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第一章 世界創造編
18.人間をどうするか
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いるものはしょうがない。問題はこれからどうするかである。
「死なせるのもなんか目覚めが悪いよね……」
ツツミの言葉にほかの二人も同意する。悪人ならいざ知らず、三人とも普通の人間をたたるような性質ではない。
「しかし、またどこの馬の骨とも知れないものを……」
レカエルは難色を示す。万物は主が創ったと考える彼女にとって、誰が創ったかもわからないモノは気味が悪いようだ。
「考え方によっては手間が省けたんじゃない?」
「どういうことです?」
「もともと人間……っていうか知恵のある生き物は創ろうと思ってたでしょ?」
人間を創ったと自称するのはレカエルの主である。恐らく彼女もそれに倣って人間を創るつもりだったはずだ。ツツミもゆくゆくは何か創るつもりだった。
……エウラシアは放っておけばそのまま暮らしていたかもしれないが。
「あれに知恵があるのかまだわかりませんが」
「言葉も話せないしね。でも二本足で歩いているし、手も使えるみたいだったし。見た目は完全に人間だよ」
意思疎通が取れないことには疑問が残るが、まさか人の姿をした別の何かだったりするだろうか。
「これもレカエルの言う『主のお導き』だよ」
「……確かに主は仰られました。汝、隣人を愛せよと」
「そういうこと。エウラシアもかまわないでしょ?」
「……んー。うー? うん」
めんどくささがかなり抵抗したようだったが、ギリギリで博愛精神が勝ったらしい。
「じゃあ決定。あの人間を初の異世界人と認め、保護する!」
こうして予想外の形で、初の異世界人が誕生した。
「となると……いろいろ環境を整えなくてはいけませんね」
「そうだね……食べ物とか、住む場所とか」
とはいえ何から手をつけたものだろうか。
「まず。最初に。絶対。必要な。ものがある」
と、エウラシアが手を挙げた。二人はエウラシアに視線を移す。
「……お嫁さん」
「……」
「……」
何となく気まずい雰囲気が流れた。
「い、いえ。必要なのはわかります。しかし、最初にまずすべきことでしょうか?」
「そ、そうだよ。食べ物とか、いろいろ……」
「当座の。食べ物とかは。出して。あげれば。いい」
エウラシアはこともなげに言った。もとより準備が整うまでに、どうしても生きるため必要なものは恵みとして与えるつもりだった。
そうして早急に自給自足できるだけの環境を創り、そこから後のことを考えるつもりだったのである。
「この世界の。生き方を。教える。人が。必要」
「や、私たちが教えてあげればいいじゃん」
今現在はコミュニケーションをとることはできない。しかし時間をかける、あるいはもっと手っ取り早く人間の体をこねくり回して意思疎通ができるようにすることは可能だろう。
もともとツツミは知恵のある生き物を創ったら、適当な個体に介入して色々やるつもりだったのである。
それがこの人間になった所で問題はない。
「何か問題があるの?」
「……めんどくさい」
結局それか、とツツミは思ったが、エウラシアは続ける。
「奇跡を。乱発すると。人間は。……それが。当たり前だと。思い始める」
そこまで手取り足取り教えてあげることは、人間にとっての神の希少価値を貶めることになるのだとエウラシアは言う。
そして最初にハードルを下げてしまえば、人間はほんの些細なことでも奇跡を望むようになる。
結果、神域の者たち(というかエウラシア)の負担が増えることを危惧しているのであった。
「……言い方は乱暴だけど、なんか一理あるような気がしてきた。レカエルは?」
「まあ本来神の祝福は、信じる者のみに与えられるものですからね」
レカエルはまた違った感性で判断したらしい。
「絶対に私のことを正しく理解していないあの者に、必要以上に直接介入することもないでしょう」
「なるほど。で、じゃあどうするかっていうのが……」
「お嫁さん」
という結論らしい。
「あの人間の伴侶となるべき存在。同等で、共に歩み、導く存在を与えるということですね」
直接的ではなく、間接的に助けとなる者を与え、あとは丸投げする。そんな存在を与えるのも十分奇跡だが、神の使いそのものが導くよりはましだろう。
「なんでお嫁さんなの? 友達とかでもいいんじゃない?」
ツツミの問いに、エウラシアは何を言っているんだと言わんばかりに答えた。
「女の子の。方が。喜ばれるに。決まってる」
「……なんか嫌な理由だなぁ」
「それに。女の子じゃ。ないと」
「なに?」
「繁殖。できないよ?」
ツツミとレカエルは言葉に詰まった。少し顔が赤くなるのを感じる。確かに今までの動物などもオスメス両方創ってきた。
しかし、自分たちに近い存在である人間となると何か意識が変わってくる。エウラシアの繁殖という言い方もどこか生々しかった。
「ま、まあ『産めよ増やせよ』は主が定めたことでもありますし」
「そ、そだね。よし、素敵なお嫁さんを創ってあげよう!」
人間はまだ目を覚ましていない。今のうちに三人は彼から離れることにした。お嫁さんづくりの間、この人間が死なないようにする必要がある。
充分な食糧でも置いていくか……と考えていると、エウラシアが何やら角でできた容器を取り出した。中の液体を寝ている人間に振りかける。
エウラシア曰く、しばらくの間死んだように眠ってしまう薬だそうだ。確かにこれで不用意にうろつかれる心配もない。
一応保存がきく食糧もたくさん置いた。一年くらいは大丈夫なはずだ。
「ちょっと待ってください」
レカエルが男のわき腹のあたりに触れ、軽く意識を集中させた。
「何をしたの?」
「あとで教えます」
