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第2章 世の理
身の上話
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ある所に白い髪に赤い瞳の風変わりな少女がいた。
少女に父親、母親、という存在はいない。代わりにいたのは大きめのローブを羽織った人間達だった。
「417番。体調はどうだ?」
417番。少女はそう呼ばれていた。
少女は生まれた時から塀の中にいた。そこには同じ年齢くらいの子どもが複数生活しており、全てのものが番号で呼ばれていた。
『シャルロット、先生に呼ばれているわよ』
『え?あぁ、シオン…うん。ちょっと行ってくる』
シャルロットと呼ばれた少女はぼんやりとした意識で番号を呼んだ先生の元へ向かう。
『先生、何か用事ですか?』
シャルロットは長い言葉を話すのが苦手だった。それ故に念話を習得し、使いこなせていた。
「417番。貴女は今日から個別室へ移動となりました。それと、もう一つ。正式な辞令はまだありませんが貴女と410番が近いうちに浄化隊に徴用されることになりました。良かったですね。」
『え!?ボ…私がですか?』
「えぇ、そうですよ。」
浄化隊。正式名称『聖火防衛浄化連隊』
シャルロットが生まれ育った施設で優秀な者だけが抜擢され、極秘の任にあたる。施設の中では人気者だった。
シャルロットはホクホク顔で運動場へ向かうとシオンに話しかける。
『シオン、これからもよろしくね!』
『え?あぁ、あの話を聞いたのね。』
『うん。』
『それじゃあ近々近くの街に浄化隊が派遣されることは知ってる?』
『え?そうなの?』
『えぇ。昨日廊下で先輩方の話を聞いてね。』
『でもどうして防衛部隊のはずの浄化隊が派遣されるの?』
『さあ?何かのテストをするような話は聞いたわよ』
『そうなんだ。』
『シャルロット、あなたはどんな事でも正しく判断するのよ?間違っても言いなりになってはダメ。』
『え?シオン何を言ってるの?急にどうしたの?』
『嫌な予感がするの。』
『未来予知?』
『そこまで達してないわ。今はまだ情報が少なすぎる。』
『そう、分かった。気をつける』
数日後、あの事件が起きる。
白い髪が返り血で赤黒く染まり、口元からは誰のものかわからない血が流れる。額からは黒い1本の角が生え、血と肉片がこびりついていた。
『言いなりになってはダメって言ったのに…シャルロット。今の貴女はどんな魔物より危険な存在。私だけが…止めてあげられる。』
「うぐ…るる」
『暫く寝てなさい。シャルロット。』
血と肉が燃え、悪臭が周囲に立ち込める中2人の少女が倒れていた。
1人は施設側が手を回し回収したがもう1人は犯罪奴隷として売り払われたという。
「……」
「どうした?シャル」
『…嫌なこと思い出しただけ。』
「ふうん。」
悠叶はそれ以上聞くことは無かった。
誰でも嫌な思い出はあるその目はそう語っていた。
「シャルーユウトーご飯できたよ~」
「あいよ」
「……あい」
「ほんと仲良しだなお前らは~」
「だったらなんだよゴリラ。」
「ゴリラじゃねぇって言ってんだろ。いい加減やめろよったく。でも何でお前らはそんなに仲良くしてるんだ?」
「……。言わなきゃダメか?」
「ん?いや、言いたくねぇってならこっちで色々想像するだけだから別にいいんだけどよ。」
「……。」
シャルロットはいつもは気にしないようにしていたが今だけはその言葉を聞きたくなった。
そう、シャルロットは身分としては奴隷なのだ。そんな奴隷を、しかも亜人である自分を何故ここまで手厚く保護し庇ってくれるのか
しかし、同時に知ってしまえば今のように気安く接する事は出来ないとどこかで恐れている自分がいる。
「じゃあゴリラは何で衛兵になったんだ?」
「ん?あぁ。俺の育った村は貧しくてな。口減らしの為に国に売られたんだわ」
「…。なんか…すまん」
「謝んなよ事実無根の嘘だから」
「は?」
「実のところ村が貧しかったのは事実だ。その日その日を暮らすのが精一杯で冬が来れば餓死者が相当出る。こんな所で生きていくにはちとハードルが高いってんで衛兵に志願したってわけだな」
「ふうん。」
決して朝ごはんで語り合う話ではなかったが話は続いた。
この時、クラウドは嘘をついていた。
クラウドは自分の保身のためのような言い方をしていたが実際は違う。
彼には生きていれば悠叶やシャルロットと同じ年齢くらいの弟と妹がいた。その弟達はひもじさを紛らわせる為に山菜を採りに山へ入り、魔物に食い殺された。
