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第一章 世界創造編
21.エウラシアのお嫁さん創り
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エウラシアは天界の森で一人佇んでいた。
嫁づくりを始めるにあたり、エウラシアは考えていた。男が好きになる女についてである。参考となるのは、エウラシア自身も見初められたオリンポスの最高神ゼウスである。
ゼウスは非常に好色な神だった。ヘラという妻を持ちながら、手を出した女性は枚挙に暇がない。
同じ神々はもちろん、それに仕える巫女、人間の王女、ニンフなどなど……。そしてエウラシア自身である。
「……うー。」
共通点はこれしかないだろう。エウラシアはイメージを固め、創造に取りかかった。
「できた」
アトムの扱いに関しては三人の中で随一の実力を誇るエウラシアである。約束していた日数よりかなり早く身体は完成した。
エウラシアが創ったのはベースはいわゆるヒューマノイド、人型ではある。しかし純粋な人間ではなかった。
まだ眠っている彼女。茶色い髪のその頭には、緩いカーブを描く二本の角がある。
手や上半身は完全に人間のそれだ。しかしその下半身は、全体が短い茶色の毛でおおわれている。足の先には二つに分かれた蹄があった。
「よし」
エウラシアは全身を見下ろし、問題がないことを確認する。一番のこだわりの部分に手を伸ばした。
「……むにむに」
一応布で作ったビキニのトップスを着させた双丘。その感触を確かめる。
エウラシアのこだわりはやはり胸だった。ここは大きく、できるだけ大きくしなければならない。そのためにはどうすればいいか。
エウラシアの出した結論。それは人の枠にこだわることをやめることだった。
エウラシアの国にはかつて、人間と牛の間に生まれた存在があった。色々不幸な生い立ちを送ったそれは、牛頭人体のなりをしていた。
彼は化け物として扱われ、迷宮に幽閉される憂き目になった。しかし、交わる部分と比率を考え直せばどうであろうか。
「人の。少女。きれい。牛の。……身体。んー。豊満」
エウラシアのこだわり、最高のプロポーションを誇る体が出来上がった。エウラシアは手を彼女の額に当て、命を注ぎ込む。
「起きて」
すぐに彼女は目覚め、体を起こす。目をパチパチさせながらあくびを一つした。
「……ふわぁーあ。おはよう、主どの」
「おはよう」
立ち上がり、体を確かめながら大きく伸びをする。
「うーーん! ああ、いい体だな! ありがとう、主どの! あなたの名前を教えてくれ」
「……エウラシア」
「わかったぞ! まあしかし、敬意をこめて主様と呼ばせてもらおう。僕にも名前を付けてくれないか」
戸惑うこともなく、とんとん拍子に話を進める彼女。最も神使の類は生まれた瞬間から自分がどういう存在か理解しているものだ。
「名前は。考えて。なかった」
そこまでは頭が回っていなかった。咄嗟に出てきたのは、元となった怪物の名前である。
「……ミノタウロス?」
「はっはっは、ミノタウロスか。しかしずいぶんと男らしい」
男らしく笑う彼女。別に問題ない気もする。
「ここは主どのの名前を少し頂こう。そうだな……『ミノタリア』と名乗りたい、構わないだろうか?」
「気に入った。のなら。うー。構わないよ」
さほど名付けにこだわりがあったわけではない。
「はっはっは、ありがとう主どの。では僕は今からミノタリアだ。よろしくな、主どの!」
ミノタリアは鷹揚に笑った。
「で、主どの。僕はこれからどうすればいいのだ?」
「一応。地上にいる。男の。お嫁さんに。なる予定」
「なるほど! 結婚相手がすでにいるのか。至れり尽くせりだな。早速会ってみよう、どこにいる?」
「まだ。会えない」
決められた期日の日に三人そろって男に引き合わせるという約束である。エウラシアが説明すると、ミノタリアは不満げな顔をした。
「なんだ、まだ随分先ではないか。それまでどうすればいいというのか!」
「好きに。すれば。いい。神殿と。……神社があるけど。忙しい。から。そこは。だめ」
恐らくまだツツミとレカエルはお嫁さんづくりに躍起になっているころである。邪魔をしてはいけない。
「他は。やりたいように。やっていい」
「では、ひとまずこの辺りを見て回るとしようか!」
ミノタリアはひとまず天界を見て回ったらしい。エウラシアはめんどくさかったので同行しなかった。
嫁づくりで疲れた。しばらく寝よう。そう考えていたのだが……。
「主どの! 起きてくれ!」
いくらの時間もたたないうちにエウラシアは叩き起こされた。思い切り不機嫌そうな顔で目を開ける。
「友達ができたぞ!」
見るとそこには針だらけになったミノタリアと、ボロボロになったレバノンスギがいた。
