三人娘が異世界を創る ゆるく まったり いとをかし!

市上 未来

文字の大きさ
31 / 67
第一章 世界創造編

31.お嫁さんコンテストの進行状況

しおりを挟む
 四人の涙ぐましい努力によって、一応の生活基盤はなんとかできたらしい。

 家、といっても最低限雨風がしのげる竪穴式住居は人数分あった。大きな家を建てるよりはまだ手間がかからなかったらしい。

 木材に切れ込みを入れ組み合わせただけの骨組みに小枝などを敷き詰めて作ったそうだ。

 稲穂は一度目の収穫を終え、種もみは十分な量が確保できたそうだ。現在は二回目の栽培中で、これがうまくいけば安定してご飯が食べられるとのことである。

 ヒツジは最近子供が二頭生まれたらしい。まだ小さいので役には立たないが、このまま順調に増えてもらいたいものである。親ヒツジは三日もすれば刈った毛が生えそろうそうだ。


 一通りの暮らしぶりについての報告が終わると、話題は恋愛話に移っていった。

「それでどうなのです? 伴侶となるのは誰か決まりそうですか?」

 レカエルの問いに、三人は芳しくない顔を見せる。

「申し訳ございませんレカエル様。これだけわたくしが身体を張っているにもかかわらず、未だ……」
「イ、イヴさんのアプローチは、その、直接的すぎます! この前なんか、……や、やっぱり言えません!」

 顔を真っ赤にして言いよどむタンチョウ。興味を示したのはレカエルだった。

「イヴ、あなたはいったいどんな無茶をしているのです?」
「心外ですわレカエル様。わたくしはただ……」
「待ちなさい。何やら我が主に顔向けできないような罪を犯している予感がしてなりません。まず私にだけ懺悔しなさい」

 イヴはレカエルの言葉に従い、耳元でこっそりと小声で話し始めた。聞いていたレカエルの顔がタンチョウと同じ色に染まっていく。

「…………と、いう訳ですわ。使命を忠実に真っ当せんがため、全力を尽くしたのです」

 イヴが話し終わると、レカエルは口を無言でパクパクさせた。言いたいことはたくさんあるが言葉にできないらしい。やがてやっとのことで一言。

「イヴ。……は今後禁止します」

 不服そうなイヴ。ミノタリアが口をはさむ。

「はっはっは! 残念ながらアツシははないようだからな。イヴのやり方ではうまくいくまい」
「お黙りなさい。あなただってどちらかといえば避けられているではありませんの」

 イヴの言葉にもミノタリアは余裕を崩さない。

「うむ。確かに僕も避けられている。しかしイヴと僕ではその理由が大きく違うのだよ」
「理由ですって?」
「君は恐怖からアツシに忌諱されているだろう? 僕の場合は彼の理性が邪魔をしているのだ! 時折僕の方にちらちら視線を向けているのに気づいていないわけではあるまい」
「……くっ」

 反論できないらしいイヴを、ミノタリアは畳みかける。

「僕は本能のレベルではアツシにとって魅力的な存在として認知されているんだ。理性のタガが邪魔をしているだけでね。なに、すぐに衝動が勝るときが来るよ!」
「そ、それならわたくしも同じです! 魅力的な異性に抗える男などいません!」
「残念ながら。君と僕とでは決定的な差があるのだ」
「なんですって?」

