空のない世界(裏)

石田氏

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15章 開かれた開戦

01

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 アメリカ合衆国国会議事堂内ーー

 議事堂にはスーツを着こんだ政界の怪物揃いが、一斉に集まる場所。そこに、暑苦しく、または見苦しく口論が今日も行われていた。
「大臣、学力低下により学習要領ではなく、環境の見直しが必要だとして、学校教職員を増やし、一つの学科授業に最低二人の教員がつけるようにする件ですが、学科によっては二人の教職員がつくことはありますが、全教科につけることは難しいのではと、我々共産党は言ってきました。しかし、大臣自身それは可能であり養育から解放された女性を中心に、教員としての簡単な講座を定期的に受ける、いわゆる研修をこなせば教員免許を持っていなくても非常勤として採用できる、新たな制度を作ると発言された。その事は覚えていらっしゃいますか?」
聞かれた大臣は頷いた。
「では、今回の新たな発言は何ですか?大臣が養育後の職場への復帰の手助けとして、多くの女性方が、大臣に期待をしたはず。しかし、昨日の記者会見による発表で、新たに学校の教育カリキュラムを見直すと発言。大臣、環境見直しはどうなったんですか?制度はどうなるんですか?まだ、発言されてから日が十分たっていないのにも関わらず新しいことに手を出すんですか?」
その質問に大臣は立ち上がり、マイクの前まで行き、応答した。
「やることを増やしてるわけじゃない。やることを変えてるだけだ。確かに、制度は新しい分野になるが、カリキュラムの要領を増減するのでなく、教員の指導方法が適切かどうかを第三者を新たに作り、それを元に再評価する。これは、現在行われていることを調査しますという意味であり、必要な点検をするだけである。それ以降の課題が、次すべき課題に繋がるというだけで、別にやることが増えて回らなくなり、制度事態をあやふやにして終わるのではないかという不安にはならない」
そう答えながら、見覚えない顔を見て新顔だと分かる。恐らく、野党の誰かが彼を押したのだろう。イタズラか、それとも野党が目立ちたい為に彼を生け贄にしたのか。どちらにせよ、彼自身はそれには気付くまい。
 そう、大臣が思っていると、突然部屋の扉が勢いよく開いた。
「なんだ?」
大臣と同じく、一斉にこの場にいた全員がドアの方向を向いた。
 そこには日本の巫女という服装を着た少女がいた。
「おい、警備員は何をしている」
「警備員なら、血の噴水に成り果てましたよ」
「え?」
よく見ると、ドアの先に首を切られ倒れている警備員がいた。
「な、なん、何の用件だ」
「用件?あぁ、私が政治家の命を狙っていると思っているのね。いえ、あなた達の命なんて興味ないですし、政治には尚更無関心ですので。なにせ、世界は滅びるのですから」
「滅びる?」
「えぇ。ですから、ここに来たのはその為であって、あなた達は必要ない。ご退場ください」
「ふざけるな、子供が大人を舐めるんじゃ」

ザッ

「きゃあああぁぁーーーー」
最初に女性議員の悲鳴、それに続き男性議員のどよめき。
「なかなか勢いのある噴水だこと。あの警備員より美しく散ってますよ。さぁさぁ、他の方も同じように散りますか?」
バタリと倒れる大臣。それを合図に、一斉にこの場にいた議員は逃げ出した。
「そうそう、そうやって逃げればいい」
巫女は、倒れる大臣を避けて議長席に座った。

ー 赤い月が空に現れた時、死神がこの世に姿をあらわす ー

「まさに、言い伝え通りですね」

ー 赤い月が黒に変換された時、あの世のゲートあらわれる ー

「あぁ、待ち遠しい。さぁ、あの二人がこちらに来る前にホタル、あなたが相手してあげなさい」
「はい、巫女様」
光のない目をしたホタルは二人のいる方へ向かった。
「ふふふ、見物ね」


ーーーーーー


 場所変わってここはオレンジカウンティ。

「どうなってるの?」
「分かりません。ただ、この州全体で餓死での死者は今回ので40件目です」
ケイティと警官は、ベビーベッドに痩せ細った赤ん坊を覗いた。
「可哀想に」
「えぇ」
「原因を究明しましょう」
赤ん坊や、多くの犠牲者のためにも、ケイティは強く誓った。


