罪と勇者

神崎 詩乃

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第1章 初めから終焉

墓守、埋葬する

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「お前…。ぶっ殺す。」

 世闇が包んだ静寂の森で悠叶は大男相手に殺意を向けていた。悠叶の後ろには白髪で赤い瞳を持った少女が身を隠し、保護者であるはずのレイナは悠叶の変貌に目を疑っていた。
「へっガキが。冒険者でCランクの腕前があるこのカイロ様がてめぇみたいなけつの青いガキに負けっかよ。」
「勝つ?負ける?違うな。俺はお前を殺す。」
 悠叶は殺気を込めて鑑定眼を使用する。
【カイロ・ゲン
人族 42歳  Lv.40 職業 ・戦士Lv.16・拳闘士Lv.10拳術Lv.10・近接格闘Lv.4
生命力 5400/5400(+600)
魔力    1750/1900(-150)
・スキル
  ・拳術Lv.10
  ・筋力上昇Lv.8
  ・防御力上昇Lv.7
  ・体力上昇Lv.5
  ・身体強化Lv.4
  ・闘技 Lv.8
・固有スキル
  ・獅子の拳ライオンナックル

 カイロはご自慢のナックルを装備すると少し距離をとった。辺りはもう真っ暗で月明かりが両者を照らすのみである。
「シッ」
 初めに動いたのはカイロだった。こぶしを悠叶の顔面に向けて放つがすんでのところで不可視の壁に阻まれる。
「へぇ…。魔力を纏って肉体強化をしてるのか…。」
 戦闘中でも余裕をもって悠叶は魔力をイメージする。するとほんのりと体を温かい何かが覆い、力がみなぎってくるような気がしてきた。
【・魔力操作Lv.1・闘技Lv.1を獲得しました。】
「お?お前みたいなガキがいっちょ前にオーラなんて纏いやがって…。でもまだまだ未熟だな」
「…煩い。」
 悠叶がカイロに向かって手を振るとカイロの右腕が宙を舞った。悠叶が男の右腕の周りにあった空間を操作したのだが、この場にいる全員がそんなこと理解できなかった。
「え…。あぁ!俺の!俺の腕がぁぁ」
「うるせぇって言ってんだろ。」
 再度手を振り、今度は左腕を飛ばすとカイロは一層騒ぎ出した。
「あぁぁぁ俺の腕、俺の腕!」
 出血のせいで意識がもうろうとしているのかカイロはうわごとのように切断された腕を凝視し、涙を流す。
「おい、まだ終わってねぇぞ。」
「俺の腕ー!」
 自慢であった腕を失い、泣きわめく声が静かだった森に響き渡る。
 (空間を切り離すことはできたな…。じゃあ消すとどうなるんだ?)
 悠叶はさっそく実験と言わんばかりにカイロの腕のある空間を消してみる。
 すると、腕は空間ごと消え去り、地を抉った。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁオデのヴデがぁぁぁ」
 腕が消滅したことにより、心の支えを失ったのかカイロはさらに大声で騒ぎ立てる。
「…。黙れ。」
 ビクッ
 様子を見ていたレイナも怯えてしまうほどの濃密な怒気に晒され、カイロは白目をむいて失神する。
「おいおい、寝てんじゃねぇよ!」
 悠叶は強制的にカイロを目覚めさせると髪をつかんで顔を覗き込んだ。
「そろそろお別れだ…じゃあな。
 悠叶がカイロから手を放し、頭を一撫でするとカイロの頭部が最初からなかったように消え去り、血が噴水の様に噴き出す。そのすべてを自らを守る不可視の壁で防ぐと悠叶はレイナのほうを向いた。
【闘技Lv.1が闘技Lv.2になりました。結界術Lv.1を獲得しました。個体名:カガヤユウトはLv4になりました。】

 脳内でそんな声が響き渡りつつ悠叶は穴を掘る。
「土魔法を使ったほうが絶対楽だよ」
「土魔法?」
 レイナに促され夜も更けているにも関わらず魔法講義が始まる。
「まず初めに、魔法というのはこの世の理に干渉して現象を発生させる学問なの。」
「ほうほう。」
「それで、墓守に必須になるのが第1位階の土魔法『ピット』。試しにやってみるよ?」
「集え精霊。大地は我らの最後のゆりかご。開口せよ『ピット』!」

