罪と勇者

神崎 詩乃

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第1章 初めから終焉

墓守、冒険者になる

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 衛兵クラウド・レイラスの朝は早い。
 日が昇る前には最愛の寝床から這い出し窓際でコーヒーを飲みながら新聞を読む。
 新聞には特にめぼしい情報はなく。今日も平和だと愛犬ジョンの頭を撫でていた。
「ようクラウド。今日も街は平和だな~。」
「よう、ウラド。こんなに早くどうしたんだ?」
「いやぁ昨日からカイロのやつを見てなくてな~見かけたら宿の女将がカンカンだって伝えておいてくれ。何でも奴隷を連れて街の外に行ったらしいんだがまだ帰ってこねぇんだ。」
「そうか、わかった巡回の時見かけたらちゃんと伝えておくよ。」
「おう、頼んだぜ。俺は門が開いたら外でも探してみるからよ。」
「おいおい、気をつけろよ?最近街道沿いで盗賊が出るって噂だからな。命あっての物種何だろ?」
「ハッ衛兵さんが頑張って捕まえてくれりゃ安心して街道を歩けるんだけどなッ」
「おいおい…そりゃ口が過ぎるってやつだぜ?」
「そりゃ悪い事をしたな。まぁ、さっきの件よろしく頼んだぜ~」


 朝、悠叶は静かにストレッチを開始する。その後は能力を確認し今後の行動方針を暫定的に決めようとしていた。
 
「で…」
『あぁ、シャルか無理に喋らんでいいぞ。』
『気づいていたの?』
『まぁ、な』
『ふうん。』
 シャルロットは悠叶にシャルと呼ばれた事に少し頬紅潮させたが直ぐに平静を取り戻すと空を見上げた。
『綺麗…』
東の空には日が昇り、辺りを夜闇から解放していく。その光の指す場所には真新しい何かが埋められた跡があり、そこには花が一輪添えられていた。
「さてと、飯にすっか」
『ご飯!?』
 景色に見蕩れていたシャルロットのお腹の辺りから可愛らしい虫の抗議が聞こえてきた。
『ちっ違うよ!?ボクじゃないよ!?』
 顔を赤らめながら否定するシャルロットの弁明は虚しく悠叶は笑顔を浮かべる。
「えーっと献立は…」
 無限収納から卵とベーコンのようなものを取り出すと教会からくすねたフライパンで手際よく焼いていく。いい匂いが鼻腔をくすぐり、レイナが眠い目を擦りながら起きてきた。
「んーなんか美味しそうな匂いがする…。」
「もうちょっとで出来るから待ってな。」
「ん?うん。分かった…?」
 程よく焼けたら無限収納からパンとチーズのようなものを取り出し、それらにベーコンエッグを乗せると朝食が完成した。

「ほら、出来たぞ?」
「…んー!!」
「!?美味しい!でもこれどっから出したの?ベーコンも…卵も…悠叶持ってないよね?」
「ま、まぁ気にすんな。それよりも今日には街に入るんだけど何か必要なものってあるのか?」
「…えっとね…ダイノーは特に何も無かったはずだよ。」
「え?税金とか取らないのか?」
「ダイノーはそこそこ大きな街で商人たちが活発に活動するから入都市税は取らないの。その代わり商人は必ずギルドから商品を買い取ることになってるんだよ」
「ふうん。」
「それ以外にもダイノーでは主にポーションとかを売る錬金ギルド、冒険者の強い味方冒険者組合、魔術、魔法のスペシャリスト集団魔術ギルド、農民奴隷から罪人奴隷までなんでも揃う奴隷ギルドなんてものまであるの」
「へぇ~」

 3人がダイノーに着いたのは太陽が丁度南中した頃だった。
「で…デケェ…。」
『ダイノーの門は巨人種でも入れるように高さ20m以上あるの。都市を守る外壁は高さ100m。どんな魔物でも壊せないし登れもしない鉄壁の都市なの』
「なるほど。そりゃ今だけでかいわけだ…。」

 3人の前には巨大な門が口を開き、衛兵が門番のように立っていた。普通の人は門の下の方にある通用口で中へ入り、巨人種が来た時だけこの大門が開かれるようだ。
『シャル、俺の影に入っていてくれないか?』
『えっ!?』
『いいからいいから。嫌か?』
『えっいや、そういう訳じゃないけど…どうしてボクが影の中に入れると思うの?』
『あぁ、実は俺には解析の魔眼があってな。昨日少し見させてもらった。』
『…見られちゃったら仕方が無い…分かった。どこのタイミングで出ればいい?』
『街の中に入ったら出てきてくれ。』
『了解』

 異世界の大きな街。
 それだけで胸が高鳴るような思いを押し殺し門をくぐる。すると一人の衛兵が話しかけてきた。
「ようレイナ~二人でいるなんて珍しいなぁついに彼氏が出来た?」
「ちょっ 何言ってんですかクラウドさん!この子は別に彼氏とかじゃなくてうちで働く新人さんですよ」
「ほう?この黒髪黒目の坊主がか?」
「えぇ、そうですが何か?」
「いんや~でもどうしてまた墓守に?」
「何だっていいだろ?」
「まぁ確かになんだっていいんだがお前さんあんまり迷惑かけんなよ~」

