罪と勇者

神崎 詩乃

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第1章 初めから終焉

衝撃の事実

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「流石はだね」

 その一言で世界が凍りついたかのような空気が二人の間に流れた。
「そんなに警戒するなよ。私は知っていて当然なんだ。私が君を呼んだのだから。」
「どういう意味だ?」
「んー私が今言った『異世界の民』って言うのはね読んで字のごとくこの世界とは違う世界から界渡りを経てこの世界にたどり着いた者を指すんだ」
「それで?」
「界渡りを経た異世界の民は強力な力を得るんだ。スキルの飲み込みが早かったり、他に類を見ない強力過ぎるスキルを持っていたりね 」
「彼ら、もしくは彼女らは界渡りをする前、何か辛いことを経験していることが多い。そして精神的に幼い事がほとんどなんだ。」
「へぇ。」
「昔話をしてあげよう。
ある日、魔物の群れ、いや、魔王軍がある都市を襲撃した。魔王軍は都市に住むありとあらゆる生命を奪い、人間達に永久の服従を要求した。当時は冒険者組合など存在していなかったから魔王に対抗したのは教会だった。」
「なるほど」
「教会の力は微々たるものだった。魔王の力が強大過ぎたのさ。そして、協会は禁忌の掟を破った。」
「この世界でダメなら別の世界から連れてくればいいという訳か」
「そう。それで召喚されたのがバニティー。虚飾の大罪人だった。」
「なぁカールそれ何年前の話だ?」
「んー?かれこれ300年ほど昔の話かな」
「300年!?おいバニティーは不老不死かなんかかよ」
「バニティーには魔王討伐を依頼した。だけどね彼は依頼を拒否し、教会の者達を殺した。彼の特殊なスキルは自らの存在を消す力。次々と闇討ちにあい彼は人々に恐怖を与えた。」
「なぁおい。まさか8人全部勇者として呼んでダメだったわけじゃねぇよな!?」
「そのまさかさ。教会の負の歴史ってやつだ。凶悪だった魔王軍も恐怖に染まった民衆も全てが彼らに等しく恐怖したんだ。」
「何回も勇者召喚失敗してるのにまだやろうとしたのかよ…」
「恐怖を共にした両陣営は彼らを共通の敵として認識し、我々人類と停戦協定を結んだのさ。そして、9人目は…」
「俺…なのか…」
「そう。君だよ。」
「それで?バカの一つ覚えのように勇者である事を強要して大罪人共をぶちのめせとでも依頼してみるのか?」 
「いや?たしかに君は勇者だ。だが同時にひとりの少年でもあるんだ。君の未来に大人が口を挟んでもいい事は無い。」
「じゃあ俺にどうしろと?」
「生き抜いてくれ…ガハッ」
 唐突にカールは咳き込み出した。口からは血を吐き、顔は先ほどと打って変わって苦悶の表情を浮かべる。
「どうした!?おい、しっかりしろ!おい!『ヒール』『ヒール』!」
「ははは…レイナのこと…頼んだよ。ユウト…。」
「おい!話はまだ終わってねぇぞ!おい!目を覚ませよカール!」
「…ユウト~まだ夜中だよ…っカール!?どうしたの!?」
「……。」
「カール!?カール!?」
「ちょっと出てくる。シャルみてて上げて。」 
「ちょっえぇ!?」

 カールが死んだ時、動いた影は三つ。
そのうち一つはレイナだった。残る二つは1箇所にいた。犯行を犯したなら犯人なら現場から一刻も早く立ち去りたいはず。ましてや人目につかない時間を狙った犯行なら尚更だ…。

 そう思い、悠叶は怒りに身を任せて転移した。
 転移した先には男女が立っていて驚いた表情でこちらを警戒していた。
「転移魔法!?馬鹿な!魔法陣すらなく転移するなんて!」
「単刀直入に聞く。ハイかいいえで答えろ」
「なぜカールを殺した」
「なっ何のことかしら…」
「その声…2日ぶりだな。お前には別件で聞きたいことがある。」
「14番!?早く転移石で近くの街まで転移させなさいよ!」
「13番。この場は既にこの少年の手の内のようだ。」
「おい、質問に答えろよ。何故、殺した?」
「うぐっ」
「情報源は一人いれば十分だ。13番って言ったな。お前は前回のぶんも聞かなきゃいけないよな…。」
「貴様!こんな事が許されると思っているのか!?」
「許される?誰に?」
「このガキ…狂ってる…」
「お?綺麗に切れはしなかったか流石。結界かなんか?」
 首の周りを切られた男に飄々と尋ねる。
「はっきっ貴様の力なんぞ…この程…」
「ふうん。頑丈なのはいい事だ。簡単に死なれても困る。」
「14番…このガキ…覚えておけよ?貴様…楽には殺さない」
「は?何故お前らは次があると思うんだ?」

