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第一章 世界創造編
23.六人娘、集合する
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「あ、もう集まってる。おーい!」
ツツミとタンチョウは二人で天界の端にやってきた。約束の日である。待ち合わせ場所にはすでにレカエルとエウラシア、そしてお嫁さん候補の二人がいた。
「遅いですよ、ツツミ」
「ごめんごめん、なかなか最後のアニメが見終わらなくって。わあ、その子たちが二人のお嫁さん候補?」
ツツミは初めて見る少女たちに顔をほころばせる。
「はじめまして! 私がウカノミタマ様の神使、ツツミ! よろしくね」
「お初にお目にかかります。わたくしはレカエル様が創ってくださった忠実なる僕、イヴと申します」
「はっはっは。ミノタリアだ。よろしく」
一応異教の眷属とはいえ、神域の者に対する礼をとるイヴ。対してミノタリアは気負わないままだった。
「それにしても……あなたも亜人を創ったのですか」
レカエルがツツミの後ろに控えるタンチョウに目を向ける。タンチョウはビクッとおびえたように肩を震わせたが、意を決したように前に出た。
「は、はじめまして皆さん。ご主人様に創ってもらったタンチョウといいます。よろしくお願いします」
深々と頭を下げるタンチョウ。レカエルはフンッと鼻を鳴らした。
「人間の男の妻を見繕うというのに、純粋な人間を創ったのは私だけですか、まったく……。イヴ、今回の勝負は絶対に勝ちなさい。邪悪な亜人に後れを取ってはいけませんよ」
「心得ておりますわ、レカエル様」
イヴはレカエルの言葉に頷く。
「わたくしは尊きレカエル様の御業の結晶です。このような薄汚い者たちに後れは取りませんわ」
そう言って胸を張るイヴ。ツツミはカチンときた。
「ほほーう。うちのかわいいかわいいタンチョウを薄汚い、ねぇ。……八百万の神々の力、味わってみる?」
「……ひっ」
レカエルの後ろに隠れるイヴ。タンチョウはむしろ恐縮した様子だが構わない。タンチョウはツツミが守るのだ。
「はっはっは、イヴは鼻息が荒いなあ。そんなにいじめなくてもいいじゃないか」
「お黙りなさいませ。薄汚いからそう言ったのです。あなたにいたっては小汚いですよ」
ミノタリアが笑顔でたしなめるとイヴはそれにも突っかかった。どうやらツツミたちが来る前にもひと悶着あったらしい。
しかしミノタリアは気にする様子もなくタンチョウに近づく。
「改めて挨拶を。僕はミノタリアだ。仲良くしようじゃないか、タンチョウ」
「う、うん。よろしく、ミノタリアさん」
握手を交わすタンチョウとミノタリア。この二人はどうやらうまくやれそうだ。
「……ふん。まあ亜人同士よろしくやればいいんじゃありませんこと」
「わ、私はイブさんとも仲良くしたいですよ?」
歩み寄るタンチョウが差し出した手を、イヴはパンッとはじいた。
「タンチョウ。わたくしはあなたたちとなれ合うつもりはございません。わたくしに必要なのは勝利だけです。どうせミノタリアとあなたは負け、ここに帰ってくるのです。長い付き合いにはなりませんわ」
主人に似て強い物言いのイヴ。タンチョウは落ち込んだように視線を下げた。
「気にする。ことは。ないよ」
慰めたのはツツミではなくエウラシアだった。タンチョウの後ろに回り込み、後ろから抱きしめる。
「わっ!? え、えと、エウラシア様、ですよね。ご主人様からお話はかねがね……」
「うん。見れば。わかる。君は。……いい子」
「は、はいっ。ありがとうございます。……あの、これは……」
「スキンシップ。仲良しの。印。もうちょっと。このまま……」
「エウラシア、ストップ!」
がるる、という声が出そうな勢いでツツミはエウラシアを引きはがした。あの手はよしよしと撫でているのではない。もっと欲望にまみれたなにかだ。
「うちのタンチョウを傷物にする気? 羽毛フェチもほどほどにね!」
「うー。残念」