 そんな大ニュースを、タクシーから流れるラジオで真紀達は聞いていた。厳密には、ラジオ放送の鬼のようにペラペラ喋る英語を山吹が翻訳し、真紀に伝えていた。
「ねぇ、このニュース死神と関係あるのかな?」
「ヨハネでしょ。餓死じゃ、考えられるのが黙示録に出てくる四騎士の一人が一番先に出るけど……鎧武者さんが言うもう一つの黙示録が改正版だった場合、本当に四騎士かどうか」
「そう言えば、四騎士と四凶は同じ存在だって言ってたよね。四凶の中の最凶と四騎士の中の騎士団長は同一だって。もしかするとその最凶騎士団長は、ヨハネ自身だったりね」
「可能性は……なくもないかな。とにかく、そのもう一つの黙示録を探さない限りは真相はつかめない」
「でも、どこにあるか分からないんだよね。黙示録がもう一冊あるなんて話、欠片もないんでしょ」
「それだけ秘匿か。でも、鎧武者さんが存在を知っていた時点でかなり存在する確率はあるかもしれない。あとは、どこに隠されているか探るんだけど、私なりに候補は作ってみた。一つは大英博物館。もう1つは聖ヨハネ准司教座聖堂。まぁ、これも国外になるんだけど」
「でも、二つ目のやつ、名前にヨハネってあるからそれが一番可能性ありそうだよね」
「どうかな、私が調べ物を諦めた理由、忘れてないよね。ヨハネのもう1つの黙示録についてはどこを探しても、欠片一つない。つまり、そこまで長い期間秘匿出来る理由は、そこに黙示録がないという可能性もあるってこと。恐らくは人目のつかない所にあるはず。そこで3つ目の候補がここ」
山吹は車内で広げた地図の上に指差した。そこはオレンジカウンティ内の所だった。
「ここは?」
「名もない小さな教会がそこにある。さて、何故そこが一番怪しいのかというと、赤い月があらわれて、一番最初に影響が出たのがオレンジカウンティ。真紀ちゃんも、さっきラジオを聞いたから分かるけど、今のところ異常が起きているとすればここ。そして、何故オレンジカウンティなのかを証明するかのように黙示録のもう一冊がどこかにある。となれば、宗教関連で、目につかない小さな教会に知られることなく置いてあれば、今まで気付かれてこなかった理由が分かる」
「でも、そんな教会に何であるんだろう?だって、皆知らない場所でしょ。そんな所に大事な物置くかな」
「逆だよ真紀ちゃん。大事だからこそ、隠したのかも。それにこの教会、かなり前に作られたのか、完成日が不明なの」
「でも、オレンジカウンティに行くのはまずいんじゃ……」
「ここで引き返したらもっと悪くなるよ」
「他の場所っていう可能性は?」
「他は国外。確かめようがない」
「じゃあ、国外に黙示録があったら終わりだね」
「他の国ね……じゃあ何でアメリカで次々と問題が起こるのさ」
「それは、たまたま英雄さんが揃っちゃったからじゃないの」
「……と、とにかく、この教会に行って確かめるぐらいいいでしょ」
「はいはい」


