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外伝・魔
03
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『……指名手配のブライアン元刑事の行方を捜索していた警官2名が連絡取れてません』
警察無線機にて、各パトカーに一斉に送られてきた。その無線機を取り、
「こちらケイティ。連絡が途絶えた現場に近いのでそちらに向かいます」
『了解』
ケイティは無線機を戻すと、アクセルを全開にして現地に向かった。二人の警官が行方不明になった場所はアラバマ州ニュートンのはずれにあるゴーストタウン辺りだ。その町には名前はなく、開発されてすぐに廃墟となった場所である。
今は誰も住まない何もない町だが、ケイティはブライアンがそこを逃亡先に選んだのは分かっていた。
「36352」
彼がまだ刑事の時、挑発とも思える数字の問題を出してきた。数学は私の方が得意だというのに、バカにされた気分でその数学の意味を丸一日考えていた。でも、その時は分からなかったけど、今なら分かる。
「36352」
彼が出した数学の内、5桁の数字が今地図に示されている。それは住所だった。その場所はアラバマ州ニュートンを指していた。
「そこに何があるって言うの」
恐らくそこに行けば、残りの数字も分かるかもしれない。
「3635215641XY19」
この数字の意味がとんでもない悪い予感でないことを祈るばかりだった。
そう思う理由は、サムが殺されたあの日、あの巫女が現れた。そして、そこには何故か彼もいた。巫女の隣で立つブライアンの姿が。
ーーーーーー
ケイティは一本の直線道路を走らせ、ゴーストタウンへ到着した。
夕刻は過ぎ、外灯もない町を照らしているのは月の光のみだった。
ケイティは懐中電灯を取りだし、辺りを照らしながら進んだ。
一軒一軒は鍵がかかっておらず、ドアは容易に開いた。中には鍵がかかっている家もあったが、誰も住んでいない家に鍵をかける意味はない。この町の開発を行った管理者も、大きな負債で銀行が現時点でここの地主になるが、売れない土地を貰っても銀行は儲からない。管理にお金がかかるなら、自然と放置状態となり家も自由に入れる状況だ。ホームレスや、逃走犯には最高の逃げ場でもある。だから、ブライアンがここへ逃げ込んだ理由は分かる。
しかし、その前からここにはブライアンが時折来ていたのを知っていた。ブライアンは狩りを趣味にし、時折この町の近くにある森で狩りをしていた。
ケイティは、サムが一度ブライアンと一緒に夏に狩りをしたという話を聞いたのを思い出す。
「ダメね、またサムのこと思い出しちゃった」
割り切れなかった。あの時、サムを失った。相棒だった彼を私は守れなかった。
あの時、私の勝手で警察署に戻らなければ、署長がもう一丁の銃に早く気づいていれば、そんな後悔ばかりを頭の中で考えていた。だからこそ、ブライアンがあの時あらわれた巫女に操られていないと信じたかった。これ以上失いたくない。
しかし、もし行方が分からなくなった二人の警官に何かあったとすれば、それがブライアンの仕業だったなら、私は腰にかけてる銃を取りだし、彼を撃たなければならない。正直、私にはそれが出来るのか不安だった。
とにかくそんな考えをやめ、二人の警官の捜索に集中することにした。
ある程度町の中を回ってみて、二人の警官は見つからないと分かった。彼らがここに来たのはだいぶ前である。少なくとも日中にだ。
それが真夜中までここで捜索しているとは限らない。そして、同じくこの町を回ってみて、ブライアンがここにいる気配も、可能性もないと分かった。二人の警官がここに来たのなら、逃走中のブライアンがここにいつまでもいるとは思えなかった。
ただ、ブライアンが何故逃走したのかが分からなかった。だから、確かめたかった。ここにその答えがある気がしたからだ。
