三人娘が異世界を創る ゆるく まったり いとをかし!

市上 未来

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第一章 世界創造編

26.遊園地

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 最初の冥界話し合いの数日後。睡眠時間を削って考え直すことになったツツミは目のまわりにくまをつくっていた。二人が待つレカエルの神殿の大部屋に入る。

「ぬっふっふ……おはよう二人とも」
「ツツミ……。あなた、キツネでしたよね」
「なんか。どちらかといえば。タヌキっぽい」

 最近比較的規則正しい生活をしていた……訳でもない。自分の城を創ってからは寝る間を惜しんでゲームや漫画に興じることも増えた。

 とはいえ遊びでする徹夜と、悩みながらいろいろ考える徹夜では精神的疲労度が全く別物である。

「人間が増えて冥界に来るようになるのはまだまだ先なのです。そう急いで考えることもなかったでしょうに」
「こういうのは勢いが肝心なんだよ! 創ると決めたときのテンションを維持したまま動かないと!」
「世の中ではそれを見切り発車というのです」

 冷静に指摘するレカエル。ツツミは構わず続ける。

「大丈夫! さっきまですごく眠かったけど今は意識がいつも以上にハッキリしてるよ! もう一生寝なくてもいけるかもしんない!」
「それ。……多分。気のせい」
「あっははははは! エウラシアが気のせいだって! ニンフ木の精だけに? きゃははははっ!」

 いつも以上にキレる頭で小粋なジョークを飛ばすツツミ。なんだか二人が引いているような気がしたがそれもだろう。

「とにかく頑張って考えた甲斐はあったよ。……冥界は『遊園地』にする!!」



 ツツミの考え。それは冥界全体を、一つの大きな娯楽施設にするというものであった。

「遊園地というと……人間が大勢集まって乗り物に乗ったりして遊ぶあれですか」
「そ。正確には総合アミューズメントパークみたいな感じかな」

 イメージとしては遊園地や多目的ホール、競技場や公園などが集まった大型施設である。

「基本的なジェットコースターとか観覧車とかはもちろん創るよ。そんでもって、レカエルのちびっこ聖歌隊がコンサートを開けるような大型ホールも創る!」

 ゆくゆくは人間の中にも音楽に秀でたものが出てくるだろう。その者たちが冥界に来た時に音楽活動ができる場所としても活用できるかもしれない。夢の冥界フェスが開けるのだ。

「それに、遊園地を誰より喜ぶのは子供だよ。ちっちゃな子が楽しそうだったらレカエルも嬉しいでしょ」
「ま、まあ人の子が笑顔なのは、その、……素敵ですね」

 割と興味を引いたようである。すると、エウラシアがちょんちょんとツツミの肩をつついた。

「ツツミ。お布団。うー。お布団は?」

 ツツミに抜かりはない。

「まっかせなさい! エウラシアのいう寝る場所としてのお布団スペースはもちろん創るよ。それとは別に、もういっこ同じような場所をアトラクション化しよう!」

 元世界の人間の遊具に、空気で膨らませた大きなバルーンの中に入って遊ぶものがあったはずだ。その中で飛び跳ねたり、同じく空気で膨らませたボールを投げたりするのである。

 ツツミが考えているのはそれをお布団にし、数万人単位で入れるくらい巨大化させたものだ。

「床も壁も全部お布団のおっきなスペースでさ。元気よく遊んでも安全安心! お布団の固さとかを調整すれば、トランポリンみたいになったりいろいろできるよ。おっきな動物とかの人形も置こう。もちろんそこでゴロゴロしてもオッケー!」
「……いいかも」

 エウラシアのお気にも召したようだ。

「他にも人間界ではできないアトラクションのアイデアがどんどん湧いてきてさ! さあ、これから忙しくなるぞー!」
「……あなた、やっぱりおかしなテンションになっているでしょう」



 おおまかに、総合アミューズメントパーク化することは決まった。そうなるとまず必要なものがある。

「この施設のマスコットがいるよね!」

 遊園地の顔といえる愛くるしいキャラクター。人気ある施設にするために必須である。

「お客さんを楽しませるのはもちろんだけど、アトラクションとか運用するには人手がいるでしょ? それもマスコットたちにやってもらおうと思うんだ」

 冥界で人間のために働いてくれる種族を創ろうというのである。ある意味真の冥界の住人といえるだろうか。

「なるほど。ではいつものように三人で考えてみましょうか」
「ううん。もう創ってきた!!」
「……はい?」

 冥界をどのようにするか思いついたのは実は少し前だった。その瞬間頭に降りてきたキャラクターを、勢いに任せて創ってきたのである。

「いやー無駄にならなさそうでよかった。実はそこまで来てもらってるんだよ。おーい、来ていいよ!」

 ツツミの言葉に、ドアがノックされ扉が開いた。

『…………』

 入ってきたのは女性だった。年のころは20代半ばといったところだろうか。長い銀髪が腰くらいまで流れている。
 着ている白装束の着物も相まって、全体的に透き通った印象を受けた。頭には三角の白い布。

 何よりの特徴。……足がなかった。

「紹介するね! こちらイザナミさん!」

 二コリ、と笑みを浮かべて会釈だけするイザナミさん。ノックの後も無言で入ってきたが、どうやら喋ることはできないらしい。

「イザナミ。さん。……人間?」
「んー、種族としては『幽霊』かな?」

 前に決めた冥界で存在を知覚できない『幽霊のような人間』とは違う。古式ゆかしいツツミの国の幽霊像だった。

 別にツツミは人間を幽霊化したわけではない。最初からこのような存在として創ったのである。

「このイザナミさんに冥界のいろいろなことを頑張ってもらおうと思うんだ」
「随分変わった姿ですが……。その、どうして……」

 足がないのか、と聞きたいのであろうレカエル。一応はばかって言葉にはしなかったがイザナミさんにはわかったようだ。

 気にしていないことを表すためかフヨフヨと辺りを漂い、親し気な表情をレカエルとエウラシアに向ける。

「これはこういうものなんだよ。足のある人間より移動もスムーズで問題なし!」

 ぐっと親指を立てるツツミ。イザナミさんも同じように指を立てた。

「まあいいのではないでしょうか」
「これから。同じ。種族を。もっと創るの?」
「んーん。イザナミさん、増えて!」

 ツツミの言葉にイザナミさんは目をつぶった。輪郭が少し揺らいだように見えづらくなる。次の瞬間、まるでするかのようにイザナミさんが二人になった。

「なっ!」

 驚くレカエルをよそに、二人になったイザナミさんはまた分裂し四人に、八人に、十六人にと増殖していく。

 やがて部屋を埋め尽くすほどのイザナミさんが勢ぞろいした。並んで一様にお辞儀をする。よく見ると透き通った印象ではなく、実際に少し透けている。

「このとーり! 実際はもっと増えることができるよ。あんまりやりすぎると透明になって見えなくなっちゃうけどね」
「また妙な仕様にしましたね……」

 あきれたようなレカエル。彼女が持つ聖槍に一人のイザナミさんが近づいた。柄の部分のドクロに微笑みかける。ドクロも視線をそちらに向けた。

『……ゲッゲッゲ』
『…………………』

 満足そうに笑うドクロ。しばらく目を合わせて首を傾げたり、まぁ、といったように口元に手をやるイザナミさん。

「……もしかして、聖槍と会話できるのでしょうか」
「……わかんないけど、そうかも」

 思いがけないところで仲良しコンビが出来上がる予感がした。
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