罪と勇者

神崎 詩乃

文字の大きさ
13 / 27
第1章 初めから終焉

決戦:暴食02

しおりを挟む
 どのくらい戦闘が続いたことだろうか…。グラトニーと悠叶の周囲は森が消え、大地がめくれ上がっていた。

 暴食の大罪人グラトニーは前世で戦災孤児だった。戦争で父を失い、本国に投下された爆弾で母も失った。グラトニーはひもじい思いをしながら日々靴磨きなどを行って日銭を稼ぎ、路上で寝泊まりしていた。
 彼には二つ年下の妹がいた。妹は体が弱く、この生活が長く続けば何れ死んでしまう。わかりきったことだった。
 ある寒い日の朝。妹がいなくなった。グラトニーは必死にその姿を探すが見つからず、途方に暮れていた。
 そんなところに同じ戦災孤児で新聞売りを生業としていたジョンが話しかけてきた
「おい、グラトニー。向こうの通りで事件が起きてるみたいだぜ?」
「…。今はそんな気分じゃないんダナ」
「あれ?お前元気ねぇな。そういや妹さんは?」
「分からないんダナ。目が覚めたらもういなかったんダナ」
「ありゃ…。そいつは悪いことしたな。妹さんは朝いなくなったんだな?」
「あぁ、昨日の夜にはいつもの寝床で寝てたんダナ」
「スレイン通りのあのぼろ屋か。」
「そうなんダナ」
「分かった。ちょっと俺も探してみるわ。俺の顔意外と広いからな。」
「あ…。ありがとう!ジョン。」
「いいってことよ。俺たちは親友だろ?」
「恩に着る。」

 グラトニーは涙を流し喜んだ。それから数日。ジョンとグラトニーは妹を探し回った。
 妹を失って一週間がたったこ頃、ジョンは血相変えて走ってきた。
「おい、グラトニー。ビックニュースだ!妹さんはかっ攫われたらしい。」
「え?いったいどこの誰がそんなことを?」
「気になって調べてみたらなんとグランツ商会の手のものだったらしい。」
「もしかして…。奴隷にされて売り払われたりしてないか?」
「あぁ…そればかりは俺もわからなかった。今度はそのあたりを重点的に探ってみるよ。」
「ありがとう。ジョン…お前も気をつけるんダナ」
「あぁ。命は大切だからな。」
 数日後。彼は再びグラトニーのもとへ訪れると妹の居場所を口にした。
「グランツ商会の人間を使って調べたんだが…悪い…。間に合わなかった。妹さんはもうグレイ伯爵のとこに売られちまってた。」
「……。妹を奪い返さなくちゃ…。いけないんダナ…。」
「おいおい、正気かよ?相手は大貴族様だぜ?」
「それでも!奪われたままなんてごめんなんダナ!」
「そうか…。でも今回ばかりは俺も参加できねぇぜ。今回の調査で俺にマークがついちまった。」
「大丈夫。ここからはオラがやるんダナ。今までありがとう…。ジョン。」
「困ったときはお互い様だぜ?」
「あぁ…。」
 
 その日の深夜グラトニーはグレイ伯爵邸に単身で乗り込んでいった。母からは絶対に悪いことはするな。悪いことをすれば神様から嫌われてしまうんだよときつく言われていたが悪いのは貴族側で自分に非は何もないと正当化させていた。

「やぁやぁ。君がお兄さんかな?」
 背後から男の声がかけられた。グラトニーは瞬間的に距離をとろうとするが男のほうが早く簡単に捕まってしまう。
「いやはや…。本当に来るとは…。馬鹿げたやつだな?」
「妹を…。返せ。」
「君の妹?あぁ…。残念だったね。ついこの間死んでしまったよ。安いと思ったら病気を持っていたとはね。おかげで損させられた。」

「は…?死んで…る?うそをつくんじゃないんダナ!」
「ウソなんてついていないさ。それより君…。このグレイ伯爵邸に土足で踏み入った罪、償ってもらおう。」
 グラトニーは地下のような場所に連れていかれると樽のようなものの中にぶち込まれた。
「なぁ、君、おなかすいているかい?」
「…。盗人の施しは受け付けないんダナ」
「そいつは残念だ。まぁ…。君に拒否権はないんだがね」
 どこからか伯爵は料理を持ってこさせるとグラトニーの口に放り込んだ。
「まだまだ来るからターンとおたべ?」
 次々と料理が口に詰め込まれ、ろくなものを食べていなかったグラトニーの胃袋を満たす。
「あれあれ?もうおしまいかい?じゃあゆっくりお休み。」
 グラトニーは訳が分からなかった。グレイは樽の中に突っ込んだだけあとは少々乱暴だが飯を与えてくれる。これが何の罪の償いなのかわからなかった。
 こうして、グラトニーはとらえられて数か月。樽の中で食っては寝てを繰り返し次第にその体は肥え太っていった。
「そろそろかな?さて、どうだろうか。」
 いつもの飯の時間にグレイは肉切り包丁をもって来た。
「なぁ。君はどうして捕まったのだと思う?」
「…。屋敷に忍び込んだから…?」
「いんや?君が忍び込むことは最初から分かっていたんだ。とある密告者がいてね?」
「…まさか…。」
「そう、君が今想像した人物だよ?そう。君は親友に売られてのこのこここに来ちゃったんだ。あっははは。いい顔だ。今から君を加工するわけだけど何かなりたいものはないかな…。」
「…。」
「ふぅん。無視…。か。おい、このガキを出してやれ。拘束具はつけたままでいいから洗ってまで運ぶように。」
「かしこまりました。」
「久々だなぁ楽しみだなぁ…。」

