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第一章 世界創造編
17.ハトがみたもの
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「大変です!」
神社にいたツツミのもとに、レカエルがエウラシアを伴ってやってきた。肩にはハトが一羽止まっている。
「え? 早速何か見つけてきたの?」
鳥たちは空を飛びあらゆるものを見て回る。異変を感じると、主の元へ戻って来るのだった。
言葉を話せるわけではないが、視覚のイメージを伝えることができる。
「こんなに早く役に立つとは思わなかったけど……。創っとくもんだね」
転ばぬ先の杖だね、とのんびりとしているツツミ。
「何を落ち着いているのです!」
「そう言われても。エンゼルフィッシュが絶滅でもした?」
「私の子は絶滅などしません!」
現状レカエルが慌てそうなことなど、それくらいしか思いつかないのだが。
「ツツミ。落ち着いて聞きなさい」
「いや、さっき落ち着いてたら怒られたんだけど」
「人間が、現れました!!」
「……はい?」
「ですから、地上に人間がいるのです!」
まくしたてるレカエル。ツツミはポカーンとした。
「……創ったの?」
「いいえ」
レカエルに思い当たるふしはないらしい。エウラシアの方を見る。
「知らない」
エウラシアも首を横に振る。
「まさかとは思いますが、あなたが創ったわけではないでしょうね?」
「そんなわけないじゃん」
もちろんツツミにも覚えはない。
「つまり……どういうこと?」
人間が現れた。三人とも創った覚えはない。……では、どこから生まれたのか。
「ともかくこれを」
レカエルはツツミにハトを渡した。受け取り、視線を合わせる。見た光景が頭の中に流れ込んできた。
……確かに人間の男だ。18歳くらいだろうか。地上をひどく疲れたように歩いている。
元世界で、これくらいの年頃の人間がよく着ていた衣服を身にまとっている。が、それはひどく汚れていた。ハトの目線が人間と合う。
突如人間は襲い掛かってきた。とはいっても素手の人間が捕まえられるわけでもなく、飛び立ったところでイメージは終わった。
「……アグレッシブな人間だね」
数百年前ならいざ知らず、現代鳥に素手で襲い掛かる人間はあまりいないのではなかろうか。
「野生児」
先に同じものを見ていたであろうエウラシアが言う。
「どうします?」
「うーん……情報が少なすぎるね。とりあえず……見に行こうか」
ハト(とウサギ)の見張りは続いていたようだ。距離をとって遠巻きに監視していたらしく、ツツミたちが行くと人間のもとに案内してくれる。
「いた!」
三人は人間を発見し、男の前に降りたった。
「そこの人間、待ちなさい!」
人間は驚愕を浮かべ、固まる。が、しばらくすると全身を震わせながらこちらへ近づいてくる。
「止まりなさい! 私は世界で唯一の神である主に使えるものです。この祝福に感謝し、頭をたれなさい!」
しかし男は止まらない。何か口をパクパクさせつつ三人に近づいてくる。レカエルが聖槍を構えた。
「この……!」
「待ってレカエル!」
ツツミは二人の間に割って入った。レカエルを押しとどめ人間に向き合う。
「はじめまして! 私はツツミ。あなたは?」
初対面では神使相手だろうと人間相手だろうと、まず気持ちのいい挨拶から始めるのがモットーだ。
人間は歩みを止めた。ツツミの方へと手を伸ばし、口を開く。
「あ、……あ、ああ…」
「大丈夫? どうしたの?」
しかし出てくるのは言葉ではなく、意味のない音だけである。
神使は言語の制約を受けない。神域の者同士はもちろん、人間相手であってもだ。目の前の男が何人であっても、ツツミの言葉がわからないはずがないのだが……。
「あ。あああ。……ああ」
人間はカッと目を見開く。次の瞬間、力尽きたようにぱたりと倒れた。
「ちょっと!?」
かがみこむツツミ。どうやら死んではいないようだ。ハトを通じて見たときも思ったが、間近で見るとより顔色の悪さがわかる。
「おーい、大丈夫? ねえ」
ぺちぺちと頬をたたいてみるが反応がない。唇もカサカサである。
