衛生兵を呼べ! 〜異世界医療ファンタジー〜

神崎 詩乃

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白い魔女と従者達

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「はぁ……。二人とも……。『止まれ』」
 魔力も何も乗っていない言葉により、飛竜と魔人形が活動を停止し、大人しくなった。
しかし、ジャービスの目は違っている。どうも興奮が抑えきれていないようだ。
「妙だね。」
 ジャービスの身体に触れると熱っぽく、身体の周りを診ていくと右の翼の付け根付近に豆粒の様な物を発見した。
「あぁ……狂化芽胞か。痛かったね。気づくのが遅れてごめんね。」
「キュル~」
 豆粒のような物を取り除くとジャービスは落ち着きを取り戻し、甘えた声を出しながら頭を擦りつけてきた。
「ゼロ、被害は?」
「配下を十名程失いましたがすぐに元通りになるので問題ありません。」
「分かった。」
「おい、ユリア。怒り散らす前に言え。何があった。」
「怒ってなど……。」
「大丈夫だ。今は誰も見ていない。」
 アイリスも周囲を見渡し、力強く頷いた。
「……なら遠慮なく。うちの子にちょっかいをかけられた。かけた奴をぶちのめす」
「なるほどな。取り敢えず落ち着け。キレたお前を止める手段はあまり無い。」
「うんうん。」
 首がちぎれんばかりに頷くアイリスの姿を見て少し怒りが収まっていくのを感じた。
「あら、少しはあるのね。」
「あぁ。まぁな。」
「そ、れ、よ、り、も!フィード、帝都に行く用事があったよね?」
「あぁ。この後すぐにでも転移してもらおうと……まさか犯人は帝都にいるのか?」
「えぇ。さっき芽胞を触った時、魔力の流れを感じたの。多分観察魔法ね。」
「犯人は帝都に居る……と?でも、監視してたのなら今頃バレたことに勘づいて逃げてるんじゃないの?」
「簡単に逃げられないように手は打ったわ。」
『土着の呪いたぁ古い術を使ったもんだな。命に関わる術式で見せしめに殺せばいいのに。』
「ただ殺すだけじゃ一時しのぎにしかならないもの。後悔させてあげなきゃね。」
「ユリア、怖いよその笑顔。」
「その、土着呪いってのはどんな呪いなんだ?」
『その土地から離れようとすると様々な不幸に見舞われ離れられなくなる術だな。解呪は楽だがな』
「昔は犯罪者の逃走防止や決死隊の逃走防止に使われたんだよ」
『呪術が使える「人間」は特異らしいからな。』
「あぁ。確かに呪術は悪魔の術式、魔物の術式と排斥が進み、今じゃ余程の事情がない限り呪術は使えないな。」
『確立された技術を失ったわけだ。』
「さて、そんなことよりさっさと行くよ。」
「おい、ジャービスもつれていく気か!?」
「ジャービス、小さくなって。」
「キュイ!」 
 元気を取り戻したジャービスは肩に乗れる程の大きさまで縮み、丸まった。
「これで問題ないわね?」
「……もう何も言わん。エドもつれていくか。」
「連れてまいります。」
「あぁよろしく。」

 暫くしてアイリスがエドを連れてくると景色が歪み、すぐさま風が変わったことが感じられた。どうやら帝都郊外にある廃教会に出たらしい。ここは以前から出入りしている秘密基地のような場所だった。

「便利なものだな。」
「距離と質量によって魔力消費が増えるから、戦場じゃ使えないわ。」
「魔力を消費した状態で戦闘はしたくないですからね」
「まぁ、だから石版を使うんだけど。ゼロ、設置してきて。」
「御意」
「おい、帝都だぞここは……もし逆に利用されようものなら……」
「じゃあフィード、今ゼロが設置した石版見つけてきてよ。」
「お前がそう言うって事は見つけに行っても空振りになるだろ。」
「あら、つまらないの。でも正解。私や私の魔力に連なる物にしか石版を認識できないように細工したからね。」
「なるほどな」
「殿下、お急ぎを。そろそろ元老院の方々が休戦の申し出の報せを受け取る頃です。」
「頭の固い連中を至急集めて根回しの時間を削ぐとするか。」
「手配します。」

アイリスはどこかを目指して駆けていった。
「さて、俺はお前の上官としてお前の行動をある程度知る必要がある」
「実家に帰らせていただきますわ。」
「お前、本当に嘘が下手だな。」
 努めて無表情に伝えたはずなのだが、フィードにとってみればバレバレらしい。
『実際問題実家の様子が気になるのは確かなんだろうがな。』
『主様の実家……。私気になります。』
「あ、サクラ……出てくるなって言ったのに……。」
「……その力……。呪具か?また作ったのかお前は……。代償はなんだ?」
『周囲の呪力を弾とし被弾者に呪毒を打込みます。周囲に呪力が無い場合相応の呪力を使用者より頂きますが代償はそんなものです。』