しかし、結果何もなかった。
ケイティは車へと戻り、二人の行方を考えた。
「ここじゃないならどこよ」
ケイティは地図を開き、この町以外に何があるのかを確かめた。地図には、町の回りは森で囲まれており、ここにいくまでの道は先程通った一本の道路のみだった。
「はぁ」
思わずため息が出るケイティは、捜索を諦め警察無線を手にかけた。
こんな暗闇の中では十分に捜索が行えないし、警官が森の中に入り遭難したとしても、捜索の増員は後日になると判断したからだ。
ケイティは無線機で、二人の警官は見つからなかったことを本部に連絡を入れようとした時、あることに思い出した。それはブライアンが狩りをした話だ。彼は自分の狩り専用の小屋について話をしていたのを思い出したのだ。ブライアンは狩りをする際に、その小屋を拠点に使っていた。
ケイティは手にしていた無線機を戻し、車を出た。そして、車のトランクを開けて防弾チョッキを取りだし、それを着こんだ。更に、もう一丁の拳銃と、補充用の弾丸を取りだしてからトランクを閉め、森へと向かった。
ーーーーーー
森の中は、木々の枝により僅かな月の光を遮り、まさに真っ暗だった。例え暗闇に目が慣れたとしても、懐中電灯なしでは何も見えないところだった。
やはり、捜索は無理そうで引き返しても良かったのだが、あの小屋を見つけるまでは捜索を続行することにした。
小屋までの道のりは知らないが、木々との間にある自然な道を歩いて行けば見つかるとなんとなくだが、そう思った。ブライアンも、道がなければ小屋までたどり着かないと思ったからだ。
案の定進んでいくと、遠くに車らしきものが見えた。よく、懐中電灯でそれを照らすと、それがパトカーだと分かった。パトカーは木に激突し、エンジン部分は木にめり込んでいた。恐らく、二人の警官が乗っていた車であることは状況から判断出来た。
ケイティは車に近き、懐中電灯で中を照らした。すると、運転席に頭を打ち付け耳から出血している警官を見つけた。ケイティは運転席側へ回りこんで、窓のあいたドアから彼の身分証を取りだした。それを懐中電灯で照らして確認した。
身分証にはトビーと書いてあり、行方が不明な警官の一人であることが分かった。恐らく、運転ミスによる事故死だと判断できるが、何故森の中にパトカーがあるのか分からなかった。それを知っているのは彼の相棒のはずだ。しかし、徐っ席を照らすがもう一人の行方不明の警官がいなかった。多分、彼だけ生き残り脱出したのだろう。
ケイティは、車の状態を見た。それを見るからに物凄い衝撃だったと想像がついた。それでも動けるのだから、彼は本当に運が良かったのだろう。
ケイティはもう一人の警官捜索に、再び足を進めた。
すると、あの事故車両から歩いてからさほどない距離に小屋が見えた。小屋の前には鬼の像があり、それが中を示すのかは分からなかったが、そのまま小屋へと向かった。
ケイティは腰にかけてる拳銃を取りだし、ドアの小さな窓ガラス部分から中を覗いた。あまり中の様子が見れなかったので、諦めてドアノブに手をかけた。そして、一息つくとおもいっきり勢いよくドアを開けてから拳銃を構えた。
中を見渡し、そのたびに銃口を向けるが、そこに誰もいなかった。
小屋は小さく、中にあるのは狩りに使う道具一式だった。
「ここにもいないか」
ケイティは小屋に入り、ブライアンがここに来た気配を探るが、何もなかった。
ケイティは小屋を出て辺りを見渡した。しかし、当然この暗闇ではよく見えなかった。
仕方がないため車に戻り、本部に警官の遺体を発見したことだけを連絡しようと戻ろうとした。その時、
パンッ!
どこからか発砲音がした。ケイティは引き返そうとした足を戻し、銃声のした方向を向いた。しかし、当然何も見えない。
ケイティは走って、銃声のする方角に向かった。
パンッ!
再び銃声が響いた。銃声からして近くである。すると、同じ方向から男性の声が聞こえてきた。
「やめろ。おとなしく」
ドンッ!
