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第一章 世界創造編
22.ツツミのお嫁さん創り
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ツツミは考えていた。今回のお嫁さんコンテストについてである。
「うーん。とにかくかわいい女の子を創ればいいんだよね」
とは言ったものの、考えがまとまらない。元となるアイデアは、ラブコメ物の作品も嗜むため多数ある。
しかし逆に想像がとっ散らかってしまい、イメージを固めることができなかった。
「どうしよう……。そもそもあの人間がどんな子が好きかがわからないし……。」
相手となる男は、そもそも恋愛の機微を理解できるかも疑問な状態である。
「とにかく、好きというのを行動で示すことが大事だよね」
愛は行動によって裏打ちされる。それがツツミの持論だった。愛する人がしてほしいことをする。どんなことでもする。自分に不利益であってもそうしてしまわざるを得ない。
「それが……恋ってことさ」
誰もいないにもかかわらず、フッと笑ってドヤ顔のツツミ。自身にそんな経験がないことは棚に上げた。
……ふと、そういう話があったような気がした。男のために尽くそうとし、自分の身を削り、最後には悲しい別れとなってしまっても相手を責めない……。
「……天啓だ。天啓が下りてきた」
ツツミの嫁づくりが始まった。
「さーらーきーたーまーえーきーたーおーなーかーがーすーいーたー」
ツツミは神社のなかで榊を振っていた。神事などで神主さんが振るあの枝である。ちなみに祝詞は適当だ。
ツツミの前には少女が横たわっている。長い赤毛の少女だ。
「はーえーたーまーえーはーえーたーまーえー」
やがて少女の身体、肩のあたりから羽毛が生え始めた。肩から背中に広がり、腰の辺りからは体の前面部も覆っていく。両手はとくにふわふわしていた。
羽毛に覆われていないのは顔と、首からおへその辺りの前面部だけである。
「よし。いい感じ!」
ツツミは最後の仕上げに入る。
「あーさーだー、おーきーろー。なーんーじーのーなーはー。『タンチョウ』」
名付け、榊を少女の身体に振り下ろす。次の瞬間、光が少女の身体を覆った。
……やがて少女は目を開け、立ち上がる。あたりをキョドキョドと見渡した。
「おはよう『タンチョウ』! 私が君を創った神使、ツツミだよ!」
ツツミの挨拶にびくっと震えるタンチョウ。しかしおどおどと笑顔を作り、言葉を返す。
「あ、あの、初めましてご主人様。ツツミ様ですね。『タンチョウ』が私の名ですか?」
「そう! 君は人間でありツルの化身だからね!」
ツツミがモチーフとしたのは鶴の恩返しだった。罠から助けてくれた男(老夫婦だったかもしれない)の元に人間となって現れ、自らの羽をむしって美しい布を織りあげる。
献身の見本ともいうべき愛情の深さではないか。
「ご、ご主人様。創ってくれてありがとうございます」
「うんうん、奥ゆかしくて気立てのよさそうな娘さんだ! あんまり畏まらなくてもいいよ?」
「は、はい。なんだか緊張しちゃって」
そわそわしているタンチョウ。やがてタンチョウは自分の胸元に目をやり、顔を赤らめた。
「ご主人様。そ、その、服をもらえないでしょうか。裸なのはちょっと……」
タンチョウの上半身の前面は普通の人間と変わらない。両腕を組むようにして縮こまる彼女。
「ああごめんごめん。……そうだ!」
ツツミは念じ、タンチョウの前に機織り機を出した。
「服は自分で作ったらどうかな? 服が作れる女の子はかわいいよ?」
「は、はい」
タンチョウは機織り機の前に進み、辺りを見て困惑した。
「あの、ご主人様。糸をいただけないでしょうか」
「ううん。せっかくだから、名高い鶴の織物を作ろうよ! 自分の羽でこう……」
タンチョウは恐縮したように答える。
「え? えっと、その……。ごめんなさいご主人様。できません」
「……えっ?」
意味が分からないという顔をするツツミ。