「なにが。あったの?」
「うむ。腹が減ってきたので適当な木の葉でも食べようと思ったところ、その木が動きだしてな!」
牛の要素も強いミノタリアは草食も行けるらしい。
「なんと食べようとしていた葉を飛ばして攻撃してきたのだ。はっはっは、食い物に反撃されるとは思わなかったぞ!」
草食が可能とはいえ、よくも見るからに固そうなレバノンスギの葉を食べようとしたものだ。
「もちろんそれにひるむ僕ではない。この蹄で蹴りを喰らわせてやったとも! はっはっは、主どのにも戦いの物語を語ろう。まず僕の蹴りを受けたこの木。しかしすぐに身をひるがえし……」
「……手短に」
絶対に長くなりそうだ。エウラシアに聞く気はない。ミノタリアは気を悪くした風でもなく続ける。
「そうか? まあ結論から言うと、戦いのさなかに友情が産まれたのだ。強敵と書いて友とよむあれだな、うむ」
そういってガシッとレバノンスギと手(と枝)を交わす。種族を超えた仲が産まれたらしい。
「よかった。ね」
「うむ」
「それで。私に。なんの。用?」
「自慢したかったのだ!」
「……よかったね」
エウラシアは適当に答えると膝を丸め、再び眠りにつく。ミノタリアも満足したのかレバノンスギとどこかへ去っていった。
しかし、ミノタリアの安眠妨害はこの後も続いたのである。
「はっはっは、主どの。また別の木をみつけたぞ。黄色い煙を出すんだ!」
「はっはっは、主どの。仲良くなったぞ。やはりこぶしを交えねば互いのことはわからないな!」
「はっはっは、主どの。三人で踊りを考えてみたのだ! ぜひ楽しんでほしい」
「はっはっは、主どの。寝てばかりでは健康に悪いぞ。一緒に散歩にでも行かないか?」
……最初のころはまだ適当ながらも答えていたエウラシア。しかし途中から無視することにした。
それも構わずミノタリアは事あるごとにエウラシアの眠りを妨げるのである。
「はっはっは、主……」
何度目かの襲来でエウラシアはついにうんざりした。なにも答えず、空へと飛びあがる。
「おや? どちらへ、主どの?」
はるか下へ見えなくなっていくミノタリアには構わず、エウラシアは飛び続けた。天界にあるひときわ高い木。エウラシアの木の元へである。
木のてっぺんにたどり着く。適当な枝で、エウラシアは休むことにした。ここならミノタリアは追ってこれないだろう。
……そう思い眠りについてからしばらくして、あの声が耳元で響いた。
「おお! 素晴らしい見晴らしだな、主どの」
ミノタリアがすぐそこにいた。彼女に飛行能力は授けていない。
「どうやって。ここに。来たの?」
「もちろん登ってきたのだ!」
この気が遠くなるほどの巨木を、地面からわざわざ登ってきたらしい。
「いきなりどこへ行ったのかと思ったが、この景色を僕に見せたかったのだな。ありがとう、主どの!」
にっこりと笑うミノタリア。エウラシアは自分で創った彼女が、自身ととても相性が悪いことを知った。
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まだ眠っている彼女。茶色い髪のその頭には、緩いカーブを描く二本の角がある。
手や上半身は完全に人間のそれだ。しかしその下半身は、全体が短い茶色の毛でおおわれている。足の先には二つに分かれた蹄があった。
「よし」
エウラシアは全身を見下ろし、問題がないことを確認する。一番のこだわりの部分に手を伸ばした。
「……むにむに」
一応布で作ったビキニのトップスを着させた双丘。その感触を確かめる。
エウラシアのこだわりはやはり胸だった。ここは大きく、できるだけ大きくしなければならない。そのためにはどうすればいいか。
エウラシアの出した結論。それは人の枠にこだわることをやめることだった。
エウラシアの国にはかつて、人間と牛の間に生まれた存在があった。色々不幸な生い立ちを送ったそれは、牛頭人体のなりをしていた。
彼は化け物として扱われ、迷宮に幽閉される憂き目になった。しかし、交わる部分と比率を考え直せばどうであろうか。
「人の。少女。きれい。牛の。……身体。んー。豊満」
エウラシアのこだわり、最高のプロポーションを誇る体が出来上がった。エウラシアは手を彼女の額に当て、命を注ぎ込む。
「起きて」
すぐに彼女は目覚め、体を起こす。目をパチパチさせながらあくびを一つした。
「……ふわぁーあ。おはよう、主どの」
「おはよう」
立ち上がり、体を確かめながら大きく伸びをする。
「うーーん! ああ、いい体だな! ありがとう、主どの! あなたの名前を教えてくれ」
「……エウラシア」
「わかったぞ! まあしかし、敬意をこめて主様と呼ばせてもらおう。僕にも名前を付けてくれないか」
戸惑うこともなく、とんとん拍子に話を進める彼女。最も神使の類は生まれた瞬間から自分がどういう存在か理解しているものだ。
