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外伝・劇場版(風) 黒い世界
01
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「どうして、どうしてなんだ東!」
大都市のビル頂上、赤いランプが光る中、その屋上にはキャプラと血を流すさくらが倒れこんでいた。そして、キャプラが睨む先には黒一色の服を着こんだ東がいた。
「答えろ、東」
夜の暗闇に、風がふぶいた。東は少し合間をあけて答えた。
「僕はこの世界を知ってしまったんだ。世界構築の少女と出会い、トリニティの王・黒の少女と出会った僕は世界の輪回転(りんかいてん)の原理を知ったんだ。輪廻転生の世界バージョンの新しい理念思考。これが事実なら、この世界を滅ぼそうとする黒の少女の存在意義が確立する。世界構築の少女と対等である黒の少女は、世界を一定期に破壊し滅ぼし、世界構築の少女は世界を新たに構築し、誕生させる。同じ世界が一定期を越えて存在することは、輪回転の稼働領域を逸脱し、バラドックスピースからこぼれ落ち、この世界は孤立する。孤立した世界は次元を失い、また新たに世界を構築することが不可能となる。
世界を滅ぼさなくても、この世界は存在できなくなる。だが、新たに世界を生み出すというなら、世界を新たに構築する為、自ら世界を滅ぼしリセットする必要がある。この世界は、輪回転の稼働領域の一定期間が残り僅かなんだ。だから、僕は黒の少女につくことにした。
世界構築の少女は、バラドックスピースから孤立しても、世界が滅びず存在し続ける可能性を訴えている。輪回転は不必要な行為だと言うが僕はそうは思わない。しかし、世界構築の少女は、この世界を新たに作った時、初めて人類というものが生まれた際に、人類には輪廻転生の対象にならないことを知ったんだ。消費した人類の魂(エネルギー)は、この世界に残り続けたんだ。だから、世界規模の輪廻転生はなくても、世界は存在し続けることができるのではと言う考えにいたったのだ。
しかし、僕はトリニティの色ありの少女にさらわれ、黒の少女に出会った時に言われたんだ。人類が輪廻転生の対象にならないのは、世界と言う大規模な器が魂(エネルギー)をこの世界にとどめておくことができたからだと言った。もし、人類に輪廻転生がおこなわれていたとしたら、この世界から一度は魂が消失し、この世界から一旦消えたことになる。それは結局輪廻転生とは別の意味になるだろう。例えばAの魂が輪廻転生し消失した場合、消失後に再び世界に転生した際の魂はaとなる。Aはaとは結ばれない。何故ならAという情報を保持する世界の器から消失したのだから、元になる情報がないなかで同じAを転生することは出来ない。世界から消失した魂は同じくパラドックスピースからも消失し、二度とAという魂が生まれてくることはない。つまりaは、新たに生まれたAと同じく似た魂であるが、似ただけでかつていたAにはならずaとなる。故にAはaに結ばれない。
因みに、魂をエネルギーとして見た時、エネルギーの性質をAとした場合なので、Aが転生できても、外見がかつてのAの持ち主と同じではない。時代も家庭も違うなら、Aという魂は新しい環境の中で新しい情報をAに書き加えていく。つまり、Aは最後を迎える時はAではなくBになっている可能性がある。性質は周りの影響で変化する為、結局Aという魂が世界に存在し続けることは不可能であり、それを可能にするには転生しないこと、変わらないことである。故に魂は世界から消失せず、また世界から生まれたものはその世界から消失せず、別のものへと変換される。この時に生まれるエネルギーを我々人間はエントロピーと名付けたわけだ。
ワールド・パラドックスのバランスに、世界の滅びが必然なんだ。だから、僕は世界構築の少女にはつかず、黒の少女につくことに決めた。」
キャプラは、東の長話しに溜め息をついた。
「俺はそんな話を聞きたくて質問した訳じゃない。俺は何でさくらをやったのかを聞いているんだ!」
「僕は世界を滅ぼすと言ったんだ。君らは絶対に邪魔をしてくる。輪回転の期間は刻一刻をせまっている。時間が無いんだ。邪魔をされている暇はない」
「邪魔とかいうなよ・・・・」
「君らは世界がどうのと話しをして、じゃあ死んでくださいと言って素直に聞くのかい?話し合いは無用だろ?」
「くっ・・・・」
「僕は自分が間違っているとは思っていない。そして、君らも間違ってはいないと思う。ただ、意見の違いだ。だからと言って、仲間だから互いに妥協して話し合うつもりはない。さっきも言ったが、これは必然だ。ここで、殺しあいが始まったとしてもそれは必然なんだ」
「お前は、仲間が死んでも必然だとか言うのか」
「言わない。僕は、多分すまなかったと言うだろう」
キャプラは拳をつくる。
「謝るなら、最初っからやるなよ」
「そうはいかないと、さっきから言ってるだろ!」
「分からねぇよ!お前が何考えてんのか」
「分かる必要はない。これから死ぬのに、知る必要はないんじゃないのかい」
そう言って、東は右手をキャプラに見せる。そして、
パチン
東は指を鳴らした。すると、なにもないところから突然、黒い帯のような紐状が空中から現れ、それはくねくねさせた後、空中に浮かぶ黒いナイフに変形した。
パチン
再び指を鳴らした東は、目の前に浮かぶナイフをキャプラに向かって飛ばした。
カキーン!
