空のない世界(裏)

石田氏

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16章 最後の戦い

01

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 《アメリカ合衆国国会議事堂前》

 国の中核ともされる国会議事堂前に、多くのマスコミ達が集結していた。警察や軍を手配しているが、国会議事堂を近づけさせないようバリケードをはるだけで、議事堂内への突入はまだ出来ないでいた。
 空中にはマスコミのヘリが議事堂の上を飛ばし、議事堂の様子を少しでもカメラに残すよう必死に対し、ヘリを近づかせないよう各マスコミに警告を促す。まさに、国会議事堂が何者かに占拠された非常事態に、マスコミ各社がいいように邪魔をする。
「誰が報道の自由を与えたんだか」
「全くだ。公務の妨害するならいっそのこと権利を剥奪させたらどうだ」
「おいおいそんな愚痴、マスコミに聞かれたら面倒だぞ」
「ハエのように邪魔な奴らだこと。一番必要ない職だな。誰か、駆除してこいよ」
「あはは、なら害虫駆除に連絡したらいいんじゃないのか」
「確かにな。しかし、本当に邪魔しかしないんだな」
こんな非常事態にマスコミ対応を押し付けられた保安官は、それぞれ愚痴をこぼしていく。それと同じく、マスコミ側も報道の邪魔(制限)をされ愚痴をこぼす。
 そんな状況をテレビで外の様子を見ていた巫女は、笑った。
「どっちを相手にしてるのか分からないわね」
 議事堂内では、相手を罵る発言も悲観的発言も飛び交わず、静かにただ巫女の少女のみそこにいた。