今度は重々しい音が響いた。これも銃声ではあるが、先程の銃と違うのがよく分かる。
「あれは狩猟弾」
あの銃声のあと、男の声が突然消えた。それと同時にケイティの足も早くなった。
ドンッ…カラン
更に銃声が響いた。その木々の間から、男が倒れている警官に向かって撃っていたのが見えた。
「ブライアン」
ケイティは思わず声をあげた。それに気づいた男は振り向いた。
「ケイティ!?」
振り向いたその男の顔は間違いなくブライアンだった。
「なぜここに!?」
「それより、何をしたの」
「あぁ…」
ケイティの言う何をしたのかを聞かれ、ブライアンは撃たれた男の警官を見た。
「仕方がなかったんだ。まさか、ここまで追って来るとはね。あの町で引き返すと思っていたんだが、奴はあの小屋までやって来たんだ。だから、こいつが小屋から出た所を背後から撃ったんだ。
だけど、人間を撃つのは難しかった。俺が背後から近づいていたのを寸前で気づいた奴は弾丸を避けたんだ。これが狩りならうまくいっていた自信はあったんだが」
「なぜ逃げたの。なぜ撃ったの」
「言っただろ。仕方がなかったって。それは逃げる為だ。そして、なぜ逃げるのかは目的があるからだ」
そう言って、さっきので弾丸を失った銃を放り投げ、ズボンの後ろに隠し持っていた拳銃を取りだし、ケイティにその銃口を向けた。
「それはケイティ、君を殺すことさ」
パンッ!
ケイティはブライアンが引き金を引く前に木の影へと逃げ込んだ。
ブライアンが撃った銃弾はケイティが隠れた木へと当たった。
「どうしてなの、ブライアン!」
「分からないか。君が邪魔なんだよ」
ブライアンは銃を構えながら、ケイティが隠れた木にゆっくり近づいていった。
「ブライアン、よく聞いて。あなたは操られているのよ」
「俺が操られているって?俺は十分正気だぞ」
「いいえ、あなたは正気じゃない」
ケイティはゆっくり近づくブライアンに気づき、走って他の木へと向かった。
ブライアンはそれに気づき発砲した。
パンッ、パンッ、パンッ!
ケイティはなんとかブライアンから離れ、別の木へと隠れた。
「ケイティ、逃げないでくれよ。これが終われば目的は終わるんだ」
「嫌よ。あなたをこれ以上人殺しにはさせない」
「俺を撃つか?だが、お前の友人である真紀や山吹はすでにお前が巫女に操られていると思い込んでる。お前が俺を撃てば、真紀や山吹はお前が操られているとますます思い込むだろう。お前は友達を失い、逆に敵の手先としてお前を見るだろう」
「それがあの巫女の狙いだったの!?最初っからそのつもりで、私をみすみす逃がしたと言うの?」
「そうだ」
パンッ!
ブライアンはケイティがどこに隠れたのかを探す為、威嚇射撃をおこなった。
「いいの、そんなことして。弾がなくなるわよ」
これは挑発だ。それで撃てば相手は弾がなくなるし、撃たなくなれば逃げる隙ができる。問題は中途半端な威嚇射撃はケイティにとっては不利だということだ。
「安心しろ。弾がなくなったら鋭いナイフがある。切れ味は保証しよう」
ブライアンは狙いを定めて再び引き金を引いた。
パンッ!
今度はケイティが隠れていた木に当たった。どうやら、先程の声で場所を特定されてしまったらしい。不覚にも仇になってしまったようだった。
ブライアンは徐々にその木に近づいていく。ケイティは意を決した。あまり距離を詰められてしまったら今度は逃げ切れなくなるからだ。
ケイティは走って、木と木の間をできるだけジグザグに走りブライアンから距離をとる。
パンッ、パンッ!
