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第ニ章
お家デート①
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最寄りのパーキングに車を停め。
そこからは目的の場所まで歩く。
何度も車でその目的地の前までは行ったことがあるから、迷うことなく目的地へ歩みを進める。
お家デート
ふっと頭に過った言葉に自然と頬が緩む。
俺にとっては当然のことだと思っていたが
秋とのデートの際は車で送迎し
デートの際の支払いも全て俺が済ませてしまうことに対して申し訳なさを感じていたらしい。
そんなことを感じる必要など一切ないのだが、
彼からの提案で次回のデートでは、何かご馳走させて欲しいと言われ
思わず俺はそれなら秋の手料理が食べたいと所望した。
日々の秋とのLINEのやり取りの中で大学の友人に秋が手料理を振舞っているという話を聞いた時、他者を羨み、嫉妬し、その気持ちは更に強まり今は自分が秋の彼氏であり、秋の手料理を食べる権限を一番持っているのは俺のはずだ。という身勝手で低俗な独占的感情の芽生えに我ながら内心愕然としているが、だからといって自身の感情を偽ることは出来ず、その感情を捨て去る術も持ち合わせていないのだから、ただ素直に己の感情に身を任せる他ないと腹を括っている。
『人を愛したら賢いままでいることは不可能になる』
ストーカー役を演じた際、劇中で俺が言ったセリフ。
イギリスの哲学者が言った言葉の引用だが今の俺は大いに賛同している。
そして
『オメガは、アルファより うわてだ。心してかかれ』
これは昨日唐突に五條から送られて来たLINEの言葉だ。
言葉の意味が分かるが、五條の趣旨は汲み取れない
うわて、物事のやり方がうまい。巧者。という意味合いがあるが、
この半年、秋と接してきて『うわて』という言葉を心で唱える瞬間などなかった。
俺の心の中で唱えているのは常に(かわいい)この言葉が秋には相応しい。
そんなことをぼんやりと考えながら歩いていたらいつの間にか目的地がすぐ目の前まで迫っていて
通学を考慮したと思われるエリアの高級マンション群の傍にある、こぢんまりとしたマンション。シンプルな石材タイルの外壁は、緑の多い住宅地にひっそりと溶け込んでいる。
「三ツ矢君」
わざわざマンションの前で待っていたとみられる秋がこちらに向かって手を振っている。
俺を見つけた瞬間、大輪の花の蕾が鮮やかに綻んでいくように落ち着いた表情から少し幼い笑顔へと変わっていく姿が
(かわいい)
やはりその言葉が真っ先に心に広がる。
「いつから、待っていなの?寒かっただろ」
彼にやや小走りで近づく
「大丈夫です。丁度今、外に出たところです」
そうは言っても
俺は確かめるように先ほどまで俺に向かって振っていた彼の手を握る。
「え、あ、三ツ矢君。外での接触は...」
そう言って辺りをキョロキョロとする秋に構うことなく握り締めた手はやはり
「少し冷たい」
「…え、、っと、とりあえず、お家に入りましょうか」
はぐらかすように秋はそう言って
マンションのエントランスへと手を繋いだまま歩みを進めた。
パーキングからここまで歩いて五分程それでも少し肌寒く感じる季節に差し掛かっている。
おおよその到着時間は伝えていたが、正確な時間までは伝えていなかった俺の誤算だ。
もしも今後同じようなことがあった場合は、パーキングについた時点で連絡を入れた方がよさそうだ。
彼がわざわざ外に出て待っていてくれたことは嬉しい。それだけ歓迎されているということだと解釈できるから。
だとしても、待つことで寒さに震えて欲しくはないし。それに夜であれば色々と彼の身が心配だ。
エレベーターのボタンを彼が押す。
その間も手を繋いだままだが、他に人が居ないことを十分確認している秋は、繋ぐことに対してもう苦言することなく、開いたエレベーターの扉の中へと二人で歩みを進め、3と数字の書かれたボタンを押し、ゆっくりと扉がしまった。
着いた先は
