三人娘が異世界を創る ゆるく まったり いとをかし!

市上 未来

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第一章 世界創造編

29.ハーレム展開

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「イブたちはどうしているでしょうか?」

 三人のお嫁さん候補たちが地上に向かってから数か月。冥界づくりも一息つき、経過が気になるところである。

「うーん。そろそろ仲良くなってくれてるといいんだけど……」
「鳥たちを。呼んで。みる?」

 ツツミたちの目であるハトやフクロウたちは、基本的に何か異変が起きない限り報告しに来ることはない。

「それもいいけど……。せっかくだから久しぶりに地上に行ってみようか! タンチョウたちにも会いたいしね」

 ツツミの言葉にレカエルも頷いた。

「そうですね。ということは、あの人間の男とも接触するのですか?」
「なんかそれは気が進まないなぁ……。一応神様の使いっぽく、不用意に会うのは控えたいし……」

 考えた結果、男が寝ているであろう夜に三人と面会することにした。ハトに先ぶれの手紙を持たせて届けさせる。これで心置きなく話せるだろう。



 そんなわけで、久しぶりに地上にやってきた。

「おおー! なんかちょっと集落っぽくなってる!」
「ツツミ。声。大きい。起こしちゃうよ」

 草木も眠る丑三つ時である。月明りに照らされてはいるが真夜中だ。男はすやすやと眠っているはずである。

 場所は男と最初にあった辺りだ。少し遠めからでも何やら家や畑のようなものが見える。

「……そうだね。ごめん静かにする……」
「レカエル様ーー!!!」

 ……気遣いが無駄になるくらいの大声をあげながら、イヴが駆け寄ってきた。そのままレカエルにひしっと抱きつく。

「お久しゅうございます、レカエル様! ああ、レカエル様とお会いできない間、わたくしは何度レカエル様の幻に惑わされたことでしょう! もっと、もっとこの下僕に温もりをくださいませ!」
「ひ、久しぶりですねイヴ。元気そうで何よりです。あと抱擁が痛いです」

 頬をすりよせられながら挨拶するレカエル。見ると、後ろからミノタリアとタンチョウもこちらに来ていた。

「はっはっは。お三方ともご無沙汰だった。主どの、僕からも再会のハグを」
「……いらない」

 距離を詰めてくるミノタリアの額に指一つ当てて止まらせるエウラシア。ミノタリアはそのままの体勢から両手をぐるぐるさせて前に進もうとしているようだった。

「タンチョウ! 元気だった?」

 エウラシアとミノタリアの攻防を横目に挨拶するツツミ。タンチョウもお辞儀をしてツツミの元に近づいた。

「はいご主人様。そちらもお変わりないようでよかったです。げ、元気でやってます。色々大変ですけど……」

 察するに性格上一番苦労しているのはタンチョウだろう、そう思いながらツツミはタンチョウの頭をなでなでした。


 挨拶が一通り済んだところで、お嫁さん候補たちの報告は始まった。

「最初はとても大変でしたの」




 イヴたちは地上に降りたち、眠っている男を叩き起こしたらしい。ぺちぺちと平手で頬を張ると男は目覚め、意識の定まらない表情でイヴを見た。

『やっと起きましたのね。わたくしはイブ。あなたの伴侶になる女ですわ。他の二人は当座の召使といったところでしょうか』
『え? えっとその。ってうわぁ! ば、化け物!』

 イヴの自己紹介をよそに男はミノタリアとタンチョウの姿に驚愕し飛びのいたそうだ。

「は、はじめてあった人に、ば、ば、化け物って……」

 思い出したのか泣きそうに顔をくしゃっとさせるタンチョウ。

「うちのかわいいタンチョウになんたる暴言! おーよしよし、辛かったね、いやだったね。待ってて、今からその男に八百万の神罰を……」
「やめなさい。そもそもあなたが亜人として創るからいらない誤解が生まれたのです」
「はっはっは。まあこの雄々しい角に力強い足。人間以上の力という意味では化け物さ。はっはっは」