ブライアンが撃った弾は全て盾になった木に当たる。それでも、ブライアンは諦めず弾があと一発残っているにも関わらず、それを放り投げ走った。走りながら、ナイフを取りだし、その刃をケイティに定めて追いかけた。
それに気づいたケイティは策を考える。あまり時間はない。相手は男性だ。絶対に追い付かれる。
ケイティはいちかばちか再び他の木へと隠れ込んだ。ブライアンはそれを見て、走るのをやめた。
「どこに隠れたか分かってるぞ。早く出てこい」
ケイティは息を飲んだ。腰にある拳銃を取りだし、安全装置を外して、ちゃんと弾が出るか確認した。
そして、せっかく隠れた身を再びブライアンの前へと姿をあらわした。
「ん?」
ケイティはそのまま、銃口をブライアンに向ける。
「何だ、撃つのか。やってみろ。どうせ殺せやしない」
ブライアンは両手を広げ、どうぞ撃って下さいとばかりにその胸をケイティに差し出した。
「どうした、撃たないのか?」
ケイティは銃口を構えるだけで、引き金は引かなかった。
それから、数十秒の空白があいた。その間、ブライアンは動かずじっとしていた。しかし、やはり撃ってこないと分かったブライアンは笑い、そしてケイティに白刃を向けながら近づいていく。
「やっぱりな。どうせ撃てないだろうと思った」
ケイティとブライアンの間は既に数メートルしかない。それでもケイティは銃口をブライアンに向けたまま、動かなかった。
「殺す前に一様聞いてやる。最後の遺言だ」
「あなたなら何を言うの?」
「俺か?殺す相手に遺言を聞いてくる奴なんて初めてだよ」
ブライアンは大笑いする。その間もケイティはまだ銃を構えていた。
ブライアンふとその真意に気づいた時、胸の辺りに熱い痛みを感じた。ゆっくり自分の体を見ると、服は真っ赤に染まっていて、ポタポタと地面に垂らしていた。それが自分の血だと気づいたのは、気を失う寸前あたりだった。
バタリ
地面に倒れ、ゆっくりとその目が閉ざされた。
「ブライアン……」
ケイティは倒れて動かないブライアンに寄り添った。
「ごめんなさい。でも、こうするしかなかったの」
ケイティはその一言を言うと、その場を立ち去るようにして、後ろを振り向いた。
その時、木に赤いスプレーか何かで木に何か書いてあった。
「!?」
そこにあったのは「36352」の数字だった。
警察無線機にて、各パトカーに一斉に送られてきた。その無線機を取り、
「こちらケイティ。連絡が途絶えた現場に近いのでそちらに向かいます」
『了解』
ケイティは無線機を戻すと、アクセルを全開にして現地に向かった。二人の警官が行方不明になった場所はアラバマ州ニュートンのはずれにあるゴーストタウン辺りだ。その町には名前はなく、開発されてすぐに廃墟となった場所である。
今は誰も住まない何もない町だが、ケイティはブライアンがそこを逃亡先に選んだのは分かっていた。
「36352」
彼がまだ刑事の時、挑発とも思える数字の問題を出してきた。数学は私の方が得意だというのに、バカにされた気分でその数学の意味を丸一日考えていた。でも、その時は分からなかったけど、今なら分かる。
「36352」
彼が出した数学の内、5桁の数字が今地図に示されている。それは住所だった。その場所はアラバマ州ニュートンを指していた。
「そこに何があるって言うの」
恐らくそこに行けば、残りの数字も分かるかもしれない。
「3635215641XY19」
この数字の意味がとんでもない悪い予感でないことを祈るばかりだった。
そう思う理由は、サムが殺されたあの日、あの巫女が現れた。そして、そこには何故か彼もいた。巫女の隣で立つブライアンの姿が。
ーーーーーー
ケイティは一本の直線道路を走らせ、ゴーストタウンへ到着した。
夕刻は過ぎ、外灯もない町を照らしているのは月の光のみだった。
ケイティは懐中電灯を取りだし、辺りを照らしながら進んだ。
