空のない世界(裏)

石田氏

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《第1幕》1章 名も無き世界

02

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(※01の途中から)真夜中のロンドン塔の上に、ライトアップされている少女がいた。
 ピンクのパーカーに、大きな怪しく緑色に光る鎌を手にしていた。



【イギリス・ロンドン】
この地に踏み込んで真っ先に向かったのが、ロンドン塔である。ピンクのパーカーを着た少女が根城にしていると言わている為、こっそり遠くから見るつもりだった。真夜中だし、偵察というか様子を見るつもりだった。
 しかし、真夜中だというのに、来ることが分かっていたのか、待ち構えられていた。ロンドン塔上で、こちらの方向を見ている少女は、距離があるというのに見えてるかのようだった。しかし、動きはまだ、見られていない。
「見えてるんでしょうか?」
「多分。動きがないのは、こちらの動きを見て判断するつもりでしょう。ここは目的も達成できたのでいったん、退きます」
「追って来ないですかね?」
「それはないと思います。あちらは、こっちがここに来た目的を察しているはずです。仕掛けてくるかどうかの確認でしょう。まぁ、この地に来たのを知られたのは痛いです。あちらから先制されたら打つ手はありません。しかし、この真夜中では、アレスさんの射撃援護は見込められません。それに、あちらの方が有利です。私たちは、この地に来たばかりで、地理的にもまだ把握できてません。そんな中で戦っても、結果が見えています。ここは、退散するのが善です」
「分かりました」
こうして、私たちは新たに戦いの2戦目を迎えようとしていた。



 無事、退散してから朝まで何もなかった。いちよう、見張りをつけ、交代でやったが、あちらは結局何もしてこなかった。
 朝は、早速少女攻略に向けたミーティングが行われた。少女の能力はお伽噺を現実化する能力。例えば、彼女が現れてからおかしな現象がおきていた。
 くまの○ーさんが襲ってきた!
 トランプの兵隊が街の道路に薔薇を植え始めたよー!通行の邪魔!クラクション鳴が鳴り響く。
 3匹の子豚と狼がリアル鬼ごっこして、子供が怖がってます!あっ、今1匹目の子豚が食われました。
 何か喋るライオンが来たよ!ナル○アの国がどうとか言ってるけど、そんな国あったか?


……まぁ、こんな調子でイギリスの人達は見事にやられました。めでたし、めでたし。


ではなく、真面目に話すと架空物語の登場人物が現実になるって話し。さっきのは例えだが、例えばドラゴンや怪物など人に危害を加えるものまで現れたら人間もひとたまりもない。
 しかし、少女攻略にはどうしてもお伽噺の中を突破する必要がある。特に、ロンドン塔に潜伏している彼女までたどり着くにはロンドン塔も同時に攻略することになる。ロンドン塔は言わば要塞。アレを突破するのには念入りの作戦が必要。
 勿論、少女攻略においては、少女の所まで行けてもゴールではない。大鎌を持った彼女が待ち受けているのだ。恐らく、あの鎌も普通ではないのだろう。
「皆さん、少女攻略にはやることが沢山あります。特に3つ、お伽噺の中を突破、ロンドン塔への侵入、大鎌を持った少女への対応」
「無理難題だな」
珍しく、モリスが弱音を吐いた。まぁ、無理もないが、
「確かに無理難題ですが、その無理難題を無理矢理なんとかするんです。
 まず、ロンドン塔への最短距離をこの地図に赤く示したので、このルートでロンドン塔へ向かいます。基本は囲んで見つからないよう周囲を警戒して進みます。見つかった時は、全速力で目的地へ向かいます。できるだけ目的地へ無事に着くには、障害に遭遇しないよう近づくことです。もし、見つかった場所が目的地より離れていたら一旦退却します。
 次にロンドン塔に到着したら、ドアの鍵を壊して、それこそ無理矢理突入します」
「おいおい、正気か?」
「はい。ロンドン塔はかつては警備が厳重でした。ましてや排水溝や下水道からの侵入の方があり得ない。ロンドン塔からの侵入は正面からしかない。ただ、当然正面の警備を頑丈にしているはず。だから、正面の突破にーーーー」
「「はぁ~~~~!?」」
「あんた、バカなのか?いや、バカだ。お前はバカだ。間違いない」
キャプラは頭をかかえて言った。
「でも、まぁ……なぁ?」
「何がなぁ?だよ、キングさんよ」
「やりましょう」
「モリスさんまで。あんたはどう思ってるんだ、アレン」
「別にいいんじゃないのか」
「お、俺は反対だからな。俺は絶対やらないからな」
「分かりました。それでは、キングさんとアレンさん、それにモリスさんで明日の早朝から作戦を遂行します。皆さん、宜しくお願いします」
「おう」
「任せとけ!」
「りょーかい」
あのバカげた作戦に皆賛同したことに、一人だけ舌打ちした。