三人はハトとウサギとフクロウたちに見張りを任せ、ひとまずそこを後にした。
「死なせるのもなんか目覚めが悪いよね……」
ツツミの言葉にほかの二人も同意する。悪人ならいざ知らず、三人とも普通の人間をたたるような性質ではない。
「しかし、またどこの馬の骨とも知れないものを……」
レカエルは難色を示す。万物は主が創ったと考える彼女にとって、誰が創ったかもわからないモノは気味が悪いようだ。
「考え方によっては手間が省けたんじゃない?」
「どういうことです?」
「もともと人間……っていうか知恵のある生き物は創ろうと思ってたでしょ?」
人間を創ったと自称するのはレカエルの主である。恐らく彼女もそれに倣って人間を創るつもりだったはずだ。ツツミもゆくゆくは何か創るつもりだった。
……エウラシアは放っておけばそのまま暮らしていたかもしれないが。
「あれに知恵があるのかまだわかりませんが」
「言葉も話せないしね。でも二本足で歩いているし、手も使えるみたいだったし。見た目は完全に人間だよ」
意思疎通が取れないことには疑問が残るが、まさか人の姿をした別の何かだったりするだろうか。
「これもレカエルの言う『主のお導き』だよ」
「……確かに主は仰られました。汝、隣人を愛せよと」
「そういうこと。エウラシアもかまわないでしょ?」
「……んー。うー? うん」
めんどくささがかなり抵抗したようだったが、ギリギリで博愛精神が勝ったらしい。
「じゃあ決定。あの人間を初の異世界人と認め、保護する!」
こうして予想外の形で、初の異世界人が誕生した。
「となると……いろいろ環境を整えなくてはいけませんね」
「そうだね……食べ物とか、住む場所とか」
とはいえ何から手をつけたものだろうか。
「まず。最初に。絶対。必要な。ものがある」
と、エウラシアが手を挙げた。二人はエウラシアに視線を移す。
「……お嫁さん」
「……」
「……」
何となく気まずい雰囲気が流れた。
「い、いえ。必要なのはわかります。しかし、最初にまずすべきことでしょうか?」
「そ、そうだよ。食べ物とか、いろいろ……」
「当座の。食べ物とかは。出して。あげれば。いい」
エウラシアはこともなげに言った。もとより準備が整うまでに、どうしても生きるため必要なものは恵みとして与えるつもりだった。
そうして早急に自給自足できるだけの環境を創り、そこから後のことを考えるつもりだったのである。
「この世界の。生き方を。教える。人が。必要」
「や、私たちが教えてあげればいいじゃん」
今現在はコミュニケーションをとることはできない。しかし時間をかける、あるいはもっと手っ取り早く人間の体をこねくり回して意思疎通ができるようにすることは可能だろう。
もともとツツミは知恵のある生き物を創ったら、適当な個体に介入して色々やるつもりだったのである。
それがこの人間になった所で問題はない。
「何か問題があるの?」
「……めんどくさい」
結局それか、とツツミは思ったが、エウラシアは続ける。
「奇跡を。乱発すると。人間は。……それが。当たり前だと。思い始める」
そこまで手取り足取り教えてあげることは、人間にとっての神の希少価値を貶めることになるのだとエウラシアは言う。
そして最初にハードルを下げてしまえば、人間はほんの些細なことでも奇跡を望むようになる。
結果、神域の者たち(というかエウラシア)の負担が増えることを危惧しているのであった。
「……言い方は乱暴だけど、なんか一理あるような気がしてきた。レカエルは?」
「まあ本来神の祝福は、信じる者のみに与えられるものですからね」
レカエルはまた違った感性で判断したらしい。
「絶対に私のことを正しく理解していないあの者に、必要以上に直接介入することもないでしょう」
「なるほど。で、じゃあどうするかっていうのが……」
「お嫁さん」
という結論らしい。
「あの人間の伴侶となるべき存在。同等で、共に歩み、導く存在を与えるということですね」
直接的ではなく、間接的に助けとなる者を与え、あとは丸投げする。そんな存在を与えるのも十分奇跡だが、神の使いそのものが導くよりはましだろう。
「なんでお嫁さんなの? 友達とかでもいいんじゃない?」
ツツミの問いに、エウラシアは何を言っているんだと言わんばかりに答えた。
「女の子の。方が。喜ばれるに。決まってる」
「……なんか嫌な理由だなぁ」
「それに。女の子じゃ。ないと」
「なに?」
「繁殖。できないよ?」
ツツミとレカエルは言葉に詰まった。少し顔が赤くなるのを感じる。確かに今までの動物などもオスメス両方創ってきた。
しかし、自分たちに近い存在である人間となると何か意識が変わってくる。エウラシアの繁殖という言い方もどこか生々しかった。
「ま、まあ『産めよ増やせよ』は主が定めたことでもありますし」
「そ、そだね。よし、素敵なお嫁さんを創ってあげよう!」
人間はまだ目を覚ましていない。今のうちに三人は彼から離れることにした。お嫁さんづくりの間、この人間が死なないようにする必要がある。
充分な食糧でも置いていくか……と考えていると、エウラシアが何やら角でできた容器を取り出した。中の液体を寝ている人間に振りかける。
エウラシア曰く、しばらくの間死んだように眠ってしまう薬だそうだ。確かにこれで不用意にうろつかれる心配もない。
一応保存がきく食糧もたくさん置いた。一年くらいは大丈夫なはずだ。
「ちょっと待ってください」
レカエルが男のわき腹のあたりに触れ、軽く意識を集中させた。
「何をしたの?」
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三人はハトとウサギとフクロウたちに見張りを任せ、ひとまずそこを後にした。
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