一軒一軒は鍵がかかっておらず、ドアは容易に開いた。中には鍵がかかっている家もあったが、誰も住んでいない家に鍵をかける意味はない。この町の開発を行った管理者も、大きな負債で銀行が現時点でここの地主になるが、売れない土地を貰っても銀行は儲からない。管理にお金がかかるなら、自然と放置状態となり家も自由に入れる状況だ。ホームレスや、逃走犯には最高の逃げ場でもある。だから、ブライアンがここへ逃げ込んだ理由は分かる。
しかし、その前からここにはブライアンが時折来ていたのを知っていた。ブライアンは狩りを趣味にし、時折この町の近くにある森で狩りをしていた。
ケイティは、サムが一度ブライアンと一緒に夏に狩りをしたという話を聞いたのを思い出す。
「ダメね、またサムのこと思い出しちゃった」
割り切れなかった。あの時、サムを失った。相棒だった彼を私は守れなかった。
あの時、私の勝手で警察署に戻らなければ、署長がもう一丁の銃に早く気づいていれば、そんな後悔ばかりを頭の中で考えていた。だからこそ、ブライアンがあの時あらわれた巫女に操られていないと信じたかった。これ以上失いたくない。
しかし、もし行方が分からなくなった二人の警官に何かあったとすれば、それがブライアンの仕業だったなら、私は腰にかけてる銃を取りだし、彼を撃たなければならない。正直、私にはそれが出来るのか不安だった。
とにかくそんな考えをやめ、二人の警官の捜索に集中することにした。
ある程度町の中を回ってみて、二人の警官は見つからないと分かった。彼らがここに来たのはだいぶ前である。少なくとも日中にだ。
それが真夜中までここで捜索しているとは限らない。そして、同じくこの町を回ってみて、ブライアンがここにいる気配も、可能性もないと分かった。二人の警官がここに来たのなら、逃走中のブライアンがここにいつまでもいるとは思えなかった。
ただ、ブライアンが何故逃走したのかが分からなかった。だから、確かめたかった。ここにその答えがある気がしたからだ。
しかし、結果何もなかった。
ケイティは車へと戻り、二人の行方を考えた。
「ここじゃないならどこよ」
ケイティは地図を開き、この町以外に何があるのかを確かめた。地図には、町の回りは森で囲まれており、ここにいくまでの道は先程通った一本の道路のみだった。
「はぁ」
思わずため息が出るケイティは、捜索を諦め警察無線を手にかけた。
こんな暗闇の中では十分に捜索が行えないし、警官が森の中に入り遭難したとしても、捜索の増員は後日になると判断したからだ。
ケイティは無線機で、二人の警官は見つからなかったことを本部に連絡を入れようとした時、あることに思い出した。それはブライアンが狩りをした話だ。彼は自分の狩り専用の小屋について話をしていたのを思い出したのだ。ブライアンは狩りをする際に、その小屋を拠点に使っていた。
ケイティは手にしていた無線機を戻し、車を出た。そして、車のトランクを開けて防弾チョッキを取りだし、それを着こんだ。更に、もう一丁の拳銃と、補充用の弾丸を取りだしてからトランクを閉め、森へと向かった。
ーーーーーー
森の中は、木々の枝により僅かな月の光を遮り、まさに真っ暗だった。例え暗闇に目が慣れたとしても、懐中電灯なしでは何も見えないところだった。
やはり、捜索は無理そうで引き返しても良かったのだが、あの小屋を見つけるまでは捜索を続行することにした。
小屋までの道のりは知らないが、木々との間にある自然な道を歩いて行けば見つかるとなんとなくだが、そう思った。ブライアンも、道がなければ小屋までたどり着かないと思ったからだ。
案の定進んでいくと、遠くに車らしきものが見えた。よく、懐中電灯でそれを照らすと、それがパトカーだと分かった。パトカーは木に激突し、エンジン部分は木にめり込んでいた。恐らく、二人の警官が乗っていた車であることは状況から判断出来た。
ケイティは車に近き、懐中電灯で中を照らした。すると、運転席に頭を打ち付け耳から出血している警官を見つけた。ケイティは運転席側へ回りこんで、窓のあいたドアから彼の身分証を取りだした。それを懐中電灯で照らして確認した。
