三人娘が異世界を創る ゆるく まったり いとをかし!

市上 未来

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第一章 世界創造編

24.堅苦しい話

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  冥界。死んだ人間の魂がいざなわれる場所である。

 人が死んだらどうなるか。それは神話によって様々に異なる。

「やはり、天国と地獄でしょう」

 そういったのはレカエルだ。

 死後、生前の行いの報いを受けることになるという考え方は多い。良いことをした人は幸せな場所へ。悪いことをした人はその罰を受ける場所へ。

「因果応報、天網恢恢てんもうかいかいです。人間に、等しく自身の撒いた種を刈り取らせて見せましょう」

 自分の神と同じように、ここにも天国地獄システムを創ろうと意気込むレカエルだったが……。

「……絶対。めんどくさい」

 考えただけで眠くなる、といった様子でエウラシアが不満げな顔をした。

「あなたはそうやっていつも……」
「まあまあ。言い方はともかく私もどうかと思うの」

 反論しようとするレカエルをツツミが遮った。

「そもそも私、天国とか地獄とかってよくわかんないんだよね」
「あなたたちのところにだって似たようなものがあったでしょう?」
「そうなんだけど……あれはどっちかっていうと、仏様の担当だからさあ」

 ツツミたちの国には『仏』を自称する一派がいる。ツツミからしてみれば八百万の神の一員なのだが、彼らはそう呼ばれることを嫌っている。プライドの高い連中なのだ。

 「ウカノミタマ様とかは、死んだ人は子孫でも見守っておけばいいんじゃない、って感じのゆるさなんだけど。仏連中はなんか細かくてね……」

 なんか生前の行いによって『とーかつ』だの『きょーかん』だの『だいしょーねつ』だの色々な地獄に行ったりするらしい。刑期の長さも何兆年単位がザラらしい。

 正直ツツミは『バカなんじゃないかな?』と思っている。

 エウラシアのところにも似たような概念はあるそうだ。すごくいい人、すごく悪い人、普通の人位のくくりだそうだが。

 レカエルのところも決して天国と地獄という二元に分かれたものではなく、『煉獄』や『辺獄』など種類分けがなされているようだ。

 人間の行いなど、善と悪二つに分ければ済むものではないともいえる。

「とにかく、なんか裁判みたいな感じで死後どうするか決めるんでしょ? たくさんの行き先と、どこに行くか決めるルールが必要だと思うんだけど……」
「ですからそれを決めればいいのです」
「神様じゃない私たちで?」

 うっ、とレカエルは言葉に詰まる。三人は厳密には神ではない。あくまで使いなのだ。

 決して倫理的な問題ではない。自由にしていいと言われている以上、どんなルール作りをしても大丈夫だろう。問題は能力であった。

「善人と悪人の基準をまず決めるでしょ? それぞれの行いに合った場所を創って細かく分けて……。あ、それを振り分ける裁判長の立ち位置の存在も必要だね。……どれくらい時間かかる?」

 元世界の神々ですら死後の人間の扱いには四苦八苦している様子がうかがえる。それを自分たちでやる。エウラシアの言葉を借りるならば……。

「絶対めんどくさいと思うんだ」

 ツツミの言葉に、レカエルは悔しそうに顔をゆがめた。

「じゃあ、どうするんですか?」
「とりあえず、『冥界』という場所はひとつ! 善人だろうが悪人だろうが、みんな死んだら冥界行きだ!」

 わざわざいい場所と悪い場所に分けたりしない。これで創る冥界は一つで済む。

「しかし……そうもいかないでしょう」

 レカエルは苦言を呈す。

「善人も悪人も結局死ねば同様の扱いになる。それでは悪人のほうが恵まれてしまうではありませんか」

 自分を律し正しく生きた人間と、欲望のままに自分勝手に生きた人間が平等の扱いを受ける。これは不公平だ。

「ううん。扱いには明確な差をつける」
「それでは結局複雑なルールを決めなければならないではないですか」
「ルールは一つだけでいいよ」

 ツツミは声高に言った。

「冥界では嫌われている人の前では『幽霊』になってしまう!」
「……幽霊?」
「そ。見えないし、触れないし、声も聞こえない」

 ツツミは考えた。悪とはなんだろうか。それは突き詰めれば、人が嫌がることをするという事ではないだろうか。

「私たちがわざわざ細かいルールなんて決める必要ないんだよ。冥界の人間それぞれがルールになればいいい」
 

 例えば生前他者を虐げ、理不尽に支配した者。冥界で同じことはできない。相手に全く干渉できないのだ。いないものとして扱われる。存在の否定という罰である。

 悪事が多いほど、つまり嫌な思いをさせた相手が多いほど、自身の存在を認めてくれる相手は少なくなる。

「幽霊、ですか……。しかし、人間は正しいことをすれば嫌われないとは限りません。逆恨みという事もあります」
「それも。問題ないと。言えば。……問題ない? ……相手から。自分は。見えない」

 それまで黙っていたエウラシアが少し考えて言った。その通り。逆恨みされているという不愉快な事実は変えられない。しかし、それによる実害はなくすことができるのだ。

「うん。逆恨み、つまり自分が正しいことをしたのに相手に恨まれている場合ね。相手にとって自分は幽霊なんだから、復讐される心配はないよ」
「それはそうですが……。お互い理解を深めれば……」
「世の中話の通じない相手っているもんだって。自分が一番偉いと勘違いして、正しいことをする他の人にきつく当たるバカは、死んでも直らないよ?」

 人間は正しさを追い求め、他者にも自分の価値観を共有させようとする。集団で生きる生物である以上仕方がないのかもしれない。

「わざわざ冥界でそりの合わない相手と仲良くする必要なんてないでしょ? もう死んでるんだし」

 生者の世界では、誤解を解く努力は必要だろう。しかし冥界では極端な話、自分一人でものである。

「なんだか妥協の産物に聞こえますが」
「……てへっ」

 ツツミはペロッと舌を出す。事実妥協の産物だからだ。

「いや、私もさすがに現世でやる勇気はないんだけどさ。世の中価値観を押し付ける人間が多すぎだって」

 価値観が違った場合、立場が上の者の意見に従わなければならないのが常である。ツツミは思うのだ、考えが認められないなら関わり合いにならなければいいのに。

「ま、みんなが幸せな世界とはいかないけどさ。こうすれば死んでまで理不尽な目に合うことはないでしょ」
「……正直釈然としないところもありますが、まあ現実的に考えて落としどころかもしれませんね」
「私は。けっこう。好き」

 消極、積極と違えども方針に理解は得られたようだ。ツツミは大きく伸びをして言った。

「じゃあ大きな枠組みはこんな感じで、次はどうすれば死者をもてなせるか考えよう。面白くて、そもそも嫌なことなんか忘れちゃう場所にしよう。堅苦しい話して疲れちゃったから、今度は楽しいアイデアを出そうね!」
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