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賢者のいない皇宮
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不必要に大きく、重い扉を開け執務室に入るとげんなりする量の書類がうずたかく積まれている。
「俺はまだ皇子のはずなんだが?なんでこんな書類が山積みされているんだ?」
「殿下、こちらを。」
現皇帝、フィードの父にあたるフィレルが手紙を残していた。
『お前不在の間、フィルトに政務を一部を任せていたが、手が足りぬ。緊急の要件では無いから帰ってき次第目を通すように。顔を出すのは後でで良い!』
「どうやら父上も大変なようだな。」
「御前会議までまだ時間がありますから取り敢えずこの山から片付けましょうか」
「あぁ。そうするか」
執務室でカリカリとペンの走る音がする。その音が止まると今度はお茶を注ぐ音。静かな時間は会議の時間を知らせに来た侍従により遮られた。
「さてと、行くぞ。行きたくないが」
「ほんと殿下元老院の方々嫌いですよね。」
「まぁな。俺が嫌ってるのを知ってか知らずか、フィルトを皇帝の座に座らせたいらしいぞ?」
「血みどろの宮廷劇になりますか?」
「いや、ならんよ。俺がさせない」
「分かりました。」
間諜対策に作られた重くて硬い扉を開くと戦場とはまた違う空気が感じられた。部屋の最奥には現皇帝が堂々と座っている。
「フィードよくぞ戻ったな。」
「はっ。戦地にて魔人族の代表から停戦を求められ、その話をこの場でどう対応するのか協議したく戻って参りました。」
「……俄には信じ難いがお前が言うのだ。皆で考えようではないか。」
元老院議員の中には当然派閥がある。
好戦的で野心家揃いの好戦派。早期決着を求める文官で構成された文官派。穏便な解決法を模索する穏健派。勝ち馬を吟味している日和見派……。それぞれが自身の利益を第一に考え口上を述べる。
「停戦を申し出る程奴らは衰えている証!今こそ一気呵成に責めるべきではないでしょうか!」
「何を言う!ここは停戦に応じ、我が国の懐の深さを知らしめるべきであろう!戦費で民を飢えさせる気か!」
「お待ち下さい。敵が下がるというのなら次に攻める気を失わせるように砦を建設し、備えましょうぞ。」
「……。はぁ。」
「陛下、今こそご決断を。」
「……ふむ、俺は話だけ聞いてワイワイと騒ぐのは好かないんだ。この御前会議も建前でしかない。結論は既に出ているのだからな。フィード。お前が決めろ。」
「御意。私の意見は停戦協定を結ぶ事です。現在の我が国の国力は今回の戦争で大分痛手を負いました。何よりも働き盛りの兵士たちを大勢失っております。このまま戦争を続けても士気は下がり良くて共倒れとなるでしょう。チグリス王国の者も好機と見れば即座に背中を刺してくると予想されます。故にここは停戦しお互いに体勢を整え返り討ちにしてやりましょう。」
「だろうな。とまぁそういう事だ。関係者は停戦の準備をせよ。これにて会議は終了とする。
フィードとアイリス卿は残れ。」
「「御意!」」
何人かは不服そうな顔をして会議の場から退出したが、皇帝陛下は満足そうに椅子に座り直した。
「それで?二人とも戦場はどうだった?」
「正直戦争は二度と起こしたくないですね。人材と土地と機材の無駄です。」
「多くのものを失いました。己が力不足を恥じるばかりです。」
「はっ。しかし民草をまとめる国として戦争は外交手段の一つであると分かっているよな?」
「出来うる限り回避して行こうと思っておりますよ。父上。」
「上出来だ。陸軍省に無理を言ってお前を将として派遣してよかった。が、戦果報告を読んだが些かやりすぎではないか?」
「まさか。あの後敵将が単騎で襲撃してきたんですよ?雑兵は消し炭にできてもやはり魔人族の将ともなると火力不足が否めません。」
「……そうか。二人とも鍛錬に励み、次の戦いで雌雄を決するように。」
「……。父上、二回目があるのでしょうか?」
「あぁ。ある。間違いなくだ。奴らの狙いは減った戦力の拡充と次の戦いで勝つ準備を冬の間に済ませる事だ。恐らくだが春先か夏に再び戦端が開かれるだろうよ。」
「次は目にものを見せてやります。」
「殿下の身は私の命に代えましてもお守り致します。」
「期待している。では二人とも下がって良いぞ。」
「はっ失礼します。」
謁見の間を離れ、執務室に到着するや否やフィードはソファーに寝転がった。
「あんのクソ親父!俺に決めろと言いやがった!軍将連中はこっちに投げる気満々だな!」
「殿下、少し落ち着いてください。」
「ったく……。戦死者の弔金の話もフィルトと詰めておかねばな。明日出向く旨を伝えてくれ。」
「承知致しました。あとは如何致しますか?」
「テキトーに書類に目を通して過ごすさ。エド、散歩は後でな。」
「ガル。」
「では少し外します。」
「あぁ。頼んだ。」
静かになった執務室にペンの走る音だけがしている。その音を聴きながらエドが飛び回り、ペンの音が止まると今度は執務机に降り立った。
「インク、倒すなよ?」
「ガルガル。」
信用してくれと言わんばかりに頭を振ったエドに疑惑の視線を向けた。
「信用ならないな……お前前科持ちだからな」
「ガルガ~」
落胆しつつも執務机で遊ぶエドを見ながら一枚の書類を手に取った。