 悠叶はクラウドの言葉を無視するとそのまま冒険者組合を目指す。いつの間にかその隣にシャルロットが居てその後にレイナが続く。
「冒険者組合はそのまま真っ直ぐだよ」
「……スゲェ…。」
 悠叶の目の前に広がる冒険者たちの群れはファンタジーそのものだった。
 ローブを羽織り杖を持つもの、騎士のような重装備に見を固めたもの、多種多様。人種の坩堝のような場所だった…。
「こんにちは。冒険者組合ダイノー支部へようこそ。受付嬢のカムイです。冒険者の新規登録ですか?」
「えぇ、まぁ。」
 悠叶の担当受付嬢肩まで伸びた金髪に海のような瞳を持った可愛らしい印象の受付嬢だった。
 何の気もなしに取り敢えず鑑定眼を発動させる。

【カムイ・エレン
人族 27 歳 Lv.43 職業・ギルドマスターLv.34・受付嬢Lv.9
生命力 6800/6800
魔力    3600/3600
・スキル
 ・情報操作Lv.9
 ・解析鑑定Lv.6
 ・身体強化Lv.4
 ・体術Lv.5
 ・剣術Lv.6
 ・看破Lv.10
・固有スキル
  ・真理の追究】

「えっ…ギルド長…?」

 それは一瞬だった。凄まじい勢いでカムイは悠叶の首をひっつかむとカウンターの下へ乱雑に放り込む。そして整った顔を引き攣らせながら小声で問いかける。その語気は有無を言わせないほど強烈だった。
「ど、う、し、て、分かった?」
「…解析の魔眼を使ったからですはい。」
「そう、私も実は君に解析鑑定を使ったんだけど…」
「え?」
「君のスキルの中に解析鑑定系のものは何一つなかったと思うんだ。なのに…何故?」
「い、いや、だから…この眼が少々特殊なもんで…。」
「詐術を使っても無駄だよ。私には看破があるからね」
「……」
 この時悠叶はめんどくさい事になった…と自らの軽率な言葉を恨んだがもはや後の祭りである。

「ご存知の通り私には固有スキルがある。君の秘密を暴くのは…」
「カムイさん?うちのユウトが何か?」

 悠叶の窮地を救ったのはレイナだった。カウンターから下をのぞき込むような形でカムイに笑顔を向けると周囲の温度が数度下がったような感じがする。

「いっいえ!えっと本日のご要件はユウトさんの新規冒険者登録で宜しいですか?」
「あともう一つ。『アレックス・クリストファー』って名前の冒険者についての情報を下さい。所属しているクラン等で構いません。」
「え?その…その方が何か?」
「先日うちの教会に遺体で運ばれてきまして…その事をクランの方にもお伝えした方がいいかと思ったので。」
「…わかり…ました。でも、クランだけですよ?」
「ええ、それで構いません」

「アレックス・クリストファーですね。えーっと?クラン名は『蒼き鋼』ですね」
「蒼き鋼…分かりました。ありがとうございます。」
「あとはユウトさんのギルドカードの発行ですね。こちらのカードに血を一滴垂らしてもらえますか?」
「あぁついでにこの子も登録していいですか?」
「分かりました。えっとお名前は…」
「シャル…」
「シャルロットです」
「分かりました。こちらのカードをどうぞ。お二人共クランはどうします?」
「クラン?」
「パーティの大きいやつのことだよ。最初はみんなクランに登録するんだ。えっと…その天涯孤独の冒険者って結構多いからね」
「なるほど、カールとレイナはどこに所属してるんだ?」
「私達は教会所属だから特に決まったクランに登録はしてないよ。」
「ふーんそれじゃカムイさん、新しいクランって作れます?」
「え?えぇ。大丈夫ですが…あまりオススメはしませんよ?」
「いいんです。」
「わかりました。ではクラン名は如何なさいましょう?」
「『アンダーテイカー』で」
「分かりました。」

 登録を終えるとレイナは用事があると二人に断り街の雑踏の中に消えていった。今夜は街の宿に泊まり、明日の朝から出発するという話になっている。

『良かったの?』
『ん?何が?』
『ボクは奴隷。だから冒険者登録はしなくても良かったのに』
『いいか、シャル。お前が奴隷だと言う証拠は今何処にある?無いだろ?』
『…確かに。奴隷紋も誓約書も契約書も皆あの男が持っていた。』
『ならお前はシャルロット・マーキュリーだ。奴隷なんかじゃないさ…。』
『ユウ…ト…でもね…それだけでボクの身分が変わることはないんだ。』
『?それはどういう意味だ?』
『ボクはね…罪人奴隷なんだよ』
『罪人…?』
『罪を犯した奴隷のこと。』
『へぇ。どんな罪だ?』
『それは…国を…』
『国を?』
『国を滅ぼした。』
『!?』
『滅ぼした国の賢者にかけられた呪いでボクは奴隷になった。この呪いは魂に直接書き込むものだから呪いを解くのはボクが死ぬ時くらいしかない。』
『なるほど。よく話してくれた。』
『そんなボクが…冒険者に…ましてやクランなんかに入ったら迷惑しかかけないと思うの』
『?いいじゃねぇか。それでも。俺の中ではお前はただの可愛い女の子なんだしさ。』
「…か…かわ…」
「?どうした?顔真っ赤だぞ?熱でも出たか?」
「う…うる…」

 シャルロットはよほど恥ずかしかったのか悠叶の影の中に潜り込んでしまった。
「…やれやれ…」
 悠叶は肩をすくめると新たな目的地へと足を向ける。その方角からはカンカンと甲高い音が響いていた。
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