女子が三人集まると姦しいという。倍の六人集まったこの場の表現は見当たらないが、なんにせよ賑やかではあった。
「では、あなたたちに贈り物を授けます」
一段落してからレカエルが切り出した。嫁候補の三人はキョトンとしている。ツツミが後の説明を請け負った。
「えーと。お嫁さん候補には、あの人間と仲良くするだけじゃなくて色々お世話もしてほしいんだ」
現在何の生活基盤も持っていそうにないあの人間である。なんとか死なせないため、ツツミたちはお嫁さん候補にそれぞれ贈り物を持たせ、男を導くことにしたのだった。
「いわば。嫁入り道具」
エウラシアの言う嫁入り道具。事前に三人で相談して役割分担も割り振ってある。
「タンチョウには、これ」
ツツミはタンチョウに一房の稲穂を手渡した。
「この稲穂はすぐに育ってたくさんの実を結ぶよ。普通よりずっと早く収穫できるはず」
本人も忘れかけていたが、ツツミの本業は豊穣の神の使いである。食糧問題を解決するため真っ先に思い浮かんだのが稲穂だった。
「イヴにはこちらを」
レカエルが出したのは二頭のヒツジだった。これもまたもふもふである。
「ゆくゆくは肉を食べてもいいでしょうが、これらが仔を産むまでは羊毛を使うことを教えなさい」
毛糸にできれば衣服にも使える。元世界でいうところのウールである。毛が生える速さは普通のヒツジとは比べ物にならないそうだ。
「……ん」
エウラシアの用意した嫁入り道具は竈だった。曰く、オリンポスの竈の神様の神具を似せて作ったらしい。安定して火を使えるようにすることが目的だ。
「こっちは。おまけ」
見ると、竈の傍らに若木の鉢が置いてある。杉でもエウラシアの木でもない。
「カシの木。すぐ増える。ようにしてある。薪に。いい」
燃料についても抜かりないようだ。
「これらが。あれば。色々。できる。木の家。でもいい。……レンガも。竈で。作れる」
住環境に対しての心遣いである。ちなみにこの竈の元となったオリンポスの神様は、どんなことがあろうと、例え神々を揺るがす戦争が起ころうとも竈から離れないらしい。
エウラシアの最も尊敬する神様だそうだ。
「これを使って人間の暮らしをいい感じにしてあげてね! お嫁さんに誰がなるかは……まぁ恨みっこなしってことで」
ツツミの言葉に、少女三人はそれぞれの嫁入り道具のそばに立って頷く。
ちなみに稲穂やヒツジ、カシは初回特典という事ですぐ成長・利用できるようにしてある。代を重ねればスピードは落ちるだろうが。
「では、行きなさい。幸運を祈っています」
「頑張ってねタンチョウ!」
「……じゃあ」
神使三人は別れの言葉を交わし、少女たちに向かって手をかざした。ツツミたちがこの世界にやってきた時と同じような光がお嫁さん候補たちを包み込む。
「い、いってきますご主人様」
「きっとご期待に沿って見せますわ!」
「はっはっは、主どの、それでは!」
やがて光はふわっと浮き上がり、三人を地上の男の元へと運んで行った。
「……行っちゃったね」
少し寂しい気持ちで見送りを終えたツツミ。
「心配しなくても、妻となるのはイヴです。あなたたち二人はすぐ会えますよ」
レカエルは相も変わらず強気である。と、エウラシアが口をはさんだ。
「もしかしたら。嫁に。なれないほうが。うー。いいのかも」
「エウラシア?」
ツツミは怪訝そうな顔でエウラシアを見た。
「戻ってきたら。私たちの。眷属にする。お嫁さんに。なったら。人間のまま。……すぐ。死んじゃう」
「……確かに」
人間の一生は、神域の存在と比べてはるかに短い。男に振られて戻ってくれば、神使の使いとして遇するつもりだった。寿命も当然延びる。
しかし結婚し、人間として暮らすのではそうもいかない。ツツミたちの感覚では非常に短い人生で終わってしまうのだ。
「それは……」
複雑そうな表情を浮かべるレカエル。ツツミもやりきれない気持ちがした。なんとかならないものか……。
「そうだ! 死後の世界を創ろう!」
ツツミは解決策を思いついて叫んだ。
「死後の世界? 天国と地獄ですか?」
「うーん。わかんないけど、死んで終わりじゃなくて、なんかうまい方法を考えようよ! そしたらお嫁さんになった子にもまた会えるし!」
