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第一章 世界創造編
28.エウラシアとレカエルのアトラクション
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ツツミのアトラクションは万事どこかひねくれていた。
「ツツミ、ジェットコースター……ですか?普通体を固定するベルトがついているのでは……」
「落っこちても死なないんだからいいじゃん。こっちのほうがスリルあるでしょ」
「この。カップに乗って。回るの。楽しい」
「面白いでしょ! 頑張ってすごく速く回せば空飛べるよ! あとですんごい気持ち悪くなるけどね」
「なぜこの観覧車という乗り物は、一番景色のいい頂上に来ると外が見えなくなるんですか?」
「観覧車はてっぺんでちゅーするための物だからね。プライバシー保護ってやつだよ!」
……ツツミの悪乗りがたくさん詰まったアトラクションたちであった。
イザナミさんに連れられ、三人はエウラシアが創ったという場所にやってきた。屋内に森と川の流れがある。
「ボートで。川を。下りながら。恋物語を。鑑賞する」
「へー。女の子に人気が出そうだね」
三人はボートに乗り込んだ。周囲は美しい森といった感じの風景が広がっている。ボートは誰が舵をとるわけでもなく、すいすいと進んでいった。
「おや? なにか牢屋のようなものがありますね」
川岸に、石の壁と鉄格子で囲われた一角がある。中には美しい女性の仮面をかぶった人(多分イザナミさんだ)がいた。
「わふっ!? 雨が降ってきたよ!」
女性の近くに来ると突然室内にもかかわらず雨が降ってきた。周囲の景色がどこか光輝いて見えるのは……。
「金色の雨ですね」
雨は黄金の色をしている。やがて牢屋の中に降った雨水がスライムの様に集まりはじめた。どんどん大きくなり、人の形の輪郭を取り始める。
ひときわまばゆい光を発すると、雨水はたくましい男性の姿になっていた。
顔の仮面は巻き毛の髪と髭に覆われている。一枚の白い布を体に巻き付けたような恰好で、右上半身を露出している。右手にはなにか雷を模したような彫刻を掲げていた。
女性は、はっと男に向き直り、その胸元に飛び込む。男が優しく力強く抱き留めたところで、祝福するような竪琴の音が鳴り響いた。
「塔に。幽閉されていた。王女様に。会いに行く。男の。話」
「あら。なかなかロマンチックな話ですね」
ボートはその場を離れ、再び川を下り始めた。
次の場所はどうやら海岸のようだった。川岸の向こう側に海が広がっている。また別の仮面の女性が、大きな牛と戯れている。女性は親し気に牛を撫で、その背に乗った。
と、いきなり牛が走り出した。慌てた様子の女性を尻目に、牛は海に入り見えなくなった。
「あれ? どっか行っちゃったよ?」
「先に。……進む」
ボートが回り込むように川を下っていくと、陸に先ほどの牛と女性がいた。牛はこれもまた光輝き始める。
光が収まったとき、そこに立っていたのは一人の男だった。さっきと同じように男の胸に飛び込む女性。竪琴の祝福。
「牛に。変身して。王女様を。さらう。……男の話」
「う、うん」
その後も恋物語は続いた。ある時は白鳥が男に変身し、女性と結ばれた。
三角関係のような話もあった。
仲良くいちゃついていた男女の元に、別のプライドが高そうな女の人が現れる。男は女性を牛に変身させてごまかしたが、プライドの高そうな女の人がその牛を連れ去ってしまう。
悲嘆に暮れている男。悲しげな音楽が響く。どうやらこれはバッドエンドらしい。
「どう。だった?」
やがてボートの旅が終わり、エウラシアは二人に尋ねる。
「雰囲気があって良かったよ! ……うん、良かったんだけど……」
「美しい物語の数々でした。ただ……」
どこか歯切れの悪いツツミとレカエル。聞いていいのか迷ったが、ツツミは尋ねた。
「女の人はたくさん出てきたのに、全部男が同じ人だったんだけど……」
女性はそれぞれの物語で別だった。タイプの違う美しい女性たちだった。しかし登場する男はすべての話で同じ見た目だったのである。
「全部。同じ。人の。話だから。というか。ゼウス様だから」
「やっぱりですか……」
出てきた物語はすべてオリンポス最高神の実話だったらしい。あまりの好色っぷりにレカエルはため息をついた。
