罪と勇者

神崎 詩乃

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第2章 世の理

墓守の休日02

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 そんなセリフを悠叶はどこかで聞いた。
 父親の事務所でたまたま流れていたドラマのワンシーンだったのだろうか…。そのセリフが何故か気になった。
  『ねぇ、ユウト、あれは何?』
 シャルロットが指さす方にはサーカスのテントのような物があり、道化の格好らしき人が子ども達に何かを配っていた。
「あれ?サーカス?か?」
『サーカス?』
「色々な曲芸を見せたりショーをやったりする集団だったかな」
『へぇー』
 悠叶がまだ幼い頃母親らしき女性と1度だけ父親の目を盗んでサーカスを見に行った事がある。しかし、その日の夜にはそれがバレ、悠叶は父親にしこたま暴行されたあと車に載せられどこかの山の中へ連れていかれた。
「どうせ暇だし行ってみるか」
『?うん。』
「あっちょっお前ら勝手に移動すんなよ」
「あれ?クラウドだけ残ったのか?」
「あぁ、まぁ俺はお前らの護衛だしな。」
「あっそ」

  悠叶はチケットを購入するとサーカスのテントへ招き入れられる。そして受付席の道化師に声を掛けられた。
「失礼ですがお年は?」
「こいつが12で俺が15だ。」
「そうですか。おっとそちらのお客様。16歳以上は別の入り口になっております故その様にお並びください。」
「俺は保護者なんだがそれでもダメなのか?」
「えぇ。規則ですので。それに我々聖石旅団は10年以上無事故でやって来ております。ですのでどうぞご安心下さい。」
「…まぁ…仕方ねぇか…。おい、2人とも大人しくしてろよ?」
「はいはい」

 そして、それぞれ別の入り口に並ばされ順番に中へ入っていく。
 司会の道化師が大仰に礼をすると幕が上がる。
 「ようこそおいでなさいました。それでは皆様、存分に、軽快にお楽しみくださいまし。」

  暗闇の中、目を凝らしてよく見てみれば本当に子どもばかりいる。その顔はどれも今後に起きる劇場に期待しており、双眸が爛々と輝いていた。

『さーて。どれどれ~?うおっ選り取りみどりじゃないか。どれからいこうかなぁ~』

 スピーカーらしき魔道具から声が響き幕が上がる。
 そこに居たのは骸骨の面をかぶった肌の真っ白い男だった。
「さて、皆さんこんにちわ。私の名はグラム。よろしくね。」
 骸骨面越しに嫌な空気を醸し出すこの男。悠叶の危機管理意識はこの男を敵と囁いているがなんの証拠も無いので断罪すらできない。
「さて、それではショーを始めましょう。」
 
 壇上の幕が上がる。赤い幕の向こうには紅い紅い地獄が繰り広げられていた。

 十字の柱に括りつけられ、生きたまま腸を巻き上げられている者、椅子に座らされ、全身に螺を刺されている者、熱せられた鉄板の上で歩かされている者。
 見るも無残なその光景にその場にいた人間はどう対応していいかわからなかった。

「…こりゃどういう事だろうな…。」
『トラブル発生?』
「ッチ」

 どこからか聞こえた舌打ちを聞こえなかったことにして悠叶は周囲を注意深く窺う。
「さぁ最初の演目は穴通し!お客様。ごあんなーい」

 壇上から鎖が伸び、観客席を穿つ。再び壇上に戻る頃には子どもを1人携えていた。

「やぁ。お名前は?」
「……ソリティア……」
「ソリティアか。いい名前だ。それでは君はそこに立っててね。今から行うは穴通し。少し痛いかもしれないが気を強く持って。早々に壊れてくれるなよ?」

 少女はもがくがきつく絞められた鎖はびくともせず足の甲にドリルのような物が迫る。

「そこまでだ。糞野郎。」

 悠叶はそのドリルが少女の足を貫通する様を見届ける趣味はない。そのまま壇上へ上がり、骸骨面に迫っていく。
「どうしたんだいヒーロー?」
「あまりにも酷すぎる惨劇を見せてもらったんでな。ちょっとばかし礼をしてやるよ。」
「いいのかい?私を殺して?」
「何人死んでる?10か?20か?どっちにしたってこんな残酷な仕打ちしていたら俺のいた国では死刑確定だ。」
「クックッ君、面白いね。名前は?」
「カガヤ・#ユウジ__・_#だ。」
「っふ…あれ?君、嘘ついたね?」
「見ず知らずの人に名を名乗るほど不注意な奴じゃない。それに今ので分かった。」
「何を?」
「誰が教えるかよ。」
「そうかい。でもいいのかい?この少女は私の気分で肉塊にだって出来るんだけど?」
「奇妙なことを言うやつだな。少女なんてどこにいるんだ?もとよりここには俺とお前らしかいないぞ?」

 その言葉でグラムは周囲を見渡した。しかし、そこには自分の手足となる部下しかおらず先程までそこに居た子供たちの姿もない。

「なんてこった。ここは?あの子達はどうしたんだい?」
「ここ?ここは地獄だよ。」
「……『振り子』!」

 何も無い二人の間に突如大きな斧が現れ、振り子のように迫ってくる。
「うわっ12番『停止』」
 悠叶の目の前でピタリと停止し、動かなくなる。
「君…もしかして転生者?」