どのようにするかはまだ考えつかない。しかし生者が次に訪れる場所、冥界を創る事が決まった。
ツツミとタンチョウは二人で天界の端にやってきた。約束の日である。待ち合わせ場所にはすでにレカエルとエウラシア、そしてお嫁さん候補の二人がいた。
「遅いですよ、ツツミ」
「ごめんごめん、なかなか最後のアニメが見終わらなくって。わあ、その子たちが二人のお嫁さん候補?」
ツツミは初めて見る少女たちに顔をほころばせる。
「はじめまして! 私がウカノミタマ様の神使、ツツミ! よろしくね」
「お初にお目にかかります。わたくしはレカエル様が創ってくださった忠実なる僕、イヴと申します」
「はっはっは。ミノタリアだ。よろしく」
一応異教の眷属とはいえ、神域の者に対する礼をとるイヴ。対してミノタリアは気負わないままだった。
「それにしても……あなたも亜人を創ったのですか」
レカエルがツツミの後ろに控えるタンチョウに目を向ける。タンチョウはビクッとおびえたように肩を震わせたが、意を決したように前に出た。
「は、はじめまして皆さん。ご主人様に創ってもらったタンチョウといいます。よろしくお願いします」
深々と頭を下げるタンチョウ。レカエルはフンッと鼻を鳴らした。
「人間の男の妻を見繕うというのに、純粋な人間を創ったのは私だけですか、まったく……。イヴ、今回の勝負は絶対に勝ちなさい。邪悪な亜人に後れを取ってはいけませんよ」
「心得ておりますわ、レカエル様」
イヴはレカエルの言葉に頷く。
「わたくしは尊きレカエル様の御業の結晶です。このような薄汚い者たちに後れは取りませんわ」
そう言って胸を張るイヴ。ツツミはカチンときた。
「ほほーう。うちのかわいいかわいいタンチョウを薄汚い、ねぇ。……八百万の神々の力、味わってみる?」
「……ひっ」
レカエルの後ろに隠れるイヴ。タンチョウはむしろ恐縮した様子だが構わない。タンチョウはツツミが守るのだ。
「はっはっは、イヴは鼻息が荒いなあ。そんなにいじめなくてもいいじゃないか」
「お黙りなさいませ。薄汚いからそう言ったのです。あなたにいたっては小汚いですよ」
ミノタリアが笑顔でたしなめるとイヴはそれにも突っかかった。どうやらツツミたちが来る前にもひと悶着あったらしい。
しかしミノタリアは気にする様子もなくタンチョウに近づく。
「改めて挨拶を。僕はミノタリアだ。仲良くしようじゃないか、タンチョウ」
「う、うん。よろしく、ミノタリアさん」
握手を交わすタンチョウとミノタリア。この二人はどうやらうまくやれそうだ。
「……ふん。まあ亜人同士よろしくやればいいんじゃありませんこと」
「わ、私はイブさんとも仲良くしたいですよ?」
歩み寄るタンチョウが差し出した手を、イヴはパンッとはじいた。
「タンチョウ。わたくしはあなたたちとなれ合うつもりはございません。わたくしに必要なのは勝利だけです。どうせミノタリアとあなたは負け、ここに帰ってくるのです。長い付き合いにはなりませんわ」
主人に似て強い物言いのイヴ。タンチョウは落ち込んだように視線を下げた。
「気にする。ことは。ないよ」
慰めたのはツツミではなくエウラシアだった。タンチョウの後ろに回り込み、後ろから抱きしめる。
「わっ!? え、えと、エウラシア様、ですよね。ご主人様からお話はかねがね……」
「うん。見れば。わかる。君は。……いい子」
「は、はいっ。ありがとうございます。……あの、これは……」
「スキンシップ。仲良しの。印。もうちょっと。このまま……」
「エウラシア、ストップ!」
がるる、という声が出そうな勢いでツツミはエウラシアを引きはがした。あの手はよしよしと撫でているのではない。もっと欲望にまみれたなにかだ。
「うちのタンチョウを傷物にする気? 羽毛フェチもほどほどにね!」
「うー。残念」
女子が三人集まると姦しいという。倍の六人集まったこの場の表現は見当たらないが、なんにせよ賑やかではあった。
「では、あなたたちに贈り物を授けます」