ーーーーーー


 その頃、真紀達は教会で手に入れたもう一つの黙示録を手にして、直ぐ様タクシーで国会議事堂へと向かった。
「また、あなた達だね」
「あ!」
それは見慣れたタクシードライバーの顔だった。いくら真紀達の交通手段が限られているからといって、こんな偶然はそうそうあるものではなかった。
「君達、観光?言っちゃあなんだが、よくタクシーばかり使えるね」
「私達、宇宙エレベーターの一件で重要参考人として、長期滞在をお願いされているんですけど、そのニュース知ってます?」
因みに、英語の分からない真紀とアイザは会話には入らないで、大人しく二人で再会のお喋りでもしていた。
「そのニュースなら知ってるぞ。なら、お前さんはあの場にいたのか」
「はい」
「じゃあ、人類初の宇宙エレベーターに乗ったわけか。いいなぁ。ん?……でも、おかしいな。あれは政治家やお偉いさんしかいなかったはずじゃ?」
「私達はちょっと……色々ありまして」
山吹は日本の首相の秘書と知り合いだと言おうとして、踏みとどまった。もし、言えば色々説明も面倒になりそうだし、なによりあまり政治家との関わりを他の見知らぬ人に簡単に話すべきでもなかった。
「へぇ、そうかい。まぁ、じゃあ長期滞在中は国からの資金が出るってことか」
「まぁ、そうなります」
「そりゃ、いいこと聞いたぜ。是非、今度もうちのタクシー使ってくれよ。常連客がいるとうちも助かるんでな。ほれ、名刺」
そう言って差し出され、山吹はとりあえず受け取った。
 名刺には、バッジャーという名前と電話番号が書かれてあった。
「そこに書いてある番号で呼んでくれれば、すぐに駆けつける」
「わ、分かった」
「おっと、そんな話をしているうちに議事堂が見えてきたぞ」
バッジャーの言う通り、議事堂がすぐそこにあった。
「真紀ちゃん、いよいよだよ」
「え?あ、もう着いたんだ」
「この本によれば、死神を倒すことはできない。だから、再びあの世の門を閉じる必要がある。勿論、死神もろともあの世に閉じ込める」
「あの世の門の閉じ方は分かる?」
「えぇ。でも、あの世の門を閉じるには一つ必要なことが」
「何?」
「門を開けた人物の生け贄。つまり、巫女を殺す必要がある」
すると、アイザがバシッと拳を合わせた。
「なら、決まりだな。迷う必要はない。巫女を殺す」
「…………うん、そうだね」
「よし。じゃあ、俺達は巫女退治をする。山吹は門を閉じる準備をしてくれ」
「分かった。でも、それはいいとして、どうやって浸入するかだけど」
目の前の光景はマスコミと警察。それにバリケードがあり、それは議事堂を囲むように一周している。つまり、地上での浸入は不可能になる。
「地下道はどうだ?俺達の拠点にもあったが」
アイザの言う案は中々ではあるが、地上が無理なら地下という、はっきり言えば簡単な案はうまい案とはいえなかった。
「残念だけど、テロ対策として議事堂への浸入はそう簡単じゃないと思う。それは地下も同じ。特に議事堂の下に地下道はないんじゃないかな?」
すると、それを思わず聞いていた運転手が「知らないのか?」と山吹に言った。
「議事堂の下には避難通路があるんだ。アメリカ合衆国議会地下鉄なんてのもある。だが、アメリカ合衆国議事堂へ浸入した事例が実は過去にあって、その関係でそこからの浸入もおそらく不可能だろ」
「えーと、日本語分かるんですか?」
山吹は真紀とアイザには日本語で喋っていたから聞かれても大丈夫だろうと思っていたが、思わぬことにタクシードライバー日本語知っていたという……
「まぁ、このへん観光だし。日本人の客もいるから、ドライバーの中には日本語少し分かる奴もいる。今、こうして英語で喋ってるのは俺も少ししか分からないってことなんだ。だが、学校にもよるが日本語という科目があるんだ。俺はカルフォニア出身で学校もそこだ。そこにも日本語という科目はあった。俺はそこである程度の日本語を勉強したんだよ」
「そ、そうなんですか」
「まぁ、大抵は理解してない連中が多いさ。だが、中には分かる奴もいるかもしれん。だから、物騒な話をするときは国外にいても小声でやるといい」
「はい……肝に命じときます」
「それがいい。それより、何でそんな物騒な話をしてたんだ?」
「え?」
「訳が言えないならいいさ。ただ、別にチクろうとかそんなんじゃない。そんなことしないし、何より俺に特がない。君らは常連さんだ。さっきも言ったが、稼ぎはいいってもんじゃない。このへんのタクシー総台数分かるか?」
「分かりませんがだいたい予想はつきます」
「そうか。なら、この業界の競争も予想はつくな?」
山吹は頷いた。
「なら、この業界でやっていく方法を特別に教えるとすると、お客さんを目的地までご案内するだけじゃなく、他のサービスをやって常連客を増やしていくんだ。つまり、協力するよ」
「……はい?」
「俺はタクシードライバーだ。色々なことを知っている。運転手稼業は他のドライバーともコミュニケーションをとって、情報交換をしている。例えば、新しく出来た店の好評とかな。変な雑誌なんかのより詳しく知ってる。それは、町の構造も同じさ。俺なら、議事堂への浸入の仕方を教えられる」
「で、でも、いいんですか?そんなこと教えて」
「あぁ。勿論、このことは秘密にしてもらえればね。あと、チップも頂きたい」
「あぁ、成る程。分かりました」
そう言って、財布からドル札を何枚か渡した。その横で二人はこそこそしだした。
「何か札渡してるよ。賄賂かな?」
「お前の友人だろ?友達の前で賄賂なんかするか?多分、脅されてもっと金よこせとかじゃないのか」
「え!?そうなの。なら、私奴を斬るよ」
「いや、刀じゃ血が吹き出るだろ。後ろから銃を撃てば」
「駄目だよ。音が外まで漏れちゃう」
「なら、こいつが悲鳴出した瞬間終わりだろ」
「じゃあ、アイザがこいつの口をおさえてよ。そしたら、私が後ろからぶっ刺すから」
「よし、分かった」
隣のひそひそに耳が入った山吹はチョップの体勢をする。
「じゃあ、いくよ」
「いくよじゃない!」

バシッ!