 ミノタリアは少し気の毒そうにイヴを見た。

「僕が自分でいうのはおこがましい。主どの、説明を」
「うー? おっぱいは。破壊力」
「ぐっ! そ、そんな……そんな馬鹿な……!」
「イヴ! しっかりしなさい!」

 ……これ以上ないほど端的な説明だった。致命傷を負ったかのように崩れ落ちるイヴを、レカエルが励まそうとしている。

 ……エウラシアの言葉の直後、彼女も顔を引きつらせていたことに気づいたツツミ。胸の中に秘めておくことにした。

 ふと横を見ると、タンチョウも自信を無くしたかのように胸元を抑えている。これにもあえて触れずにツツミは尋ねた。

「タンチョウはアツシ君とはどう? 仲良くしてる?」
「は、はいっ! その、稲の世話を手伝ってくれたり、おやつを一緒に食べたりしてます」

 恐らくアツシにとって一番ストレスなく一緒にいることができるのはタンチョウだろう。これはひょっとしてアドバンテージかもしれない。

「いいねいいね! で、そういう雰囲気になったりはしないの?」
「そ、そういう雰囲気といわれても……」

 タンチョウは右手を頬にあて、もう片方の手を所在なさげに動かす。

「その、そういうのは、まだ早いというか……。そもそもどうやったらいいのか……」
「そのために天界で特訓したんじゃん! それの応用だよ!」
「でもご主人様。アツシさんは義理の兄でも幼馴染でも両親が海外出張中の一人暮らしでもないんです……」

 いまいち役に立っていないツツミの英才教育だった。



「なんというか……先は長そうですね」

 現状を把握したレカエルの結論は前途多難だった。

「別に急いで決めることもないでしょ。こういうのは時間と共になんとかなるって」
「そうですか? 私はいつまでもこのままなような気がします」

 ツツミも若干否定はできない。

「そもそも、私たちの中でこういった経験が豊富な者がいないのです。一体どうしたものか……」

 確かに、と頷きかけてツツミは違和感を感じた。経験豊富とまではいかなくとも、男に言い寄られたことがある者が一人いる。そもそも嫁づくりを提案したのは誰だったか。

 視線が自然とエウラシアの方に流れる。レカエルもつられてそちらを見た。やや間があって二人は顔を見合わせる。

「ねぇエウラシア! 先達としてなんか三人にアドバイスできないかな?」
「そういえば仮にも最高神を名乗る男の心を射止めたのでしょう?」

 二人の言葉にエウラシアはひどくめんどくさそうな表情になる。

「特に。んー。できることは。ないよ」
「そう言わずにさ! なんなら冥界の恋物語みたいなのを話してあげるだけでもいいと思うんだ」

 絶対にやりたくないオーラがにじみ出ているエウラシア。なんとか言い訳を探すようにいつも以上にたどたどしく言う。

「私は。ミノタリアの。主だから。……恋敵を。手伝うなんて。できない」
「お? 僕は構わんぞ、主どの」

 空気を読めるのか読めないのかミノタリアが援護射撃をした。

「せっかくだ、好色で有名とはいえオリンポスの最高神を射止めた者の話を聞くのもいいだろう。なに、ほかの二人に先んじようとするほど僕は狭量ではないさ!」
「わ、私もお話うかがいたいです!」
「まあ、視点を変えてみることも時には必要ですわね」

 完全に逃げ道を失ったエウラシア。あともう一押しである。

「私も手伝うよ! これでもフィクションなら恋愛モノの知識はたくさん……」
「あなたは余計なことをしないように」

 微力ながら助力を申し出たツツミを一蹴したのはレカエルだった。

「なんでさ!」
「あなたの薫陶を受けたタンチョウがあの体たらくだからです」
「ううっ。反論できない」

 これ以上ない説得力のある根拠をつきつけられ、ツツミは助力をあきらめた。

「私もお役には立てないでしょうから。ツツミと私は生活環境改善の方を担当しましょう」

 最低限の物すらない地上の充実という仕事も残っている。

「エウラシア。私たちと一緒に創造に尽力するか、楽しくこの子たちとおしゃべりするか、好きなほうを選びなさい」
「……おしゃべり。する」

 色々創るよりは負担が少ないと踏んだエウラシアの了承により、役割分担が決定した。

 気が付けばそろそろ日が昇る頃合いである。皆はいったん解散し、また夜にそれぞれやるべきことを行うことになった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

『異世界ごはん、はじめました!』 ~料理研究家は転生先でも胃袋から世界を救う~

チャチャ
ファンタジー
味のない異世界に転生したのは、料理研究家の 私!? 魔法効果つきの“ごはん”で人を癒やし、王子を 虜に、ついには王宮キッチンまで! 心と身体を温める“スキル付き料理が、世界を 変えていく-- 美味しい笑顔があふれる、異世界グルメファン タジー!