キャプラの目の前でナイフは空中で何かに当たったかのように跳ね返った。
「シールドですか。しかし、それは少女にしか持てないはずの能力なはずですが」
「それはこっちのセリフだ。俺は技術班が最近開発した、少女の能力を一時期、こっちの小さな機械に保存して、ボタンを押すと発動する、道具に頼った結果で、何とか使えてる状況だ」
「人間は道具に頼ることで進化した生き物。物に依存する生き物らしい人間の姿だと思いますが」
「そう言うお前は人間じゃないのかよ」
「残念ながら、私は機械に頼らず能力を発動しているので、時間で保存していた能力が消える機械は必要ないんですよ」
「チッ、嫌な奴だ。黒の少女に色を貰ったのか」
「えぇ。しかし本来、能力は何故か少女にしか扱えません。男である私が能力を使うと、脳に負担がかかり、使いすぎると後遺症が残ります」
「なら、機械の方がいいなぁ。機械が永遠に保存出来ない理由は今ので理解した。なら、後遺症が残る前にこんなことやめるんだ」
「僕も死ぬんですよ。ですから、後遺症が残ることにあまり気にしてはいません」
「東・・・・」
「そんな顔をされたらやりにくじゃないですか。僕を止めるんでしょ?本気でこなきゃ、こっちはさっさと殺しにいかせて貰います。
私もかつての仲間を殺すのに気がひけるんです。だから、覚悟を決めたのなら、抵抗しないで頂けると助かります。そしたら楽に殺してあげます。仲間が苦しんで死ぬのは辛いので」
「仲間が死ぬぶんにはいいのかよ」
「はい、構いません」
「ますます東がどんな奴だったか分かんねぇよ。だが、さくらをやったお前を許す俺だと思ったか?」
「思いませんね、残念ですが」
「なら、歯をくいしばって大人しく俺に殴られろ!」
キャプラは、かたくつくられた拳を東の顔面に向かって、殴りかかった。
しかし、東は抵抗する様子を見せずに、大人しく殴られた。その光景に、殴った本人は驚く。その瞬間、キャプラの右手が吹き飛んだ。
自分の右手が吹き飛んだことに、目を大きくして自分の右手をじっと見た。その時、東はキャプラが目をそらし、自分の右手に目をやっている瞬間に、東の右手がキャプラの顔を覆い、そしてーーーー
真っ赤。真っ赤な血しぶきが空をまった。
+ + +
時は30XX年。この世界にはかつてトリニティによって滅ぼされかけた時代に、世界構築の少女の手によって守られた。それからかなりの年月がたった現代に、この世界で生まれた女の子は能力を持った状態で生まれるようになった。一説では、世界構築の少女から能力を別けてもらっているとされるが、能力を手にできるのは女の子のみとなっており、男に生まれた場合は能力を手にすることが出来なかった。故に、女尊男貧の世界がうまれた。これは、大きな社会問題となり、異性に差をつける形となった。
力を持った能力持ちの女性は、能力を持たない男に力をふるった。このことにより、社会に差をつけられた男性達は科学と技術を持って抵抗したのだ。反勢力は増大し、せっかくの平和は再び失われようとしていた。
戦争に発展しそうになった状況に、政府は女性に許可なく能力の使用をすることを禁じた。常に、リアルタイムで監視をおこない、能力の行使を見られた場合は、子供であろうと無期限の刑務所暮らしが待っている。また、能力行使の犯罪の場合は、普通の刑務所と違い、死んだ方がマシと思うような監獄生活である。許可なく能力を行使できる場合は二つのみで、トリニティの接触、正当防衛のみである。
こんな厳しい規則をもうけたが、男性の反勢力はおさまらなかった。政府は苦渋の選択で仕方がなく、男性には自衛のみで、武器の所持が許可された。
互いに力を見せつけ合うような社会には、色々と影響を与えた。その一つが学校である。昔は共学が多かったが、今は男子女子と学校が別れている。
そんな社会に、真紀と山吹は溶け込み、学校生活を送っていた。
学校の体育館。
全校生徒が集まる中、前のステージで各企業が求人募集の宣伝をしていた。
「わが社は、企画を作成し、お客様の前でプレゼンをおこなった上で、ご納得頂いた企画をお売ります。
入社した新入社員は、最初は事務作業から雑用をおこないますが、3か月後に企画作成とプレゼンの見学をおこなった上で、実際に決まった企画のチームに加わり作業をおこないます。チームは、企画発案者がリーダーとなり、企画進行をおこないます。
無事に企画を終えたら、次の企画案を各社員が作成し、自社のプレゼン会で発表。その発表から選ばれた者は、リーダーとなり、チームを引っ張ります。チームメンバーはリーダーの指名とわが社の指名により決定されます。最初の企画を終えた新入社員は、今度は自分で企画案を実際に作成し、プレゼンをおこなって貰います。
企画案を作成した者は、お客様にその名をお伝えし個人客を作ることを、わが社は許可しております。企画案を、わが社のプレゼン会で発表をしなくても、逆にお客様からの指名による依頼はプレゼン会を通さなくても、企画を通すことができます。こうして、名を広め、いずれ自分の事務所立ち上げのかけあしにされる方もおります。
その際に、わが社は事務所立ち上げを歓迎し、投資をおこないます。事務所立ち上げには資金が必要となります。わが社は自社の社員が卒業して事務所を立ち上げる際に、お手伝いもおこなっております。その代わり、わが社の系列というかたちで投資をおこないます。と言っても、株主がわが社になるという以外は、特に誓約はおこないません。
わが社こうして、社名を広げ、社会に根をはり、大きくなったと言うわけです」
その後も続く演説に、真紀は手を当ててあくびをする。
「真紀ちゃん、あくびはまずいよ。見つかったら先生に怒られるよ」