 ミーティングを終え、各自明日の準備をしているなか、一人だけぶらぶらと歩いていた。キャプラは少しイラだっていた。
 俺の前科を知っている東。アイツが俺の前でそんなことを言った時は「なんで……」って思った。
「マッチはいかがですか?」
「うわぁ!!」
いつの間にいたのか、そこには女の子がいた。しかし、実際人間は俺達以外いないはずだ。つまり、この子は少女の能力によって生まれたお伽噺の架空人物だった。
「な、何だお前!?」
「マッチいかがですか?」
「マッチ?要らねぇよ」
「うっ…………」
「お、おい泣くなよ」
「マッチ……」
「わ、分かったよ」
マッチ売りの少女からマッチを買った。
「ほら、買ったぞ」
「ありがとう」
「ほら、早くどっか行けよ」
「一緒についていっていい?」
「はぁ?駄目に決まってるだろ」
「うっ……」
「おい、何で泣くんだよ。お前の母さんとお父さん、心配してんだろ」
「私、マッチ売り切らないと帰れないの」
「そ、そうなのか。じゃあ、まぁ頑張れよ」
「うっ……」
「おい、そんな事で泣くなよ」
「だっ、だって……」
「分かったよ」
「ぐすっ……ありがとう」
「それより、俺以外でマッチ買うやつとかいるのかよ?」
その質問にマッチ売りの少女は、顔を横にふった。
「だろうな」
(何か面倒な子につかまったな)と、不運に思いながら笑顔でついてく少女を見る。



 その頃、東達は3度目の突入から再び退避していた。
「無理無理、危うく空飛ぶ船にネ○ーランドに連れてかれるところだった」
「俺なんか、妖怪メダルとか貰ったぞ」
アレスが、それを見せる。あれ、何か時代とかジャンルは何でもいいのか?と、東が思っていると、隣でキングさんが、
「俺は海賊王になる!!」
まぁ……色々言いたいが、お前はいつ海に出たんだと、心の中でつっこむだけにしといた。
「これじゃあ、いつまでたっても着きそうにないですなぁ」
モリスさんの意見に同意だ。確かに、最短ルートはあちらも把握済みだろうし、簡単には着かせる気はないか。
「では、別ルートでいきましょう」





 「なぁ、何でマッチ何だ?花とかならさ、まだ分かるんだけど」
「花ですか。ロマンチックですね」
「ち、ちげぇよ」
「うちは、花なんて高価なもの、ありませんから」
「ん?そんなものか?」
「はい。ですから女性は花を男性から貰うと喜ばれるんです」
「成る程、その説明だと納得できる。そうなのか、俺には花なんて貰って喜ぶ理由が分からなかったから。でも、そう言われるとやっぱり女性は現金なんだな」
「ち、違います!」
「分かってるよ。ただ、乙女の気持ちはやっぱり俺には分からないなってね」
「女性が苦手なんですか?」
その言葉に引っかかった。確かに、女性が苦手だ。大っ嫌いだ。あの時ーーーー
 キャプラは過去のことを思い出す。あの時、俺は通学にいつも通り電車に通っていた。その時、俺の近くで女子の悲鳴が聞こえた。
「キャー、痴漢!」
彼女は、俺に指をさして、そう叫んだ。俺は何もしてないのに、近くにいた男性に取り押さえられ、駅員に引き渡された。その時、悲鳴をあげた彼女は、俺に指さして笑っていた。よく見たら、同じ学校の同じ学年の子だった。
 俺は無実を訴えた。しかし、弁護士まで罪を認めたら減刑されるから自白するよう進められたのだ。
 結局、俺は弁護士の言う通り自白をするしかなかった。偽りの自白を。俺は初犯ということもあってか、減刑はされたが、当然学校は退学。町のどこかを歩いても性犯罪者のレッテルを貼られ、行き場を失った。唯一の救いは、あの『空のない世界』が現れた時、襲われる敵から逃れる時に、彼女はまさにその敵に襲われていた。襲われる直前に私に気づいたのか「助けて」と涙ながらに訴えていた。でも、俺が助けに来ないと分かると「卑怯者」と口にした。まさか、彼女の口から卑怯者という言葉がでるとは思わなかった。どちらが卑怯者なのかと、考えているうちに彼女は絶命した。結局俺自身、直接彼女に仕返しすらできなかった。