ーーーーーー


「んで、これがその教会?」
「そう」
それは小さくおんぼろで、長い間使われていないように見える。しかし、それとは逆に教会の窓からは光が見えていた。
「ねぇ、ふきちゃん。中、明かりがあるよ」
「誰かいるんでしょ。でも、何でこの時間に……」
「どうするの?」
「別に教会だから忍び込む必要なんてないでしょ」
そう言って、二人は教会に入ろうと近づいていくと、そこから曲が聞こえてきた。
「なんだろう、何か聞いたことある曲だね」
「バカ、授業でやったでしょ。シューベルトの魔王よ。でも、教会で何でこの曲が流れてるの?」
「とにかく入ろう」
「うん……」
山吹は不安ながらも、真紀と一緒に教会の中に入った。
 扉を開けて入ったそこは、変な薬品の匂いが充満していて、思わず鼻をおさえたくなる程だった。しかし、それも途中からは多少慣れた。
 問題は、教壇の前に立っている男である。その男はスーツを着ていて、正確にはネクタイを外し、第2ボタンまで解放された格好だった。ネクタイは罰当たりに教会の天使像の首にかけられており、教壇の上には曲を流すレコーダーが置いてあった。見るからに神父でも、信者でもないことが分かる。
「誰?」
最初に聞いたのは山吹だった。思わず日本語で聞いてしまった為、英語で聞き直そうとした時、その男は日本語で答えた。
「私の名前はロナウド・フランケシュタインだ」
「シュタイン!?あの頭のいい人の子孫ってこと?」
「真紀ちゃん、それは違うシュタインだよ。IQ190のウィトゲンシュタインって人。フランケシュタインは、ホラーに出てくる架空人物」
「でも、ここにいるよ」
「うん……そうだね」
すると、彼女らの会話にロナウドは思わず吹き出して笑った。
「君らは面白い。あぁ、その架空人物とやらの子孫だよ。厳密には、あの物語のモデルの子孫と言えば納得してくれるだろうか」
「成る程」
「ちょっと待って!シュタイン?もしかして、シュタイン・メディカルの医長」
「そうだ。そこまで知ってるなら自己紹介はいらないな」
「確か、ブライアン刑事があなたに会いに行ったはずですが」
「あぁ、会ったよ。そして、私は彼に脅されたよ。だから、私がフランケシュタインの子孫だと教えてやった。昔の私なら絶対に隠していた本名だが、その必要も今じゃなくなった」
「?」
「それより、ブライアン刑事は今どこに」
「知らないのか?ブライアン刑事は死んだ」
「え!?まさか、あなたが……」
すると、真紀は顔つきを変えた。ロナウドは慌てて、「まてまて」と落ち着くように言った。
「ニュースを見ていないのか?ブライアン刑事はとある事件の首謀者として、警察署で事情聴取されているさなかに逃走。それを追って来た二人の警官を殺した。そこへ、ケイティという刑事がブライアン刑事を射殺した。これは大ニュースになった」
「英語分からないからテレビ見ないけど、そんなことが……ケイティが、ブライアン刑事を!?」
「でも、どうしてそうなるの」
「知るか。私に聞くな。それより、私は君らに用があってここで待ち伏せていたんだ。君らも用があって来たんだろ。これを探す為に」
そう言って、古そうな本を見えるように掲げた。
「それは黙示録!?」
「そうだ。もう一冊の黙示録とされるものだ。この本の存在を巫女が見逃すはずがないだろ」
「巫女って、あの巫女の少女のこと!?」
「確か、ふきちゃんを操った奴だよね」
「そうだ、その巫女だ。私の役目は、この黙示録をお前らに渡さないことだ」
「なら、奪うまで!」
真紀は刀を出現させ、構える。
「ふん、そうでなくては待ち伏せたかいがない」
ロナウドは息を深く吸い込み出した。
『跪け』
すると、突然体が重くなったように、いや、地面に吸い込まれるように真紀と山吹は床に伏した。
「あぁっ……」
「うっ……」
その光景を高みの見物をするかのように壇上から見下ろしていた。
「どうだい、これが私の力さ」
「う、動けない……」
「どうやって!?」
「それは企業秘密というやつだ。それより、君らがここまでたどり着くか不安だったよ。正直、諦めるか他の変な所でバカみたいに探すか。どうしてここを選んだか不思議だよ。相当、頭と勘のいい人間がいるようだ。まぁ、おかげでこの力を披露できる」
「何が目的でこんなことを!?あなた、巫女に操られてやっているんじゃないんでしょ」
「そうだ。それに、訂正するが巫女は人を操る力はない。私が力を貸しただけだ。ギブアンドテイクだよ。私は力を提供、彼女は私の夢を実現させる」
「だから、何でそんなことを?」
「復讐だよ、この世界にね。私の先祖はまさに大男で巨人とも呼ばれていた。別の言い方をすると怪物だ。人は、自分と違うものを嫌う生き物らしい。だから、私の先祖を見た他の虫けらどもは怪物退治とひょうし、殺した。燃えたよ、家事でね。だけど、奴等はその先祖に子供ができていたのを知らなかったらしい。故に、フランケシュタインの血は途絶えなかった。私も、その血を受け継いでいる。私の前の先代までは大男だったが、何故か私はこの通り虫けらどもと同じ身長だ。正直、血を受け継いでいないと思ったが、先代と違い私にはこの頭脳の高さを受け継いだようだ。私の先祖は森に潜み町には出なかったが、引きこもる代わりに実験、研究に没頭した。たまに、先祖を狩りに森に来たやからを逆に狩っては、実験台にしてな」
「そんな酷いことを」
「だが、結果医学面でかなりの情報を得ることができた。私が医者として働いていられるのも、先代の医学あってのことだ。とにかく、私は医者をやりながらこの時を待っていた。先祖のうらみを晴らす時がな。さっき、何でこんなことを?と質問していたが、ならば何故私の先祖は殺された。人と違うからか?ならば、今度は私が彼らを殺すばんだ。
 この復讐は、多くの犠牲者を出すだけではない。世界の崩壊は、この世界にとどまらず別世界にも連鎖して起きる。まさに、ドミノ倒しだ。その最初の一手が始まるんだ。君らに邪魔はさせないよ」
「く、体が動けば」
真紀は必死に立ち上がろうとするが、床にへばりついてるだけで、全く歯が立たなかった。
「あがらえ、あがらえ。無駄なことさ。私の言うことは絶対だ。逆らうことは出来ない」
「くそっ!」
真紀がそう叫んだ時、突然教会の窓ガラスが割れた。