「その、織物というのは糸を縦横に組み合わせて作る布のことです。私の羽毛があったところで……」
言葉を濁すタンチョウ。半身を覆っているのはふわふわした短い羽毛である。
「え、えーと……そうだ、両腕を振ってみて!」
「は、はい」
タンチョウがツツミの言葉に従うと、両腕に翼が生えた。正しくは収納されていた翼が広げられたのであるが。
「この翼の羽はそれなりに長さがあるよ? これならどうかな?」
「は、はい。でも、これもただの羽であって糸ではないので……」
「そ、そっか。あれ? 鶴の恩返しのツルさんはどうやって織ったのかな?」
「ご、ごめんなさい。私にはわかりません……」
「……」
気まずい雰囲気が二人に流れる。
「ごめんなさいごめんなさい、そうですよねご主人様! 何か方法があるはずです」
そう言ってタンチョウは翼を広げ、一本の羽をつまむ。えい、という掛け声とともにそれを引き抜いた、いや引き抜こうとした。
直前で止まるタンチョウ。きっと痛みがあるのだろう。しかし泣きそうな顔でタンチョウは続ける。
「あ、あはは。ちょっと待ってくださいね。私頑張りますから。せーの……」
「ごめん私が悪かった!! いい、むしらなくていいから!!」
ひしっ、とタンチョウを抱きしめるツツミ。
「ごめんなさい。役に立てなくて、ほんとうにごめんなさい」
「いいって! そうだよね。羽で織物なんて作れないよね。服は私が出してあげる」
ツツミはそういって指をパチンと鳴らした。次の瞬間、ツツミと同じ巫女服がタンチョウに着せられる。
「ありがとうございます! こんな素敵な服を頂けるなんて……」
「うんうん似合ってる。あ、袖の下の部分は切って翼を出しやすくしといたから。これなら着たまま飛べるでしょ?」
「えっ?」
再び会話が途切れる。タンチョウは恐る恐る言った。
「あの、人間に翼があっても、鳥のようには飛べません。そんなに羽ばたけないですし、体全体もそういう風になってはいないので……」
「え? いやでも私は飛ぼうと思えば飛べるし、レカエル、いや天使だって……」
「そ、その。……言いにくいのですが、私はあくまで人間なので……」
「……」
本当に申し訳ない、その気持ちがすごく伝わってくる。再びタンチョウは言った。
「ごめんなさいごめんなさい! もしかしたら飛べるかもしれません。そうだ! この辺に高いところはありますか? 飛び降りて上昇気流に乗ればなんとか……」
「飛ばなくていい、多分死んじゃうって!! ……ごめんやっぱ私の計画がいろいろ甘かった」
しきりに頑張ってくれようとするタンチョウに、申し訳なさがいっぱいになるツツミであった。
「……それで、私は何をすればいいんでしょう」
「うん。一応地上にいる人間のお嫁さんになってもらおうと思ったんだけど……」
ツツミはこの短時間で、タンチョウがいい子すぎるのを実感していた。
「その。どうかな? まあ会ってみないと何とも言えないだろうし、それでいやだったら別に構わないから」
「いえ。やらせてください」
タンチョウは悲壮な覚悟で答える。
「ご主人様の期待に何一つ応えられない私です。せめて、せめてできることだけはしっかりと全うして見せます!」
「ごめんね、追い詰めちゃって本当にごめんね」
至らない主人を懸命に支えてくれようとするタンチョウに、ツツミは罪悪感でいっぱいであった。
「それで、お嫁さん候補はほかにも二人いてね。一人の男に選ばれなきゃいけないんだ」
「が、頑張ります」
ぐっとこぶしを握るタンチョウ。ツツミは決意した。仲良くなり、いいところを見せるチャンスだ。
「じゃあこれから英才教育をはじめよう!」
「英才教育……ですか?」
「そう。今から一緒に私の城に行こ? 恋愛のすべてを教えてあげる。とはいっても難しい物じゃないから、一緒に楽しんでくれればいいよ」
「は、はい!」
ツツミは城に戻り、タンチョウと一緒に恋愛物のアニメ鑑賞会を行った。他にも漫画やゲームなど、時間が許す限りの情報を与えたのである。
「……『お兄ちゃん』と言ってあげると男の人は喜ぶのですね」
