三人娘が異世界を創る ゆるく まったり いとをかし!

市上 未来

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第一章 世界創造編

27.イザナミさん無双

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 冥界創りは思ったよりはかどった。天界と同じように、遙か上空に浮き島を創るのである。

 ここまでは天界の時の経験値もあり、慣れたものだった。山ではなく比較的平地に近い地形にしたことも作業が楽な一因だったろう。

 天界の時に倣い、冥界も太陽ではなく空自体が光を担当することになった。時間と共に明るくなり、暗くなる空。これで時間の感覚もばっちりである。

 その後、三人は思い思いのアトラクションを創ることにした。

「遊園地の遊び場をツツミ一人で創らせるのは不安です」
「私も。お布団世界の。ほかにも。創る」

 実は結構乗り気なレカエル。エウラシアも珍しく少しやる気を出したようだ。なんだかんだみんな遊園地は好きなのかもしれない。

 こうして三人分かれてそれぞれ作業をすることになったのだが……。

『…………』
「あ、イザナミさん。なにこれ、お茶? わざわざありがとう!」

『…………』
「きゃっ。……あら、イザナミさんですか。え? 肩をもんでくれるんですか? ふふ、確かに根を詰めすぎでしたね。ありがとうございます」

『…………』
「…………。あ。寝てた。うー。膝。貸してくれて。ありがとう。イザナミさん」


 それぞれのフォローに入ったイザナミさんは母性あふれる気配り上手だった。

 アトムを使った創造こそできないものの、癒やしの力で三人を十分にフォローしたといえる。これまた急ピッチで仕事は進んでいった。




「みんなお疲れ様! だいたい形になったみたいだね」

 数日がたち、三人は冥界の端あたりに集合していた。一応のめどが立った冥界を見て回るのである。

 天界と違って自然がいっぱいという感じではない。明らかな人工物である白い石畳が広がっている。

 まず目を引くのは、巨大な石柱が立ち並ぶ西洋の神殿風の入り口である。いわばゲートにあたり、人間はここから冥界に訪れるのだ。

「……がんばった」

 担当はじゃんけんで負けたエウラシアである。

 決まったときは明らかに落胆していたが、自身の国の古い神殿をモチーフに頑張ってくれたようだ。

「おおー! なんか『荘厳』って感じがする」
「絶対に途中で音をあげると思っていましたが……完成度が高いですね」

 感心する二人に、エウラシアはぽつぽつと答えた。

「イザナミさんが。色々。面倒みてくれた」
「ああ……」

 自身もお世話になった事を思い出し、納得するツツミとレカエル。

「本当に、ツツミのような神使からどうやってあんないい方が産まれたのでしょうか」
「……かなり失礼なことを言われているけど、私も正直驚いてるよ」

 そんな話をしていると、当のイザナミさんが迎えてくれた。パタパタと手を振りながらこちらへ来て、ペコリとお辞儀をする。

「イザナミさん! 今日は案内とか諸々よろしくね!」
『…………』

 任せて、という風に右腕で力こぶを作る仕草をするイザナミさん。いちいち振る舞いが愛らしい。

 イザナミさんに先導され、神殿ゲートを抜けてまず目に入ったのはいわゆる遊園地の定番アトラクションの数々であった。

「ふっふっふ。基本的な物はしっかり押さえておいたよ!」

 担当したツツミが自信ありげに笑う。ほかの二人は興味深そうに辺りを見回した。

「このような場所をきちんと見るのは初めてです」
「あー。私も」
「私はたまーに下界に遊びに行ってたから、結構詳しいよ。今回創ったのはいっぱいアレンジしてるけどね。まあ何はともあれ乗ってみよう!」

 ツツミの誘いにレカエルはふとひとつの遊具に目を留めた。

「これは……乗馬の遊びでしたね、確か」
「メリーゴーランドだね! よし行こう!」

 三人はメリーゴーランドに乗り込む。ここからは別のイザナミさんが案内してくれた。ここ担当らしい。

「さあどの馬に乗ろうかなぁー。二人も選んで選んで!」
「どれも同じでしょうに……まあ私はあの馬車にしましょう」

 ワンピース姿のレカエルは馬に乗るのは抵抗があるらしい。

「お、また初心者向きのやつを選んだね。エウラシアは?」
「んー。これ」

 真っ黒な馬を選ぶエウラシア。ツツミは金色輝く派手な馬に騎乗した。目がチカチカする。

『…………』

 イザナミさんがツツミとエウラシアに鞭を差し出した。

「……何ですかそれは? 気分を出すための小道具でしょうか?」
「あ、レカエルは馬車に乗り込むタイプだからいらないよ。じゃ、みんなで一位を目指そう!」
「一位なんて……、子供ではないのですから。そもそもこれは地面ごと回転するはず……」
「イザナミさんお願い!」