「大丈夫だよ、ふきちゃん。全校生徒がいるなかで、私があくびしているところを目撃される可能性は低いから」
そう言って、2度目のあくびをする。
「真紀ちゃんは卒業したら、進学するの?」
「そうだね。大学にいくと思う。ふきちゃんは?」
「私も進学かな」
「だよね~。働きたくないし」
「そういう理由じゃないんだけどなぁ・・・・」
「まぁ、勉強もあまりしたくないんだけどね」
「あはは・・・・、真紀ちゃんは何かやりたいこととかないの?」
「ニートかな」
「それはどうかと思うよ」
「てへ☆」
その後も、長い全校集会は続いた。
+ + +
その頃、東京では常に人が混みあうなか、更に人だかりができていた。それにまじるように報道カメラも紛れていた。
「ご覧ください!平日だというのにこの人数。実は本日から3日間、東京全体でアニフェスが開かれているのです。これは、海外の旅行客が減少している今、都知事は日本の文化とも言われているアニメを、大々的におこなおうと企画したものです。
ではさっそく、インタビューをしていきたいと思います。あ、そこの君。東京にはどのような理由で来られましたか?」
「今日からアニフェスがやるって聞いて来ました!」
「凄いコスプレですね」
「はい。徹夜して作りました」
「えっ?この衣装手作りですか」
「はい」
「いや、凄いクオリティーですね。今日は休み何ですか?」
「いえ、大学生なんですけど、学校休んで来ました」
「あらあら、勉強も頑張ってくださいね」
「はい」
「以上、東京渋谷からでした」
場所変わって
【東京・秋葉原】
日本の人口が集中的に集まる東京の秋葉原。
男が魔法少女の格好をしたり、女が男の格好したりと、おかしな風景の街並み上空に、突如として亀裂が走った。
「な、何だアレ!?」
「も、もしかして『空のない世界』!?でも、どうして・・・・」
パラパラ・・・・
亀裂から、割れた鏡の欠片がパラパラと落ちてきた。その亀裂から、黒い霧があらわれる。その霧から色ありの少女があらわれた。
ブゥゥーーーーーン
警報音が突然、鳴り響いた。色ありの少女が現れた際に鳴る警報音である。その警報に、皆は一斉に走りだしこの場を離れようとした。
しかし、人が密集している中でうまく逃げ切れず、中には人を押しどけても逃げようとする者もいた。
「人間とは滑稽だな。同じ人間同士押し退けて、自分だけは助かろうとする、醜い生き物だクマ。そんな奴等はこのボクであるクマランが倒してやるクマ」
パペットのクマを右手にしている、黒色のクマのキグルミを着た色ありの少女が、紺色の目を輝せながら、下にいる人間を見下した。
「さぁ、やっちゃうか!」
クマランがパペットを天にかざした時、クマのパペットの赤い目が光った。するとパペットのクマは、徐々に大きくなり巨大な大熊になった。
「グオォォーーーー!!」
大熊は、暴れながらあちこちにある建物、車を破壊しながら、人間を駆逐していった。
「ぎゃあぁーーーー」
噛み砕かれ血しぶきをあげ、倒れていく。
+ + +
「長かったね」
「うん」
「私、トイレ行くけどふきちゃんはどうする?」
「あ、私も行こうと思っていたの」
「じゃあ、つれしょんだね」
「・・・真紀ちゃん、それは女子が使う言葉じゃないよ」
「てへ☆×2」
「まぁ、今回の全校集会は長かったからね」
「私なんて、あくびを30回もしちゃったよ」
「あくびし過ぎだよ。それに途中、寝ていたよね。寝息が聞こえたよ」
「えっ?私、寝てた?」
「本人が気づいてないとか重症だと思うよ」
「にやっ」
笑って誤魔化す真紀に、山吹は頭をかかえた。その時、
ブゥゥーーーーン
警報音が突然、鳴り響いた。
「な、何事!?」
全校集会を終えた生徒達は警報音に騒ぎ始めた。
「色ありの少女!」
真紀は真剣な顔をして言った。
「多分、近くよ」
すると、どこからか生徒が叫び出した。
「おい、外を見ろ」
その声に全員が窓の先を見た。そこには空に浮かぶ人影の姿があった。
「東様!?」
東は、自分が設立した学校を眺め、そして口を開いた。
「よく、あの青の少女から見事生き残った!僕は君らを誇りに思う。かつての僕らでは、紫、ピンク、赤、白を倒してきたが、あの青の少女には恐らく勝つことは出来なかっただろう。だからこそ僕は、君らを脅威と認識せざるおえなかった」
「先生は何を言ってるの?」
「私達が脅威?」
「僕は、あの青の少女からさらわれ、黒の少女と出会った」
その言葉に、皆はざわめいた。しかし、東は気にせず続けた。
「僕は、黒の少女と出会い、世界の輪回転を知った。パラドックスピースからこぼれ落ちる危機に、僕は黒の少女と協力することを決めた」
「嘘っ!?」
「おい、先生が・・・英雄が敵の見方をするって言うの!?どうしてよ」
「僕は、さっき君らを脅威と言った。それは、君らが世界を滅ぼそうとする黒の少女の邪魔となるからだ。輪回転には期限があまり残されていない。故に、僕は君らを殺す」
「!」
皆、言葉を失った。先程までのざわつきが嘘みたいに静かになった。
+ + +
【新・東京ビッグサイト】
上空に黒い渦を作りながら、黒のゴスロリを着こなし、黒い日傘をさす少女がいた。
「あちこち、大変ね。まぁ、こっちはやることを進めなきゃ。
そろそろよ、この世界を滅ぼせるのは」
少女はひそかに笑った。
+ + +
「どういうことですか、東先生」
東の殺害予告に戸惑う皆は、何も出来ないでいた。しかし、東は戸惑う学生に容赦なく殺害予告を実行にうつした。
パチン
東が指を鳴らすと、突然空中に黒い帯状の影が出現し、黒い帯からナイフを形成した。
パチン
再び指を鳴らすと、勢いよくとんだ無数の黒いナイフはとある女子学生の頭に突き刺さり、他の何人かは胸、首を刺され、一瞬にして絶命した。