こうしてタンチョウの恋愛観はいい子過ぎるが故、順調に斜め上に成長していったのであった。
「うーん。とにかくかわいい女の子を創ればいいんだよね」
とは言ったものの、考えがまとまらない。元となるアイデアは、ラブコメ物の作品も嗜むため多数ある。
しかし逆に想像がとっ散らかってしまい、イメージを固めることができなかった。
「どうしよう……。そもそもあの人間がどんな子が好きかがわからないし……。」
相手となる男は、そもそも恋愛の機微を理解できるかも疑問な状態である。
「とにかく、好きというのを行動で示すことが大事だよね」
愛は行動によって裏打ちされる。それがツツミの持論だった。愛する人がしてほしいことをする。どんなことでもする。自分に不利益であってもそうしてしまわざるを得ない。
「それが……恋ってことさ」
誰もいないにもかかわらず、フッと笑ってドヤ顔のツツミ。自身にそんな経験がないことは棚に上げた。
……ふと、そういう話があったような気がした。男のために尽くそうとし、自分の身を削り、最後には悲しい別れとなってしまっても相手を責めない……。
「……天啓だ。天啓が下りてきた」
ツツミの嫁づくりが始まった。
「さーらーきーたーまーえーきーたーおーなーかーがーすーいーたー」
ツツミは神社のなかで榊を振っていた。神事などで神主さんが振るあの枝である。ちなみに祝詞は適当だ。
ツツミの前には少女が横たわっている。長い赤毛の少女だ。
「はーえーたーまーえーはーえーたーまーえー」
やがて少女の身体、肩のあたりから羽毛が生え始めた。肩から背中に広がり、腰の辺りからは体の前面部も覆っていく。両手はとくにふわふわしていた。
羽毛に覆われていないのは顔と、首からおへその辺りの前面部だけである。
「よし。いい感じ!」
ツツミは最後の仕上げに入る。
「あーさーだー、おーきーろー。なーんーじーのーなーはー。『タンチョウ』」
名付け、榊を少女の身体に振り下ろす。次の瞬間、光が少女の身体を覆った。
……やがて少女は目を開け、立ち上がる。あたりをキョドキョドと見渡した。
「おはよう『タンチョウ』! 私が君を創った神使、ツツミだよ!」
ツツミの挨拶にびくっと震えるタンチョウ。しかしおどおどと笑顔を作り、言葉を返す。
「あ、あの、初めましてご主人様。ツツミ様ですね。『タンチョウ』が私の名ですか?」
「そう! 君は人間でありツルの化身だからね!」
ツツミがモチーフとしたのは鶴の恩返しだった。罠から助けてくれた男(老夫婦だったかもしれない)の元に人間となって現れ、自らの羽をむしって美しい布を織りあげる。
献身の見本ともいうべき愛情の深さではないか。
「ご、ご主人様。創ってくれてありがとうございます」
「うんうん、奥ゆかしくて気立てのよさそうな娘さんだ! あんまり畏まらなくてもいいよ?」
「は、はい。なんだか緊張しちゃって」
そわそわしているタンチョウ。やがてタンチョウは自分の胸元に目をやり、顔を赤らめた。
「ご主人様。そ、その、服をもらえないでしょうか。裸なのはちょっと……」
タンチョウの上半身の前面は普通の人間と変わらない。両腕を組むようにして縮こまる彼女。
「ああごめんごめん。……そうだ!」
ツツミは念じ、タンチョウの前に機織り機を出した。
「服は自分で作ったらどうかな? 服が作れる女の子はかわいいよ?」
「は、はい」
タンチョウは機織り機の前に進み、辺りを見て困惑した。
「あの、ご主人様。糸をいただけないでしょうか」
「ううん。せっかくだから、名高い鶴の織物を作ろうよ! 自分の羽でこう……」
タンチョウは恐縮したように答える。
「え? えっと、その……。ごめんなさいご主人様。できません」
「……えっ?」
意味が分からないという顔をするツツミ。
「その、織物というのは糸を縦横に組み合わせて作る布のことです。私の羽毛があったところで……」
言葉を濁すタンチョウ。半身を覆っているのはふわふわした短い羽毛である。
「え、えーと……そうだ、両腕を振ってみて!」