早くに両親を病で失っていて、家はクラウドだけで切り盛りしていた。
弟達を失った時クラウドは己を、不甲斐ない自分を責め、死ぬ為に衛兵へ志願したのだ。
いつも死ぬ事を考え、生活しているそんなある日、たまたま冒険者組合の組合長が衛兵の詰所に訪れた。
それがカムイとの出会いでもあった。
「貧相な顔ね。もうちょっと前向きに生きたらどう?」
初対面の衛兵に対し、カムイはそう言い放った。
「何だと?俺の目は前しか見えちゃいないが?」
「貴方、隠し事得意じゃないでしょ。いつでも死にたそうな顔してるわよ?」
「はっ国のために死ぬなら本望だね。衛兵冥利に尽きるぜ。」
パンッとかわいた音が響き、クラウドは頬に打撃を受けた。
「馬鹿。本当に死にたいのなら生きたいと心の底から願いなさい。そんな貧相な顔に死神は惹かれたりしないわ。」
「何も知らないくせに知った口聞くんじゃねぇよあんたに俺の気持ちがわかるのかよ!?」
「分かるわけないじゃない。ただ、これだけは言える。どんなに惨めで辛くたって生きていれば…生きてさえいれば証は得られる。」
「証?」
「えぇ。そう人は必ず生きた証を遺して逝くの。証もない人間に死ぬ権利なんてないわ。」
「……。」
「本当に生きた証が欲しいならここに来なさい。衛兵と兼業しても構わないから。」
カムイは一枚の羊皮紙をクラウドに押し付け、そのまま去っていった。
その後クラウドは冒険者組合にも加入し、現在のような生活になったのだ。
面倒見がよく、お節介。そんなクラウドの性格上自分の為に衛兵となったという嘘はおおよそバレていた。だが、悠叶は敢えてその嘘を信じた。それ以上は時期が来ればあちらから話してくるとそう思っていた。
「ほら、ユウト、言ってみろよ」
「言わなくてもいいって言ったじゃねえか」
「言いはしたがやはりこういうのは言っちまった方が楽だろ?」
「…クラウドさん?そんな事言ってないでさっさとご飯食べてもらえます?」
「シャル、野菜残すなよ。」
「…うっ…。」
「ダメ。ちゃんと食べなきゃ大きくなれないぞ?」
『ボクはこのままでも充分だよ。』
「違う。そういう事じゃない。」
『……はーい』
こうして、忙しい戦場整理の日常が再び回り出すのだった。
結局シャルロットをかばう理由は伝えられなかった。でも、シャルロットは今の生活が気に入っていた。だから、シャルロットは悠叶を最後まで信じる事を改めて決意した。
少女に父親、母親、という存在はいない。代わりにいたのは大きめのローブを羽織った人間達だった。
「417番。体調はどうだ?」
417番。少女はそう呼ばれていた。
少女は生まれた時から塀の中にいた。そこには同じ年齢くらいの子どもが複数生活しており、全てのものが番号で呼ばれていた。
『シャルロット、先生に呼ばれているわよ』
『え?あぁ、シオン…うん。ちょっと行ってくる』
シャルロットと呼ばれた少女はぼんやりとした意識で番号を呼んだ先生の元へ向かう。
『先生、何か用事ですか?』
シャルロットは長い言葉を話すのが苦手だった。それ故に念話を習得し、使いこなせていた。
「417番。貴女は今日から個別室へ移動となりました。それと、もう一つ。正式な辞令はまだありませんが貴女と410番が近いうちに浄化隊に徴用されることになりました。良かったですね。」
『え!?ボ…私がですか?』
「えぇ、そうですよ。」
浄化隊。正式名称『聖火防衛浄化連隊』
シャルロットが生まれ育った施設で優秀な者だけが抜擢され、極秘の任にあたる。施設の中では人気者だった。
シャルロットはホクホク顔で運動場へ向かうとシオンに話しかける。
『シオン、これからもよろしくね!』
『え?あぁ、あの話を聞いたのね。』
『うん。』
『それじゃあ近々近くの街に浄化隊が派遣されることは知ってる?』
『え?そうなの?』
『えぇ。昨日廊下で先輩方の話を聞いてね。』
『でもどうして防衛部隊のはずの浄化隊が派遣されるの?』
『さあ?何かのテストをするような話は聞いたわよ』
『そうなんだ。』
『シャルロット、あなたはどんな事でも正しく判断するのよ?間違っても言いなりになってはダメ。』
『え?シオン何を言ってるの?急にどうしたの?』
『嫌な予感がするの。』
『未来予知?』
『そこまで達してないわ。今はまだ情報が少なすぎる。』
『そう、分かった。気をつける』
数日後、あの事件が起きる。
白い髪が返り血で赤黒く染まり、口元からは誰のものかわからない血が流れる。額からは黒い1本の角が生え、血と肉片がこびりついていた。
