罪と勇者

神崎 詩乃

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第2章 世の理

ゴリラの厄日

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『俺達がこの戦場…跡に着てはや1週間。未だにアンデットの襲撃は減る兆しを見せない。昨日は白き彗星のコロッサスがやられた。俺達もいずれ…いや、何とかななるさ。
それにしても…墓守のユウトとかいう奴はすごかった、アンデットが拠点に攻め込まないように土魔法で壁を作ってくれた。
拠点での生活は案外楽しい。最初の頃は冒険者が戦い、墓守共がコソコソと動くのかと思っていた。それ故に野次やら嫌がらせやらが横行していたが昨日の一件以降そういった野次は無くなった 。

正直彼らはすごい。アンデットに物怖じせず討伐する胆力、ユウトを司令塔とした連携。全てが我々白き彗星と雲泥の差があると自覚した。

きっと彼らは優秀な冒険者となるだろう。心からそう思える。』(フランクリンの日記一部抜粋)

「ぶっ…何だよこの日記…後でみんなの前でフランクリンって奴に返してやろ…」
 クラウドは意地の悪い顔を浮かべるとそれを引き出しにしまった。
 そして、悠叶を起こすため、悠叶の部屋へ向かった。
戦場に朝が来た。悠叶はまだ眠っている。

「オラーユウトー起きろー。朝だぞー天気のいい快晴だぞ!」
『ゴリラうるさい。ユウトを起こすのはボクの仕事。』
「!?」
 いつもの朝の光景も今日は違った。
 悠叶はベットから跳ね起きるとどこかへ転移し始める。
「おいおい落ち着けってどこいく気だよ」
『ユウトどこ行くの?』
「……」
 悠叶は無言のまま転移した。クラウドとシャルロットを連れて。

「んーもう食べられないかも。」
 部屋に残されたのは呑気に眠っているレイナだけだった。


「何だありゃ…。」
 クラウドは驚いていた。普段悠叶達と長く過ごしてある程度驚かなくなったはずなのだが…ただ驚くしかなかった。
『ユウト…何…アレ…』
 普段表情があまり無いシャルロットも驚愕といった表情を浮かべ、悠叶を見やった。
「え…?うわ、何だあれ…。」

 悠叶達に大きな影が落ちる。そう、悠叶達の目の前にいたのは何千ものアンデットが組体操のように組み合わさった文字通り化け物だったのだ…。

 その高さは20m以上あるだろうか…。楕円形の球体に足のようなものが四本生え、その全てをアンデットが構築している。

 悠叶は寝起きで混乱していた。
 何かやばいものが接近していたことは分かった。だが、こんなにでかいとは思っていなかった。でかすぎる…。
 取り敢えずダメもとで鑑定眼を起動させてみた。

【『ホモォ』:詳細不明。コアがあるかも】
「……。」

 確かに、見た目はまさにそれだった。だが…。
「……はぁ…。」
『ユウト?』
「おいなんか分かったか勇者さんよ」
「まず、どうしてこんな所にいるんだ二人共…」
『ボクはあなたの従者。ここにいて当然。』
「お前を起こしに行ったら巻き添えくらった被害者だ。今日の朝飯当番お前な。」
「朝飯の心配より自分の心配してろゴリラ。」
「誰がゴリラだクソガキ。お前のせいで朝っぱらから命の危険にさらされてんだよ」
「朝からそう怒鳴んなよ。血圧上がって早死するぞクソゴリラ。」
「なんだと?」
『二人共、喧嘩してる場合じゃないよ!?』

「「ウボォォォォン」」

 何人の存在を認知したのかホモォ型アンデットは巨大な腕を振り下ろした。
 その衝撃で大地が割れアンデット達が砕け散り、肉片と骨片をあたりに撒き散らす。
「うへぇ。」
 悠叶は結界でシャルロットと自分を守ると空中へ飛んだ。
「クソったれ!お前後で覚えとけよーー!!」
 瓦礫と肉片と骨片に塗れたクラウドが天へ叫ぶがその声は悠叶に届かない。

『どうやって倒すの?』
「どっかにコアがあるらしいんだが…どこだ…?」
『らしい?』
「まぁいい。燃やしてみるか」
『そんな安易な…』

「空間術式24番『火焔球』」
 悠叶の手の中で火球が生まれた。火球はそのままホモォの中へ落ちていく。

「「ウゴォォァ」」

 火球はホモォの天辺近くにいたアンデットに当たると瞬く間に燃え広がり、全身をおおった。
煙が立ち上り、アンデット達が次々と燃え尽きていく。
 悠叶の火焔球が燃やし尽くした後にはもはや溶岩とかした大地とそこに立つホモォの姿だった。
「マジかよ…これで消えないとか…有り得ないだろ…」