「うへ」
山吹のすぐ隣にいた真紀は、山吹チョップの餌食となり、頭をおさえた。
「何二人で早速殺人計画実行しようとしてるのさ。うちらの相手は巫女でしょ」
「え?脅されて金奪われてたんじゃないの?」
「はい?とにかく、運転手さんから議事堂までの浸入経路教わったから行くよ」
「へ?」
すると、アイザは真紀の肩にポンと手を置いた。
「どうやら、恐喝じゃなかったようだな」
「ねぇ、それアイザが最初に言ったよね。何でアイザはチョップ受けないのさ」
「俺は英語とかいうやつの言葉なんて知らないんだぞ。俺はただ、憶測で言っただけだ」
「な、それ言い訳って言うんだよ」
真紀はアイザに抗議していると、再び後ろから山吹チョップが飛んできた。
「痛っ!」
「いいから行く」
「分かった分かった。だから、もうそれ以上やらないで」
真紀は頭をおさえながらタクシーから降りた。


ーーーーーー


《国会議事堂内》

 議事堂北側(上院議会)

 議長席に座る巫女の目の前には血で魔方陣が書かれてあった。
「おやおや、浸入者ですか」
誰かが内部に浸入したことを察知した巫女は独り言をつぶやいた。
「しかし、テレビを見る限りは警察が踏み込んだ様子もないですし、となるとやはりあの鼠どもですか。恐らく、鎧武者があちらについている以上、黙示録のことは知れてるだろうし。ならば、黙示録を護衛につかせたフランケンシュタインの血を引き継ぐ彼はやられたということなんでしょうね。正直、ホタルにこれ以上奴らを近づけないよう見張らせてますが、彼女がやられるのも時間の問題。やれやれ、となると私の準備も必要ですかね」




