三人娘が異世界を創る ゆるく まったり いとをかし!

市上 未来

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第一章 世界創造編

33.縄を創る

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 一方のツツミとレカエル。こちらは地上環境改善組である。集落から少し離れた場所で、生活に足りていない用具を供給するためのシステムを創る事になった。

「エウラシアはうまくやってるかな?」

 ちょうど今頃お嫁さん候補たちは恋愛教室を受講しているころだろう。少しでも学ぶことがあればいいのだが……。

「……正直、エウラシアの恋愛観が常人に理解されるものだとは思えませんが」
「……だよねぇ」

 きちんとエウラシアのことを理解している二人である。

「しかし現状彼女に何とかしてもらうしかないのです。あなたが人間の創作物にかまけずもっと実体験を積んでいれさえすれば……」

 はぁ、とため息をつくレカエルにツツミは少しカチンときて言い返した。

「レカエルだって役には立たないんでしょ? 恋人どころか、もしかして友達も少なかったり……」
「失礼な。異性との交流こそあまりありませんでしたが、信頼できる同僚には事欠きませんでした。この聖槍も、尊敬する先輩の大天使から頂いたのです」

 自慢げに聖そうに眼をやるレカエル。

「いやでもその斧……もとい、聖槍って確かもらったんじゃなくて買い取ったんでしょ?」
「あくまで建前の話ですよ。レプリカとはいえ、破格の対価でした。前の持ち主の方が大事にされていたという事で、心ばかりのお礼をしただけです」
「……そのお礼、レカエルが言い出したの?」
「いえ。彼女が『そんなぁ、悪いよぉ。あ、でもどうしてもっていうんだったらねぇ……』と、私の持ち物を希望されたのです。……そういえばそれを持っていることは秘密にしていたのですが、何でもご存じの方でした」

 ……絶対騙されている気がするが、これ以上追及することはやめておいた。


 ともあれ創造の時間である。あらかじめ相談して役割分担はある程度決めておいた。

「頑張りましょうね、ツツミ」
「うん。タンチョウたち、すんごい困り顔でフォローしてくれてたよね」
「イヴたちに、私たちができない子ではないと知らしめるのです」
「うん! 有能で気が利く素敵なお姉さんであることを教えてあげよう!」
「……それは美化しすぎです」

 汚名返上に全力を尽くす所存の二人である。

「私は縄を用意しました」

 レカエルが担当したのは縄、ロープである。現状なにかを縛るためのものがない。家や塀を造るのにも、木材に切れ込みを入れて組み合わせている様相だ。

 稲が収穫できればそのわらで結ったものがじき使えるかもしれないが、なかなかの重労働だろう。

「確かに縄があればサバイバル生活の幅も広がるよね。 あ! ゆくゆく土のお皿とか焼くようになったら模様も付けられるじゃん!」
「はい?」
「だから、焼く前の土器に縄をこうこすりつけると模様が付くでしょ? うん、必要だね、縄」
「……なぜその使い道が真っ先に出てくるのかわかりませんが」

 そういってレカエルが創り出したのは一本の大きな木だった。

「ん?この木が縄になるの? そんなに向いている木には見えないけど」

 みたところ普通の木である。枝葉もそれなりの固さがあり、縄が結えるようには見えない。

「まずこうするのです。はっ」

 レカエルは太い幹の部分を聖槍で軽く斬りつけた。するとできた傷からとろりと油のような液体が流れ出てきた。レカエルはその樹液を掬い取る。手の中で樹液はすぐに固まり、白い結晶となった。