「名前は。考えて。なかった」
そこまでは頭が回っていなかった。咄嗟に出てきたのは、元となった怪物の名前である。
「……ミノタウロス?」
「はっはっは、ミノタウロスか。しかしずいぶんと男らしい」
男らしく笑う彼女。別に問題ない気もする。
「ここは主どのの名前を少し頂こう。そうだな……『ミノタリア』と名乗りたい、構わないだろうか?」
「気に入った。のなら。うー。構わないよ」
さほど名付けにこだわりがあったわけではない。
「はっはっは、ありがとう主どの。では僕は今からミノタリアだ。よろしくな、主どの!」
ミノタリアは鷹揚に笑った。
「で、主どの。僕はこれからどうすればいいのだ?」
「一応。地上にいる。男の。お嫁さんに。なる予定」
「なるほど! 結婚相手がすでにいるのか。至れり尽くせりだな。早速会ってみよう、どこにいる?」
「まだ。会えない」
決められた期日の日に三人そろって男に引き合わせるという約束である。エウラシアが説明すると、ミノタリアは不満げな顔をした。
「なんだ、まだ随分先ではないか。それまでどうすればいいというのか!」
「好きに。すれば。いい。神殿と。……神社があるけど。忙しい。から。そこは。だめ」
恐らくまだツツミとレカエルはお嫁さんづくりに躍起になっているころである。邪魔をしてはいけない。
「他は。やりたいように。やっていい」
「では、ひとまずこの辺りを見て回るとしようか!」
ミノタリアはひとまず天界を見て回ったらしい。エウラシアはめんどくさかったので同行しなかった。
嫁づくりで疲れた。しばらく寝よう。そう考えていたのだが……。
「主どの! 起きてくれ!」
いくらの時間もたたないうちにエウラシアは叩き起こされた。思い切り不機嫌そうな顔で目を開ける。
「友達ができたぞ!」
見るとそこには針だらけになったミノタリアと、ボロボロになったレバノンスギがいた。
「なにが。あったの?」
「うむ。腹が減ってきたので適当な木の葉でも食べようと思ったところ、その木が動きだしてな!」
牛の要素も強いミノタリアは草食も行けるらしい。
「なんと食べようとしていた葉を飛ばして攻撃してきたのだ。はっはっは、食い物に反撃されるとは思わなかったぞ!」
草食が可能とはいえ、よくも見るからに固そうなレバノンスギの葉を食べようとしたものだ。
「もちろんそれにひるむ僕ではない。この蹄で蹴りを喰らわせてやったとも! はっはっは、主どのにも戦いの物語を語ろう。まず僕の蹴りを受けたこの木。しかしすぐに身をひるがえし……」
「……手短に」
絶対に長くなりそうだ。エウラシアに聞く気はない。ミノタリアは気を悪くした風でもなく続ける。
「そうか? まあ結論から言うと、戦いのさなかに友情が産まれたのだ。強敵と書いて友とよむあれだな、うむ」
そういってガシッとレバノンスギと手(と枝)を交わす。種族を超えた仲が産まれたらしい。
「よかった。ね」
「うむ」
「それで。私に。なんの。用?」
「自慢したかったのだ!」
「……よかったね」
エウラシアは適当に答えると膝を丸め、再び眠りにつく。ミノタリアも満足したのかレバノンスギとどこかへ去っていった。
しかし、ミノタリアの安眠妨害はこの後も続いたのである。
「はっはっは、主どの。また別の木をみつけたぞ。黄色い煙を出すんだ!」
「はっはっは、主どの。仲良くなったぞ。やはりこぶしを交えねば互いのことはわからないな!」
「はっはっは、主どの。三人で踊りを考えてみたのだ! ぜひ楽しんでほしい」
「はっはっは、主どの。寝てばかりでは健康に悪いぞ。一緒に散歩にでも行かないか?」
……最初のころはまだ適当ながらも答えていたエウラシア。しかし途中から無視することにした。
それも構わずミノタリアは事あるごとにエウラシアの眠りを妨げるのである。
「はっはっは、主……」
何度目かの襲来でエウラシアはついにうんざりした。なにも答えず、空へと飛びあがる。
「おや? どちらへ、主どの?」
はるか下へ見えなくなっていくミノタリアには構わず、エウラシアは飛び続けた。天界にあるひときわ高い木。エウラシアの木の元へである。
木のてっぺんにたどり着く。適当な枝で、エウラシアは休むことにした。ここならミノタリアは追ってこれないだろう。
……そう思い眠りについてからしばらくして、あの声が耳元で響いた。
「おお! 素晴らしい見晴らしだな、主どの」
ミノタリアがすぐそこにいた。彼女に飛行能力は授けていない。
「どうやって。ここに。来たの?」
「もちろん登ってきたのだ!」
この気が遠くなるほどの巨木を、地面からわざわざ登ってきたらしい。
「いきなりどこへ行ったのかと思ったが、この景色を僕に見せたかったのだな。ありがとう、主どの!」
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