ーーーーーー

「チッ、嫌なこと思いださせやがって……」
「ご、ごめんなさい。……でも、私頑張るよ。お兄ちゃんが女性好きになれるように」
「なっ!お、お前、何言ってるんだ!」
「お兄ちゃん、顔真っ赤だよ」
「お、お兄ちゃんってのをやめろ!俺はキャプラだ」
「キャプラお兄ちゃん?」
「だ、だからお兄ちゃんは」
「お兄ちゃんはお兄ちゃんだよ?」
「ぐっ…………それより、お前の名前なんだよ。こっちは教えたぞ、お前のも教えろ」
「私の名前?私に名前はないよ」
「えっ?……名前がないなんて冗談言うなよ」
「本当だよ」
「な、なんだよ、それ。名前ないとか」
「ん?」
「名前をつけないとか親の顔が見たいぜ。もしよかったら、俺が名付け親になってやらんこともないが!まぁ、断ってもいいんだぜ」
「えっ、私に名前付けてくれるの」
「あぁ」
「やったぁー!」
少女は明るく跳び跳ねた。
「そ、そんなに喜ばれると、逆に困るんだが」
「教えてください!私の名前」
「それは……」
「それは?」
とっさに、辺りを見回した。すると、一本だけ倒れずにたっている木から桜の花が咲いていた。木の下には看板があり『日本からの寄贈品』と書いてあった。
「さくら」
「それが、私の名前?」
「あぁ……あまり気に入らなかったか?」
「ううん、嬉しい。さくら、さくら。これが私の名前」
キャプラは予想以上に喜んでくれたことに、少しだけ彼女に惚れてしまった。





 そして、あれからパーカーの少女攻略1週間がたった。
 「ダメだ。ルートを変えても、あいつらに遭遇する」
アレスが言った。
「俺なんてエ○エス・○ビーに連行される所だった」
いつまでワ○ピースのネタひっぱるつもりだ?キングさんは。そのうち、2年間の修行したら何故か、か○かめ派をうったりして。まさかのそこでド○ゴンボールネタを出す感じを期待しないわけでもないが、そろそろ早くこの攻略を終えないと。
「ルートなんですが、ロンドン塔まで地下の下水道を通っていくのはどうでしょうか。本当は、逃げ場のないところが一番敵に遭遇した時に危険ですが、いない可能性もあります」
「いや、そっちも無理だ」
「キャプラさん!」
「お前、戻って来たのか?」
「お!お前、俺の仲間にならないか」
「この麦わら帽子をかぶったキングさんはどうかしたのか?まぁ、いい。ロンドン塔へは俺が案内する。抜け道を知っている」
「!」




