怪物と呼ばれたモノ

神崎 詩乃

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第一章 占領

決戦リンデンバルク湖

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「総員戦闘準備整いました。」

 帝国の軍人が敬礼と共に報告を入れる。そして、リンデンバルク湖の畔にある小さなログハウスに交換する人質を放り込む。ログハウスの中に爆弾を仕掛け、湖の中に真空波動砲をセットさせた。これで万が一爆弾を解除されても連れ出した時点でログハウスごと木っ端微塵に出来る事だろう。それに、各所に人員を配置させた。まさに水も漏らさぬ鉄壁の構えといえよう。
「ご苦労。して、向こうの交換材料は何だったかな?」
「はっ我が帝国軍第2都市攻略部隊所属の隊員10数名です。」
「ふむ…敵国に渡ってしまった哀れなる同朋か…奴らごと爆破してしまえ。スパイ教育されているかもしれぬ」
「はっ確かにそうでありますね。流石隊長。慧眼恐れ入ります」
「何、大したことは無いさ。」

 都市攻略部隊を任されているトーマスは整った顔を醜く歪めると約束の時を待った。

「副隊長」
「はい!?」
「ここは一旦お前にまかせる。タバコを切らしてしまってな。1度ベースに戻って取ってくる」
「分かりました。しかし、敵がどこに潜んでいるか分かっていませんからお気をつけて」
「あぁ」
 時同じくしてリンデンバルク湖を囲む森の中。小さな人型の何かが周囲の状況を確認していた。

「ルチルーやっぱり罠っぽい。うへ、科学者達に爆弾ベスト着せてるよ…」
「エレンへ……爆弾の解除は小人にゃできないね。湖の中は?」
「ルチルへ、何か大きな大砲のようなものが見えます。」
「ヨミへ、大砲…ね水中でも使えるのか…。」
「ルチルへ、今のところ不明です」
「エレン、爆弾の種類はどうだい?」
「カトリ、どうやら液体火薬っぽい」
「クレイン、敵の様子は?」
「カトリ、うじゃうじゃいやがる」
「ルーデル、そっちは?」
「カトリ、こっちもうじゃうじゃ。奴さん来世は蟻にでもなりたいのかな?」
「……了解。総員そのまま待機。さて…どうしたものか…。」

 無線から聞こえてくる声には落胆の色が見える。だが、こうなる事は前もって理解していた。
 だから…全てを一撃で終わらせる…。その為にきた。
 私は息を吸いこみ、吐く。するとキラキラと輝く吐息が漏れ周囲の気温が下がる。
 リンデンバルク湖はこの外郭都市の水源である。半径20キルメルトル。王国内でも一二を争う大きさで、真冬でも中央まで凍らない湖だ。
「レティシア、いいかい?科学者は着ている爆弾だけを凍らせるんだよ?」
「……。取り敢えずやってみる。」
 凍らせる。すべての時間を奪うように…。命もまた奪う。
 頭では理解している。私がやらなくてはその他大勢の知人が死ぬ。
 私が殺すのはあくまで他人。しかも敵。これは戦争なんだ…。

「ザック…居るんでしょ?」
「……。視えてんのかよ」
「貴方は昔から居たんだね。あの牢にも…。」
「如何にも。」
「なら、私が昔した質問、覚えてる?」
「……。『何故人は争うのか?』だったか?」
「そう。」
「んなもん簡単だ。人は人だから争うのさ。」
「……。え?」
「人間は違いを許容出来ないからな。隣の芝生は青いって言葉があるだろ?そんな感じさ。なんでも比較するし、自分が弱ければ他者を蹴落としてでも強くなろうとする。だから争うのさ」
「……。なるほど。」
「死んだ者は戻らない。戻してはいけない。だが、命を奪われるのは単純に『弱いから』さ。お前に氷漬けにされたって前もって情報を仕入れていれば対策が立てられたかもしれない。しかし、奴らはそれを怠った。いいか?生きていく上で一番重要なのは情報だ。それだけは肝に銘じておけよ?」
「……。う、うん。」

 昔、屋敷の書物の中に戦争を描いた物語があった。物語の中では勇者が邪悪な魔王軍と戦うと言った平凡な物語だったが、その時ふと疑問を口にしたのだ。

「何故人は争うの…」

 誰もいない座敷牢でポツリと呟いた言葉だったがそのあと、先程のザックのような声がどこからとも無く聴こえてきた。妖精かなにかかと思っていたが…その頃から既に存在していたとは……。

「そら、気合を入れろ?お前の前には倒さねばならない敵がいる。倒さなければお前やお前の知り合いが死ぬかもしれない。今出来ることをやれ。」

「ザック……。ありがと。」
「は?いや、とにかくぱっぱと終わらせちまおうぜ。」
「うん、そうだね。」

 深く、深く息を吸う。肺が空気を吸って身体の中で何かと混ざり、再び口から出ていく。イメージするのは氷海。全てを凍結させる。ただし、ログハウスの中までは冷やさない。意識を集中させて地中すら凍らせていく。
ザックは目にした。レティシアの透き通るような白い髪が更に白さを増して、赤い瞳が真紅に輝くのを。そして、レティシアの背後から伸びてきた純白の尾、人間の魔力量では足りず、本来あるべき姿である龍に戻りつつあるレティシアの姿を……。

「限界はわりと近いのかもしれないな…」
 ザックの呟きに反応するものは誰一人としていなかった。

神話暦1319年氷の月14日 16時36分
この日初めて凍らない湖が凍った。

 原因は不明だがレジスタンス側から化学兵器が使われたという見方が広まった。帝国軍の被害は都市攻略第1部隊員全滅。隊長であるトーマス・アストラルは攻撃時にその場に居合わせなかった為に右腕の凍傷だけで済んだが、その時の怪我で右腕を失った。

トーマスは激怒した。
 自らの右腕と部下を失い初めて王国を敵国と認識した。
 化学兵器などと嘯いている輩もいるがそんなものではない。我々は手も足も出ず敗北した。あれは化学兵器ではない。もっと恐ろしくもっと強力な……。あれほどの兵力を王国はどこに隠していたというのだ……。

「王国に関する情報を徹底的に集めなくては…そして黎明の翼なる組織についてもだ……。」

 トーマスが戦場医院で治療を受けつつ決意を新たにしているちょうどその頃、黎明の翼のアジトではお祭り騒ぎとなっていた。

「凄いじゃんレティシア!一撃で帝国軍をやっつけるだなんて!」
「……。まぁ…。」

 人を殺して喜ばれる…やはり戦場は狂っているのかもしれない。
「はいはい、レティシアも疲れてるだろ?取り敢えず、部屋へお戻り。」
「え?あぁ、うん。」
「じゃあ一緒に戻ろ!あたしも疲れた!」
「エレン?あんたはまだ報告が残ってるだろ。ほら、さっさと行っといで」
「えー……。ちぇー分かったよ。」

 ルチルにそう言われ、エレンは作戦本部とされている部屋へ渋々向かっていった。

「エレン、入ります。」

 背筋をスっと伸ばし、入室するとそこにはカトリやルチルなどのメンバーが勢揃いし、エレンは空いている席に座った。

「えぇと、今回の議題はレティシアについて、だ。」
「レティシアについてはあたしから話そう。」

 カトリの言葉にルチルが立ち上がり、皆に話をする。
 それは語り部の一族のみに伝わる龍と人の物語だった……。
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