『言いなりになってはダメって言ったのに…シャルロット。今の貴女はどんな魔物より危険な存在。私だけが…止めてあげられる。』
「うぐ…るる」
『暫く寝てなさい。シャルロット。』
血と肉が燃え、悪臭が周囲に立ち込める中2人の少女が倒れていた。
1人は施設側が手を回し回収したがもう1人は犯罪奴隷として売り払われたという。
「……」
「どうした?シャル」
『…嫌なこと思い出しただけ。』
「ふうん。」
悠叶はそれ以上聞くことは無かった。
誰でも嫌な思い出はあるその目はそう語っていた。
「シャルーユウトーご飯できたよ~」
「あいよ」
「……あい」
「ほんと仲良しだなお前らは~」
「だったらなんだよゴリラ。」
「ゴリラじゃねぇって言ってんだろ。いい加減やめろよったく。でも何でお前らはそんなに仲良くしてるんだ?」
「……。言わなきゃダメか?」
「ん?いや、言いたくねぇってならこっちで色々想像するだけだから別にいいんだけどよ。」
「……。」
シャルロットはいつもは気にしないようにしていたが今だけはその言葉を聞きたくなった。
そう、シャルロットは身分としては奴隷なのだ。そんな奴隷を、しかも亜人である自分を何故ここまで手厚く保護し庇ってくれるのか
しかし、同時に知ってしまえば今のように気安く接する事は出来ないとどこかで恐れている自分がいる。
「じゃあゴリラは何で衛兵になったんだ?」
「ん?あぁ。俺の育った村は貧しくてな。口減らしの為に国に売られたんだわ」
「…。なんか…すまん」
「謝んなよ事実無根の嘘だから」
「は?」
「実のところ村が貧しかったのは事実だ。その日その日を暮らすのが精一杯で冬が来れば餓死者が相当出る。こんな所で生きていくにはちとハードルが高いってんで衛兵に志願したってわけだな」
「ふうん。」
決して朝ごはんで語り合う話ではなかったが話は続いた。
この時、クラウドは嘘をついていた。
クラウドは自分の保身のためのような言い方をしていたが実際は違う。
彼には生きていれば悠叶やシャルロットと同じ年齢くらいの弟と妹がいた。その弟達はひもじさを紛らわせる為に山菜を採りに山へ入り、魔物に食い殺された。
早くに両親を病で失っていて、家はクラウドだけで切り盛りしていた。
弟達を失った時クラウドは己を、不甲斐ない自分を責め、死ぬ為に衛兵へ志願したのだ。
いつも死ぬ事を考え、生活しているそんなある日、たまたま冒険者組合の組合長が衛兵の詰所に訪れた。
それがカムイとの出会いでもあった。
「貧相な顔ね。もうちょっと前向きに生きたらどう?」
初対面の衛兵に対し、カムイはそう言い放った。
「何だと?俺の目は前しか見えちゃいないが?」
「貴方、隠し事得意じゃないでしょ。いつでも死にたそうな顔してるわよ?」
「はっ国のために死ぬなら本望だね。衛兵冥利に尽きるぜ。」
パンッとかわいた音が響き、クラウドは頬に打撃を受けた。
「馬鹿。本当に死にたいのなら生きたいと心の底から願いなさい。そんな貧相な顔に死神は惹かれたりしないわ。」
「何も知らないくせに知った口聞くんじゃねぇよあんたに俺の気持ちがわかるのかよ!?」
「分かるわけないじゃない。ただ、これだけは言える。どんなに惨めで辛くたって生きていれば…生きてさえいれば証は得られる。」
「証?」
「えぇ。そう人は必ず生きた証を遺して逝くの。証もない人間に死ぬ権利なんてないわ。」
「……。」
「本当に生きた証が欲しいならここに来なさい。衛兵と兼業しても構わないから。」
カムイは一枚の羊皮紙をクラウドに押し付け、そのまま去っていった。
その後クラウドは冒険者組合にも加入し、現在のような生活になったのだ。
面倒見がよく、お節介。そんなクラウドの性格上自分の為に衛兵となったという嘘はおおよそバレていた。だが、悠叶は敢えてその嘘を信じた。それ以上は時期が来ればあちらから話してくるとそう思っていた。
「ほら、ユウト、言ってみろよ」
「言わなくてもいいって言ったじゃねえか」
「言いはしたがやはりこういうのは言っちまった方が楽だろ?」
「…クラウドさん?そんな事言ってないでさっさとご飯食べてもらえます?」
「シャル、野菜残すなよ。」
「…うっ…。」
「ダメ。ちゃんと食べなきゃ大きくなれないぞ?」
『ボクはこのままでも充分だよ。』
「違う。そういう事じゃない。」
『……はーい』
こうして、忙しい戦場整理の日常が再び回り出すのだった。
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