何が起きたのか分からなかった。ただ、クラスの友達が
グサッ
また再び、もう一人、また一人と倒れていく。
「きゃあぁーーーーうっ!」
また一人
「いやぁーーーーがはっ!」
また一人
「先生、やめてくれ。冗談でしょ。何でこんなことすー」
また一人
「今すぐ逃げるんだ。早く学校地下のシェルターへ!さぁ、早く」
その生徒会の指示に皆は涙を流し、倒れている友達を置いて、地下シェルターへと向かった。
「逃がしませんよ」
逃げる生徒に、追いかけようとする東だったが、突然の殺気に足を止めた。その殺気のする方角には
「真紀さん・・・・」
「私はもう先生とも呼ばないし、英雄だとも思っていない。私はあなたを敵だとしか思っていない」
「やはり、一番の難敵はあなたですか」
東は指を鳴らし、再び黒いナイフを出す。そして、今度は真紀に向かってナイフの先を飛ばした。
ナイフは真紀に向かって飛んできたが、その目の前で水圧によって速度を失い、真紀に届かず落ちた。
「 破壊の蛇マサライ 」
水の蛇があらわれ、東を襲った。しかし、その直前で
「 邪神・マサライ 」
東は、黒い帯状の影を巨大な蛇に姿を変えさせた。まさに黒い蛇。
蛇と蛇がぶつかり、その衝撃波は全校舎の窓ガラスを割った。
「くっ!」
「まさか、ここまでとは。やはり、真紀さんの成長は著しいですね」
東と真紀の戦いはほぼ互角だった。山吹はその戦いを遠くで見守っていた。
+ + +
【東京・秋葉原】
「クマァ~、あらかた片付けたかな?」
秋葉原を赤く染めた場所に、クマランと巨大ベアしかいなかった。
静まりかえる街に、ベアは人肉を咀嚼していた。クマランはそんなベアの頭を撫でていると、着信音が聞こえてきた。
「はい、こちらクマラン&ベアだクマ」
「私の名前は言わなくても理解してるわよね。クマラン、ベアと一緒に東と合流しなさい。彼はとある学校にいるらしいから」
「了解だクマ。さぁ行くぞ、ベア」
「グオォォーーーー!!」
+ + +
「中々やりますね、真紀さん」
「いや、これで最後だよ」
「?」
「 凍てつけ、大いなる暗黒 」
(マハーカーラー・シヴァ)
黒い帯状の影が一瞬にして凍った。東は、手を動かそうとしたが、自身の手足も凍っているのに気づいた。
「うっ・・・・」
「降参する気はありますか?」
「いや、ない。勝ち目が私には最早無いことぐらいは分かる。しかし、生徒を殺しておいて助かろうとなんて思ったりしてません」
「死んで償おうとしないでください。ちゃんと刑務所で罪を償ってください。そして、反省してください。悔いてください。でなきゃ、殺された生徒は報われません」
「はは、私はあなたより子供だったのかもしれませんね」
と、東が負けを認めた瞬間、正門玄関から
ドドドッと、デカイ熊とその上に乗る少女があらわれた。
「あらら、もうやられてるクマ。もう少しは使えるかもって思っていたのに」
「グルルル・・・・」
「ベア、もしかしてもうお腹すいたの?さっき沢山食べたのに。まぁ、いっか。ベア、目の前にいる少女と、使えない奴も一緒にやっちゃおう!」
「グオォォーーーー!!」
プルルルル。
「あっ、ちょっと待ってベア。黒の少女からだクマ」
ピッ
「もしもし、こちらクマラン&ベアだクマ」
「こちらは準備ができましたわ。もうさがってもよろしいですよ」
「いや、目の前に獲物がいるから、倒してから行くよ。それと、東ならやられてたから食っちゃうね」
「あらあら、東さんがやられましたか。人間も少しはやるということですね。まぁ、それが分かっただけでも、私は大満足ですよ。
では、クマラン。あとのことは任しましたよ」
「了解だクマ」
ピッ
通信を終え、クマランとベアは再び獲物に目をやる。
「お待たせだクマ。先に元気なお前からいってやる」
「グオォォーー」
二人は真紀を最初の獲物として選んだ。真紀は巨大な熊と、色ありの少女相手にぶがわるいと感じたのか舌打ちをする。
「熊相手なら、この手しかないけど、やるしかない!」
真紀は集中し、自身の体の周りに赤いオーラを放つ。そして、大声で叫ぶ。
「 変心と変身の偉業・炎神 」
突然の爆風。真紀がいたその場所には炎の渦ができていた。
「グオォォーーーー」
その炎の渦から姿を表したのは真紀ではなく、巨大な赤い鱗を持つドラゴンだった。それは、ドラゴンvs大熊だった。
+ + +
【新・東京ビッグサイト】
「さぁ、世界の滅びの瞬間が今始まる。さぁ人間よ、よく見るがいい」
「 滅びの始まり・災悪の穴 」
『空のない世界』
東京上空にあった亀裂は、遂に風穴をあけ、『空のない世界』を出現させた。
「アハハハハ、これで世界は滅びるだけ!」
その時、別上空から響くような声が聞こえた。
「そうはいかせません」
高い声と共に、虹色にかがやく光が東京都全土を覆った。
「世界構築の少女!遂にあらわれたか。流石の事態に今まで姿を消していたお前があらわれるなんて、相当切羽詰まっているようだな」
「この場合、姿をあらわすのは必然かと」
「私はお前をずっと探していたぞ。世界の滅びの邪魔が入るとしたらお前が一番厄介だからな。しかし、結局『空のない世界』出現までお前は姿をあらわさなかったな」
「それはお互いさまでしょう。トリニティの王・黒の少女、滅びの能力を持つ者よ」
「再生の能力を持つ世界構築の少女よ」
「「さぁ、決着をつけましょう!!」」
黒の少女は黒い霧を出現させ、そこからか無数の鎧をまとった骸骨兵があらわれた。世界構築の少女は、それに対抗するかのように、虹色の光から全身甲冑の兵が無数にあらわれ、兵と兵がぶつかった。まさに、戦争だった。
世界構築の少女は光を集結させ、そこからレーザー砲を放つ。同じく黒の少女も、黒と赤の入り交じった光線を放つ。
ドキューン!
