空のない世界(裏)

石田氏

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11章 蟲

04

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 最後の六大武将、空亡。丸い球体は宙に浮かび、それを肉眼で見ることは出来ない。眩い光を発光する空亡を直視するには、その光を遮る必要がある。
 真紀はサングラスをかけ、まさにその空亡を目の前にて確認していた。
「それで、あれを斬れば終わりなんだよね?」
真紀は喋る刀に話をかけた。
「正確には六大武将は奴が最後だ。だが、本当の敵を倒したことにはならない」
刀、鎧武者と呼ばれる彼はそう言った。そう言う彼も六大武将であるが、訳あって真紀は彼を刀として扱っていた。六大武将を倒すには、同じく六大武将の彼の力がなければ倒すことは出来ないからだ。また、鎧武者の武具は不死身の防具で、彼を倒すことが不可能だからだ。
 鎧武者はと言うと実体化した時、一度真紀に敗れていた。不死身ではあるものの、一度敗北させた真紀を主と認め現在に至っている。
「最後の敵……」
決まっている。山吹を操り、六大武将をこの世に召喚し、全ての出来事にあの巫女の少女の影が見え隠れしていた。まだ、真紀は巫女の少女には会ったこともなく、どんな奴かは知らない。だが、そいつを倒せば全てが終わる。それだけは理解できた。
「とにかく、あやつを倒すことに専念しよう」
「うん」
真紀は鞘から刀を抜き出すと、それを構えた。
「来るぞ!」
真紀の攻撃態勢に気づいたのか、空亡に動きが見られた。
 空亡は、丸い球体から波のように徐々に変形し、十字型へと変化した。
「何あれ?」
十字架にも見えるそれは、突然中心部から光だした。勿論、サングラスをかけているので眩しくはないが、おそらくただ光るだけではなさそうなのは容易に分かった。
 攻撃である。
 真紀は、とっさに今いる位置から横にずれた。その直後、すれすれに光線が地面に勢いよく突き刺さった。
「!?」
なんとか避けたとたん、再び十字型の空亡から光が集まる。

ドッドッドッドッ!!

 今度は、レーザーの連射攻撃が始まった。真紀は走りながらそれらをうまく交わしていき、空亡へ近いて行った。
 レーザーの光速攻撃は一歩間違えれば焼き焦げにされ跡形も残らないだろうが、攻撃の瞬間にいちいち光を集め放っている為、むらがある。連射と言っても正直早いものではなく、相手を見ながら予想地点をうまく回避が可能だった。
 そして、空亡の数メートル前まで近いて行った真紀は足を突然止めた。
 再び、空亡は波をおこし変形し始めたのだ。十字型は言葉では表現しにくい型へと変化した。
「何これ?」
「空亡は自在に型を変化させ、その図形にあった攻撃、行動をとる。あれは、クラインの壺という型だ」
「何それ?クライン?」
「クラインの壺だ。主は3次元の図形しか知らないようだから言うが、あれは4次元図形だ」
「なんか分からないけど、名前からしてカッケー」
「……我が主よ、4次元図形はともかくあれは厄介だぞ。クラインの壺は表裏がない図形だ。そして、口の開いた図形に吸い込まれたら最後、次元の狭間で永遠に囚われてしまう」
「じゃあ、容易に近づけないね」
「そう言いながら私を投げる構えをしているところ、私を投げ飛ばして攻撃するつもりだがやめてくれないか。刀は投げて扱うものじゃない。あのかかしの時も、私を投げたが今度からはやめて欲しい」
「何で?」
「投げられるのはいい気分じゃないからだ。それに、クラインの壺の型の状態で投げたら、私は次元に吸い込まれてしまう」
「吸い込まれたら次元に囚われるって、具体的にどういうことなの?」
「クラインの壺には閉曲線が使われている。別の言い方をループだ。例えば、明日が来ないまさに無限ループ。今日が火曜日なら、一生火曜日を永遠に繰り返す」
「じゃあ、容易に近づけないね」
「この状況を打破するには、奴が再び変化した場合と、何らかのかたちであの図形を崩すことしかない」
「じゃあ、投げよう」
「やめい!吸い込まれるわ」
「そんなこと言ったって、六大武将に攻撃できるの、この刀以外手段ないんだよね?」
「そうだが、別の手段というものを考えようと」
そんなことを言い合っていると、先程まで動かなかった空亡が突然動き出し、真紀の方に向かって口を開けながらこちらに向かって来た。
 掃除機のような唸りと共に、色々な物がその開いた口の中へと吸い込まれていく。
「やべぇ」
走って逃げようとした真紀だったが、どんどん口の方へと、体は後ろに引っ張られていった。
 真紀はとっさに、近くにあった電灯にしがみつき、巨大な掃除機から耐えた。
 空亡は、自転車や車、誰のか分からない汚れた白のブリーフまで吸い込んでいく。それをガンみする真紀。
 すると、いろんな物を吸い込み過ぎたのか、徐々に吸い込みの強さが変わった。そう、掃除機は吸い込んでいくと中でゴミがたまってしまうのだ。たまったゴミは取りかえなければならない。
 空亡は遂に、吸い込みをやめて定位置(先程の出現場所)に戻った。
 電灯から降りると、空亡がぐねぐね体を動かし、再び変形し始めた。
「また、変形するの!?」
空亡は、今度はドーナッツ型へと変化した。
「あれは、トーラスだ」
「いや、ドーナッツでいいでしょ」
トーラス型へ変形した空亡は、穴の辺りからビリビリと電流を引き起こした。それは徐々に強まっていく。
「まずいぞ。雷を落とすつもりだ」
「ドーナッツって雷出せるの?」
「そんな話は今はどうでもいいだろ。早くこの場を離れないと、焼鳥にされるぞ」
「それはごめんだね。でも、逃げるのもごめんだよ!」
「何をするつもりだ!?」
トーラス型の中央に空いた穴から、極太の稲妻を落とした。