ーーーーロンドン塔前。

「どうやって見つけたんですか、この抜け道」
「いや、……ちょっとぶらついてたら見つけさ」
「凄いじゃないか!」
「はい、凄いと思います」
「感心したぞ、キャプラ」
「いや、たまたまだって」
「それよりどうするよ、東。このまま乗り込むにしても簡単じゃないだろ」
「はいモリスさん。しかし、イギリスの要塞、ロンドン塔を攻略なんて前代未聞ですから。まぁ、敵の協力があれば別なんですが」
「ありもしないことを望むな」
「はい、すいません」
「誰かの協力があったら入れる。そしたらあいつ……」
「どうかしましたか、キャプラさん」
「いや、何でもねぇ」
すると、固く閉ざされていた正面の扉が、音をたてて開いた。そこには、手を振っている少女がいた。
(あいつ……)
「どう思う、東」
「罠と考えてもおかしくありませんが、この場合は招待されているか、あの子が協力してくれたかですね」
「協力って言っても、あの子が俺達に協力する理由なんてあるか?」
東達は、ただ不思議に思うしかない。が、キャプラだけは知っている。あの子が協力する理由を。
「どうする、東」
「突入しましょう。あの扉を開けたのは彼女だけみたいですし、あの少女はおそらくマッチ売りの少女。害はないはずです」
「しかし、俺達の行く手を邪魔するこいつら、イギリスを壊滅させたやつらの仲間に助けられるとわね。あのパーカーの少女の能力も万能とは言えなかったということか」
「それは最初の少女も同じですよ。主が危機になっても来なかった。あの人形は意識はあり、主の指事には従うが、肝心のことは指示がないとできない。人形としては完璧ですが能力としては欠落していると思います」
「同意見だな」
「では、あちらもこちらが来るのを待っていますし、ぐずぐずしてられません。このチャンスはもうないでしょう」
「確かにな。よし、行くか!」
「はい!!」



  
 パーカーの少女攻略から1週間、ロンドン塔への突入に成功した。
「君が扉を開けて、僕たちを入れてくれたんだよね?」
「うん」
「ありがとう」
それを聞いて少女は明るくなる。
「どういたしまして」
「そんなことはどうでもいい。何でお前、俺達を中に入れた」
「そ、それは……キャプラお兄ちゃんのお友達かと思って……うっ……ごめんなさい」
「どうしてこの子が、キャプラの名前を知ってるんだ?しかも、お兄ちゃんって……」
「キャプラさん、理由はどうあれ女の子を泣かしちゃ駄目ですよ」
「わ、悪かったよ。もう泣くな、さくら」
「うん」
「「さくら?」」
キャプラが言った名前に、モリスと東がハモった。
「キャプラお兄ちゃんが名付け親になってくれたの」
「へぇ、名付け親ねぇ」
「キャプラさんにお子さんですか」
「ちげぇよ!」
キャプラが必死に抗議した。
「わかった、わかった」
「キャプラさん、すいません。からかうつもりじゃなかったんですが、つい」
「お前らぁーー!」
「そう、怒んなよ」
「皆さん、あまり大声は……。ここは敵の本拠地だってことを忘れてませんか?」
「あっ……」
「わりぃ、東」
「いえ、僕も喋り過ぎました。ここからは、本命に向かって最上階を目指します。おそらくそこに、あの少女がいるはずです」
「じゃあ、最上階に続く階段をまず探せばいいんだな」
「はい。中は暗いので気を付けてください」
「東、俺はどうすればいい?」
「アレンさんは、さすがに室内の狭いところでの射撃はやりづらいでしょうから、最上階までは後方に敵が現れたら撃ち落とすかたちで、少女との対戦の時は、参戦せずに他の敵が合流しないよう足止めをお願いします。
 ……何故か黙りのキングさんはアレンさんと一緒に射撃にまわってください。アレンさん、キングさんにも小型銃を」
「はいよ」
「あぁ……」
「どうしたんだ?」
モリスさんの心配にも答えず、無表情のキング。彼の視線は窓越しの、空遠く彼方にあった。
「モリスさん。キングさん、先程ロンドン塔へ侵入する際、麦わら帽子をなくしちゃったんですよ。それで、落ち込んでるみたいで」
「おい、大丈夫か?今、そんなこと言ってる場合じゃねぇぞ。おい、キング。お前、家族失って復讐したくてここまで来たんだろ!しっかりしろ」
その言葉に、自分の使命を思い出したかのように、目を大きく開き
「あぁ、確かにそうだった。悪かった、足を引っ張って。これから巻き直す、任せろ」
その言葉に、いつものキングさんに戻り、他の皆はホッとする。
「じゃあ私、皆を案内するよ。最上階に行きたいんだよね?」
「さくら、お前は戻れ。本当はここにいちゃ、まずいんだろ」
「私、戻らないよ。キャプラお兄ちゃんの助けになるって決めたもん!」
「おい、わがまま言うな。マッチまた買ってやるから」
「マッチなんていい」
マッチが大量に入っていた籠を放り投げた。マッチ売りの少女がマッチを放り投げたことに、東や他は、皆驚く。そんなことには、気づかない二人は揉めあった。
「マッチ売らなきゃ、さくらは父さんに怒られるだろ!」
「父さんなんて嫌い!知らない、もう家に帰らないもん」
「じゃあ、これからどうするんだよ」
「お兄ちゃん達についてく。もう、決めた!」
「駄目だ!」
「いや!」
「帰るんだ!」
「いや!」
「さくら!」
「うっ……うっうっ、ひく!うっ、うぇ~~~~ん」
「おい、キャプラ!どうにかしろ」
「わ、分かったよ。案内だけだからな。もし、危なくなったら帰れよ」
「うっ……、一緒に行っても……いいの?」
「あ、あぁ」
すると、さくらはキャプラに抱きついて、そのままになった。
「離れるんじゃないぞ」
「うん」
そして、二人はそのまま抱きあった。
「あのー、二人とも。まだ、めでたし、めでたしじゃなくてね、流石に本当に本命の所行きませんか」
「私、お兄ちゃんにくっついていたい」
「しょうがないなぁ」
そう言って、さくらを抱っこした。
「じゃあ俺が抱っこしてるから、案内宜しく」
「うん」
こうして、ロンドン塔へ侵入してから大分時間が過ぎて、ようやくーー
「あ!行く前にマッチ拾って」
「「・・・・・」」
ーー進もうとしていた。