互いのレーザー砲がぶつかり合い、爆風を放つ。そのすざましい威力で街を一瞬にして半壊させる。しかし、両者の攻撃の手はやめなかった。
「アハハハハ、さぁ躍り狂いなさい」
黒の少女は、自身の影を操作して、影を広め、そこからさらってきた人間を影の中から出現させた。まだ、人間は生きているが思うように動けないでいた。
黒の少女は自身の指を使い、操り人形と
大都市のビル頂上、赤いランプが光る中、その屋上にはキャプラと血を流すさくらが倒れこんでいた。そして、キャプラが睨む先には黒一色の服を着こんだ東がいた。
「答えろ、東」
夜の暗闇に、風がふぶいた。東は少し合間をあけて答えた。
「僕はこの世界を知ってしまったんだ。世界構築の少女と出会い、トリニティの王・黒の少女と出会った僕は世界の輪回転(りんかいてん)の原理を知ったんだ。輪廻転生の世界バージョンの新しい理念思考。これが事実なら、この世界を滅ぼそうとする黒の少女の存在意義が確立する。世界構築の少女と対等である黒の少女は、世界を一定期に破壊し滅ぼし、世界構築の少女は世界を新たに構築し、誕生させる。同じ世界が一定期を越えて存在することは、輪回転の稼働領域を逸脱し、バラドックスピースからこぼれ落ち、この世界は孤立する。孤立した世界は次元を失い、また新たに世界を構築することが不可能となる。
世界を滅ぼさなくても、この世界は存在できなくなる。だが、新たに世界を生み出すというなら、世界を新たに構築する為、自ら世界を滅ぼしリセットする必要がある。この世界は、輪回転の稼働領域の一定期間が残り僅かなんだ。だから、僕は黒の少女につくことにした。
世界構築の少女は、バラドックスピースから孤立しても、世界が滅びず存在し続ける可能性を訴えている。輪回転は不必要な行為だと言うが僕はそうは思わない。しかし、世界構築の少女は、この世界を新たに作った時、初めて人類というものが生まれた際に、人類には輪廻転生の対象にならないことを知ったんだ。消費した人類の魂(エネルギー)は、この世界に残り続けたんだ。だから、世界規模の輪廻転生はなくても、世界は存在し続けることができるのではと言う考えにいたったのだ。
しかし、僕はトリニティの色ありの少女にさらわれ、黒の少女に出会った時に言われたんだ。人類が輪廻転生の対象にならないのは、世界と言う大規模な器が魂(エネルギー)をこの世界にとどめておくことができたからだと言った。もし、人類に輪廻転生がおこなわれていたとしたら、この世界から一度は魂が消失し、この世界から一旦消えたことになる。それは結局輪廻転生とは別の意味になるだろう。例えばAの魂が輪廻転生し消失した場合、消失後に再び世界に転生した際の魂はaとなる。Aはaとは結ばれない。何故ならAという情報を保持する世界の器から消失したのだから、元になる情報がないなかで同じAを転生することは出来ない。世界から消失した魂は同じくパラドックスピースからも消失し、二度とAという魂が生まれてくることはない。つまりaは、新たに生まれたAと同じく似た魂であるが、似ただけでかつていたAにはならずaとなる。故にAはaに結ばれない。
因みに、魂をエネルギーとして見た時、エネルギーの性質をAとした場合なので、Aが転生できても、外見がかつてのAの持ち主と同じではない。時代も家庭も違うなら、Aという魂は新しい環境の中で新しい情報をAに書き加えていく。つまり、Aは最後を迎える時はAではなくBになっている可能性がある。性質は周りの影響で変化する為、結局Aという魂が世界に存在し続けることは不可能であり、それを可能にするには転生しないこと、変わらないことである。故に魂は世界から消失せず、また世界から生まれたものはその世界から消失せず、別のものへと変換される。この時に生まれるエネルギーを我々人間はエントロピーと名付けたわけだ。
ワールド・パラドックスのバランスに、世界の滅びが必然なんだ。だから、僕は世界構築の少女にはつかず、黒の少女につくことに決めた。」
キャプラは、東の長話しに溜め息をついた。
「俺はそんな話を聞きたくて質問した訳じゃない。俺は何でさくらをやったのかを聞いているんだ!」
「僕は世界を滅ぼすと言ったんだ。君らは絶対に邪魔をしてくる。輪回転の期間は刻一刻をせまっている。時間が無いんだ。邪魔をされている暇はない」
「邪魔とかいうなよ・・・・」
「君らは世界がどうのと話しをして、じゃあ死んでくださいと言って素直に聞くのかい?話し合いは無用だろ?」
「くっ・・・・」
「僕は自分が間違っているとは思っていない。そして、君らも間違ってはいないと思う。ただ、意見の違いだ。だからと言って、仲間だから互いに妥協して話し合うつもりはない。さっきも言ったが、これは必然だ。ここで、殺しあいが始まったとしてもそれは必然なんだ」
「お前は、仲間が死んでも必然だとか言うのか」
「言わない。僕は、多分すまなかったと言うだろう」
キャプラは拳をつくる。
「謝るなら、最初っからやるなよ」
「そうはいかないと、さっきから言ってるだろ!」
「分からねぇよ!お前が何考えてんのか」
「分かる必要はない。これから死ぬのに、知る必要はないんじゃないのかい」
そう言って、東は右手をキャプラに見せる。そして、
パチン
東は指を鳴らした。すると、なにもないところから突然、黒い帯のような紐状が空中から現れ、それはくねくねさせた後、空中に浮かぶ黒いナイフに変形した。
パチン
再び指を鳴らした東は、目の前に浮かぶナイフをキャプラに向かって飛ばした。
カキーン!