「魔法を使わない戦闘能力が欲しくて作った。」
「お前、帝国法を勉強してないのか?呪具の作成は大罪なんだぞ?」
「既にブラッド持ってるし……今更でしょ」
「ブラッドはお前が転生前に作ったもんだろうが!そっちはノーカウントできても今生のお前が作ったらカウントせざるを得ないだろう?」
「……。フィード、手を出して。」
「あ?」
 掌の上に精緻な魔法陣が描かれていく。意味を理解する事が出来ずにフィードが見ていると少しだけ魔力が抜かれた事が分かった。
「『呪具作成』っと」
「お前!?一体何をした!」
「はい、共犯者。まだ自我は無いみたいね。」
 フィードの掌の上には一冊の手帳があった。その装丁は赤黒く、人を惹きつける何かを感じることが出来る。
「お前!これ!」
「名前をつけてあげて。フィードの魔力から作成したからマスター権限はフィードにあるわ。」
「……ったく……。ノート……。でいいか。」
「じゃあその呪具は『ノート』ね。」
「お前は!まずポンと呪具を作るのやめろ!」
『呪具は人生に一つしか作れねぇからな。フィード得したな。』
「む?そうなのか?てっきりポンポン作れるものかと思ったが」
『粗悪品ならポンポン作れるぜ。ただ、それで作った場合、大半は人に害なす呪具にしかならねぇ神官共が解呪して終わりだ。』
「なるほど。それでこの呪具は何が出来るんだ?」
『さぁな。まだ自我がねぇんじゃどうにも分かんねぇ。取り敢えず自我が芽生えるまで持っていてお前の魔力を覚えさせるんだな。』
「……はぁ。分かった。」
「んで、本題だけど。実家に一度顔を見せに帰るよ。多分母様がカルテの海で仕事してるから」
「おいおい……治癒士の大御所としてそれはどうなんだ?」
「個人で治癒士してる所に普通の治癒院並の人が来るんだもん。かなーり緻密に整理してから軍属になったけど仕事のし過ぎで身体壊していないか心配だわ。 」
「ワーカーホリックは母親譲りか」
「首都郊外にある小さな治癒院にみんな来すぎなのよ入院患者が余りいないのが救いね入院患者のスペースは残念ながらそんなに無いもの。」
「英雄の実家も大変だな。」
「殿下、準備が整いました。」
「それじゃあユリア、明日の朝皇宮に来い。衛兵には話を通しておく。」
「……やれやれ、分かったわ。んじゃまた明日。」
「おう。」
「またねユリア。」
 久々の実家に転移すると案の定母が書類の海に居た。
「ただいま……ねぇ、母様。この惨状は何?」
「……ユリア!?大丈夫?どこも怪我してない?どうしたの?急に?」
「ちょっと休戦になりそうでね。殿下と一緒に戻ってきたの。それで?この惨状は何?」

 母はバツが悪そうに顔を顰めた。

「……最近呪いが原因と見られる諸症状で来る人が多くてね呪症の傾向を探っていたの。」
「どんな呪い?」
「一番多いのは狂化の呪いね。次に爛れ。人体の変成もあったわ。どれもココ最近で増えてるの。」
「母様、これは?」
 床に転がっていた紙切れを読んでみれば神官庁からの呼び出し状である。
「元々呪毒に対しては神官の解呪が有効なの。それを白魔術で治しちゃう治癒士がここに居ます。さて、神官庁としてはどう見るかしら?」
「……神官の権威が危ぶまれる……と?馬鹿馬鹿しい。」
「だから神官庁としては私を神官に仕立て上げて神官の業務として治癒の力を振るって欲しいのよ。」
「しかも、こちらから出向けとはね……。神官庁は頭悪いの?」
「元々権威やなんだと煩いから治癒料は神官に解呪頼むより若干高くしてあるのにね。」
「母様でも配慮はしているんだ……。」
「まぁ、それくらいはね。ユリアはどのくらいまで家にいてくれるのかしら?」
「明日の朝には殿下から呼び出しされているの」
「あら、残念。午後からまた診察あるから手伝ってね。」
「えぇ。大丈夫よ。」
「キュイ」
「あら……可愛い助手さんね。」
「ジャービスっていうの。これでも成竜だから外で休んでてもらうね。」
「行ってらっしゃい。」
 外に出て薬草の畑を避けた場所でジャービスを下ろし元のサイズに戻ってもらった。
「ゼロ、ファースト、セカンド、サード、フォース、フィフス。出てきて」

影が勢いよく隆起し、それぞれ並んで膝をつく。

「はっお呼びでしょうか」
「ゼロとファースト、セカンド現魔族領にて情報を収集して。くれぐれも悟られないように。」
「御意!」
「サードはこの国の貴族連中の動きを洗って。特に呪物のやり取りや資金の流れを追いなさい。」
「はっ。」
「フォースとフィフスは母様の手伝い。フィフスは父様とも連携して」
「かしこまりました。」
「お嬢様、分身体を残しておきますのでご活用ください。」
「ゼロ……。分かった。じゃあよろしく。」

 次々と従者たちが消え、ジャービスが元の大きさに戻り、眠る。
「ジャービスは少し休んでて。暴れちゃダメよ?」
「キュイ!」

 それぞれに指示を出し終え、家に帰ると母が書類を片付けていた。フォースが書類を分類しフィフスが運ぶ。母がそれを見ながら指示を出していく。そんな平和な時間がゆっくりと流れていた。
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