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1章
声は若いままだけど
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夕食を終えてソファに腰かけたころ、スマホが震えた。
画面に表示されたのは、娘・彩乃からのLINEだった。
彩乃(LINE):「ママ、今ちょっと電話できる?」
「いいよ」とだけ返信してすぐ通話に切り替えると、数コールで繋がった。
彩乃:「……おつかれさま」
真理:「そっちこそ。バイトだったの?」
彩乃:「うん、コンビニ。今日は品出し地獄だった~」
彩乃の声は、どこか甘えた響きがあった。
元夫のもとに引き取られてからも、こうして折に触れて連絡をくれる。
真理:「卒業式、もうすぐなんだよね」
彩乃:「うん。来てくれる?」
真理:「もちろん行くよ」
彩乃:「ありがと。あっちは仕事が入るかもって言ってたし……」
“あっち”というのは、元夫のこと。
彩乃は特に悪く言わないが、どこか線を引いた言い方をする。
彩乃:「大学決まったら、また引っ越しとか色々あるしさ。決めなきゃいけないことが山積みで……」
真理:「なにかあったら、いつでも言ってね」
彩乃:「うん……なんか、ママにだけは言いやすいからさ」
その一言に、胸が少しだけあたたかくなった。
彩乃:「ママって今、なんか仕事してる?」
真理:「うん、週に何回かスーパーでパートしてるよ」
彩乃:「あ、前言ってたやつ?」
真理:「そうそう。品出しとか、棚の整理とか」
“声の仕事”のことには触れずに済んだ。
彩乃:「ママさ、ちゃんと寝てる?」
真理:「寝てるよ。一応、健康第一だし」
彩乃:「無理しないでね。ほんとに」
通話が終わったあともしばらく、スマホを伏せたまま、真理は天井を見上げていた。
(今の生活に、娘の話を混ぜる隙間があるのかな)
離れて暮らしているせいか、彩乃とはほどよい距離感が保てている。
でも、それが“本当に親子らしい関係”かと問われれば、少し自信がなかった。
──高校卒業を控えた娘。その先の未来に、自分の姿がどれだけ映っているのだろう。
VTuberとして、まりあとして生きる時間と、母としての時間は
まるで別の人生のように並行して流れている。
──「夢の中まで一緒だよ?」という、まりあの決めゼリフ。
それがいつか、彩乃の耳に届いてしまうのではないか。
そのとき、娘はどんな顔をするだろう。
そして、自分は──何を失うのだろう。
画面に表示されたのは、娘・彩乃からのLINEだった。
彩乃(LINE):「ママ、今ちょっと電話できる?」
「いいよ」とだけ返信してすぐ通話に切り替えると、数コールで繋がった。
彩乃:「……おつかれさま」
真理:「そっちこそ。バイトだったの?」
彩乃:「うん、コンビニ。今日は品出し地獄だった~」
彩乃の声は、どこか甘えた響きがあった。
元夫のもとに引き取られてからも、こうして折に触れて連絡をくれる。
真理:「卒業式、もうすぐなんだよね」
彩乃:「うん。来てくれる?」
真理:「もちろん行くよ」
彩乃:「ありがと。あっちは仕事が入るかもって言ってたし……」
“あっち”というのは、元夫のこと。
彩乃は特に悪く言わないが、どこか線を引いた言い方をする。
彩乃:「大学決まったら、また引っ越しとか色々あるしさ。決めなきゃいけないことが山積みで……」
真理:「なにかあったら、いつでも言ってね」
彩乃:「うん……なんか、ママにだけは言いやすいからさ」
その一言に、胸が少しだけあたたかくなった。
彩乃:「ママって今、なんか仕事してる?」
真理:「うん、週に何回かスーパーでパートしてるよ」
彩乃:「あ、前言ってたやつ?」
真理:「そうそう。品出しとか、棚の整理とか」
“声の仕事”のことには触れずに済んだ。
彩乃:「ママさ、ちゃんと寝てる?」
真理:「寝てるよ。一応、健康第一だし」
彩乃:「無理しないでね。ほんとに」
通話が終わったあともしばらく、スマホを伏せたまま、真理は天井を見上げていた。
(今の生活に、娘の話を混ぜる隙間があるのかな)
離れて暮らしているせいか、彩乃とはほどよい距離感が保てている。
でも、それが“本当に親子らしい関係”かと問われれば、少し自信がなかった。
──高校卒業を控えた娘。その先の未来に、自分の姿がどれだけ映っているのだろう。
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──「夢の中まで一緒だよ?」という、まりあの決めゼリフ。
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そのとき、娘はどんな顔をするだろう。
そして、自分は──何を失うのだろう。
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