ドーーーッ!

普通の落雷の音とはわけがちがう程、まるで爆発音のような轟音が響きわたる。
 その頃真紀は、近くにあったとあるビルの、外にある非常階段をのぼっていた。
 落とされた落雷は地面に直撃し、それは広範囲にわたって即死級の電流が流れた。まさに、上にのぼっていなかったら、その高圧電流で真紀は死んでるところだった。
 頂上にたどり着いた真紀は、目の前にある浮かぶ空亡を確認する。
「流石にあそこまで飛ぶのは無理だけど、何か方法があれば」
と、辺りを見渡すとそこに貯水タンクと、防火用の防水口があった。
「水は沢山あると」
真紀は、バチバチする空亡を見てあることを思いついた。
 真紀は、貯水タンクではなく防水口の方へ向かうと、口の辺りをホースで繋ぎ、それを空亡の方まで引っ張った。防水口の栓を解放し、勢いよく飛び出る水はバチバチする空亡までとどき、電流は空亡を中心にバンッ!と破裂音を起こして、ショートした。
 プシューと、煙を吹く空亡は完全に動きが止まった。
「やったの?」
「いや、まだ浮かんでるところを見ると奴は死んでないようだ」
「じゃあ、今のうちにとどめを」
と言いかけたその時、空亡は体に波をおこした。
「また、変形?懲りないね」
空亡は再び体を唸りながら最初の時と同じ丸い球体に戻った。そして、

ボトッ

球体は宙に浮かぶのをやめ、地面に落下した。
「あ。あれって倒れたって意味?」
「まだ、分からんぞ」
そんなことを鎧武者が言うと、ゴロッと球体が少し動いた。
「ねぇ、やめてくれない。不吉なこと言うの」
球体は徐々にゴロゴロと動き出し、どんどんスピードが上がっていった。
「どこ行くのーー」
待ってぇーと言わんばかりに真紀も走って空亡の跡を追いかけた。
「あいつ、どこ向かってるの?」
「向かっているというより我には逃げてるようにしか見えんが」
「敵がやられる前に逃げるってどうなのよ」
「殺られると分かったら逃げるのが普通じゃないのか?」
「私が知る限りじゃ、逃げる敵なんて一気にショボくなるからアニメじゃめったにないよ」
「これはアニメじゃないんだぞ」
「そうか、これがリアルなのか」
そうこう言っているうちに空亡のスピードはどんどん上がる。道中、ビルや建物があるがそんなもの関係なしに、破壊して突き進んで行った。
「逃げながらなにあいつ街さりげなく破壊してるの」
「早くせねば、被害が甚大になるぞ」
「分かってる!」
真紀は、そこらに置きっぱなしになっていたスケートに飛びうつり、先程までよりスピードを上げて追いかける。
「あいつ、巨体だからスピードが早くなっても追いつける」
真紀は、ビュンビュンとスケートのスピードを上げていく。
「しかし、追いつけるには追いつけるが、追いついたあとどうするつもりだ?」
「斬る!今がチャンスなの。あいつが浮かんでちゃ、攻撃届かないから」
「成る程。では、このあとの手立てはあるのだな」
「ない!」
「なっ……」
「成せばなる!」
「横着な……」
徐々に空亡と真紀との間は縮まっていく。真紀は、激突しないよう空亡の横へと回り込むように、右へ舵をうまくきった。
 刀を横に構え、スケートの勢いとよく斬れる刃を空亡に向け
「遏悪揚善(あつあくようぜん)!」

バサッ!!

横殴りならぬ、横斬り横断を放った。
 横に真っ二つに割れた球体は悲鳴と共に、黒い霧となって消えた。
「悪はこれで滅んだ!」
真紀はそう決め顔をしながら電柱に激突した。
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