ガシャン!

窓ごと壊しながら教会へ強引に入った男は、そのままロナウド・フランケシュタインの顔面に拳を放った。
「がはっ!」
ロナウドはよろめきそうになるが、それを男は彼の襟元を掴み、再度立たせてからもう一度拳を放った。
「ぐはっ!」
「なんだ、大層なこと言っていた割にはひょろいじゃないか」
そう言いながら次々拳を放つ。ロナウドの顔面は既に痣だらけになり、突然の訪問者から解放ようやく解放されたロナウドは、そのまま後ろへと倒れこんだ。
「へ、こんなもんかよ。お前、俺がいた世界のガキより弱いぞおっさん」
そう言い放つと、直ぐに真紀の所へ掛けよった。
「大丈夫か、真紀!」
「え!?」
真紀は自分の視界に映る彼を見て、自分の目を疑った。
「なんだ、俺のこともう忘れちまったのかよ」
「アイザ!?」
「あぁ、そうだ。本物さ」
「でも、何で?」
「さぁな。赤いアンノウン相手に俺は自爆で死んだと思っていたんだが、気付いたらこっちにいたってわけだ。そしたら、聞き覚えのある声、というか悲鳴を聞こえたから急いで駆けつけつみたら、案の定真紀がいたってわけさ」
「つまり、アイザも異世界を行き来できたってこと!?」
「みたいだな。しかし、死がトリガーなのか?その世界の行き来とやらは」
「みたい。でも、誰もがそう出来ることじゃないみたい」
「そうか、ちょっと残念だな」
「死んだ仲間のこと」
「あぁ。だが、さっきのアイツはなんだったんだ?」
そう言って、自分が倒した相手に再び視線を向けると、そこにいるはずの奴がいなかった。
「どこにいった!?」
「ここだ」
倒した相手の声がし、急いで声のする方向に首を向けると、そこには足をふらつきながらも立っているロナウドの姿があった。
「随分やってくれたじゃないか。私は肉弾戦とか暑苦しい戦いからは無縁なんだよ」
「そのわりにねばるじゃないか」
アイザは拳を構えるが、ロナウドは再び襲いかかられる前にそれを封じた。
『動くな』
すると、その場にいた全員が今の状態から動けなくなった。
「くそ、油断した。こんなことなら奴の口を塞いどけば良かったよ」
「そうですね。しかし、人は形勢が逆転すると今までのことをすっかり忘れたように油断するんですよ」
「お前も人だろ」
「確かに、私も人間だ。だから、この世界を終わりにして、人間を世界ごと消す」
「自暴自棄か」
「復讐の目的が終えてしまえば、私が生きる目的も終わるのと同じ。だから、因縁ある他の人間もろともスッキリしようというわけだ」
ロナウドは教壇の壇上にあるレコーダーに手をかけた。既に、シューベルトの魔王は終わっており、次の曲でも流すつもりなのか。
「私は、シューベルトの魔王が好きでね、彼はこの曲を作曲する前に、読んでいたとある魔王についての本を読んで興奮したのがきっかけらしい。私も、この曲を聞いて興奮してしまう」
「自分が魔王にでもなった気分か?」
「私が魔王?確かに、君らは私に抵抗出来ない。従うしかないしもべのようだ。王と名乗る以上、配下は必要だ。王を称える人間がな。世界を滅ぼそうとする私。魔王と呼ばれるのは悪くないよ」
「ヘドが出るな」
「なら、出せばいい」
すると、皮肉のつもりで言ったアイザが本当にヘドを出した。
 隣で見ていた真紀と山吹は驚いた。
「なんて恐ろしい力……」
「そうだろ。これが出来るまでかなりの実験台と時間、労力を消費したからな。まぁ、最後くらいネタばれしてやろう。この教会に入る際に薬を吸った筈だ。薬品の臭いがしたろ」
「まさか、あれで」
「御名答!それでは、見事正解したあなたから自害してもらおう」
「ふきちゃん!」
ロナウドは、持っていたナイフを山吹に握らせた。
『自害せよ』
すると、山吹は抵抗したくても体が勝手に動き、ナイフの先を自身の首に向けた。
「やめろーーーーーー」
徐々に近づく刃に汗を大量に流す山吹。
「あははははは」
それを見て喜び笑うロナウド。それを横目で睨む真紀。そして、アイザは
「あともう少し!」
「ん?」
アイザは必死に動こうとしていた。ロナウドは、それをあざ笑い無駄だと言おうとしたその時、アイザの金縛りのようなものが突然解放されたかのように、アイザの足が動き、数歩前に歩いてから止まった。
「な、何故!?」
アイザはロナウドの方を振り返ると、勢いよく地面を蹴って、奴に飛び込みながら拳をふん投げた。
「ぐはっ!」
それと同時に山吹と真紀も解放され、動けるようになっていた。
 山吹はナイフを落とし、ホッとした。
「大丈夫?」
「うん、なんとか。でも、何で?」
すると、アイザが窓に指さした。そこは、アイザが飛び込んで割った窓だった。
「どうやら薬とやらは外に漏れてなくなったらしい。つまり、ロナウド!人は形勢が逆転すると今までのことをすっかり忘れたように油断するんだよ」
「まさに、そのことに気付かないなんて」
ロナウドは歯ぎしりをしながら立ち上がり、大きな舌打ちをした。すると、その目の前に真紀が立った。
「ロナウド!」
「ひいっ!」
真紀は刀を構えた。
「ちょっと待って真紀ちゃん。こいつ殺すの?人殺しにならない?」
「でも」
「おいお前さん、真紀の友人の山吹だっけ?こっちの世界では殺そうとした奴を殺しちゃいけないっていうのか?」
「この世界の法律なの」
「理不尽な世界だな。なら、おとなしく殺られてろっていうのか?」
「そうじゃないけど、認められてるのは正当防衛。でも、相手が無防備になったあとに殺すのは問題だと思う」
「なら、こうしよう」