身分証にはトビーと書いてあり、行方が不明な警官の一人であることが分かった。恐らく、運転ミスによる事故死だと判断できるが、何故森の中にパトカーがあるのか分からなかった。それを知っているのは彼の相棒のはずだ。しかし、徐っ席を照らすがもう一人の行方不明の警官がいなかった。多分、彼だけ生き残り脱出したのだろう。
ケイティは、車の状態を見た。それを見るからに物凄い衝撃だったと想像がついた。それでも動けるのだから、彼は本当に運が良かったのだろう。
ケイティはもう一人の警官捜索に、再び足を進めた。
すると、あの事故車両から歩いてからさほどない距離に小屋が見えた。小屋の前には鬼の像があり、それが中を示すのかは分からなかったが、そのまま小屋へと向かった。
ケイティは腰にかけてる拳銃を取りだし、ドアの小さな窓ガラス部分から中を覗いた。あまり中の様子が見れなかったので、諦めてドアノブに手をかけた。そして、一息つくとおもいっきり勢いよくドアを開けてから拳銃を構えた。
中を見渡し、そのたびに銃口を向けるが、そこに誰もいなかった。
小屋は小さく、中にあるのは狩りに使う道具一式だった。
「ここにもいないか」
ケイティは小屋に入り、ブライアンがここに来た気配を探るが、何もなかった。
ケイティは小屋を出て辺りを見渡した。しかし、当然この暗闇ではよく見えなかった。
仕方がないため車に戻り、本部に警官の遺体を発見したことだけを連絡しようと戻ろうとした。その時、
パンッ!
どこからか発砲音がした。ケイティは引き返そうとした足を戻し、銃声のした方向を向いた。しかし、当然何も見えない。
ケイティは走って、銃声のする方角に向かった。
パンッ!
再び銃声が響いた。銃声からして近くである。すると、同じ方向から男性の声が聞こえてきた。
「やめろ。おとなしく」
ドンッ!
今度は重々しい音が響いた。これも銃声ではあるが、先程の銃と違うのがよく分かる。
「あれは狩猟弾」
あの銃声のあと、男の声が突然消えた。それと同時にケイティの足も早くなった。
ドンッ…カラン
更に銃声が響いた。その木々の間から、男が倒れている警官に向かって撃っていたのが見えた。
「ブライアン」
ケイティは思わず声をあげた。それに気づいた男は振り向いた。
「ケイティ!?」
振り向いたその男の顔は間違いなくブライアンだった。
「なぜここに!?」
「それより、何をしたの」
「あぁ…」
ケイティの言う何をしたのかを聞かれ、ブライアンは撃たれた男の警官を見た。
「仕方がなかったんだ。まさか、ここまで追って来るとはね。あの町で引き返すと思っていたんだが、奴はあの小屋までやって来たんだ。だから、こいつが小屋から出た所を背後から撃ったんだ。
だけど、人間を撃つのは難しかった。俺が背後から近づいていたのを寸前で気づいた奴は弾丸を避けたんだ。これが狩りならうまくいっていた自信はあったんだが」
「なぜ逃げたの。なぜ撃ったの」
「言っただろ。仕方がなかったって。それは逃げる為だ。そして、なぜ逃げるのかは目的があるからだ」
そう言って、さっきので弾丸を失った銃を放り投げ、ズボンの後ろに隠し持っていた拳銃を取りだし、ケイティにその銃口を向けた。
「それはケイティ、君を殺すことさ」
パンッ!
ケイティはブライアンが引き金を引く前に木の影へと逃げ込んだ。
ブライアンが撃った銃弾はケイティが隠れた木へと当たった。
「どうしてなの、ブライアン!」
「分からないか。君が邪魔なんだよ」
ブライアンは銃を構えながら、ケイティが隠れた木にゆっくり近づいていった。
「ブライアン、よく聞いて。あなたは操られているのよ」
「俺が操られているって?俺は十分正気だぞ」
「いいえ、あなたは正気じゃない」
ケイティはゆっくり近づくブライアンに気づき、走って他の木へと向かった。
ブライアンはそれに気づき発砲した。
パンッ、パンッ、パンッ!