 ホモォは体積こそ少し減ったが表層のアンデットが消滅しただけで大した痛手にはなっていなかった。

「ギャー熱っ熱っ」

 眼下では溶けた岩石の熱気でクラウドが走り回っているが悠叶は無視を決め込む。
『クラウド大変そう…。』
「まぁそう簡単には死なんだろあいつは」
『……そうかもしれない』

 どこまでも年少組に弄られるクラウドだった。

「「ウゴォォ…」」

「ったく…コアどこだよあれ…。」

 続いて悠叶は水球を大地に落とし、水蒸気爆発を引き起こすがこれもダメージとはなっていないようだった。大ダメージを受けたのはむしろクラウドの方だろう。

「どこか、守の硬いところがあるはずなだが…。」
『あそこ。アンデットが奇妙な形に変形してる。』
「え?どこ…?」
『ほらあそこ。』

 シャルロットの指差す先には繭のように繋がったアンデット達がいた。
「あ…アレっぽいな。」
『あそこに魔力?が集中してる。』
「…決まりだな。問題はどうやってあの繭を砕くか…」

 悠叶は有効そうな手立てをいくつか試していくがどれもあと1歩のところで他のアンデットに阻まれる。
 ホモォ型はもう動くのをやめ、上空から攻撃を行う2人に最大の注意を向けている。

「攻撃した瞬間、僅かだがコアの繭が露出する瞬間がある。そこを狙うか。クラウド!水魔法を一番デカイやつ。撃て。」
「はぁ!?」
「早くしろ。死ぬぞ?」
「あークソっ今日は朝から厄日だなっ分かった。俺の最大技行くぜ!」

「星を育む海神よ今ここに数多の命を散らす力を示せ『海神わだつみの怒り』」 

 この時、クラウドは自暴自棄となっていた。クラウドの放った水魔法は超巨大な水弾を創り出し、まだ熱冷めやらぬ大地へと降り注いだ。
 大地が抉れ、戦場となった荒野は瞬く間に湖へと変貌を遂げた。

「ブハっ」
「…プハッ」
「ゲホゲホッあーしんど…魔力枯渇したァ」
「おいクラウド、馬鹿だろお前やっぱりゴリラだろ!どうすんだよどう考えても地図が更新されたぞ!?」
「地図くらいどうだっていいだろ。それより奴は…?」
「あぁ、仕留めた。それで、こいつに何か心当たりないか?どういう仕組みなのか全く分かんねぇ。」
『こっこれは…。』
 悠叶が持っていたのは腹部に大きな穴の空いた一体の人形だった。
「何か知っているのか?」
『これは。魔人形。特定の感情を動力に動き回る厄介な奴。これ一体で国がいくつも滅ぼせる』
「ふうん。やったじゃんゴリラ。お手柄だ。」
「何の話だよ。ったく…。あー魔力使いすぎた。もう今日1日は動けねぇぞ。」
「『ぐぅ~』」

 朝飯を食い損ね、必死に魔力をかき集めたシャルロットの胃袋は既に限界を迎えていた。
「……ちがっ…」
「さて、腹を好かせてる子もいるみたいだし、さっさと帰るか…。」
『違うの!ボクじゃなーい』

 日はとうに南へ移動し3人が拠点に戻ると般若のような表情をしたレイナとカムイが待っていたのだった。
 
 この日、クラン『アンダーテイカー』の仕事ぶりはいつも以上に恐ろしかったと言う。

余談だが、クーロン帝国北東部に新たに生まれた湖を帝国は九龍湖と名付け、漁場資源獲得のため魚を放ったという。

尚、クラウドの厄日はその後も続き、魔力が尽きているにも関わらず重い墓石を運ばされ続けたという。

「人形がやられた!?情報は引き出せたのか?」
「何?湖が落ちてきて全部流された?それで人形も奴らに奪われたのか?」

 大男に向かい、静かに首肯したアンデットは次の瞬間には肯定する首を失った。
「次なる手を考えねば…」

 スロウスは新たな人形を創り出すとそれを無造作に世に放つのだった
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