「紹介。できなかった。話も。たくさん。……無抵抗な。ニンフが。襲われて。異世界に行く。話とか」
……実はけっこう怒っているのではないか。そう思うツツミとレカエルだった。
続いてやってきたのはレカエルのアトラクションである。こちらは暗い雰囲気の室内だった。稲妻が鳴り響き、時折気味の悪い笑い声が聞こえてくる。
入り口からは線路が引かれていて、いくつかの車両が載っている。車両といっても下半分だけの箱のような形だ。座席もない。
「このトロッコに乗って、邪悪な悪魔たちを打ち倒す遊具です。好きな武器を選んでください」
見ると、剣や弓矢など様々な武具が用意されている。合ったものを使えという事らしい。
「あ! 銃まであるんだ。じゃあ私はこれにしよ」
「私は。弓」
「レカエルは? 聖槍使うの?」
ツツミの問いにレカエルは首を横に振る。
「遊びですから。さすがにこの子はお休みです。私はこれにしましょう」
「……なっ!」
「……おお」
レカエルの取った獲物に、二人は驚愕の声を上げる。
「……レカエル! 槍が使えるの!?」
レカエルが手に取ったのは普通の槍だった。
「変なことを聞きますね。いつも聖槍を使っているではないですか」
「いや何度でもいうけどそれって斧……」
瞬間ツツミの頬をレカエルの槍がかすめた。髪の毛が何本か持っていかれたかもしれない。
「……何か?」
「ううん、なんでもない」
たらり、と汗をたらしてぶるぶると首を横に振るツツミ。もう何も言うまい。
見ると、イザナミさんに預けられた聖槍のドクロがいたく不満顔をしていた。イザナミさんが無言で微笑みながら慰めている。
「……まあいいか。とりあえず行ってみようよ!」
三人はトロッコに乗り込む。イザナミさんがレバーを倒すと、ゆっくりとトロッコは走り出した。
「わわ。けっこう暗い。ちょっと怖い」
「だんだんスピードも出てきますよ。……さあ、来ました!」
『キシャアアアア!』
トロッコの前方の空中に、黒い翼とヤギの頭を持った敵が現れた。いかにも悪魔といったいでたちである。レカエルが槍を振るった。
「はっ!」
見事、槍は悪魔の身体を貫く。断末魔の声をあげ、悪魔は塵のように消え去った。
「どんどん現れますよ!」
「よーし、行くよ!」
「……てい」
レカエルの言葉通り、周囲に何体もの悪魔が出てくる。ツツミも銃を構え、狙いを定めて発砲した。命中率は悪くない。
エウラシアの弓の腕は大したものだった。百発百中といっていいだろう。もっとも動きはゆっくりなので百発も射てはしないだろうが。
トロッコが進み、今までとは外見が違う悪魔が時折現れはじめた。大きなハエの頭を持っているもの、妖艶な女性の姿をしたものなど様々である。
「特殊な姿をした悪魔を倒せば高得点ですよ!」
「オッケー任せて!」
襲い来る悪魔たちにひるまず攻撃する三人。やがて一体の特殊な悪魔が出てきた。男である。醜悪な顔に下品な笑みを浮かべているそれは、どこかで見たことがあるような気がした。
「レカエル。……あれ、さっきエウラシアのボートに出てきた男とどこか雰囲気が似ているんだけど」
「異教の神を僭称する者は私にとっては悪魔です」
かなり外見は悪いほうにデフォルメされているが、モチーフはゼウスらしい。流石にこれは……と思った瞬間、その胸に矢が突き立った。
「……命中」
これまで以上のよどみない動きで悪魔を打ち倒したエウラシア。やっぱり絶対に恨んでいるに違いない。
「エ、エウラシア。その、いいの?」
「悪魔。なら。仕方がない」
どこか不穏な空気を漂わせているエウラシア。と、別の悪魔がまた現れた。紺の羽織姿に黒い長髪。表情はやはり醜くゆがんでいるが……。
「ウカノミタマ様!?」
明らかにモデルはツツミの主、ウカノミタマだった。レカエルは挑戦的に笑っている。
「言ったでしょう、私にとっては悪魔だと」
「そんな。こんな、こんなこと……」
ツツミは愕然とした表情で続ける。
「こんなことをしてもいいだなんて!!」
即座に銃を構え、一発、二発、三発と打ち込むツツミ。完全にオーバーキルである。
「ひゃっほう! ウカノミタマ様、いつもお小言がうるさいです! 扱いがひどいです! あと時々かっこつけすぎてなんかムカつくんです!!」
日頃の恨みといわんばかりに鬱憤を晴らすツツミ。ストレス解消、気分爽快だ。レカエルはかなり引いた様子で言った。
「自分で創っておいてなんですが……。あなたたち、主に対する尊敬はないのですか」
