罪と勇者

神崎 詩乃

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第1章 初めから終焉

墓守、始めました

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「うっ…あれ…?」
 気がつくとベットの上にいた。
「あぁ、やっと気がついた?魔力酔いだねぇ。急に魔力を使いすぎたみたいだ。」

 隣を見るとレイナが寝ていた。
「状況の説明を求む」
「簡単だろ?レイナは急に倒れた君を心配して看病した。その結果寝落ちした。そんな所だろ?」
「……むにゃむにゃ」
「所で…だ!なぁユウト、あの杭はどこから出したんだい?」
「すごいだろ?マジックってやつだ。」
「…冗談だろ?」
「まぁ冗談だけど」
「どうやったらあんな杭を出せるんだい?あの後大変だったんだぜ?」
「そりゃお疲れ様。それよりこっちの質問の番だな。あれは一体なんだ?」
「あぁ、リビングデッドだよ。またの名をアンデット。」
「へぇ。それで?何か俺に言うことがあるよな。」
「君…15歳じゃなかったっけ…?雰囲気からはそんな年齢に見えないんだけど。」
「お前、俺を試したろ?」
「いやぁバレた?」
「まぁ分からないでもない。ぽっと湧いたような奴をいきなり信用なんてできないからな。」
「まぁそんな所。入団テストみたいなものだよ。君は今日から正式にうちの墓守だ。」
「墓守の具体的な仕事内容は?」
「墓場の管理、遺体の埋葬、アンデットの駆逐、ってとこかな」
「アンデットの駆逐…ねぇ。」
「普通の死者がアンデットになるには早くて3日かかるんだ。その間に浄化するなり祈りを捧げるなりしなくてはいけないんだ」
「今回の依頼主は昨日死んだと言っていただろ?」
「あぁ、確かに彼は昨日くらいに殺されている。盗賊にね」
「何かある…と?」
「九分九厘有るだろうね。遅効性のある死霊魔法かもしれないし。」
「連れてきた仲間はどうしたんだ?」
「埋葬手伝ってもらってさっき帰ったよ。」
「カール…お前アホか?」
「なっ君の倍以上生きている人間にアホとはなんだねアホとは」
「死体を持ち込んだのはそいつだろうが!」
「え…あッそういう事か!」
「遅ぇよ!」
「こうしちゃいられない!ユウト、あの冒険者の事ちょっと調べてきて!」
「調べるって…どこで?」
「冒険者の事は冒険者組合に決まっているだろ?ここから1日くらい歩いたところにダイノーって街があるからそこで調べてきてよ」
「それって墓守の仕事なのか?」
「もちろん。死霊魔法の監視と管理も仕事のうちだよ」
「わかった。でも、いいのか?俺で」
「それはどういう意味かな?」
「ぽっと降って湧いたような人間の言葉を信じる事は出来るのか?って聞いてるんだ。」
「あーそのへんは気にしなくていいよ。冒険者組合に行ってついでに冒険者登録してくるといい。」
「分かった。方角は?」
「西だよ」
 悠叶は部屋から出るとそのまま西に向かって走り出した。
「で、どうするつもりかな?彼を…?」
「追いかけるに決まっているでしょう?」
 残された2人は目配せをすると部屋から退出し、戦闘の痕を眺めた。

 部屋は荒れ、家具もめちゃくちゃだが、部屋の中央付近に突き刺さった杭には未だに赤い血がこびり付いており、噎せ返るほどの死臭を放っている。

「この杭、柵の一部だよね」
「そうね。あの子…もしかして…。」
「まぁ邪推はさておき、レイナ、彼を追いかけて監視して。私は私の仕事をしよう。」
「……後で掃除が大変なんだから程々にしてね」

 彼、カールの足元には四肢をもがれ必死の形相で首を振る1人の冒険者が転がっていた。

「大丈夫。私は聖職者だよ?死者を弄ぶようなことをする訳ないだろう?」
「まぁいいわ。でも、いいの?彼何も持たないで行っちゃったけど」
「まぁ彼なら平気じゃない?危険のないように監視するのも君の役目だし」
「そう、わかった。」

一方そのころ。
悠叶は森の中にいた。

「森があるなんて聞いてないんだが…。」

 年輪を見ながら方角を暫定的に定め、その方角に向かって歩を進める。だが歩きなれない森に想像以上に苦戦し、夜を迎えた。

「やべぇ。夜になっちまったな。魔物とかいなければいいけれど…。」
 夜の森は静かだった。何一つ呼吸をしていないような…。時折吹く風に葉が揺れ響く葉擦れ以外聞こえるものはない。
 悠叶は実験のため無限収納にしまっていたサンドイッチをほおばる。やはり無限収納内部ではアイテムが劣化しないらしくみずみずしい野菜が舌を喜ばせる。
 悠叶は教会から拝借したランプから火をもらい、たき火をしていると何者かが接近してきていることに気付いた。
【気配察知Lv.1を獲得しました。】
「気づかれちゃったか。」
 そこにいたのはレイナだった。
「レイナ。なんだ見張りか?」
「んーユウト、戦えないでしょう?それに街についてもギルドの場所、知らないでしょ?」
「…。確かに。」
「じゃあお姉さんが迷える子羊を連れて行ってあげる。」
「…。しっ近くに誰かいる。」
「え?」
【気配察知Lv.1がLv.2になりました。気配消去Lv.1を獲得しました】

 近くの茂みの向こうではクマのような男が少女に危害を加えようとしていた。悠叶の脳裏に父親の影がちらつき、少女の姿が悠叶と重なって見える。
 以前の自分なら恐怖で縮こまり、嵐が収まるのをただひたすら耐えていたところだろう。
 だが、今は違う。
「やめろぉぉ」
 大男が振り上げた拳と少女の間に入り込み無我夢中で空間を操作する。
「なんだぁ?ガキが調子に乗ってんじゃねぇぞ!」

 男の拳は当たらなかった。いや、当たることはなかった。男の拳は悠叶の数センチ手前で止まり、その先に進むことはなかった。
「なっ何もんだてめぇ!」
「…。何もんでもいいだろ。それより、大丈夫か?」
 悠叶は背後の少女に視線を向けると固まった。
 そこにいたのは透き通るような白い髪に赤い瞳をたたえた少女だった。少女の顔からははたから見てわかるほど血の気が失せており、綺麗な赤い瞳は死んだ魚の様に虚ろだった。
「防御魔法か?くっそこのカイロ様が手こずるとはな。少年。お前もそいつの目がお目当てなんだろう?だが、そいつは俺のもんだ。」
「どういう意味だおっさん」
「そいつは俺の奴隷だ。俺の所有物なんだよ。だから俺様がどう扱おうがお前には関係ない。」
「…奴隷…所有物…お前には…関係…ない。」

 悠叶の黒く寂しい記憶に刻まれた言葉…。それは暴虐の限りを尽くした父親のものだった。『お前は俺の所有物だ』『物がしゃべるんじゃねぇ』『物が勝手に動き回ってんじゃねぇ』
 この男と父親が重なる。悠叶の心に黒い嵐が吹き荒れ、その瞳に理性などかけらもなかった。
「……。」
 一触即発。くらい森の中悠叶はこの世界に来て初めて自分以外の為に力を使うことを決意した。
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