「は、はい」
タンチョウがツツミの言葉に従うと、両腕に翼が生えた。正しくは収納されていた翼が広げられたのであるが。
「この翼の羽はそれなりに長さがあるよ? これならどうかな?」
「は、はい。でも、これもただの羽であって糸ではないので……」
「そ、そっか。あれ? 鶴の恩返しのツルさんはどうやって織ったのかな?」
「ご、ごめんなさい。私にはわかりません……」
「……」
気まずい雰囲気が二人に流れる。
「ごめんなさいごめんなさい、そうですよねご主人様! 何か方法があるはずです」
そう言ってタンチョウは翼を広げ、一本の羽をつまむ。えい、という掛け声とともにそれを引き抜いた、いや引き抜こうとした。
直前で止まるタンチョウ。きっと痛みがあるのだろう。しかし泣きそうな顔でタンチョウは続ける。
「あ、あはは。ちょっと待ってくださいね。私頑張りますから。せーの……」
「ごめん私が悪かった!! いい、むしらなくていいから!!」
ひしっ、とタンチョウを抱きしめるツツミ。
「ごめんなさい。役に立てなくて、ほんとうにごめんなさい」
「いいって! そうだよね。羽で織物なんて作れないよね。服は私が出してあげる」
ツツミはそういって指をパチンと鳴らした。次の瞬間、ツツミと同じ巫女服がタンチョウに着せられる。
「ありがとうございます! こんな素敵な服を頂けるなんて……」
「うんうん似合ってる。あ、袖の下の部分は切って翼を出しやすくしといたから。これなら着たまま飛べるでしょ?」
「えっ?」
再び会話が途切れる。タンチョウは恐る恐る言った。
「あの、人間に翼があっても、鳥のようには飛べません。そんなに羽ばたけないですし、体全体もそういう風になってはいないので……」
「え? いやでも私は飛ぼうと思えば飛べるし、レカエル、いや天使だって……」
「そ、その。……言いにくいのですが、私はあくまで人間なので……」
「……」
本当に申し訳ない、その気持ちがすごく伝わってくる。再びタンチョウは言った。
「ごめんなさいごめんなさい! もしかしたら飛べるかもしれません。そうだ! この辺に高いところはありますか? 飛び降りて上昇気流に乗ればなんとか……」
「飛ばなくていい、多分死んじゃうって!! ……ごめんやっぱ私の計画がいろいろ甘かった」
しきりに頑張ってくれようとするタンチョウに、申し訳なさがいっぱいになるツツミであった。
「……それで、私は何をすればいいんでしょう」
「うん。一応地上にいる人間のお嫁さんになってもらおうと思ったんだけど……」
ツツミはこの短時間で、タンチョウがいい子すぎるのを実感していた。
「その。どうかな? まあ会ってみないと何とも言えないだろうし、それでいやだったら別に構わないから」
「いえ。やらせてください」
タンチョウは悲壮な覚悟で答える。
「ご主人様の期待に何一つ応えられない私です。せめて、せめてできることだけはしっかりと全うして見せます!」
「ごめんね、追い詰めちゃって本当にごめんね」
至らない主人を懸命に支えてくれようとするタンチョウに、ツツミは罪悪感でいっぱいであった。
「それで、お嫁さん候補はほかにも二人いてね。一人の男に選ばれなきゃいけないんだ」
「が、頑張ります」
ぐっとこぶしを握るタンチョウ。ツツミは決意した。仲良くなり、いいところを見せるチャンスだ。
「じゃあこれから英才教育をはじめよう!」
「英才教育……ですか?」
「そう。今から一緒に私の城に行こ? 恋愛のすべてを教えてあげる。とはいっても難しい物じゃないから、一緒に楽しんでくれればいいよ」
「は、はい!」
ツツミは城に戻り、タンチョウと一緒に恋愛物のアニメ鑑賞会を行った。他にも漫画やゲームなど、時間が許す限りの情報を与えたのである。
「……『お兄ちゃん』と言ってあげると男の人は喜ぶのですね」
こうしてタンチョウの恋愛観はいい子過ぎるが故、順調に斜め上に成長していったのであった。
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