真理の声

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1章

VTuberの輪の外側

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Discordの通知音が鳴る。
まりあが所属するグループのコラボ打ち合わせ通話。

参加メンバーは
●ツバメ式あい(設定年齢20歳)
●真白まこ(設定年齢25歳前後)
●ちよまる(設定年齢19歳)
そして真理が扮する真白まりあ(設定年齢20歳)。

まりあはマイクの前で、そっと息を整える。若い子たちのテンションについていくのは簡単じゃないけれど、今のところはなんとか保てている。

ちよまる:「さて、今回のコラボは何のテーマでやる?」

あい:「“やらかしエピソード選手権”とかどうですか?」

まこ:「それ、いい! 匿名でリスナーからも募集しよう!」

まりあ:「ふふ……“暮らしの中の知恵袋”みたいになりそうね」


一瞬の沈黙。


あい:「えっ? なにそれ?」

まこ:「テレビの番組名?」

まりあ:「……あ、ゆ、YouTubeで見たことあってさ……!」

ふわっと笑いが起こり、空気がやわらぐ。

あい:「あははっ!まりあさん、たまにそういう“癖”ありますよね~。逆に新鮮だけど!」

まりあは愛想笑いでやり過ごす。
場の空気が明るく保たれていることにほっとしながら、心の中では小さな警報が鳴っていた。

(また、出ちゃった)

つい口をついて出たのは、かつて家事をしながらよく聞いていたテレビ番組のタイトル。
意識してなかった。
だが、そこに込められていた“年齢”は、誰よりも自分自身が知っている。
なんとかここは年齢に触れられる前にごまかさなきゃ…

まりあ:「あー、えっと、“事件は会議室で起きてるんじゃない、配信中に起きてるのよ”…なんてね?」


また少しの沈黙。


まこ:「あ…、それって映画のセリフ?」

あい:「なんか聞いたことある~」

まりあ:「えっと、パロディ動画で見たような……たぶん……」

再び流れる笑い声。


まりあは"またやってしまった…"と頭を抱えて後悔した。

でも、この会議通話中ずっと心のどこかで気づいていた。
テンポがずれてる。
反応がワンテンポ遅れてる。
話題が数秒先を行っている。

“合わせている”つもりでも、“ついていっている”という実感はなかった。
頑張ってついていっているつもりだったが、今の若い人たちのテンポ感についていけていない。


ちよまる:「てか、まりあさんって映画とか昔のネタたまに混ざるけど、それが逆に刺さるんですよね」

まりあ:「そ、そうですか?(笑)」

笑って返す。
笑っておけば済む。
そう思ってきた。
笑っておけばなんとかなる、と。

通話を終えたあと、さっきの会議通話の録音の波形を見ながら、まりあはぽつりとこぼした。

「……昔のネタ、か」

いつの間にか、懐かしい話題に“うっかり”反応するようになった。
言葉の選び方、話題の選び方、リアクションの速度。

それは、自分が歳を重ねた証拠であると同時に、画面の向こう側では“見せてはいけない”部分。
設定年齢が20歳である以上、出してはいけないのだ。

(若い子の輪に入っていくのも、たいへん……)

そう思いながら、まりあはモニターを閉じて真理に戻った。
明日も配信はある。
笑って、明るく、元気よく。

──それが、“白音まりあ”の仕事なのだから。

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