三階の角部屋
部屋番号の前で止まり
そこで繋いでいた手を離す。
秋が鍵穴にディンプルキーを差し込み回したあと、鍵を抜き扉をゆっくりと開けた。
「ど、どうぞ」
秋が少し緊張した面持ちで先に入るよう俺を促したから
自身も初めてお邪魔する秋のプライベートな空間への興味と緊張で少し心拍数を上げながら人が二人並んで立てる幅の玄関から、中へと足を踏み入れた。
靴を脱いだ先
まっすぐ廊下が伸びる。突き当たりに見える扉に行くまで、右に二つ扉があった。多分トイレと風呂場だろう。
その前を通り
部屋の中へ入る。
フローリングカーペットはライトブラウンの木目調、壁紙は白で、置かれているテーブルはアイボリーと明るい色調で纏っている。
「食事の準備が出来るまで、あちらのソファーに座って待っていて下さい」
「ああ、ありがとう」
少し気恥ずかしそうにそう言って、キッチンへと歩みを進める秋の背を見送り、ダイニングの奥のリビングへ足を踏み入れる。
自分好みの香りが部屋から薫り
香りの元へと視線を向けると
ソファの背面に備え付けられている本棚に目が止まる。
近寄れば
本棚にはいくつかの哲学書と並んで雑誌がディスプレイの如く飾られている。
全て俺が表紙を飾っている雑誌だ。
まさか自分が雑誌の表紙を飾る日が来るなんて夢にも思っていなかった。
演じることに興味が湧いて、俳優という仕事についた。
それ以外の華やかしい表舞台には全く興味がなく、今まではどれだけオファーを受けても全て断ってきた。
そんな俺の気持ちに変化を及ぼしたのが、哲学だった。
世界との原初的な結びつきを再発見する営みが哲学にはあった。真摯に学んでいくうちに『知っているつもり』になることの危うさと、常に謙虚に世界と向き合うことの大切さを知った。
特にメルロ=ポンティから教えられた。
人間は皆、特定の時代、特定の国、特定の家族、そして何よりこの「身体」を持ってこの世に生まれ落ち自分では選ぶことのできない与えられた状況に否応なく投げ込まれたことに対し、抗えないその運命を引き受け、その中で自分なりに意味を紡ぎ出していくことこそが、人間としての生きる意味になる。
そう教えられた時
俺は今までの自分の行いを振り返って考えた。
自分の容姿を受け入れきれず、容姿のせいで窮屈な生活を送ってきたと自分を卑下し、自分に群がる人間を毛嫌いし、告白してきた者に対しても無下に扱った。
しかしポンティの教えに出会い、与えられた状況を引き受けその中で自分なりの意味を紡ぎだせる人間であるべきだと考えを改めることが出来き、俺は初めて自ら人に好意を寄せ、その相手の一挙手一投足に注意を払い、嫌われないように、喜んでもらえるようにと注力し。それでも失敗したり、緊張したり、不安や焦り、嫉妬や独占欲、、思い人が出来たことで、今まで味わったことのない色々な感情が自分の中に芽生えた。
きっと、今まで俺に好意を寄せてくれた人達もそのような感情を抱き、勇気を出して思いを告げてくれていたとしたならば、それを無下に扱ってしまったことは、人間として、とても不誠実な態度だったと今更ながら深く反省をした。
秋が、俺にポンティを薦めてくれたことで俺はそういった大切なことに気づくきっかけを与えてくれた。だからこの先も俺が俳優業を続けて生きていくならば、自分のさだめ、運命を受け入れ逃げることなく出来る範囲で自分のことを求めてくれる場所があるならば表舞台での活動も視野に入れる気持ちになった。
哲学に出会わなかったら。
秋にポンティの哲学を薦められなかったら出会えなかった今の自分。
好まれる容姿が故に逆に抱えていた劣等感が今では嘘のように消えてなくなり、自分のことを今は少しづつ好きになれている。
棚の横にある木目のうつくしい机の上にはスティックが刺さったアロマディフューザー。
香は、、金木犀。
それは雑誌の取材の中で俺が好きだといった香りだ。
彼のささやかで静かな思い。
そんな思いを知ってしまったら
俺は彼を愛さずにはいられない。
『オメガは、アルファより うわて』