キャプラの目の前でナイフは空中で何かに当たったかのように跳ね返った。
「シールドですか。しかし、それは少女にしか持てないはずの能力なはずですが」
「それはこっちのセリフだ。俺は技術班が最近開発した、少女の能力を一時期、こっちの小さな機械に保存して、ボタンを押すと発動する、道具に頼った結果で、何とか使えてる状況だ」
「人間は道具に頼ることで進化した生き物。物に依存する生き物らしい人間の姿だと思いますが」
「そう言うお前は人間じゃないのかよ」
「残念ながら、私は機械に頼らず能力を発動しているので、時間で保存していた能力が消える機械は必要ないんですよ」
「チッ、嫌な奴だ。黒の少女に色を貰ったのか」
「えぇ。しかし本来、能力は何故か少女にしか扱えません。男である私が能力を使うと、脳に負担がかかり、使いすぎると後遺症が残ります」
「なら、機械の方がいいなぁ。機械が永遠に保存出来ない理由は今ので理解した。なら、後遺症が残る前にこんなことやめるんだ」
「僕も死ぬんですよ。ですから、後遺症が残ることにあまり気にしてはいません」
「東・・・・」
「そんな顔をされたらやりにくじゃないですか。僕を止めるんでしょ?本気でこなきゃ、こっちはさっさと殺しにいかせて貰います。
私もかつての仲間を殺すのに気がひけるんです。だから、覚悟を決めたのなら、抵抗しないで頂けると助かります。そしたら楽に殺してあげます。仲間が苦しんで死ぬのは辛いので」
「仲間が死ぬぶんにはいいのかよ」
「はい、構いません」
「ますます東がどんな奴だったか分かんねぇよ。だが、さくらをやったお前を許す俺だと思ったか?」
「思いませんね、残念ですが」
「なら、歯をくいしばって大人しく俺に殴られろ!」
キャプラは、かたくつくられた拳を東の顔面に向かって、殴りかかった。
しかし、東は抵抗する様子を見せずに、大人しく殴られた。その光景に、殴った本人は驚く。その瞬間、キャプラの右手が吹き飛んだ。
自分の右手が吹き飛んだことに、目を大きくして自分の右手をじっと見た。その時、東はキャプラが目をそらし、自分の右手に目をやっている瞬間に、東の右手がキャプラの顔を覆い、そしてーーーー
真っ赤。真っ赤な血しぶきが空をまった。
+ + +
時は30XX年。この世界にはかつてトリニティによって滅ぼされかけた時代に、世界構築の少女の手によって守られた。それからかなりの年月がたった現代に、この世界で生まれた女の子は能力を持った状態で生まれるようになった。一説では、世界構築の少女から能力を別けてもらっているとされるが、能力を手にできるのは女の子のみとなっており、男に生まれた場合は能力を手にすることが出来なかった。故に、女尊男貧の世界がうまれた。これは、大きな社会問題となり、異性に差をつける形となった。
力を持った能力持ちの女性は、能力を持たない男に力をふるった。このことにより、社会に差をつけられた男性達は科学と技術を持って抵抗したのだ。反勢力は増大し、せっかくの平和は再び失われようとしていた。
戦争に発展しそうになった状況に、政府は女性に許可なく能力の使用をすることを禁じた。常に、リアルタイムで監視をおこない、能力の行使を見られた場合は、子供であろうと無期限の刑務所暮らしが待っている。また、能力行使の犯罪の場合は、普通の刑務所と違い、死んだ方がマシと思うような監獄生活である。許可なく能力を行使できる場合は二つのみで、トリニティの接触、正当防衛のみである。
こんな厳しい規則をもうけたが、男性の反勢力はおさまらなかった。政府は苦渋の選択で仕方がなく、男性には自衛のみで、武器の所持が許可された。
互いに力を見せつけ合うような社会には、色々と影響を与えた。その一つが学校である。昔は共学が多かったが、今は男子女子と学校が別れている。
そんな社会に、真紀と山吹は溶け込み、学校生活を送っていた。
学校の体育館。
全校生徒が集まる中、前のステージで各企業が求人募集の宣伝をしていた。
「わが社は、企画を作成し、お客様の前でプレゼンをおこなった上で、ご納得頂いた企画をお売ります。
入社した新入社員は、最初は事務作業から雑用をおこないますが、3か月後に企画作成とプレゼンの見学をおこなった上で、実際に決まった企画のチームに加わり作業をおこないます。チームは、企画発案者がリーダーとなり、企画進行をおこないます。
無事に企画を終えたら、次の企画案を各社員が作成し、自社のプレゼン会で発表。その発表から選ばれた者は、リーダーとなり、チームを引っ張ります。チームメンバーはリーダーの指名とわが社の指名により決定されます。最初の企画を終えた新入社員は、今度は自分で企画案を実際に作成し、プレゼンをおこなって貰います。
企画案を作成した者は、お客様にその名をお伝えし個人客を作ることを、わが社は許可しております。企画案を、わが社のプレゼン会で発表をしなくても、逆にお客様からの指名による依頼はプレゼン会を通さなくても、企画を通すことができます。こうして、名を広め、いずれ自分の事務所立ち上げのかけあしにされる方もおります。
その際に、わが社は事務所立ち上げを歓迎し、投資をおこないます。事務所立ち上げには資金が必要となります。わが社は自社の社員が卒業して事務所を立ち上げる際に、お手伝いもおこなっております。その代わり、わが社の系列というかたちで投資をおこないます。と言っても、株主がわが社になるという以外は、特に誓約はおこないません。
わが社こうして、社名を広げ、社会に根をはり、大きくなったと言うわけです」
その後も続く演説に、真紀は手を当ててあくびをする。
「真紀ちゃん、あくびはまずいよ。見つかったら先生に怒られるよ」
「大丈夫だよ、ふきちゃん。全校生徒がいるなかで、私があくびしているところを目撃される可能性は低いから」
そう言って、2度目のあくびをする。
「真紀ちゃんは卒業したら、進学するの?」