一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?

たまご
ファンタジー
 アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。  最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。  だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。  女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。  猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!! 「私はスローライフ希望なんですけど……」  この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。  表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。

『異世界に転移した限界OL、なぜか周囲が勝手に盛り上がってます』

宵森みなと
ファンタジー
ブラック気味な職場で“お局扱い”に耐えながら働いていた29歳のOL、芹澤まどか。ある日、仕事帰りに道を歩いていると突然霧に包まれ、気がつけば鬱蒼とした森の中——。そこはまさかの異世界!?日本に戻るつもりは一切なし。心機一転、静かに生きていくはずだったのに、なぜか事件とトラブルが次々舞い込む!?

田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした

月神世一
ファンタジー
​「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」 ​ ​ブラック企業で過労死した日本人、カイト。 彼の願いはただ一つ、「誰にも邪魔されない静かな場所で農業をすること」。 ​女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。 ​孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった! ​しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。 ​ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!? ​ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!? ​世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる! ​「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。 これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

元王城お抱えスキル研究家の、モフモフ子育てスローライフ 〜スキル:沼?!『前代未聞なスキル持ち』の成長、見守り生活〜

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
「エレンはね、スレイがたくさん褒めてくれるから、ここに居ていいんだって思えたの」 ***  魔法はないが、神から授かる特殊な力――スキルが存在する世界。  王城にはスキルのあらゆる可能性を模索し、スキル関係のトラブルを解消するための専門家・スキル研究家という職が存在していた。  しかしちょうど一年前、即位したばかりの国王の「そのようなもの、金がかかるばかりで意味がない」という鶴の一声で、職が消滅。  解雇されたスキル研究家のスレイ(26歳)は、ひょんな事から縁も所縁もない田舎の伯爵領に移住し、忙しく働いた王城時代の給金貯蓄でそれなりに広い庭付きの家を買い、元来からの拾い癖と大雑把な性格が相まって、拾ってきた動物たちを放し飼いにしての共同生活を送っている。  ひっそりと「スキルに関する相談を受け付けるための『スキル相談室』」を開業する傍ら、空いた時間は冒険者ギルドで、住民からの戦闘伴わない依頼――通称:非戦闘系依頼(畑仕事や牧場仕事の手伝い)を受け、スローな日々を謳歌していたスレイ。  しかしそんな穏やかな生活も、ある日拾い癖が高じてついに羊を連れた人間(小さな女の子)を拾った事で、少しずつ様変わりし始める。  スキル階級・底辺<ボトム>のありふれたスキル『召喚士』持ちの女の子・エレンと、彼女に召喚されたただの羊(か弱い非戦闘毛動物)メェ君。  何の変哲もない子たちだけど、実は「動物と会話ができる」という、スキル研究家のスレイでも初めて見る特殊な副効果持ちの少女と、『特性:沼』という、ヘンテコなステータス持ちの羊で……? 「今日は野菜の苗植えをします」 「おー!」 「めぇー!!」  友達を一千万人作る事が目標のエレンと、エレンの事が好きすぎるあまり、人前でもお構いなくつい『沼』の力を使ってしまうメェ君。  そんな一人と一匹を、スキル研究家としても保護者としても、スローライフを通して褒めて伸ばして導いていく。  子育て成長、お仕事ストーリー。  ここに爆誕!

異世界に召喚されたけど、戦えないので牧場経営します~勝手に集まってくる動物達が、みんな普通じゃないんだけど!?~

黒蓬
ファンタジー
白石悠真は、ある日突然異世界へ召喚される。しかし、特別なスキルとして授かったのは「牧場経営」。戦えない彼は、与えられた土地で牧場を経営し、食料面での貢献を望まれる。ところが、彼の牧場には不思議な動物たちが次々と集まってきて――!? 異世界でのんびり牧場ライフ、始まります!

処理中です...