 空中に右か左の指が舞った。

「ぐっ」
「いいか?俺は一つしか聞いてないぞ?『何故殺した?』」
「貴様のような…異界の蛮族に…世界の秘密を漏洩したからだ…」
「そうか、じゃあそんな蛮族に殺されろ」

14番と呼ばれた男はその瞬間消え去った。
「14番!」
「お前にはもう一つ聞きたいことがある。」
「くっ!」
 13番は忍者が使う様な煙玉を地面に叩きつける。白い煙が瞬く間に広がり、視界を塞ぐ。
「はぁ…」
 悠叶は興がさめたと言わんばかりにため息をつくと宿屋へ帰還した。

「はぁ、はぁ。何なのよあの化物は…。」
 
仄暗い道を13番はひたすらに逃亡していた。『足を止めたら死ぬ』その想いが彼女を走らせていた。

「はあ、はぁ。」

一直線に走ればそこまで疲れないのだが、彼女はそこまで馬鹿ではない。直線で走ればその分見つけやすいし追いつかれやすい。ならばと蛇行し、たまに急カーブを交えて走っていた。

「はぁ、はぁ。撒いたかしら…」

 13番は振り返り、手近な建物に身を隠すと朝まで待つことにした。
心臓の鼓動が静まらず、わずかな時間が永遠のように流れていく。孤独と闇と恐怖で13番は気が狂いそうだった。

「目がぁここはどこだァ。どこなんだァ。13番~17番~我に教えてくれ~どこなんだ!?」
「地獄だよ。」
「そっその声はっやっやめろ!ぎゃぁぁみっ耳がっ何も…聞こえない…」

『さて、聞こえているかな?』
「なっなぜお前の声が聞こえる!?」
『今、私はあなたの心に話しかけていますとでも言っておこうか。13番よーく見ておけよー』
「13番!?近くにいるのか?助けてくれ!」
「今助けるわ。光の精霊よ我の身を癒せ『ヒール』…なっ回復しない…どうして!?」
「あぁ。その回復魔法は精霊の力を使うからな。精霊がいなければ使えないのも当然だろ?」
「精霊がいない!?そんな馬鹿な。都市ダイノーは確かに不毛な北の大地に近い都市だが精霊が全くいないなんてことは…」
『さて、14番?気分はどうだ?』
「たっ頼む!命だけは…命だけは助けてくれ。仕方なかったんだ。上からの命令で!」
『仕方なかった?上からの命令?ふうん。そういえば…14番?お前達は何故番号で呼び合う?なにか理由があるのか?』
「我々は教会の中でも強い権限を持っている…。ナンバーズなんだ…。総勢200名。世界中に散らばっている…。男は偶数…女は奇数でナンバーが与えられ、番号が低いほど権限を持っている…。」
『なるほど。』
「きっ貴様はもう終わりだ!我ら2人をこのような目に遭わせたからには必ず教会から裁きの鉄槌が落ちる!大罪人に新たな名前を刻むことになるのだ!」 
『あぁ、まだまだ元気そうだな。じゃあこうしよう。』
「ぐっ…なっ何をした…!?」

 14番は中を浮いていた。目が抉り出され、耳からは血を流し宙を舞う。その姿は奇妙で焦る声は叫びのようだった。

『何、14番。君の周りの空間主に重力を操作しただけだよ。これで触覚も大体遮断できた。では、ごきげんよう。3日後にでも様子を見てみるよ。』
「たっ助けてくれ!頼む!私はナンバーズの中でもなかなかの実力者で私の言葉は無視出来ないはずなんだ!?」
『じゃあな。』
「…」
 13番は恐怖で声が出せずにいた。声を出せば…あるいは身動ぎ一つで自分も14番のようにされてしまうのではないか…
 目だけで周囲をうかがうがあのバケモノじみた少年の姿はない。だが、14番と会話していたことから近くにいる、ないし姿が監視できる場所にいると考えるべきだろう…。
「おい、13番」

 そんな声が聞こえた気がして、13番は再び走り出した。

「ユウト、何をしているの?」
「ん?あぁ観察。」
「ふうん。」

 宿屋に帰還した悠叶はカールの死をレイナとシャルロットに伝え、拠点であり始まりの場所である教会へ転移した。
『転移魔法!?そんな!失われた魔法だったはず…!?』
「凄いね。まさか転移魔法が使えるなんて知らなかったよ。」
「まぁな。行ってなかったし。場所がわからないと転移できないしな。」
「へぇ。」
「カールを…埋葬するぞ。」
「うん。」
 悠叶達は教会裏手の墓地へ移動し、空いた区画をカールの墓と決め、埋葬を行った。
「カール…しっかり寝とけよ…。」
「うぅぅカール~」
「……。」
 カールと顔を合わせたのはせいぜい3日。ただ3日ほどの付き合いだったとしても悠叶の中ではかえ難い喪失感が渦巻いていた。
『……ユウトが…泣いてる…。』
 悠叶が見せた初めての悲しい表情を見て、シャルロットは呆然と土に埋もれていく棺を見ていた。

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