「そうだね。大学にいくと思う。ふきちゃんは?」
「私も進学かな」
「だよね~。働きたくないし」
「そういう理由じゃないんだけどなぁ・・・・」
「まぁ、勉強もあまりしたくないんだけどね」
「あはは・・・・、真紀ちゃんは何かやりたいこととかないの?」
「ニートかな」
「それはどうかと思うよ」
「てへ☆」
その後も、長い全校集会は続いた。
+ + +
その頃、東京では常に人が混みあうなか、更に人だかりができていた。それにまじるように報道カメラも紛れていた。
「ご覧ください!平日だというのにこの人数。実は本日から3日間、東京全体でアニフェスが開かれているのです。これは、海外の旅行客が減少している今、都知事は日本の文化とも言われているアニメを、大々的におこなおうと企画したものです。
ではさっそく、インタビューをしていきたいと思います。あ、そこの君。東京にはどのような理由で来られましたか?」
「今日からアニフェスがやるって聞いて来ました!」
「凄いコスプレですね」
「はい。徹夜して作りました」
「えっ?この衣装手作りですか」
「はい」
「いや、凄いクオリティーですね。今日は休み何ですか?」
「いえ、大学生なんですけど、学校休んで来ました」
「あらあら、勉強も頑張ってくださいね」
「はい」
「以上、東京渋谷からでした」
場所変わって
【東京・秋葉原】
日本の人口が集中的に集まる東京の秋葉原。
男が魔法少女の格好をしたり、女が男の格好したりと、おかしな風景の街並み上空に、突如として亀裂が走った。
「な、何だアレ!?」
「も、もしかして『空のない世界』!?でも、どうして・・・・」
パラパラ・・・・
亀裂から、割れた鏡の欠片がパラパラと落ちてきた。その亀裂から、黒い霧があらわれる。その霧から色ありの少女があらわれた。
ブゥゥーーーーーン
警報音が突然、鳴り響いた。色ありの少女が現れた際に鳴る警報音である。その警報に、皆は一斉に走りだしこの場を離れようとした。
しかし、人が密集している中でうまく逃げ切れず、中には人を押しどけても逃げようとする者もいた。
「人間とは滑稽だな。同じ人間同士押し退けて、自分だけは助かろうとする、醜い生き物だクマ。そんな奴等はこのボクであるクマランが倒してやるクマ」
パペットのクマを右手にしている、黒色のクマのキグルミを着た色ありの少女が、紺色の目を輝せながら、下にいる人間を見下した。
「さぁ、やっちゃうか!」
クマランがパペットを天にかざした時、クマのパペットの赤い目が光った。するとパペットのクマは、徐々に大きくなり巨大な大熊になった。
「グオォォーーーー!!」
大熊は、暴れながらあちこちにある建物、車を破壊しながら、人間を駆逐していった。
「ぎゃあぁーーーー」
噛み砕かれ血しぶきをあげ、倒れていく。
+ + +
「長かったね」
「うん」
「私、トイレ行くけどふきちゃんはどうする?」
「あ、私も行こうと思っていたの」
「じゃあ、つれしょんだね」
「・・・真紀ちゃん、それは女子が使う言葉じゃないよ」
「てへ☆×2」
「まぁ、今回の全校集会は長かったからね」
「私なんて、あくびを30回もしちゃったよ」
「あくびし過ぎだよ。それに途中、寝ていたよね。寝息が聞こえたよ」
「えっ?私、寝てた?」
「本人が気づいてないとか重症だと思うよ」
「にやっ」
笑って誤魔化す真紀に、山吹は頭をかかえた。その時、
ブゥゥーーーーン
警報音が突然、鳴り響いた。
「な、何事!?」
全校集会を終えた生徒達は警報音に騒ぎ始めた。
「色ありの少女!」
真紀は真剣な顔をして言った。
「多分、近くよ」
すると、どこからか生徒が叫び出した。
「おい、外を見ろ」
その声に全員が窓の先を見た。そこには空に浮かぶ人影の姿があった。
「東様!?」
東は、自分が設立した学校を眺め、そして口を開いた。
「よく、あの青の少女から見事生き残った!僕は君らを誇りに思う。かつての僕らでは、紫、ピンク、赤、白を倒してきたが、あの青の少女には恐らく勝つことは出来なかっただろう。だからこそ僕は、君らを脅威と認識せざるおえなかった」
「先生は何を言ってるの?」
「私達が脅威?」
「僕は、あの青の少女からさらわれ、黒の少女と出会った」
その言葉に、皆はざわめいた。しかし、東は気にせず続けた。
「僕は、黒の少女と出会い、世界の輪回転を知った。パラドックスピースからこぼれ落ちる危機に、僕は黒の少女と協力することを決めた」
「嘘っ!?」
「おい、先生が・・・英雄が敵の見方をするって言うの!?どうしてよ」
「僕は、さっき君らを脅威と言った。それは、君らが世界を滅ぼそうとする黒の少女の邪魔となるからだ。輪回転には期限があまり残されていない。故に、僕は君らを殺す」
「!」
皆、言葉を失った。先程までのざわつきが嘘みたいに静かになった。
+ + +
【新・東京ビッグサイト】
上空に黒い渦を作りながら、黒のゴスロリを着こなし、黒い日傘をさす少女がいた。
「あちこち、大変ね。まぁ、こっちはやることを進めなきゃ。
そろそろよ、この世界を滅ぼせるのは」
少女はひそかに笑った。
+ + +
「どういうことですか、東先生」
東の殺害予告に戸惑う皆は、何も出来ないでいた。しかし、東は戸惑う学生に容赦なく殺害予告を実行にうつした。
パチン
東が指を鳴らすと、突然空中に黒い帯状の影が出現し、黒い帯からナイフを形成した。
パチン
再び指を鳴らすと、勢いよくとんだ無数の黒いナイフはとある女子学生の頭に突き刺さり、他の何人かは胸、首を刺され、一瞬にして絶命した。
何が起きたのか分からなかった。ただ、クラスの友達が
グサッ
また再び、もう一人、また一人と倒れていく。
「きゃあぁーーーーうっ!」
また一人
「いやぁーーーーがはっ!」
また一人
「先生、やめてくれ。冗談でしょ。何でこんなことすー」
また一人
「今すぐ逃げるんだ。早く学校地下のシェルターへ!さぁ、早く」
