃんは、かかしがどうのって言ってた。多分、犯人は普通じゃない」
「普通じゃないってどういうことだ?」
「人間じゃない」
それを言われ、ブライアンは今までの出来事を思い出した。
「最近、色々起きすぎじゃないか」
「そうだね。あの宇宙エレベーター以来いっぺんに色んなことが起きてる。黒幕の狙いはいったい何?」
 黒幕……ブライアンは真紀の言う言葉にひっかかった。
「全ての出来事が一人の黒幕で起きてるというなら、署長を操った奴とケイティを今操っている奴は同じなんだな。サムを殺した奴も!」
真紀はブライアンを見た。その顔は復讐にかられた男の顔をしていた。
「そうだね」
そう真紀が言うと、更にブライアンはアクセルを強く踏み込んだ。


ーーーーーー


 その頃、山吹はなんとかムスペルヘイムの炎を消そうと土をかけ消そうとした。水や清水ではムスペルヘイムの炎は逆に油をさすことになる為、それ以外の方法で色々試していた。しかし、どのやり方も消えることはなかった。
「どうして消えないの!」
山吹は地面に拳を叩きつけて叫んだ。
「あああああああああぁぁぁぁぁぁ……ぁぁぁ……ぁぁぁ」
「!」
ドッドの叫び声が弱くなってきた。
「ドッド、しっかりして!必死に生き延びるのよ」
すると、何処からか車のエンジン音が近くの方で聞こえてきた。
「真紀ちゃん!?」
山吹は急いでエンジンの聞こえてきた方向へと走り込んだ。
 すると、そこには黒い見慣れた車があった。ブライアン刑事の車である。
「ブライアンさんも来てくれたんだ」
少し安堵すると、二人が車から出てきた。
「真紀ちゃん!」
山吹は思わず、出てきた真紀に抱きついてきた。
「ちょ、ちょっと」
あまりの突然におどおどする真紀。
「お願い真紀ちゃん、助けて」
「うん。その為に来たよ」
「さぁ、案内するんだ」
ブライアンに言われ、山吹は頷き駆け足で案内した。


ーーーーーー


 燃える二人。その近くには湖があり、その中心に立つかかし。
 山吹に案内された二人はその場所にたどり着いた。
「ドッドさんがさっきから弱々しくなってるの。このままじゃ………」
「さくささんは?」
「かかしの側に。でも、私が来た時には声もしてなかった。多分………」
山吹は顔を下に向ける。
「山吹の言い分だと、この現象の原因はあのかかしにあるようだが」
「うん。あいつ、私に話しかけてきた」
「かかしが喋ったのか」
山吹は頷いた。すると、真紀の腰にぶら下がっている刀が真紀に語り出した。
「我が主よ、あれは間違いなく六大武将である。成る程、奴等の狙いが見えてきた。しかし、分からんな。何の理由でそんなことをする必要があるのか?」
「奴等の狙いって?」
「かつての英雄の命だろう」
「!」
確かに言われてみればそうだった。最初の始まりである宇宙エレベーターの一件ではキャプラ。二件目ではキングが狙われ、今度はさくらが狙われた。確実に英雄達を狙っての犯行だった。
「とにかく今に集中しよう。あれはただのかかしではない」
「六大武将なんだよね。あいつはどんな能力なの」
「奴の名は邪咒。奴の武具は城。奴は動かないが、奴に近づいた者はムスペルヘイムという炎で焼かれてしまう。ムスペルヘイムの炎は水では消えない。つまり、ドッドとかいう男を助けるには奴を倒すしかない」
「でも近かなきゃ倒せないよ。それともこの刀って、銃に変形出来るの?」
「出来ん。が、奴本体自身は脆い。耐久性はただのかかしとかわらんよ」
「なら、倒せるよ」
「ほう、何か策があるのだな」
「うん。因みに、あいつは六大武将だから一様耐久性は低くてもこの刀しか斬れないんだよね?」
「その通りだ」
「じゃあ仕方ないね」
「?」
「しばしのお別れだね」
真紀はニヤッと笑う。
「何を考えているのだ、我が主よ……」
真紀はそれには答えず鞘から刀を抜いた。そして、刀を片手で構えて
「まさか………」

投げた!

「  刀手裏剣  」

見事に鎧武者の嫌な予感は的中した。
 投げ飛ばされた刀はそのままかかしに直撃し、そのまま貫通。かかしは真っ二つに割れ、地面に倒れた。
「ドッド!」
同じくムスペルヘイムの炎は消えた。
 山吹はドッドに寄り添った。
「ぁ……助かったのか?」
「うん」
山吹はそのままドッドに抱きついた。
「今、救急車を呼んだ。すぐに来てくれるだろう」
「ありがとうございます、ブライアンさん、真紀ちゃん」
真紀は少し照れて鼻下をこすった。
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