...確かに五條の云う通り、彼はとても『うわて』かもしれないな。
そこからは目的の場所まで歩く。
何度も車でその目的地の前までは行ったことがあるから、迷うことなく目的地へ歩みを進める。
お家デート
ふっと頭に過った言葉に自然と頬が緩む。
俺にとっては当然のことだと思っていたが
秋とのデートの際は車で送迎し
デートの際の支払いも全て俺が済ませてしまうことに対して申し訳なさを感じていたらしい。
そんなことを感じる必要など一切ないのだが、
彼からの提案で次回のデートでは、何かご馳走させて欲しいと言われ
思わず俺はそれなら秋の手料理が食べたいと所望した。
日々の秋とのLINEのやり取りの中で大学の友人に秋が手料理を振舞っているという話を聞いた時、他者を羨み、嫉妬し、その気持ちは更に強まり今は自分が秋の彼氏であり、秋の手料理を食べる権限を一番持っているのは俺のはずだ。という身勝手で低俗な独占的感情の芽生えに我ながら内心愕然としているが、だからといって自身の感情を偽ることは出来ず、その感情を捨て去る術も持ち合わせていないのだから、ただ素直に己の感情に身を任せる他ないと腹を括っている。
『人を愛したら賢いままでいることは不可能になる』
ストーカー役を演じた際、劇中で俺が言ったセリフ。
イギリスの哲学者が言った言葉の引用だが今の俺は大いに賛同している。
そして
『オメガは、アルファより うわてだ。心してかかれ』
これは昨日唐突に五條から送られて来たLINEの言葉だ。
言葉の意味が分かるが、五條の趣旨は汲み取れない
うわて、物事のやり方がうまい。巧者。という意味合いがあるが、
この半年、秋と接してきて『うわて』という言葉を心で唱える瞬間などなかった。
俺の心の中で唱えているのは常に(かわいい)この言葉が秋には相応しい。
そんなことをぼんやりと考えながら歩いていたらいつの間にか目的地がすぐ目の前まで迫っていて
通学を考慮したと思われるエリアの高級マンション群の傍にある、こぢんまりとしたマンション。シンプルな石材タイルの外壁は、緑の多い住宅地にひっそりと溶け込んでいる。
「三ツ矢君」
わざわざマンションの前で待っていたとみられる秋がこちらに向かって手を振っている。
俺を見つけた瞬間、大輪の花の蕾が鮮やかに綻んでいくように落ち着いた表情から少し幼い笑顔へと変わっていく姿が
(かわいい)
やはりその言葉が真っ先に心に広がる。
「いつから、待っていなの?寒かっただろ」
彼にやや小走りで近づく
「大丈夫です。丁度今、外に出たところです」
そうは言っても
俺は確かめるように先ほどまで俺に向かって振っていた彼の手を握る。
「え、あ、三ツ矢君。外での接触は...」
そう言って辺りをキョロキョロとする秋に構うことなく握り締めた手はやはり
「少し冷たい」
「…え、、っと、とりあえず、お家に入りましょうか」
はぐらかすように秋はそう言って
マンションのエントランスへと手を繋いだまま歩みを進めた。
パーキングからここまで歩いて五分程それでも少し肌寒く感じる季節に差し掛かっている。
おおよその到着時間は伝えていたが、正確な時間までは伝えていなかった俺の誤算だ。
もしも今後同じようなことがあった場合は、パーキングについた時点で連絡を入れた方がよさそうだ。
彼がわざわざ外に出て待っていてくれたことは嬉しい。それだけ歓迎されているということだと解釈できるから。
だとしても、待つことで寒さに震えて欲しくはないし。それに夜であれば色々と彼の身が心配だ。
エレベーターのボタンを彼が押す。
その間も手を繋いだままだが、他に人が居ないことを十分確認している秋は、繋ぐことに対してもう苦言することなく、開いたエレベーターの扉の中へと二人で歩みを進め、3と数字の書かれたボタンを押し、ゆっくりと扉がしまった。
着いた先は
三階の角部屋
部屋番号の前で止まり
そこで繋いでいた手を離す。
秋が鍵穴にディンプルキーを差し込み回したあと、鍵を抜き扉をゆっくりと開けた。
「ど、どうぞ」
秋が少し緊張した面持ちで先に入るよう俺を促したから