 場所変わって南側の議事堂内。通称、下院議会。
 その議会の机の下にある床がパカリと開き、そこから真紀と山吹、アイザが次々に出てきた。
「まさか、本当にこんなのあるんだね。聞いた時は疑ったけど、なんかスパイ映画みたいだね」
「ここは元々なかったけど、あとから密かに追加されたみたい。中の工事だから、外に知られずひっそりやれるけど、その工事担当者がうっかり漏らしたみたい」
「致命的だね」
「まぁ、それでもほとんどはガセだと思ってなのか、あまり広まらずにすんだみたい。おかげで、こっちも簡単に浸入出来たわけだし」
「とにかく、巫女とやらを探したらどうだ」
「そうだね。ここは下院議会だから、北側の上院議会にいる可能性はあるね。でも、気をつけて。この建物を占拠するくらいだから、相手は巫女だけとは限らないよ」
「そんときは、やっつけるよ」
真紀は刀を構え、アイザは銃を構えた。
「じゃあ、お二人さんに護衛でもお願いしようかな」
「ふきちゃんも、いざとなったらさっきのチョップでやっつけたら?」
「バカ言わないで。とにかく行くよ」
「ちぇっ」
面白くないなと、心に思いながら上院議会を目指すことにした。
 ドアを開け、中の様子を見て何もないことを確認すると、真紀、山吹、アイザの順番で今いる部屋から出た。
 長い廊下を、北側へと小走りで周囲に警戒しながら進んだ。
「なんか何もないね」
「逆に怪しいぐらいだが」
「これなら、なんで警察は踏み込まないんだろうね?」
「もしかすると、踏み込めない何か理由でもあったりしてな」
「恐いこと言わないで。それより、この先進むと北側と南側の中心、ロタンダになるよ」
「ロタンダって?」
「上がドームになってるとこ」
「あぁ、成る程」
真紀は納得しながら、そのロタンダとやらに到着した。そして、そこに誰かがいた。
「誰?」
「敵か!?」
銃をとっさに向けるアイザに、山吹はおさえた。
「ちょっと待って。もしかして、ホタル?」
「え?確か行方不明だったよね」
しかし、そこにいたのは紛れもなくホタルだった。だが、真紀と山吹が知るホタルではないというか、何か様子がおかしくそして、瞳には光を感じなかった。まるで暗い何かに覆われている感じだった。
「あの巫女の少女に連れ去られたのは知っていた。つまり、この先に巫女はいるんだね」
「うん、そうだよ。でも、通すわけにはいかない」
すると、ホタルはナイフを取り出した。
「それをどうするつもり?」
「こうするの」
ホタルは自分の首に刃を向けた。
「嘘っ!?」
「これ以上近づいたら、私は自分の首を切る」
「なんだ、なら勝手にしろ」
そう言って、あっさり行こうとするアイザを後ろから山吹が捕まえた。
「なんだ」
「なんだじゃない!近づいたら、あの子は死ぬのよ」
「それがどうした?」
「本気で言ってるの?」
「俺の世界にこんなぐだらない理由で自害するやつなんていない。死にたければ勝手にしろ。これが俺がいた世界のルールだ」
「あなたの世界なんて知らない。今は違う世界にいるの。それを自覚して。とにかく、近づくのはダメ。それに、あの子は巫女に操られている。彼女の意思とは違う行動をとってるの。分かって」
「じゃあ、どうしろと?この先に行けなきゃ意味ないだろ。こうして足止めされてるのが奴の目的だってことくらい分かるだろ」
「えぇ。だから、策を考えるのよ」
「そんな時間あるのか?」
「やめて。いいから一緒に策を考えて」
すると、突然地鳴りが響いた。
「今、あの世の門が開いた」
「門が!?」
「どうやら、策を考える時間はなかったようだな」
「アイザ!」
「この世界だけの問題じゃないんだろ。シュタインとかいう野郎が言ってたじゃないか。ドミノ倒しのように別世界も連鎖すると。俺には仲間や守らなきゃならないもんがあるんだ。命かけてアンノウンに突っ込んだ意味がなくなっちまう。お前らのワガママに付き合って、世界が滅んだらどうするんだ」
アイザは山吹の手を振り払い、進んだ。
「近づかないで」
その目の前をホタルが邪魔した。
「邪魔するな」
自身の首筋に刃を当てているホタルを、アイザは睨み付けた。
「……チッ」
すると、突然ホタルはナイフを自分の首筋から離すと、アイザに勢いよく襲ってきた。
「最初から、そうするつもりだったろ!」
アイザはホタルの行動を見切ったように、ナイフの先が飛んできたのを素早く避け、伸びたナイフを持つホタルの手首を狙ってチョップした。

カラン!

手首をやられ、思わずナイフを落としたホタルはそれを拾おうとするが、アイザはそれを蹴飛ばし遠くにやった。
「あっ……」
打つ手を失ったホタルに、突然瞳に光が戻った。
「あれ?私……」
「戻ったの?でも、なんで」
これには、アイザ自身も驚いて「俺は知らん」
と言った。
 山吹はホタルに駆け寄った。
「ともあれ、もとに戻って本当に良かった」
「それで、なんか操られてた時の記憶とか残ってるのか?」
ホタルは首を横に振った。
「でも、なんでホタルが狙われたんだろ?」
「あっ、それは覚えてる。確か、特別な血筋じゃないと駄目だとか。それで、最初に選ばれたのが真紀さんだった」
「真紀ちゃん!?」
「うん。でも、真紀さんは絶対に抵抗されると思ったのか、直ぐに次の血筋を探したら私を見つけたって」
「特別な血筋ってどんな」
「先祖が王族か歴史に偉大なことを残した人だって。巫女のあの子は、自分の先祖が卑弥呼だって言っていた。だから、門を開ける力があると」
「え?卑弥呼!?確かに卑弥呼も巫女だったけど、巫女は確か処女で、男性と関われないんじゃ」
「巫女になれるのも年齢に制限があるから、それを過ぎたあとに……その、やったのかも」
「な、成る程。でも、なんで特別な血筋がいるの?」
「門を開ける人物は特別な血筋と決まっていて、それとは別に違う人物の特別な血筋の血がいるみたい。だから、私血を抜かれて」
そう言って、腕捲りをして注射痕を見せた。
「私は自分の先祖とか知らないから分からないけど」
「そっか。でも、真紀ちゃんが特別な血筋ってのは……」
「多分、『空のない世界』でほとんど家系とか分からなくなって先祖とかあやふやになったみたいだけど、恐らく」
「おい」
すると、何かに気がついたアイザが急に声を上げた。
「それより、その本人とやらは何処にいった」
「あ!?」
それを言われ、山吹も真紀がいつの間にかいなくなっていることに気がついた。
「真紀ちゃん!?」