 ミノタリアは一切気にしていないらしい。得な性格である。

 ともかく男にとっての第一印象は、自分に害なす危険な存在というものだったそうだ。即座に走って逃げようとしたらしい。

『おっと! 僕から逃げられると思うのかい?』
『うわぁぁぁ! 誰か助けて! ってわっ!』
『そら捕まえた。はっはっは、元気がいいなぁ』
『よくやりましたミノタリア! さて、まずは服を……』
『嫌だあ!! 襲われる!!』

 阿鼻叫喚の地獄絵図(天国かもしれない)が繰り広げられようとしたところをとりなしたのはタンチョウだった。

『あ、あのイブさん、ミノタリアさん。い、いくらなんでもそれはちょっと……。ほら、困ってます』
『問題ありませんわ。確かあなたのところの格言でしょう。イヤよイヤよもスキのうち、と』
『そ、それはたぶん立場が逆の時に……』

 一瞬イヴたちの注意が逸れ、その隙に男は捕縛からなんとか抜け出した。そのままタンチョウの後ろに隠れる。

 ……先ほどまで化け物呼ばわりしていた相手だが、この中で一番害がなさそうだと判断したらしい。実に現金である。しかしタンチョウは優しく男に語り掛けた。

『と、突然でびっくりしましたよね。心配しないでください。危害は加えませんから』
『はぁ、はぁ……。う、うん。あ、ありがとう。』

 少し落ち着いた男にタンチョウは向き直る。

『改めて……。私はタンチョウという名前です。こんな感じに羽がありますが、人間です。……その、あなたとは違うかもですけど、ご主人様がくれた大切な羽なんです』
『そ、そっか。その……ごめん』

 すまなそうな表情を見せる男。それほど悪い人間でもないようだ。タンチョウは続ける。

『き、気にしないでください。あちらはミノタリアさん。立派な角や蹄を持ってますけどミノタリアさんも人間です』
『はっはっは。かっこいいだろう』

 足で地面を蹴る仕草をするミノタリア。改めて男はミノタリアをしげしげと眺め、突然赤面した。

 ……視線が胸元に注がれている。先ほどはそれどころではなかったようだが、捕まえられた時のあられもない感触を思い出したのかもしれない。

 タンチョウは気づかなかったが、ミノタリアは自覚したらしい。毛皮と胸元のトップスしか纏っていない躰を見せつけるようにポーズをとる。男は慌てて目をそらした。

『で、こちらがイヴさんです。……その、一応私たちの主という訳ではなく、お友達です』
『ふん。だれがお友達ですか』

 納得いきませんわ、といった感じのイヴ。話がややこしくなる前にタンチョウは言葉を繋げた。

『私たち三人は、そうですね……。この世界の神様のような存在に命じられてあなたに会いに来たんです。そ、その、ええと、お、お嫁……。おほん! 仲良くしたいんです!』
『あ、ああ。うん』

 恥ずかしさが限度を超えたのか、『仲良くする』と表現したタンチョウ。男はまだ理解が追い付いていないようだったが、敵意がないことは伝わっただろう。

『そうです! 仲良くしましょう! ……ひとまず、あなたのお名前は?』
『……それが、何も思い出せないんだ。僕は……誰だろう。どうしてここにいるんだろう』

 どうやら記憶が一切ないらしい。苦し気な表情の男だったが、それと裏腹にお腹がぐーっと鳴った。恥ずかし気な顔に変わる。

 くすっと笑ってタンチョウは言った。

『ひとまずご飯にしましょうか』

 ツツミたちが残していった当座の食料がそのあたりにある。お腹いっぱいになるまで食事をして、おいおい話を進めればいいだろう。タンチョウは中身が詰まっていそうな樽の元に歩き始めた。
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