 最上階前ーー
「次で最上階か」
モリスさんの言った通り、最上階前まで来ていた。ながかった道のりも、最後のボス戦で終わりである。
「ここからは、パーカーの少女攻略について改めて話をします。相手との交戦は初になる為情報はありませんが、イギリス・ロンドンに来た際、ロンドン塔への偵察で見た通り、彼女の武器は大鎌です。リーチの短い武器には相性が悪い為、キャプラさんのようなナイフより、こちらの大剣……まぁ、道端に落ちていた剣ですので、おそらくはお伽噺の誰かの持ち主だとおもいますが、これをキャプラさんに」
「良かったな、キャプラ。それはエクスカリバーとか言うやつらしいぞ」
「えっ、そんなものが道端に?」
「俺は魔剣で、東はラ○トセイバーだ」
キャプラは、これ以上ツッコむのをやめた。いちいちツッコミいれてたら、本当に日がくれそうだったからだ。
「では、これより『アニオタの中二病少女討伐クエスト』を開始します!」
「東、作戦名のセンスは相変わらずないな」
モリスの言うことに皆笑いながら頷く。



ロンドン塔・最上階ーー

「では、行きます」
最上階の扉前、東の確認に皆頷いた。それを見た東は、思いっきり扉を開けた。


そこにいた。ピンクのパーカーを着ていて、耳にはイヤホンをしている少女が



「           戦歌・ブースト            」



 能力倍増。少女の筋肉から出されたとは思えない程の速度で襲いかかった。とっさに、モリスが魔剣で大鎌を防ぐ。魔剣の刃と大鎌の刃がぶつかり、甲高い音が鳴り響く。更に攻撃の手をやめない少女は2撃目を繰り出す。モリスは必死に応戦するが、受け止めるのに必死だった。
「こいつ、一撃一撃が重い!」