 グラムは骸骨面の下で笑う。
「どうしてそう思う?」
「君の魔法はこの世界の魔法では無いように見えたからね。」
「それは俺も同じだな。お前は何者だ?」
「アメニア王国の情報集積官。どちらかと言うと拷問官かな」
「あれらは子どもだ。なぜ殺した」
「は?君は殺人鬼になぜ殺したか尋ねるのかね。なぜ殺したかなんて分かるだろ?殺したかったからさ。」
「……。」
「幸せそうなガキどもの顔が絶望に染まる姿がとても愛おしいんだよ私はね?さぁ。君はどんな顔で泣いてくれるんだ?」
「……俺も大概狂ったやつを見てきたけどお前ほど狂ってるやつはあまり見たことがないな」
「お褒めに預かり光栄だ。では、君はいったい何者だい?」
「通りすがりの一般市民と答えておこう。」
「クックッいいね。そのギャグ。面白いよ。」
「テメェみたいな屑を笑わせる趣味はねぇ。さっさと地獄に帰れ。」
「それは遠慮させてもらうよ。『処刑斧』」

 悠叶の足元に大きな斧が突き刺さる。それは真っ赤に彩られた斧で持ち手まで赤く赤く染まっている。
「召喚魔法って奴か」
「その通り。」
「めんどくせぇな。32番『立方体キューブ』」

 悠叶は立方体の上に飛び乗るとそのままグラムの上へ移動し、叩き潰す。
「『骨砕き』」

 グラムの手の中で先ほどのドリルが唸りをあげ、悠叶の足場の空間を破壊していく。

「はっ?」
「あれ?君ご存知ない?君が空間を支配する能力なら私の拷問器具は破壊する能力さ。」
「概念的なものって事か」
「イグザクトリー。」
『シャルロット、影鬼を3体出しておいて。何を置いても相手の攻撃を受けないように。』
『分かった』
「そろそろ止まって?『鎖』」
「やだね『重力』」

 重力に引かれ、鎖はそのまま地に埋まる。
「『穴』」

「は?重力まで操れるのかい…!?」
「だったらどうした?『停止』」
「うわっ『破砕槌』」
「ッチ埒あかねぇな」
「きっ君はなんの職業何だい?」
「お前が死んだら答えてやるよ」
「ちょっいいじゃないかその位『やっとこ』」
 ミチリと音が聞こえ、悠叶の腕から肉が少し抉られる。 
「あぁ、やっとこか…その後の煙草の方が痛かった。」
「なっ痛みはないのかよ!?」
「ん?あぁ、痛みはねぇ。ただ、怒りは湧くね。『亜空切断』」
 鮮血が迸り腕が宙を舞った。そして、遅れてグラムの絶叫が響き渡る。
「あがぁぁぁいっ痛い。血がっこんなにっ早く、早く止めなきゃ。」
「大丈夫。すぐ治してやるさ。『穴』」
「ぐっ『電気椅子』」
『キャッ』
「あっバカ!」
 そろそろ決着がつくと予測したシャルロットは不用意に姿を晒した。そして、敵の術中にハマる…。
「あれあれ?お仲間さん?まっいっかじゃあねスイッチオン♪」
電気椅子の電極が青白く煌き始める。処刑器具として名高い電気椅子に掛けられたシャルロットの顔に絶望の色が浮かぶ。
『ユウ…ト…』
「くっそ。間に合え!?」
悠叶は素早くシャルロットを囲い自分と入れ替える。
「あっはははっ君が代わってくれるのなら都合がいい。死ね!」
「ウッグ」
 痺れる刺激が身体を襲い、言葉を紡ぐことも出来ず、意識だけが遠のいていく。

 生前の【痛みの記憶】が蘇り、タバコで焼かれた記憶、寸刻みに切り刻まれた腕、歩いて逃げないように切られたアキレス腱…全てが走馬灯のように流れていく。

 最後に現れたのはカールたちと過ごしたあの家でシャルロットも一緒に鍛錬している姿だった。

『ユウト!?ユウト!?ダメ!?起きて!?起きてったら!?』

 全身からぐったり力の抜けた少年を白髪の少女が問いかけるが返答は一向になかった。
「あはははッ君の彼氏?死んだよ?死んだ。」
「……まだ…」
「は?電気椅子だよ?死刑にも使われてる様な処刑器具だよ?」
「……まだ…死んで…ない!」
「はっ君もすぐに彼氏の元に送ってやるよ『鎖』!」
『お願い守って影鬼達!!』

 白髪の少女の額にある黒い角が伸びる。普段は中々目立たないそれが。輝きを放ちながら伸びていく。
 
 ザワザワ…ザワザワ…。
角に呼応するように影が生まれ、そして形をなしていく。周りを見渡せば数百程の黒い鬼が隊列を組み始め、悠叶達を守るような布陣を敷く。
「なっなんだこれはっ」
「……ありがと…。」
『ユウトは絶対守る!』

 白い少女が黒い軍を率いて、更なる激闘が幕を開けた。
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