ドンッ!

アイザは、自分が持っていた銃でロナウドの額をめがけ撃った。
「なんてことを」
「悪いか。これが俺のやり方だ」
「アイザはこっちの世界の国籍持ってないから捕まらないんじゃ?」
「バカね。持ってなかったら尚更問題よ。ややこしくなるでしょ」
「何で怒ってる?俺は助けたんだぞ」
「なに、人を殺したあとにお礼欲しいわけ?」
「ふきちゃん、アイザはこっちの世界をまだ知らないんだよ。だから、徐々に教えて馴染ませないと」
「なら、真紀ちゃんがやって」
そう言うと、本命のヨハネの黙示録を手にする為、遺体となったロナウドの死体から拝借した。
「もう!死体を何で私がいじることになるの!ほら、あったよ。もう!絶対トラウマになる」
「それより、中を見た方が」
「それより?」
「す、すいましぇん」
真紀はしょぼんとした。
「私が先に見るに決まってるでしょ」
山吹は眼鏡を取りだし本を開いた。
「おいおい、死体のそばで読むのかよ。気にしていたんじゃないのか」
「なに」
「……いや、何でもないよ」
アイザと真紀は山吹から少し距離をとった。
「なんか、お前の友人アンノウンより恐いな」
「うん」
「あぁん?」
「ひぃ~」
「いや、何でもないぞ。それより、その本とやらにはなんて書いてあるんだ」
「えーと、赤い月が出た時、世界と世界の境に不変がおきる。そして、その月はあの世と繋がる門(ゲート)となる。しかし、門は閉ざされたままで、開くには大量の死と血を必要とする。
 つまり、オレンジカウンティの大量の死体は、門を開くための儀式で四騎士は関係ない!それに四騎士や四凶についてやラッパとか封印とか、全く出てこないよ!?これ、黙示録の改正版どころか、全く違う内容だよ。まるで、私達が今まで知っていた黙示録が偽物で本物を隠す為だったみたいじゃん」
「ってことは、あの世とこの世が繋がるってこと!?」
「いや、もう繋がってる」
すると、突然雷の音が響いた。
 急いで教会の外に出ると、先程まで赤かった月は黒く染まっていた。
「始まっちゃった。世界の終わりが」
三人は途方に空を見上げた。
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