「            軍歌・滅却             」



突然、彼女の大鎌が、赤く光出した。モリスはとっさに避け、大鎌の刃に触れないようにした。
 大鎌は、モリスに当たらず空気をかすめて壁に激突した。その瞬間、刃に突き刺さった壁は爆発した。
「要するに、その刃に触れるのは危険って訳か。キツいぜ、刃に触れずにやつを倒すのは」
大量の汗をすでにかいているモリスは、さっきのでかなり限界にきていたらしい。かなりの速度で襲いかかってるのを、更に受け止めることができずに避け続けなければならない。隙を見計らいながら相手に攻撃するのは至難の技。おそらく、少女同じく能力をもつ少女にしかできないこと!
 どうする?本来はモリスさんが交戦中に僕が相手の弱点や隙を見つける手はずだが、モリスさんも、限界だ。交代しないと、モリスさんがやられてしまう。やはり、自分が戦いながら相手の弱点を探るしかないか……
「モリスさん、下がってください。交代しましょう」
「いや、まだ大丈夫だ。まだ、あいつの弱点見つけられないんだろ。それまで、俺に任せとけ」
「ですが」
「お前はあいつのことだけ考えりゃいいんだ。この勝敗は、お前にかかってるんだ」
「おい自分ばっか、かっこつけてるんじゃねぇよ。俺と代われモリス」
「キャプラさん」
「死ぬ気じゃないだろうな、キャプラ」
「つまらない冗談よせ、モリス。俺にだってやるときはやる男だ」
「へぇ、随分変わったな。キャプラを変えたのは、やはりあの子か……。分かった、少しだけ代わってくれ」
「おう!さくら、ちょっとばかし、俺から離れていてくれ」
「やだ」
「大丈夫だ。必ず戻る」
「本当?」
「あぁ、本当だ」
「うん、分かった」
さくらはキャプラから離れ、モリスは一旦下がり、代わりにキャプラが前に出た。それと同時に少女も、モリスからキャプラに目線をうつした。まるで標的を変えたかのように。
「今度は、俺が相手だ」
「お兄ちゃん……」
遠くからキャプラを心配そうに見る。
 キャプラはエクスカリバーを構えた。それを見ると少女は、キャプラに襲いかかってきた。


「         戦歌・ブースト         」



「!」
さっきより、更に速くなっている。マズイ!と思った瞬間、キャプラは見事にかわした。まるで、キャプラの体が軽いかのようにすいすいとかわしている。
 何がおきているのか不思議に思う東とモリス。その時、さくらには一本のマッチに火がついていた。


 その頃、キャプラの内心では悲しんでいた。本当は、目の前にいる敵を殺せば、さくらは消えてしまうからだ。さくらは、敵が能力でつくりだしたお伽噺の人物。現実には存在しないあの子は、敵を倒せば能力の効果も消え、一緒にさくらも消えてしまうからだ。敵を倒せばさくらは消える。それなのに、あいつは俺達に協力した。自分が消えるかもしれないのにだ。でも、あいつは言ったんだ
「ごめんなさい。キャプラお兄ちゃんの世界滅茶苦茶にして、怒ってるんだよね。私が憎いよね。なのに一緒にいたいとか、わがまま言ってお兄ちゃん困らせちゃって、ごめんなさい。私、泣き虫だから、私が泣いたら必死に慰めようとしてくれたよね、ありがとう。だから私、お兄ちゃんとちょっとお喋りして、思い出もできちゃて、奪ったのにこっちは貰いっぱなしで、だからお兄ちゃんに恩返ししたいの。例え、私が消えても、お兄ちゃんのことはずっと好きです。だから、恩返しさせてください」
泣き虫の癖に、その時だけ笑顔で言われた。



「泣き虫の癖に、何でそん時だけ笑顔なんだよ!」


キャプラの必死な訴えと、涙は、彼女の心臓部に刃が達していた。



 やはり、さくらちゃんが持っていたマッチの火は、幻覚を見せる幻だった。言わば彼女の能力。キャプラは知っていた。同じ能力者同士なら勝てたことを。
 キャプラの幻を見ていた彼女は、背後にもう一人のキャプラがいたことに、気づかなかった。彼女は「不覚」と言いながら、まばゆい光とともに消えていった。
 キャプラは急いでさくらにかけよる。さくらも同じく、消えかけていた。
「さくら、さくら!」
「キャプラお兄ちゃん」
「さくら!消えないでくれ……頼む」
「キャプラお兄ちゃん、泣いてるよ。私が泣き虫なのに、お兄ちゃんが泣いたら誰が慰めてくれるの?」
「うっ、ぐすっ。……さくら、」
「なーに?」
「俺もさくらのことが好きだ」
「うん。私もお兄ちゃんのことがーーーー」
「さくら、さくら!さくら!!」
まばゆい光に包まれながら、消えていった。
 その光は、世界でもっとも輝き、暖かかった。




 あれから1週間、2人目の少女を攻略し次の舞台へと準備をおこなう。
「次はどこへ向かうんだ、東指揮官」
「朝鮮です」
「よし、決まりだな。おい、そこの仲良しさん、次の目的地が決まったぞ」
そこには、キャプラとさくらがいた。
※字数超え03へ続く
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