ーーーーーー


バタン!

 扉が勢いよく開くと、そこには巫女の格好をした少女がいた。
「あら、やはりダメでしたか。ですが、もう門は開きましたよ」
そう言って、血で書かれた魔方陣を見せた。その魔方陣はなぜか光を放っていた。
「外の月は既に黒く染まり、ゲートが開いてあるはず。あとは、死神がこちらの世界に来ていただければ世界の崩壊は始まるのです。勿論、この魔方陣からもあの世に行けますので、今から迎えに行くところでした。どうです?ご一緒しますか」
真紀は拳を強く握りしめた。
「目的は何?」
「目的?それなら今、達成しましたよ。私は復讐とかそんなのないんですよ。ただの好奇心。世界を壊す、それは物を壊すのと同じく快感なものなのかを知りたい。どれ程の絶調なのかを」
すると、思わず真紀はため息をつく。
「こんな無駄でふざけた敵、呆れる以外どんな反応したらいいか分かんなくなったよ」
「怒ればいいんじゃないかしら」
「これが子供の遊びなら、たちが悪いよ」
「でしょうね。で、どうしますか?私と殺し合いますか?」
真紀は無言で刀を出した。
「鎧武者……私が召喚したものが敵にまわるだなんて皮肉以外ないですね」
「そなたは、かつての主ではあるが、今の主ではない。いくら生みの親であろうと容赦しないつもりだ」
「そうですか。いいですよ、自分で生み出したのを壊すのも嫌いじゃありませんから」
「もう、いいの?」
「あぁ。これから戦う相手にこれ以上語る必要はない」
「分かった」
真紀は刀を構え、刃に炎を纏わせた。
「へぇ、世界構築の少女が消えた今でも能力を使えるのですか。世界の崩壊現象の前兆に乗じたわけですね。なら、あまり異国の言葉は使いたくありませんが使うしかないようですね」
「ん?」
「イムプレーカーティオー」
すると、突然頭が割れるような痛みが真紀に襲ってきた。
「ああああああーーー」
「頭が痛いのでしょ。ラテン語で、意味は呪い。これで、人を操ってきたのよ。シュタインも自分なりにこの力を真似しようと研究していたみたいだけど、この呪いには及ばないわね」
「くあああぁぁーー」
「主よ、しっかりしろ」
「抵抗すればするほど、苦痛は長引くわよ」
「ああぁーーあ、あぁ……」
「主よ、どうした?」
突然、真紀の悲鳴が止んだ。
「どうやら、私の人形になったようね」
「そんな!?」
「さぁ、その刀で自分の首を切るのよ」
「はい」
すると、真紀は刀の刃を自分の首筋に当てた。
「やめるのだ、我が主よ!」
そしてーーーー

