罪と勇者

神崎 詩乃

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第2章 世の理

戦場の墓守

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 要塞都市ダイノーから北東に200km。そこは悲惨な戦争跡が広がっていた。
 大地がめくれ上がり、瓦礫の下から誰かの手が露出し、何かのはずみで崩れれば身体の一部が姿を現す。

 そこかしこでアンデットがざわめき、人々を襲う。
 またそこかしこでアンデットが群れをなし、凶悪な個体が生まれる。

「はぁ…なんだこれ…仕事しすぎで死んじまうよ。」
「精神が死ぬか生命が死ぬかどちらか選べるぜ?」
「冗談きついぜアッシュ。」

 大手クラン『白き彗星』の面々は死臭と死体の海に辟易していた。
 
「ウボァ!」
 死体の海から下半身のないアンデットが飛び出してくる。
「っとなんだこいつ。下半身がねえ!」
「気をつけろ!こいつ早いぞ!?」
「っけ早さだけなら浮遊大蜥蜴の方が早いぜ!」
「おいバカ!後ろだ!」
「はえ?」

 目の前の上半身アンデットに注意を向けすぎたのかアッシュの後には複数のアンデットが群れをなしていた。

「クソったれ。ここは一旦下がるぞ!」
「ぎゃあああ」
「どうした!?」
「コロッサスがやられた!畜生!やりやがったな!?」
「よせ!」

 白き彗星の周りにはもう既にアンデットが囲い込み、獲物を狩る目を向けている。
「お…おい、この状況…やばくね…。」
「俺が殿を務める。お前らは出来る限り走ってこの事を知らせてくれ!」
「…そんな真似許すわけねぇだろ!?」
「リーダー権限にて命ずる。逃げろ。時間稼ぎは俺に任せておけ。」
「リ、リーダー…。」
「急げ。流石にこの数じゃ俺もいつまで持つか分からん。」
「グェ」
 アンデット達は一斉にアッシュに向かっていく。アッシュはそのアンデットを仲間から出来るだけ離すように逃げる。最前列のアンデットがアッシュの鎧に手を掛けるその瞬間。不可視の壁がアンデット達に立ち塞がった。

「大手クランが壊滅の憂き目を見るのか?はっざまぁねぇな。」
「おっお前は…。」
「悪いがこっちも忙しすぎて気が狂いそうなんだわ。余計な仕事増やすんじゃねぇ。」

 アッシュやその仲間を助けに入ったのは悠叶だった。
 悠叶は空間術式を操り、アンデットの軍団を殲滅していく。そして、火炎魔法と土魔法を使い焼き尽くす。

「…助けろなんて言ってないぞ…余計な事を…」
「あぁそうかい。でもな、お前らに死なれると俺らの仕事が増える。それはただの迷惑だ。」
「肝に銘じておく…。」
「あと、数が多いなら後続の指揮系統をしっかり作っとけ。お前が抜けて右往左往してたぞ?ここは戦場だ。指揮系統が無くなった奴らなんて烏合の衆だぞ?」
「…すまん…。」

 悠叶の背後にはアンデット軍団263人分の墓が出来上がり、夕日に照らされていた。

「あの…えっと…。」
「なんだよ」
「仲間が…1人やられた。ここで埋葬してもらってもいいか?」
「そうか…。」

 コロッサスの顔には涙の跡があった。
 腕をアンデットに噛みちぎられ、脚をもぎ取られ喉笛を引き裂かれてもその目には恐怖の色はなくただ真っ直ぐ己の力のなさを悔いているような
そんな顔だった。

「空間術式46番『聖域ホーリーフィールド』展開。」

 悠叶の右手がコロッサスに触れる。その右手からは白い光が溢れ、大地に染み込むように広がっていく。
「これで暫くは問題ないな。」
 そしてヒールを使い、身体の傷を治すと今度は火炎魔法で骨まで焼き尽くす。
「コロッサス…すまなかった…。」
 夕暮れに染まる大地に泣き崩れるアッシュを誰も責めたりはしなかった。
 ここは戦場で、自分たちの命も簡単に奪われてしまうんだとその場にいた全員が理解した。
 コロッサスの遺骨は悠叶が火炎魔法と土魔法で作った骨壷に入れられ、厳重な封印をかけられる。二度と戻らないように。

「ありがとう…」
「……。」

 頭を下げられた悠叶の心境は複雑だった。
 悠叶はこの中で唯一、コロッサスを助けられた。勿論自分は関係ない。戦場でもしも、かもしれない等という行動をしてはいけない。分かっている。分かっているが…助けられたはずの命を散らせてしまった事に少なからず罪悪感を覚える。

そして、二度と戦死者がでない様に悠叶は索敵の範囲を拡大するのだった。

「うぇ…ちょっとスロウス、これは一体何!?どういう状況なのよ…?」
「おや?エンビィー。久しいな。」
「…はぁ…。グリードとバニティーから正式な命令が出たわ。彼を今殺すのは禁止。分かった?」

 『彼を殺すのは禁止』

 その言葉で
 空気が凍った。
(だから私は嫌だったのよ…バニティーめ…)
凍てつく視線を向けられつつもエンビィーは冷静に話を進める。

「彼の力は未だに不明な点が多いわ。それに、彼ばかりを構っている余裕もなくなってきた。」
「ほう…王都で何かあったのか?」
「国王が殺られたわ。」
「なっどっどこの組織だ?」
「さぁね。だけど私たちが国王を洗脳していた事実を知られる前に隠れなきゃ。だから、暫くの間活動は禁止。」
「……。グリードとバニティーの決定なのだな?」
「えぇ、そうよ。」
「ならば…遺憾だがそれに従うしかあるまい。だが、奴へ刺客を送る事は問題なかろう?」
「……。そうね。殺さない程度なら…問題ないわ。」
「それでは某の技術と鍛錬の成果を奴にぶつけてやろう。」

 スロウスはそう言うと一つの人形を取り出した。その人形の姿は少女のように可憐で優美な造形で、一つの美術品の様にも見えた。

「『傀儡人形  怨』…そんなものをぶつける気?」
「これは某から奴への試練だ。これで死ぬような奴ではあるまい?」
「……。」

 その人形の内部は人の念で作られていた。念は念でも怨念。それが人形の型に入れられ、それを動力源としていた。

 ここは戦場。 
 故郷に恋人を、家族を置いてここで戦い、散った者達の怨念が大地を穢しアンデットやレイスを生み出している。
 そんな怨念の坩堝にこの男は凶悪な兵器を投入する気なのだ。それだけでエンビィーの背筋が凍り脂汗が額に滲む。
 

そして、静かに人形は歩き出す。ある男の指示を受けて…。
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