「これで良しです。ツツミ、狐火で燃やしてください。できるだけゆっくり燃えるくらいの大きさでお願いします」

 レカエルは結晶を地面に置き、ツツミを促した。いわれるがまま結晶に火をつけるツツミ。

「ていっ」

 ぽうっ、と炭火の様に樹液の塊がオレンジ色に光る。やがて地面から煙が立ち昇った。

「わ! すごくいいにおいがする! ていうかこの香りどこかで嗅いだ気がするんだけど……」
「ええ。私の神殿の聖堂でも時折似たような香を焚いています」

 レカエル曰く、唯一神の世界では神聖な香りとされているらしい。

「昔我が主が選んだ人間の王に貢物として贈られたことがあるそうです。神の御子の生誕時にも、東方よりきた三人の賢者がこれを御子に捧げたといわれています」

 どうやらレカエルにとってはなじみの深い香りだそうだ。

「でも、これがどう縄になるの?」
「そうですね、そろそろいいでしょう」

 レカエルは静かに燃える結晶に近づいた。そして

「すごい! なにそれ!」

 揺らめいていた煙はレカエルの手の中でしっかりとした形をとっているようだ。手繰り寄せるように両手で煙を集めていくレカエル。

「ふう。こんなものでしょうか」

 レカエルが少し強めに手を払い、煙を切るようにする。煙は一度分断され、すぐに再び上へ昇り始めた。レカエルの手元にはひとつかみの縄が残っている。

「どうです? この細さでなかなかの強度もあるのですよ」

 両手で強めに縄を引っ張ってみるレカエル。切れる様子はない。

「今度は少し火を強めにしてみてください」
「オッケー任せて!」

 ツツミは火力を上げた。小さな結晶からはもうもうとした煙が立ち込める。

「今度は私にやらせて! ええと、こんな感じかな?」

 両手で輪を作るように煙を掴むツツミ。手に触れた瞬間、確かな感触が感じられた。

「わーい! これ不思議! 面白い!」

 やがてツツミの手には先ほどより太めのロープができた。これなら人間の体重でも支えられるだろう。

「これなら用途に合わせて簡単にちょうどいい太さ、長さの縄が作れます。大事なのは汎用性ですね」

 ふふん、と得意げなレカエルである。確かにわざわざ編み込む労力もいらず、便利なアイテムだった。

「そうだ! ちょっと火を弱くして……」

 ツツミはもう一度煙を細目にすると、二本の縄を煙から作った。身長より長めのそれを一本レカエルに渡す。

「これで何をするんですか?」
「こう両手で持ってね、いくよー、ほいっ」

 両手で縄の端と端を持ち、頭の上を通り過ぎて足元に回してジャンプする。つまりは縄跳びだった。

「見て見てレカエル!」
「……いったい何をしているのです?」
「んー、運動かな? レカエルもやってみなよ」

 見よう見まねで縄跳びをはじめるレカエル。少しぎこちなかったがすぐにコツをつかんだようだった。

「なるほど、これはなかなか楽しいですね」
「でしょでしょ? さらに上級者のツツミさんならこんなことも!」

 回転速度を上げ、一度のジャンプで二回転させる。

「これが二重跳びだよ! すごいでしょ!」
「ええと、こうでしょうか? はいっ!」

 レカエルはすぐに二重跳びをマスターしたようで、スムーズにやりはじめた。

「なっ! 私はできるまでに結構かかったのに! なら、今度は手を交差させて……」
「こうでしょうか」
「交差、戻すを繰り返すあやとび!」
「一跳びごとに変えるのですね」
「こ、これもできるの? じゃあ逆回転で後ろ跳び!」
「ふふ、簡単です」

 ツツミの繰り出す技をどんどん模倣していくレカエル。運動神経は三人娘の中で随一である。

「なるほど、いくつも跳び方があるのですね。ではこれを組み合わせて……」

 レカエルは少し考えてから再び縄跳びを始めた。すごい速さで複雑なやり方をしている。

「よっ、はっ、それっ! そうですね、うしろあやとびで二重跳び。片足交互ステップといったところでしょうか」
「……二重跳びのあやとびは、はやぶさっていうんだよ……。私できないけど……」

 縄跳び師匠のツツミ。弟子のレカエルは一瞬で師を超え、縄跳びマスターになったのであった。
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