自身も初めてお邪魔する秋のプライベートな空間への興味と緊張で少し心拍数を上げながら人が二人並んで立てる幅の玄関から、中へと足を踏み入れた。
靴を脱いだ先
まっすぐ廊下が伸びる。突き当たりに見える扉に行くまで、右に二つ扉があった。多分トイレと風呂場だろう。
その前を通り
部屋の中へ入る。
フローリングカーペットはライトブラウンの木目調、壁紙は白で、置かれているテーブルはアイボリーと明るい色調で纏っている。
「食事の準備が出来るまで、あちらのソファーに座って待っていて下さい」
「ああ、ありがとう」
少し気恥ずかしそうにそう言って、キッチンへと歩みを進める秋の背を見送り、ダイニングの奥のリビングへ足を踏み入れる。
自分好みの香りが部屋から薫り
香りの元へと視線を向けると
ソファの背面に備え付けられている本棚に目が止まる。
近寄れば
本棚にはいくつかの哲学書と並んで雑誌がディスプレイの如く飾られている。
全て俺が表紙を飾っている雑誌だ。
まさか自分が雑誌の表紙を飾る日が来るなんて夢にも思っていなかった。
演じることに興味が湧いて、俳優という仕事についた。
それ以外の華やかしい表舞台には全く興味がなく、今まではどれだけオファーを受けても全て断ってきた。
そんな俺の気持ちに変化を及ぼしたのが、哲学だった。
世界との原初的な結びつきを再発見する営みが哲学にはあった。真摯に学んでいくうちに『知っているつもり』になることの危うさと、常に謙虚に世界と向き合うことの大切さを知った。
特にメルロ=ポンティから教えられた。
人間は皆、特定の時代、特定の国、特定の家族、そして何よりこの「身体」を持ってこの世に生まれ落ち自分では選ぶことのできない与えられた状況に否応なく投げ込まれたことに対し、抗えないその運命を引き受け、その中で自分なりに意味を紡ぎ出していくことこそが、人間としての生きる意味になる。
そう教えられた時
俺は今までの自分の行いを振り返って考えた。
自分の容姿を受け入れきれず、容姿のせいで窮屈な生活を送ってきたと自分を卑下し、自分に群がる人間を毛嫌いし、告白してきた者に対しても無下に扱った。
しかしポンティの教えに出会い、与えられた状況を引き受けその中で自分なりの意味を紡ぎだせる人間であるべきだと考えを改めることが出来き、俺は初めて自ら人に好意を寄せ、その相手の一挙手一投足に注意を払い、嫌われないように、喜んでもらえるようにと注力し。それでも失敗したり、緊張したり、不安や焦り、嫉妬や独占欲、、思い人が出来たことで、今まで味わったことのない色々な感情が自分の中に芽生えた。
きっと、今まで俺に好意を寄せてくれた人達もそのような感情を抱き、勇気を出して思いを告げてくれていたとしたならば、それを無下に扱ってしまったことは、人間として、とても不誠実な態度だったと今更ながら深く反省をした。
秋が、俺にポンティを薦めてくれたことで俺はそういった大切なことに気づくきっかけを与えてくれた。だからこの先も俺が俳優業を続けて生きていくならば、自分のさだめ、運命を受け入れ逃げることなく出来る範囲で自分のことを求めてくれる場所があるならば表舞台での活動も視野に入れる気持ちになった。
哲学に出会わなかったら。
秋にポンティの哲学を薦められなかったら出会えなかった今の自分。
好まれる容姿が故に逆に抱えていた劣等感が今では嘘のように消えてなくなり、自分のことを今は少しづつ好きになれている。
棚の横にある木目のうつくしい机の上にはスティックが刺さったアロマディフューザー。
香は、、金木犀。
それは雑誌の取材の中で俺が好きだといった香りだ。
彼のささやかで静かな思い。
そんな思いを知ってしまったら
俺は彼を愛さずにはいられない。
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...確かに五條の云う通り、彼はとても『うわて』かもしれないな。
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