一段落してからレカエルが切り出した。嫁候補の三人はキョトンとしている。ツツミが後の説明を請け負った。
「えーと。お嫁さん候補には、あの人間と仲良くするだけじゃなくて色々お世話もしてほしいんだ」
現在何の生活基盤も持っていそうにないあの人間である。なんとか死なせないため、ツツミたちはお嫁さん候補にそれぞれ贈り物を持たせ、男を導くことにしたのだった。
「いわば。嫁入り道具」
エウラシアの言う嫁入り道具。事前に三人で相談して役割分担も割り振ってある。
「タンチョウには、これ」
ツツミはタンチョウに一房の稲穂を手渡した。
「この稲穂はすぐに育ってたくさんの実を結ぶよ。普通よりずっと早く収穫できるはず」
本人も忘れかけていたが、ツツミの本業は豊穣の神の使いである。食糧問題を解決するため真っ先に思い浮かんだのが稲穂だった。
「イヴにはこちらを」
レカエルが出したのは二頭のヒツジだった。これもまたもふもふである。
「ゆくゆくは肉を食べてもいいでしょうが、これらが仔を産むまでは羊毛を使うことを教えなさい」
毛糸にできれば衣服にも使える。元世界でいうところのウールである。毛が生える速さは普通のヒツジとは比べ物にならないそうだ。
「……ん」
エウラシアの用意した嫁入り道具は竈だった。曰く、オリンポスの竈の神様の神具を似せて作ったらしい。安定して火を使えるようにすることが目的だ。
「こっちは。おまけ」
見ると、竈の傍らに若木の鉢が置いてある。杉でもエウラシアの木でもない。
「カシの木。すぐ増える。ようにしてある。薪に。いい」
燃料についても抜かりないようだ。
「これらが。あれば。色々。できる。木の家。でもいい。……レンガも。竈で。作れる」
住環境に対しての心遣いである。ちなみにこの竈の元となったオリンポスの神様は、どんなことがあろうと、例え神々を揺るがす戦争が起ころうとも竈から離れないらしい。
エウラシアの最も尊敬する神様だそうだ。
「これを使って人間の暮らしをいい感じにしてあげてね! お嫁さんに誰がなるかは……まぁ恨みっこなしってことで」
ツツミの言葉に、少女三人はそれぞれの嫁入り道具のそばに立って頷く。
ちなみに稲穂やヒツジ、カシは初回特典という事ですぐ成長・利用できるようにしてある。代を重ねればスピードは落ちるだろうが。
「では、行きなさい。幸運を祈っています」
「頑張ってねタンチョウ!」
「……じゃあ」
神使三人は別れの言葉を交わし、少女たちに向かって手をかざした。ツツミたちがこの世界にやってきた時と同じような光がお嫁さん候補たちを包み込む。
「い、いってきますご主人様」
「きっとご期待に沿って見せますわ!」
「はっはっは、主どの、それでは!」
やがて光はふわっと浮き上がり、三人を地上の男の元へと運んで行った。
「……行っちゃったね」
少し寂しい気持ちで見送りを終えたツツミ。
「心配しなくても、妻となるのはイヴです。あなたたち二人はすぐ会えますよ」
レカエルは相も変わらず強気である。と、エウラシアが口をはさんだ。
「もしかしたら。嫁に。なれないほうが。うー。いいのかも」
「エウラシア?」
ツツミは怪訝そうな顔でエウラシアを見た。
「戻ってきたら。私たちの。眷属にする。お嫁さんに。なったら。人間のまま。……すぐ。死んじゃう」
「……確かに」
人間の一生は、神域の存在と比べてはるかに短い。男に振られて戻ってくれば、神使の使いとして遇するつもりだった。寿命も当然延びる。
しかし結婚し、人間として暮らすのではそうもいかない。ツツミたちの感覚では非常に短い人生で終わってしまうのだ。
「それは……」
複雑そうな表情を浮かべるレカエル。ツツミもやりきれない気持ちがした。なんとかならないものか……。
「そうだ! 死後の世界を創ろう!」
ツツミは解決策を思いついて叫んだ。
「死後の世界? 天国と地獄ですか?」
「うーん。わかんないけど、死んで終わりじゃなくて、なんかうまい方法を考えようよ! そしたらお嫁さんになった子にもまた会えるし!」
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