真理の声

nameless_mic

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1章

似ている声がどこかに

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配信が終わったあとの夜更け。
録画の整理と、コメント確認をするのが真理の日課だった。

お気に入りのミントティーを淹れて、モニターの前に座る。
視聴者のコメントは、おおむねあたたかく、「今日も癒された」「眠れそう」などの言葉に励まされる。

けれど、その日の終盤に、ひとつだけ違和感のあるコメントが混ざっていた。

リスナー:「この声、あの新人の“黒音くろねみりあ”って子に似てる……」

真理は、一瞬手を止めた。

「……誰?」

口に出すのもなんとなく抵抗があった。
だが気になって、タブを切り替えて検索する。

『黒音みりあ VTuber』

検索結果には、立ち絵や切り抜き動画が並んでいた。
少しダーク系の雰囲気を持つキャラクター。
落ち着いた喋り方と、包み込むような声。

(……たしかに、似てるかもしれない)

まりあの声よりやや低め。
少しだけ息の混ざった発声で、声質そのものというよりは、話し方のリズムや抑揚が似ていた。

(自分より、ちょっとかわいいかも……?)

笑ってそう思えるくらいには、まだ気持ちに余裕があった。

(でも、声が似てるVTuberなんて、珍しくない。きっと偶然)

そう思い直して、ブラウザを閉じかけたそのとき。

リスナー(DM):「白音さんって、黒音さんと関係ありますか? 姉妹設定とか……?」

──姉妹。

思わず苦笑した。
キャラクター設定上の“つながり”を考えるのは、リスナーとしてはよくあることだ。

(でも、もしそうなら……私が姉、なのかな)

その程度の違和感。
ページを閉じる前にもう一度だけ、動画のサムネイルに並ぶ「黒音みりあ」の名前を目で追った。

黒音、みりあ。

(……偶然よね)

そう自分に言い聞かせて、ブラウザを閉じた。
ミントティーの香りがまだほんのり残っていた。

「さて、そろそろ寝なきゃ」

つぶやいて、真理はゆっくり立ち上がった。

ただの夜の終わり。
きっと、それだけのことだった。
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