レカエルのアトラクション。レアボスキャラを倒したツツミとエウラシアは見事好成績を収めたのだった。
「ツツミ、ジェットコースター……ですか?普通体を固定するベルトがついているのでは……」
「落っこちても死なないんだからいいじゃん。こっちのほうがスリルあるでしょ」
「この。カップに乗って。回るの。楽しい」
「面白いでしょ! 頑張ってすごく速く回せば空飛べるよ! あとですんごい気持ち悪くなるけどね」
「なぜこの観覧車という乗り物は、一番景色のいい頂上に来ると外が見えなくなるんですか?」
「観覧車はてっぺんでちゅーするための物だからね。プライバシー保護ってやつだよ!」
……ツツミの悪乗りがたくさん詰まったアトラクションたちであった。
イザナミさんに連れられ、三人はエウラシアが創ったという場所にやってきた。屋内に森と川の流れがある。
「ボートで。川を。下りながら。恋物語を。鑑賞する」
「へー。女の子に人気が出そうだね」
三人はボートに乗り込んだ。周囲は美しい森といった感じの風景が広がっている。ボートは誰が舵をとるわけでもなく、すいすいと進んでいった。
「おや? なにか牢屋のようなものがありますね」
川岸に、石の壁と鉄格子で囲われた一角がある。中には美しい女性の仮面をかぶった人(多分イザナミさんだ)がいた。
「わふっ!? 雨が降ってきたよ!」
女性の近くに来ると突然室内にもかかわらず雨が降ってきた。周囲の景色がどこか光輝いて見えるのは……。
「金色の雨ですね」
雨は黄金の色をしている。やがて牢屋の中に降った雨水がスライムの様に集まりはじめた。どんどん大きくなり、人の形の輪郭を取り始める。
ひときわまばゆい光を発すると、雨水はたくましい男性の姿になっていた。
顔の仮面は巻き毛の髪と髭に覆われている。一枚の白い布を体に巻き付けたような恰好で、右上半身を露出している。右手にはなにか雷を模したような彫刻を掲げていた。
女性は、はっと男に向き直り、その胸元に飛び込む。男が優しく力強く抱き留めたところで、祝福するような竪琴の音が鳴り響いた。
「塔に。幽閉されていた。王女様に。会いに行く。男の。話」
「あら。なかなかロマンチックな話ですね」
ボートはその場を離れ、再び川を下り始めた。
次の場所はどうやら海岸のようだった。川岸の向こう側に海が広がっている。また別の仮面の女性が、大きな牛と戯れている。女性は親し気に牛を撫で、その背に乗った。
と、いきなり牛が走り出した。慌てた様子の女性を尻目に、牛は海に入り見えなくなった。
「あれ? どっか行っちゃったよ?」
「先に。……進む」
ボートが回り込むように川を下っていくと、陸に先ほどの牛と女性がいた。牛はこれもまた光輝き始める。
光が収まったとき、そこに立っていたのは一人の男だった。さっきと同じように男の胸に飛び込む女性。竪琴の祝福。
「牛に。変身して。王女様を。さらう。……男の話」
「う、うん」
その後も恋物語は続いた。ある時は白鳥が男に変身し、女性と結ばれた。
三角関係のような話もあった。
仲良くいちゃついていた男女の元に、別のプライドが高そうな女の人が現れる。男は女性を牛に変身させてごまかしたが、プライドの高そうな女の人がその牛を連れ去ってしまう。
悲嘆に暮れている男。悲しげな音楽が響く。どうやらこれはバッドエンドらしい。
「どう。だった?」
やがてボートの旅が終わり、エウラシアは二人に尋ねる。
「雰囲気があって良かったよ! ……うん、良かったんだけど……」
「美しい物語の数々でした。ただ……」
どこか歯切れの悪いツツミとレカエル。聞いていいのか迷ったが、ツツミは尋ねた。
「女の人はたくさん出てきたのに、全部男が同じ人だったんだけど……」
女性はそれぞれの物語で別だった。タイプの違う美しい女性たちだった。しかし登場する男はすべての話で同じ見た目だったのである。
「全部。同じ。人の。話だから。というか。ゼウス様だから」
「やっぱりですか……」
出てきた物語はすべてオリンポス最高神の実話だったらしい。あまりの好色っぷりにレカエルはため息をついた。
「紹介。できなかった。話も。たくさん。……無抵抗な。ニンフが。襲われて。異世界に行く。話とか」
……実はけっこう怒っているのではないか。そう思うツツミとレカエルだった。
続いてやってきたのはレカエルのアトラクションである。こちらは暗い雰囲気の室内だった。稲妻が鳴り響き、時折気味の悪い笑い声が聞こえてくる。