 洗われたグラトニーは大きなフックにかけられると虚ろな目をグレイに向けた。端正な顔立ちは醜く歪み、手には肉をたやすく切断する肉切り包丁が握られていた。
「今から君を調理してあげる。本当は君の妹を調理するつもりだったんだけどね?」
「…。オラを…。喰う…?」
「あぁそうさ。それではまた来世で会えたらッ」
 その先、グラトニーはグレイに腹を割かれ、腸を引きずり出されたあたりで意識を失った。
 その後の記憶は実にあいまいなのだが、誰かと話をした後、この世界に呼び出された。この世界に来た時、グラトニーはすさまじい空腹感を覚え、呼び出した魔術師の男に食べ物を要求するとおなかのあたりに違和感を感じた。
 そこにあったのは大きく裂けた口だった。ご丁寧に鋭い歯まで生え、それが食べ物を欲する。食べても食べても空腹感はまぎれず、しまいには呼び出した魔術師すらも食べてしまった。
 そして、バニティーと出会い、大罪人としての今があった。

「お前ではオラには…勝てないんダナ」
「煩い。空間術式。14番『圧殺』』
 悠叶がそう唱えるとグラトニーの周りの空間が収縮し始めた。グラトニーは素早く移動するが右腕を持っていかれてしまった。 
「くっそ。そんな技聞いたことがないんダナ。」
「そりゃ俺のオリジナルだからな。」
「ほほうそれはいいことを聞いたんダナ。戻った時の手土産なんダナ。」
「手土産?メイドの土産の間違いだろ?」
「喰らえ大咬だいこう
 グラトニーはおなかにある大口で周りの木々を食い散らかし、腕を再生させる。
「っち。空間術式3番!『重力グラビティ』」
 グラトニーを中心に半径2mの重力が消失し、宙に浮かび上がる。
「とっと?重力まで操れるのか?」
「12番『圧搾』」
 グラトニーの足が絞られるようにして肉がつぶれる音と骨が砕け散る音が響く。
「ぐぁ。さすがのオラでもこれはきついんダナ。大口!」
 グラトニーの大口はまるで意思を持ったようにグラトニーの下半身を喰らい再び再生させる。
「埒が明かねぇな。」
 切断しても、潰してもグラトニーは再生し続ける。さらに本人の痛覚はほとんどないようで、富士見の相手と戦っているような感覚だった。
「18番『アースバレット』」
「無駄なんダナ。大口で喰らってオラのエネルギーにするんダナ」
 グラトニーの大口へ岩の弾丸が吸い込まれ、爆発する。
「なっなんだこれは!?」
「あぁ、中に仕込んだからな。」

 悠叶はアースバレットの中に18番に設定した『爆発エクスプロージョン』を内包し、大口の中で炸裂させただけである。どうやらこの技は有効だったようで大口が力なく開け放たれている。

「自慢の口もそれじゃぁ使えねぇんじゃねぇの?」
「小賢しい真似なんダナ!」
 グラトニーは左手をかざすとにやりと笑った。
「吸い込め!」
「グラトニーの左の掌がぱっくりと裂け、口が現れる。そして大きく開け放たれると何やら吸い込み始めた。そして右手を後ろに伸ばすとグラトニーが一瞬で距離を詰めた。

「なんだあれ…。俺と戦闘したら…。ユウトに負けしまうかもしれねぇな…。ったく…。恐ろしいガキだ…。」
 両者の一歩も引かない攻防にクラウドは遠く離れたところで見守るしかなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

【完結】精霊に選ばれなかった私は…

まりぃべる
ファンタジー
ここダロックフェイ国では、5歳になると精霊の森へ行く。精霊に選んでもらえれば、将来有望だ。 しかし、キャロル=マフェソン辺境伯爵令嬢は、精霊に選んでもらえなかった。 選ばれた者は、王立学院で将来国の為になるべく通う。 選ばれなかった者は、教会の学校で一般教養を学ぶ。 貴族なら、より高い地位を狙うのがステータスであるが…? ☆世界観は、緩いですのでそこのところご理解のうえ、お読み下さるとありがたいです。

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

悪役令嬢の慟哭

浜柔
ファンタジー
 前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。  だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。 ※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。 ※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。 「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。 「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

悪役令嬢と言われ冤罪で追放されたけど、実力でざまぁしてしまった。

三谷朱花
恋愛
レナ・フルサールは元公爵令嬢。何もしていないはずなのに、気が付けば悪役令嬢と呼ばれ、公爵家を追放されるはめに。それまで高スペックと魔力の強さから王太子妃として望まれたはずなのに、スペックも低い魔力もほとんどないマリアンヌ・ゴッセ男爵令嬢が、王太子妃になることに。 何度も断罪を回避しようとしたのに! では、こんな国など出ていきます!

処理中です...