 ツツミの言葉を受け、メリーゴーランドの外にある何かのボタンを押すイザナミさん。

『…………』

 突如ファンファーレが鳴り響いた。たくさんあった馬の椅子だが、三人が座っているもの以外消え失せる。

 残った二頭と一台はスタートラインに着くかのように整列した。

「あの、これはいったい…………」

レカエルが不審な顔をした次の瞬間、パンッと号砲が鳴った。それと同時に、明らかに作り物だったはずの馬の目に生気が宿る。一斉に各馬走り出した。

「いっけぇえええ! ツツミ号!」

 ツツミは馬に鞭を入れた。椅子にすぎない堅い質感の馬が、ひひーんといなないた。

「はい!?」

 驚くレカエルをよそに、ツツミ号は猛スタートダッシュを決めた。ツツミが鞭をうならせる度に、四本の足がどんどん加速する。

 実際に地面に接しているのは馬の背から腹を突き刺すポールである。足は空中でバタバタしているだけだ。

 しかしまるで速度メーターのように、足の回転にあわせて速度が上がっていく。

「何ですこの状況は!?」
「……なるほど」

 どんどん離され慌てるレカエル。一方エウラシアは順応したようだ。ツツミのように激しくではなく、パチンと一度だけ鞭を入れた。

 途端、黒馬は鈍く光った。黒い光とでも言うのだろうか。やがて光が収束すると、黒馬の口が大きく開いた。そして何かが口から出てくる。

 黒いニンジンだった。とがった先の方を前方に向け、黒馬はそのままツツミ号の後ろ、直線上に並ぶ。

「てい」

 エウラシアがもう一度鞭を振り下ろすと、セットされていた黒ニンジンがミサイルのように打ち出された。

「わっと!」

 すんでのところで横にかわしたツツミ号。しかし後足のすぐ隣に落ちた黒ニンジンは、轟音とともに爆発にした。余波に足を取られ、ツツミ号は減速する。差が縮まった。

 二周、三周と馬たちは走り続ける。互角の勝負を繰り広げている二人に対し、レカエルはやや遅れていた。

「ツツミ! どうなってるんですかその馬は!?」
「どうって、鞭を入れるとそれぞれ特別な能力が使えるんだよ! ツツミ号は加速、エウラシアの馬は妨害特化だね!」
「私、鞭もらってません!」

 レカエルが乗っているのはきちんと扉や窓に囲まれた馬車の室内座席である。一度止めて外に出ないと御者台にはいけないので、鞭があっても意味がない。

「大丈夫! 馬車にも特別な力はあるから! いろいろいじってみればいいよ!」
「また適当なことを……!」

 レカエルは手当たり次第に馬車の内部を触り始めた。すると、壁に一つのスイッチがあることに気づく。

「これですか」

 ためらいもなく、とりあえず押してみるレカエル。すると御者台の床が一部せり上がり人影が現れた。全身鎧。顔を全て覆う兜。背中にたなびくマントに身を包んでいる。

 人影はそのまま馬車を引く馬に飛び移る。鞍もついていない背に乗ると、足のブーツに付いた歯車のような金属、拍車で腹を軽く蹴った。

 馬車馬は軽くいななくと猛スピードで前の二頭を追走し始める。

「あがっ、ちょ、ちょっとまってくだ……」

 急に左右に振られる馬車内で転がされるレカエル。ふと前方にツツミとエウラシアの姿を認めた。ほぼ並走している二頭。そこに向かって馬車は突っ込んでいく。

「あぶない!!」

 ぶつかる、とレカエルが目をつぶった瞬間。馬車は本当に狭い二頭の間をすり抜けた。数センチ左右どちらかにずれていれば接触していただろう。

「まあ!!! なんと素晴らしい走りでしょうか!!!」

 感嘆の声を上げるレカエル。馬車はそのまま二人を抜き去り差を広げた。

 やがて何週目だろうか、数馬身差をつけたところでスタートしたラインが見えてきた。それを超えたところで馬車は減速し、再びファンファーレが鳴る。どうやらレース終了らしい。

 見事一着でフィニッシュしたレカエル。御者の人影はウイニングランの様に片手をあげてもう一周すると、ゆっくりと止まった。

 同着だったツツミ、エウラシアも遅れてほぼ同時に動きを止める。馬たちは乗る前と同じように、無機質な姿へと戻っていった。

「おめでとう! レカエルが一着だよ! まあ、馬車は正直ちっちゃな子でも楽しめるようにしたハンデ要因なんだけどね」
「ハンデ……ですか」
「そ。小さい子は馬に乗って鞭を振るのも大変でしょ? 馬車に座りながら、負けそうだったらお助けキャラの御者をだせるんだよ」

 まだ御者台に残っていた人影がうんうんと言いたげに頷いて見せる。レカエルは思うところがあって御者に話しかけた。

「その、すみませんがその兜を外してもらえませんか」

 御者はお安い御用とばかりに顔全体を覆っていた兜を脱ぐ。現れたのは流れる銀髪。優しい笑顔。三角の布。


「……イザナミさん、本当に何でもやってくれるんですね」
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