「ふむ、勇者が来てしまったか……。しかし今は休戦中。リードをしっかり握り締めておかねばならんな。」
そこには静かな時が流れていた。
「俺はまだ皇子のはずなんだが?なんでこんな書類が山積みされているんだ?」
「殿下、こちらを。」
現皇帝、フィードの父にあたるフィレルが手紙を残していた。
『お前不在の間、フィルトに政務を一部を任せていたが、手が足りぬ。緊急の要件では無いから帰ってき次第目を通すように。顔を出すのは後でで良い!』
「どうやら父上も大変なようだな。」
「御前会議までまだ時間がありますから取り敢えずこの山から片付けましょうか」
「あぁ。そうするか」
執務室でカリカリとペンの走る音がする。その音が止まると今度はお茶を注ぐ音。静かな時間は会議の時間を知らせに来た侍従により遮られた。
「さてと、行くぞ。行きたくないが」
「ほんと殿下元老院の方々嫌いですよね。」
「まぁな。俺が嫌ってるのを知ってか知らずか、フィルトを皇帝の座に座らせたいらしいぞ?」
「血みどろの宮廷劇になりますか?」
「いや、ならんよ。俺がさせない」
「分かりました。」
間諜対策に作られた重くて硬い扉を開くと戦場とはまた違う空気が感じられた。部屋の最奥には現皇帝が堂々と座っている。
「フィードよくぞ戻ったな。」
「はっ。戦地にて魔人族の代表から停戦を求められ、その話をこの場でどう対応するのか協議したく戻って参りました。」
「……俄には信じ難いがお前が言うのだ。皆で考えようではないか。」
元老院議員の中には当然派閥がある。
好戦的で野心家揃いの好戦派。早期決着を求める文官で構成された文官派。穏便な解決法を模索する穏健派。勝ち馬を吟味している日和見派……。それぞれが自身の利益を第一に考え口上を述べる。
「停戦を申し出る程奴らは衰えている証!今こそ一気呵成に責めるべきではないでしょうか!」
「何を言う!ここは停戦に応じ、我が国の懐の深さを知らしめるべきであろう!戦費で民を飢えさせる気か!」
「お待ち下さい。敵が下がるというのなら次に攻める気を失わせるように砦を建設し、備えましょうぞ。」
「……。はぁ。」
「陛下、今こそご決断を。」
「……ふむ、俺は話だけ聞いてワイワイと騒ぐのは好かないんだ。この御前会議も建前でしかない。結論は既に出ているのだからな。フィード。お前が決めろ。」
「御意。私の意見は停戦協定を結ぶ事です。現在の我が国の国力は今回の戦争で大分痛手を負いました。何よりも働き盛りの兵士たちを大勢失っております。このまま戦争を続けても士気は下がり良くて共倒れとなるでしょう。チグリス王国の者も好機と見れば即座に背中を刺してくると予想されます。故にここは停戦しお互いに体勢を整え返り討ちにしてやりましょう。」
「だろうな。とまぁそういう事だ。関係者は停戦の準備をせよ。これにて会議は終了とする。
フィードとアイリス卿は残れ。」
「「御意!」」
何人かは不服そうな顔をして会議の場から退出したが、皇帝陛下は満足そうに椅子に座り直した。
「それで?二人とも戦場はどうだった?」
「正直戦争は二度と起こしたくないですね。人材と土地と機材の無駄です。」
「多くのものを失いました。己が力不足を恥じるばかりです。」
「はっ。しかし民草をまとめる国として戦争は外交手段の一つであると分かっているよな?」
「出来うる限り回避して行こうと思っておりますよ。父上。」
「上出来だ。陸軍省に無理を言ってお前を将として派遣してよかった。が、戦果報告を読んだが些かやりすぎではないか?」
「まさか。あの後敵将が単騎で襲撃してきたんですよ?雑兵は消し炭にできてもやはり魔人族の将ともなると火力不足が否めません。」
「……そうか。二人とも鍛錬に励み、次の戦いで雌雄を決するように。」
「……。父上、二回目があるのでしょうか?」
「あぁ。ある。間違いなくだ。奴らの狙いは減った戦力の拡充と次の戦いで勝つ準備を冬の間に済ませる事だ。恐らくだが春先か夏に再び戦端が開かれるだろうよ。」
「次は目にものを見せてやります。」
「殿下の身は私の命に代えましてもお守り致します。」
「期待している。では二人とも下がって良いぞ。」
「はっ失礼します。」
謁見の間を離れ、執務室に到着するや否やフィードはソファーに寝転がった。
「あんのクソ親父!俺に決めろと言いやがった!軍将連中はこっちに投げる気満々だな!」
「殿下、少し落ち着いてください。」
「ったく……。戦死者の弔金の話もフィルトと詰めておかねばな。明日出向く旨を伝えてくれ。」
「承知致しました。あとは如何致しますか?」
「テキトーに書類に目を通して過ごすさ。エド、散歩は後でな。」
「ガル。」
「では少し外します。」
「あぁ。頼んだ。」
静かになった執務室にペンの走る音だけがしている。その音を聴きながらエドが飛び回り、ペンの音が止まると今度は執務机に降り立った。
「インク、倒すなよ?」
「ガルガル。」
信用してくれと言わんばかりに頭を振ったエドに疑惑の視線を向けた。
「信用ならないな……お前前科持ちだからな」
「ガルガ~」
落胆しつつも執務机で遊ぶエドを見ながら一枚の書類を手に取った。
「ふむ、勇者が来てしまったか……。しかし今は休戦中。リードをしっかり握り締めておかねばならんな。」
そこには静かな時が流れていた。
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