ケイティはなんとかブライアンから離れ、別の木へと隠れた。
「ケイティ、逃げないでくれよ。これが終われば目的は終わるんだ」
「嫌よ。あなたをこれ以上人殺しにはさせない」
「俺を撃つか?だが、お前の友人である真紀や山吹はすでにお前が巫女に操られていると思い込んでる。お前が俺を撃てば、真紀や山吹はお前が操られているとますます思い込むだろう。お前は友達を失い、逆に敵の手先としてお前を見るだろう」
「それがあの巫女の狙いだったの!?最初っからそのつもりで、私をみすみす逃がしたと言うの?」
「そうだ」
パンッ!
ブライアンはケイティがどこに隠れたのかを探す為、威嚇射撃をおこなった。
「いいの、そんなことして。弾がなくなるわよ」
これは挑発だ。それで撃てば相手は弾がなくなるし、撃たなくなれば逃げる隙ができる。問題は中途半端な威嚇射撃はケイティにとっては不利だということだ。
「安心しろ。弾がなくなったら鋭いナイフがある。切れ味は保証しよう」
ブライアンは狙いを定めて再び引き金を引いた。
パンッ!
今度はケイティが隠れていた木に当たった。どうやら、先程の声で場所を特定されてしまったらしい。不覚にも仇になってしまったようだった。
ブライアンは徐々にその木に近づいていく。ケイティは意を決した。あまり距離を詰められてしまったら今度は逃げ切れなくなるからだ。
ケイティは走って、木と木の間をできるだけジグザグに走りブライアンから距離をとる。
パンッ、パンッ!
ブライアンが撃った弾は全て盾になった木に当たる。それでも、ブライアンは諦めず弾があと一発残っているにも関わらず、それを放り投げ走った。走りながら、ナイフを取りだし、その刃をケイティに定めて追いかけた。
それに気づいたケイティは策を考える。あまり時間はない。相手は男性だ。絶対に追い付かれる。
ケイティはいちかばちか再び他の木へと隠れ込んだ。ブライアンはそれを見て、走るのをやめた。
「どこに隠れたか分かってるぞ。早く出てこい」
ケイティは息を飲んだ。腰にある拳銃を取りだし、安全装置を外して、ちゃんと弾が出るか確認した。
そして、せっかく隠れた身を再びブライアンの前へと姿をあらわした。
「ん?」
ケイティはそのまま、銃口をブライアンに向ける。
「何だ、撃つのか。やってみろ。どうせ殺せやしない」
ブライアンは両手を広げ、どうぞ撃って下さいとばかりにその胸をケイティに差し出した。
「どうした、撃たないのか?」
ケイティは銃口を構えるだけで、引き金は引かなかった。
それから、数十秒の空白があいた。その間、ブライアンは動かずじっとしていた。しかし、やはり撃ってこないと分かったブライアンは笑い、そしてケイティに白刃を向けながら近づいていく。
「やっぱりな。どうせ撃てないだろうと思った」
ケイティとブライアンの間は既に数メートルしかない。それでもケイティは銃口をブライアンに向けたまま、動かなかった。
「殺す前に一様聞いてやる。最後の遺言だ」
「あなたなら何を言うの?」
「俺か?殺す相手に遺言を聞いてくる奴なんて初めてだよ」
ブライアンは大笑いする。その間もケイティはまだ銃を構えていた。
ブライアンふとその真意に気づいた時、胸の辺りに熱い痛みを感じた。ゆっくり自分の体を見ると、服は真っ赤に染まっていて、ポタポタと地面に垂らしていた。それが自分の血だと気づいたのは、気を失う寸前あたりだった。
バタリ
地面に倒れ、ゆっくりとその目が閉ざされた。
「ブライアン……」
ケイティは倒れて動かないブライアンに寄り添った。
「ごめんなさい。でも、こうするしかなかったの」
ケイティはその一言を言うと、その場を立ち去るようにして、後ろを振り向いた。
その時、木に赤いスプレーか何かで木に何か書いてあった。
「!?」
そこにあったのは「36352」の数字だった。
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