空のない世界(裏)

石田氏

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14章 非想郷・凱旋宣戦

03

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 ホテルに到着し、マドセインと別れて部屋に戻った真紀の目の前にあったのは、野菜の山積みだった。
「なにこれ」
「あ、やっと帰って来た」
山吹は頬を膨らませながらやって来た。
「それよりふきちゃん、これは何?」
「野菜」
「え?」
「アメリカに来てからろくなもの食べてないでしょ。だから、野菜」
「嫌」
「嫌じゃない」
山吹は呆れながら、野菜の山をホテルの冷蔵庫にしまいこんだ。
「この野菜たち、どっから集めたの?」
「買ってきた。本当に日本産があればと思ったんだけどね。例えば、群馬県はきのこ、高原キャベツ、きゅうり、ほうれん草、トマト、なす、大根、ごぼう……野菜の宝庫と呼ばれる程、野菜達が揃ってるんだけど」
「野菜達?」
「日本の野菜は海外ではあまり売られていないの。先進国の中でも飛び抜けね。あまり、海外進出に恐れてるのか、やる気があるのかといったところ。だから、日本の野菜が一番だと思っているのは日本人だけよ。まさに、鎖国的考えね。
 でも、意外に海外の野菜も悪くないわ」
「そう……なの。じゃあ、全部お食べ」
「真紀ちゃんも食べるの!」
「嫌」
「嫌じゃない」
「私、野菜アレルギーがあるから」
「そんなのないでしょ!」
「それより、ヨハネについてはどうだったの?」
「あー、そうだったね」
そう、山吹は真紀が友人に会っている間、ヨハネと黙示録のもう一冊について調べていた。
「諦めた」
「え?」
「いくら調べても、黙示録のもう一冊については出てこなかったの。一様、ヨハネ自身については調べだけど」
そう言って、印刷された資料を渡す。
「ヨハネは聖書に出てくるイエスの使徒とされているみたい。つまり、イエスの弟子であり、最後の晩餐を用意した人物の一人でもあるってこと」
「自分の師の最後の晩餐を用意した時の気持ち、どんなんだったんだろ」
「確かに、そう思うと残酷よね。これが聖書に書かれてある時点で、本当に聖書?と疑いたくなるんだけど、残酷も含めて人生だと言いたいのかしらね」
「これは試練だ、とか言うのかな。私は神なんて信じないけど」
「神は信じる、信じないではなく、人間の脳内で生まれた仮想でしかないというのが現実らしいよ。だから、脳内で生まれた空想の登場物は外からは出てこない。ただ、人は何かから逃げる際に空想にすがるんだと思う。例えば、恐怖からだとか。そうやって、逃避することで現実に押し潰されないようにしてるんじゃない。それは、世代によって変化しアニメの仮想のヒーローに憧れたり、自分の理想をツイッターとかで偽って演じたり、色々な形へと変化するものだと思う」
「現実が理想に追いつけないか……」
「ま、そうなるね」
「じゃあ、現実は理想郷の逆、非理想郷みたいな」
「略していいんじゃない。非想郷みたいな。とにかく、ヨハネが死神かどうかはその資料からは無いけど、死神という概念?定義?がどうなのかによって、意味も変わるよね。死神という神がどんな存在かは」
「じゃあ、結局会ってみないところには分からないってことか」
「まぁ、無駄な時間だったよ」
そう言って、シャカシャカサラダを食べ始めた。
「本当にふきちゃん、ベジタリアンだね」
「ここの料理、脂っこくて胃もたれおこしそうになるよ」
「まぁ、確かに」
そう言いながら、ポテトチップスの袋取り出し、それを開けて食べ出した。
「言ってることと行動が違うよ」
「えぇ、ポテトチップスはじゃがいもという野菜からできてるんだよ」
「ふーん」
山吹の目付きが鋭くなる。真紀は思わず目をそらした。
「それより、何で刀なんて出してるのさ?」
「え?」
すると、確かに刀は真紀の腰にぶら下がっていた。
「あれ、消えたのにまたあらわれたの?」
「我が主に謝罪することがある」
「何、突然」
「死神があらわれるのはあと3日と言ったが、それがどうやら早まったらしい」
「え?」 
「外を見てみろ」
そう言われ、二人はホテルの窓の外を見た。すると、何故か外が赤い光につつまれていた。空を見上げると、そこには赤い月が照らされていた。
「どうやら始まったようね」
「は!?」
真紀はベッドの方を振り向くと、くくりつけられたベルンが目覚めていた。
「どういうこと」
「そのままの意味。死神があらわれたの。あなた達の負け」
「負けてない」
真紀はすぐに反論した。
「死神があらわれたのなら倒すまで。私達は勝って日本に帰るんだから」
ベルンはそれ以上のことは言わなかったが、まるで結果は分かっているみたいな目をしていたのを、山吹は見逃さなかった。
「真紀ちゃん、行こう。もう、ここにずっといても意味がない」
「そうだね」
「では、我が死神の出現場所を突き止め、そなたらを案内しよう」
「ちょっと待って。くくりつけておいて、私はどうなるのさ」
「そこでずっと横になってな」
山吹はそう言って、真紀を引っ張りながらホテルの部屋を出た。
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