「この。人間。……飢えて。いるんじゃ」
エウラシアが見下ろしながら言う。どうやら倒れた理由はそれのようだ。
「……どうするんですか」
「どうって……。とりあえず、介抱しようか」
考えてみればこの世界、人間が住むにはまだ早かった。
いくつかの動植物は創ってある。しかし道具を持たない人間が捕まえられるほど、リスはのろまではない。エンゼルドッグに挑めば返り討ちにされるかもしれない。
魚も難しいだろう。海の中で人間は呼吸できないのである。エウラシアの創ったアンモナイトもどきであれば捕まえられるかもしれないが、殻は割れまい。
そもそも、あれの中身が食べられるものかどうかも分からない。
残るは植物だが、地上に現在あるのは例の苔だけである。でる露は栄養満点だろうが、なかなか舐めてみようという発想には至らないのではなかろうか。
そんなわけで、ツツミは元世界で人間が飲んでいたポーションを創って出した。これを飲めばファイトが湧いてきたり、24時間戦えたりするらしい。
瓶を口元に運んで中身を流し込んでやる。しばらくそれを続けた。やがて、意識は戻らないものの顔色は格段に良くなったようだ。
「それにしても……いったいどこから生まれたんでしょう」
「さぁね?」
軽い口調のツツミを見とがめるレカエル。
「さぁって、これは大問題です。私たちのほかに、この世界に人間を創る事ができる存在がいるとでもいうのですか!?」
「うーん……」
煮え切らないツツミ。理由は簡単である。
「人間だしなぁ」
「はい?」
「レカエルのとこではさ、人間て神様が創ったって言われてるんでしょ?」
「当然です。万物の創造主ですから」
「万物かは置いといて。うちの神話じゃ、人間の産まれ方はこうなってる」
「どう伝わっているんです?」
「なんか気づいたらいた」
「うちも。そんな。感じ」
そうなのである。ツツミたちに伝わる歴史には、突然脈絡もなく人間が登場するのだ。どうやらエウラシアのところも似たようなものらしい。
「そんなアバウトな……」
「だからさ、考えても仕方ないって!」
いるものはしょうがない。ツツミはそう割り切ることにした。
神社にいたツツミのもとに、レカエルがエウラシアを伴ってやってきた。肩にはハトが一羽止まっている。
「え? 早速何か見つけてきたの?」
鳥たちは空を飛びあらゆるものを見て回る。異変を感じると、主の元へ戻って来るのだった。
言葉を話せるわけではないが、視覚のイメージを伝えることができる。
「こんなに早く役に立つとは思わなかったけど……。創っとくもんだね」
転ばぬ先の杖だね、とのんびりとしているツツミ。
「何を落ち着いているのです!」
「そう言われても。エンゼルフィッシュが絶滅でもした?」
「私の子は絶滅などしません!」
現状レカエルが慌てそうなことなど、それくらいしか思いつかないのだが。
「ツツミ。落ち着いて聞きなさい」
「いや、さっき落ち着いてたら怒られたんだけど」
「人間が、現れました!!」
「……はい?」
「ですから、地上に人間がいるのです!」
まくしたてるレカエル。ツツミはポカーンとした。
「……創ったの?」
「いいえ」
レカエルに思い当たるふしはないらしい。エウラシアの方を見る。
「知らない」
エウラシアも首を横に振る。
「まさかとは思いますが、あなたが創ったわけではないでしょうね?」
「そんなわけないじゃん」
もちろんツツミにも覚えはない。
「つまり……どういうこと?」
人間が現れた。三人とも創った覚えはない。……では、どこから生まれたのか。
「ともかくこれを」
レカエルはツツミにハトを渡した。受け取り、視線を合わせる。見た光景が頭の中に流れ込んできた。
……確かに人間の男だ。18歳くらいだろうか。地上をひどく疲れたように歩いている。
元世界で、これくらいの年頃の人間がよく着ていた衣服を身にまとっている。が、それはひどく汚れていた。ハトの目線が人間と合う。
突如人間は襲い掛かってきた。とはいっても素手の人間が捕まえられるわけでもなく、飛び立ったところでイメージは終わった。
「……アグレッシブな人間だね」