……

………

「どうしたの?」
すると、真紀の目付きは巫女をとらえていた。
「!?」
真紀は刀を大きく構え直し、巫女に襲った。
「せやあぁーーーー!!」
「ミーラークルム!」
咄嗟に唱えた詠唱により、真紀が振りかざした刀は変に曲がり、巫女に当たらなかった。
「なぜ、呪いが効かない!?」
「それより、なんで曲がった?」
「奇跡を唱えたからよ。あまり使いすぎると、そのあと悪運が続くから使いたくなかったのに」
「私は、単にたまたまポケットに入ってた頭痛薬飲んだだけだよ。前にふきちゃんと初めての酒を飲んだ時、酔って頭が痛いくなったから使ってたの。ブライアンに怒られたけど……」
「確かに頭痛が消えれば呪いも消えてしまうけど、こんなに早く薬が効くなんて、あなたの体おかしいんじゃないの?」
「失礼な!それより、今度こそこっちの番だよ」
「あら、あなたの番なんて一生こないわよ」
「はぁーーー!」
再び真紀は巫女との距離を縮めるため飛び込む。
「モルス!」
「我が主よ、避けろ!」
真紀は、突然あらわれた黒いモヤをギリギリでかわした。
「よく、避けましたね」
「何、あれ」
「我が主よ、やみくもに近くな。あれに当たれば主は命を吸われ、一瞬で死んでしまう」
「じゃあ、あれに気を付ければいいんだね」
「簡単に言うが、出来るのか」
「やるしかない。とにかく、近づかなきゃ当たらない」
「鎧武者が言った通り、簡単ではないですよ」
すると、巫女はここに来た時に殺した大臣の死体に近づいた。
「ウィータ」
巫女が唱えると、死体だった男が立ち上がった。
「え、生き返った?」
「いや、死人は生き返れない。例え黒魔術や魔法を使ってもな」
「その通り。これは言わばゾンビですかね」
「色んな奴と戦ってきたけど、今度はゾンビか。でも、ゾンビなら弱点多そうで今での敵より楽かな」
そう言って炎をゾンビに向ける。すると、案の定ゾンビは炎を避けた。
「やっぱりね。見方増やしたつもりかもしれないけど、こんな奴相手じゃないよ!」
真紀は、炎の刃でゾンビを斬り刻んだ。ゾンビはあっけなく燃え、黒こげになった。
「君に恨みがある訳じゃないんだ、ゴメンよ」
そう言って、再び巫女に視線を戻す。
「死体を駒にするなんて、巫女の割には罰当たり過ぎじゃないかな」
「そうかしら?これから大勢の人が死ぬのだから、死体の扱いなんてその頃にはどうでもよくなってるわよ」
「そんなことさせるわけないじゃん」
「アールーキナーティオ!」
すると、真紀の視界が突然ぼやけだした。
「今度は何したの」
「幻覚と、更に視界を悪くした。これで、さっきの黒いモヤからは簡単に避けられなくなったわね」
「くそっ!」
「我が主よ、我がいる。我がそなたの目の代わりとなってガイドしよう。あの、黒いモヤはそこまで早くないし、詠唱しなければならない。詠唱を唱えてきたら我の指示に絶対従ってくれ」
「分かった。頼むよ」
「うむ」
「とことん私の邪魔をするのですね。召喚を戻す手立てがあれば、即行でやってましたよ」
「分かっていると思うが、我に先程の幻覚技は通用せぬぞ」
「分かってるわよ。だからこそ、腹が立ってるのですよ。さぁ、どう回避するか見物ですね」
「来るぞ!」
「うん」
「インウォーカーティオ・コントラクトュス・ユーラーレ!」
「正気か!?」
「え、何?」
「悪魔を召喚して契約しおったのだ。こんなことをして、どうなるか分かっているのか!」
「えぇ、勿論。私は悪魔と契約して、悪魔の足を借りたのよ。これで、瞬時に」
すると、突然ビュンと巫女が消えた。そして、
「簡単にあなたの後ろをとることが出来る」
真紀の真後ろに巫女の少女は立っていた。
「では、さようなら」
巫女は真紀の背中に手を当てた。
「モルス!」
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