入り口からは線路が引かれていて、いくつかの車両が載っている。車両といっても下半分だけの箱のような形だ。座席もない。
「このトロッコに乗って、邪悪な悪魔たちを打ち倒す遊具です。好きな武器を選んでください」
見ると、剣や弓矢など様々な武具が用意されている。合ったものを使えという事らしい。
「あ! 銃まであるんだ。じゃあ私はこれにしよ」
「私は。弓」
「レカエルは? 聖槍使うの?」
ツツミの問いにレカエルは首を横に振る。
「遊びですから。さすがにこの子はお休みです。私はこれにしましょう」
「……なっ!」
「……おお」
レカエルの取った獲物に、二人は驚愕の声を上げる。
「……レカエル! 槍が使えるの!?」
レカエルが手に取ったのは普通の槍だった。
「変なことを聞きますね。いつも聖槍を使っているではないですか」
「いや何度でもいうけどそれって斧……」
瞬間ツツミの頬をレカエルの槍がかすめた。髪の毛が何本か持っていかれたかもしれない。
「……何か?」
「ううん、なんでもない」
たらり、と汗をたらしてぶるぶると首を横に振るツツミ。もう何も言うまい。
見ると、イザナミさんに預けられた聖槍のドクロがいたく不満顔をしていた。イザナミさんが無言で微笑みながら慰めている。
「……まあいいか。とりあえず行ってみようよ!」
三人はトロッコに乗り込む。イザナミさんがレバーを倒すと、ゆっくりとトロッコは走り出した。
「わわ。けっこう暗い。ちょっと怖い」
「だんだんスピードも出てきますよ。……さあ、来ました!」
『キシャアアアア!』
トロッコの前方の空中に、黒い翼とヤギの頭を持った敵が現れた。いかにも悪魔といったいでたちである。レカエルが槍を振るった。
「はっ!」
見事、槍は悪魔の身体を貫く。断末魔の声をあげ、悪魔は塵のように消え去った。
「どんどん現れますよ!」
「よーし、行くよ!」
「……てい」
レカエルの言葉通り、周囲に何体もの悪魔が出てくる。ツツミも銃を構え、狙いを定めて発砲した。命中率は悪くない。
エウラシアの弓の腕は大したものだった。百発百中といっていいだろう。もっとも動きはゆっくりなので百発も射てはしないだろうが。
トロッコが進み、今までとは外見が違う悪魔が時折現れはじめた。大きなハエの頭を持っているもの、妖艶な女性の姿をしたものなど様々である。
「特殊な姿をした悪魔を倒せば高得点ですよ!」
「オッケー任せて!」
襲い来る悪魔たちにひるまず攻撃する三人。やがて一体の特殊な悪魔が出てきた。男である。醜悪な顔に下品な笑みを浮かべているそれは、どこかで見たことがあるような気がした。
「レカエル。……あれ、さっきエウラシアのボートに出てきた男とどこか雰囲気が似ているんだけど」
「異教の神を僭称する者は私にとっては悪魔です」
かなり外見は悪いほうにデフォルメされているが、モチーフはゼウスらしい。流石にこれは……と思った瞬間、その胸に矢が突き立った。
「……命中」
これまで以上のよどみない動きで悪魔を打ち倒したエウラシア。やっぱり絶対に恨んでいるに違いない。
「エ、エウラシア。その、いいの?」
「悪魔。なら。仕方がない」
どこか不穏な空気を漂わせているエウラシア。と、別の悪魔がまた現れた。紺の羽織姿に黒い長髪。表情はやはり醜くゆがんでいるが……。
「ウカノミタマ様!?」
明らかにモデルはツツミの主、ウカノミタマだった。レカエルは挑戦的に笑っている。
「言ったでしょう、私にとっては悪魔だと」
「そんな。こんな、こんなこと……」
ツツミは愕然とした表情で続ける。
「こんなことをしてもいいだなんて!!」
即座に銃を構え、一発、二発、三発と打ち込むツツミ。完全にオーバーキルである。
「ひゃっほう! ウカノミタマ様、いつもお小言がうるさいです! 扱いがひどいです! あと時々かっこつけすぎてなんかムカつくんです!!」
日頃の恨みといわんばかりに鬱憤を晴らすツツミ。ストレス解消、気分爽快だ。レカエルはかなり引いた様子で言った。
「自分で創っておいてなんですが……。あなたたち、主に対する尊敬はないのですか」
レカエルのアトラクション。レアボスキャラを倒したツツミとエウラシアは見事好成績を収めたのだった。
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