 レイナの手の周りに緑色の風が見えたかと思えばボコッという音とともに縦4m、幅2m程の穴が完成する。
【・土魔法Lv.1。固有スキル・精霊視を獲得しました】
「コツは魔力の量をコントロールすることかな?あまり大きすぎると自分が出てこれなくなったりするから。」
「『ピット』」
 悠叶は脳内で詠唱を行い、呪文名をつぶやいたのだが、魔力操作で絶妙に操作された魔法はカイロを埋めるのに十分な大きさだった。
「無詠唱!?」
「?どうしたんだレイナ?」
「えっあぁいや、あとは遺体を聖魔法で埋めて埋葬完了だよ」
「聖魔法?」
「死した穢れ無き魂よ汝を肉の枷から解放する『魂の開放リリース・ソウル』」
【聖魔法Lv.1を獲得しました】
「えっと…こうか?『魂の開放リリース・ソウル』」
 腕も顔もなく、いまだに血の海に浮かぶ肉の塊に何の変化もなかったがこれでアンデットにならずに済むらしい。

「…あ…。」
「ん?」

  白髪の少女は自らに差し迫っていた脅威が排除されたと理解出来たのか悠叶に頭を下げた。
「それで?悠叶、この子どうするのかな?」
 レイナは意地悪そうな笑顔を悠叶に向けて悠叶に迫っていく。
「んー連れていくしかないんじゃないのか?とりあえず。」
「街で何があってもこの子は悠叶が守るんだからね?」
「それは街の人間を殺せって事か?」
「いや、そこまでは言ってないよ!」
「まぁ…なんだ…宜しくな…えーと?」
「……。」

 首につけられた首輪を外しても少女は一向に話すことは無かった。
「もしかして…話せないんじゃない?」
 レイナがそう言うと少女は首をかしげた。
【・念話を獲得しました】
「ん?念話?」
『これでいいのか?』
 念話の使い方はよく分からないが頭の中で想像した言葉がそのまま少女に向かっていく。
『…うん、あなたも使えたの?』
『今出来るようになった。それでお前…あー名前は?』
『シャルロット・マーキュリー』
『…シャルロット、お前は今後どうしたい?俺らと一緒に来たいのか?』
『無論。貴方と一緒ならそれが1番いい。』
「え?ちょっとお姉さんどうしたらいいの?この空気!」
 突然無言になってお互いの目を見つめ合っている二人の脇でレイナはキョロキョロと周りを見渡していた。
『わかった。それじゃあ今日はもう遅いし寝るぞ』
『了解』
 最後にコクリと頷くとシャルロットは悠叶の近くに倒れるように寝てしまった。
「え?え?え?」
「騒がないでくれるか?今寝たとこみたいだから。」
「え、何で悠叶達会話できてたの?」
「念話だよ」
「え!?2人とも念話使えるの!?」
「あぁ、まぁな。とりあえず、もう遅い。明日の朝イチから行動するためにもさっさと寝るぞ?」
「えー…まぁいいや。不寝番は?」
「眠くなったら俺が起こす。」
「わかった。遠慮しなくて…良いからね?」
「分かった分かった。」
 悠叶は先程獲得した結界術で周りを覆うとさっさと眠りに落ちていった。
 チラリと膝の上で眠る少女を見ると可愛い寝息が聞こえてきた。
 その顔を見ていると悠叶は少女の眉間に小さな角のようなものを見つけ、慌てて鑑定眼を発動する。
【シャルロット・マーキュリー(奴隷)
狼鬼族 12 歳 Lv.3 
生命力 2800/2800
魔力    600/600
・スキル
 ・幻惑術Lv.3
 ・怪力 Lv.3
 ・暗殺術Lv.2
 ・身体強化Lv.3
 ・念話
・固有スキル
  ・影操作
  ・一時狂化】

 (狼鬼族!?何だそれ!?)

 まさかこの出会いが全ての元凶になるとは夢にも思わかったであろう…。
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