その生徒会の指示に皆は涙を流し、倒れている友達を置いて、地下シェルターへと向かった。
「逃がしませんよ」
逃げる生徒に、追いかけようとする東だったが、突然の殺気に足を止めた。その殺気のする方角には
「真紀さん・・・・」
「私はもう先生とも呼ばないし、英雄だとも思っていない。私はあなたを敵だとしか思っていない」
「やはり、一番の難敵はあなたですか」
東は指を鳴らし、再び黒いナイフを出す。そして、今度は真紀に向かってナイフの先を飛ばした。
ナイフは真紀に向かって飛んできたが、その目の前で水圧によって速度を失い、真紀に届かず落ちた。
「 破壊の蛇マサライ 」
水の蛇があらわれ、東を襲った。しかし、その直前で
「 邪神・マサライ 」
東は、黒い帯状の影を巨大な蛇に姿を変えさせた。まさに黒い蛇。
蛇と蛇がぶつかり、その衝撃波は全校舎の窓ガラスを割った。
「くっ!」
「まさか、ここまでとは。やはり、真紀さんの成長は著しいですね」
東と真紀の戦いはほぼ互角だった。山吹はその戦いを遠くで見守っていた。
+ + +
【東京・秋葉原】
「クマァ~、あらかた片付けたかな?」
秋葉原を赤く染めた場所に、クマランと巨大ベアしかいなかった。
静まりかえる街に、ベアは人肉を咀嚼していた。クマランはそんなベアの頭を撫でていると、着信音が聞こえてきた。
「はい、こちらクマラン&ベアだクマ」
「私の名前は言わなくても理解してるわよね。クマラン、ベアと一緒に東と合流しなさい。彼はとある学校にいるらしいから」
「了解だクマ。さぁ行くぞ、ベア」
「グオォォーーーー!!」
+ + +
「中々やりますね、真紀さん」
「いや、これで最後だよ」
「?」
「 凍てつけ、大いなる暗黒 」
(マハーカーラー・シヴァ)
黒い帯状の影が一瞬にして凍った。東は、手を動かそうとしたが、自身の手足も凍っているのに気づいた。
「うっ・・・・」
「降参する気はありますか?」
「いや、ない。勝ち目が私には最早無いことぐらいは分かる。しかし、生徒を殺しておいて助かろうとなんて思ったりしてません」
「死んで償おうとしないでください。ちゃんと刑務所で罪を償ってください。そして、反省してください。悔いてください。でなきゃ、殺された生徒は報われません」
「はは、私はあなたより子供だったのかもしれませんね」
と、東が負けを認めた瞬間、正門玄関から
ドドドッと、デカイ熊とその上に乗る少女があらわれた。
「あらら、もうやられてるクマ。もう少しは使えるかもって思っていたのに」
「グルルル・・・・」
「ベア、もしかしてもうお腹すいたの?さっき沢山食べたのに。まぁ、いっか。ベア、目の前にいる少女と、使えない奴も一緒にやっちゃおう!」
「グオォォーーーー!!」
プルルルル。
「あっ、ちょっと待ってベア。黒の少女からだクマ」
ピッ
「もしもし、こちらクマラン&ベアだクマ」
「こちらは準備ができましたわ。もうさがってもよろしいですよ」
「いや、目の前に獲物がいるから、倒してから行くよ。それと、東ならやられてたから食っちゃうね」
「あらあら、東さんがやられましたか。人間も少しはやるということですね。まぁ、それが分かっただけでも、私は大満足ですよ。
では、クマラン。あとのことは任しましたよ」
「了解だクマ」
ピッ
通信を終え、クマランとベアは再び獲物に目をやる。
「お待たせだクマ。先に元気なお前からいってやる」
「グオォォーー」
二人は真紀を最初の獲物として選んだ。真紀は巨大な熊と、色ありの少女相手にぶがわるいと感じたのか舌打ちをする。
「熊相手なら、この手しかないけど、やるしかない!」
真紀は集中し、自身の体の周りに赤いオーラを放つ。そして、大声で叫ぶ。
「 変心と変身の偉業・炎神 」
突然の爆風。真紀がいたその場所には炎の渦ができていた。
「グオォォーーーー」
その炎の渦から姿を表したのは真紀ではなく、巨大な赤い鱗を持つドラゴンだった。それは、ドラゴンvs大熊だった。
+ + +
【新・東京ビッグサイト】
「さぁ、世界の滅びの瞬間が今始まる。さぁ人間よ、よく見るがいい」
「 滅びの始まり・災悪の穴 」
『空のない世界』
東京上空にあった亀裂は、遂に風穴をあけ、『空のない世界』を出現させた。
「アハハハハ、これで世界は滅びるだけ!」
その時、別上空から響くような声が聞こえた。
「そうはいかせません」
高い声と共に、虹色にかがやく光が東京都全土を覆った。
「世界構築の少女!遂にあらわれたか。流石の事態に今まで姿を消していたお前があらわれるなんて、相当切羽詰まっているようだな」
「この場合、姿をあらわすのは必然かと」
「私はお前をずっと探していたぞ。世界の滅びの邪魔が入るとしたらお前が一番厄介だからな。しかし、結局『空のない世界』出現までお前は姿をあらわさなかったな」
「それはお互いさまでしょう。トリニティの王・黒の少女、滅びの能力を持つ者よ」
「再生の能力を持つ世界構築の少女よ」
「「さぁ、決着をつけましょう!!」」
黒の少女は黒い霧を出現させ、そこからか無数の鎧をまとった骸骨兵があらわれた。世界構築の少女は、それに対抗するかのように、虹色の光から全身甲冑の兵が無数にあらわれ、兵と兵がぶつかった。まさに、戦争だった。
世界構築の少女は光を集結させ、そこからレーザー砲を放つ。同じく黒の少女も、黒と赤の入り交じった光線を放つ。
ドキューン!
互いのレーザー砲がぶつかり合い、爆風を放つ。そのすざましい威力で街を一瞬にして半壊させる。しかし、両者の攻撃の手はやめなかった。
「アハハハハ、さぁ躍り狂いなさい」
黒の少女は、自身の影を操作して、影を広め、そこからさらってきた人間を影の中から出現させた。まだ、人間は生きているが思うように動けないでいた。
黒の少女は自身の指を使い、操り人形と
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