数百年前ならいざ知らず、現代鳥に素手で襲い掛かる人間はあまりいないのではなかろうか。
「野生児」
先に同じものを見ていたであろうエウラシアが言う。
「どうします?」
「うーん……情報が少なすぎるね。とりあえず……見に行こうか」
ハト(とウサギ)の見張りは続いていたようだ。距離をとって遠巻きに監視していたらしく、ツツミたちが行くと人間のもとに案内してくれる。
「いた!」
三人は人間を発見し、男の前に降りたった。
「そこの人間、待ちなさい!」
人間は驚愕を浮かべ、固まる。が、しばらくすると全身を震わせながらこちらへ近づいてくる。
「止まりなさい! 私は世界で唯一の神である主に使えるものです。この祝福に感謝し、頭をたれなさい!」
しかし男は止まらない。何か口をパクパクさせつつ三人に近づいてくる。レカエルが聖槍を構えた。
「この……!」
「待ってレカエル!」
ツツミは二人の間に割って入った。レカエルを押しとどめ人間に向き合う。
「はじめまして! 私はツツミ。あなたは?」
初対面では神使相手だろうと人間相手だろうと、まず気持ちのいい挨拶から始めるのがモットーだ。
人間は歩みを止めた。ツツミの方へと手を伸ばし、口を開く。
「あ、……あ、ああ…」
「大丈夫? どうしたの?」
しかし出てくるのは言葉ではなく、意味のない音だけである。
神使は言語の制約を受けない。神域の者同士はもちろん、人間相手であってもだ。目の前の男が何人であっても、ツツミの言葉がわからないはずがないのだが……。
「あ。あああ。……ああ」
人間はカッと目を見開く。次の瞬間、力尽きたようにぱたりと倒れた。
「ちょっと!?」
かがみこむツツミ。どうやら死んではいないようだ。ハトを通じて見たときも思ったが、間近で見るとより顔色の悪さがわかる。
「おーい、大丈夫? ねえ」
ぺちぺちと頬をたたいてみるが反応がない。唇もカサカサである。
「この。人間。……飢えて。いるんじゃ」
エウラシアが見下ろしながら言う。どうやら倒れた理由はそれのようだ。
「……どうするんですか」
「どうって……。とりあえず、介抱しようか」
考えてみればこの世界、人間が住むにはまだ早かった。
いくつかの動植物は創ってある。しかし道具を持たない人間が捕まえられるほど、リスはのろまではない。エンゼルドッグに挑めば返り討ちにされるかもしれない。
魚も難しいだろう。海の中で人間は呼吸できないのである。エウラシアの創ったアンモナイトもどきであれば捕まえられるかもしれないが、殻は割れまい。
そもそも、あれの中身が食べられるものかどうかも分からない。
残るは植物だが、地上に現在あるのは例の苔だけである。でる露は栄養満点だろうが、なかなか舐めてみようという発想には至らないのではなかろうか。
そんなわけで、ツツミは元世界で人間が飲んでいたポーションを創って出した。これを飲めばファイトが湧いてきたり、24時間戦えたりするらしい。
瓶を口元に運んで中身を流し込んでやる。しばらくそれを続けた。やがて、意識は戻らないものの顔色は格段に良くなったようだ。
「それにしても……いったいどこから生まれたんでしょう」
「さぁね?」
軽い口調のツツミを見とがめるレカエル。
「さぁって、これは大問題です。私たちのほかに、この世界に人間を創る事ができる存在がいるとでもいうのですか!?」
「うーん……」
煮え切らないツツミ。理由は簡単である。
「人間だしなぁ」
「はい?」
「レカエルのとこではさ、人間て神様が創ったって言われてるんでしょ?」
「当然です。万物の創造主ですから」
「万物かは置いといて。うちの神話じゃ、人間の産まれ方はこうなってる」
「どう伝わっているんです?」
「なんか気づいたらいた」
「うちも。そんな。感じ」
そうなのである。ツツミたちに伝わる歴史には、突然脈絡もなく人間が登場するのだ。どうやらエウラシアのところも似たようなものらしい。
「そんなアバウトな……」
「だからさ、考えても仕方ないって!」
いるものはしょうがない。ツツミはそう割り切ることにした。
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