三人娘が異世界を創る ゆるく まったり いとをかし!

市上 未来

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第一章 世界創造編

51.星座を創る

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久しぶりに天界へ戻ってきた三人。特に変わった様子もなく、スギやエウラシアの木が迎えてくれた。

「ふぅ。やはり我が家が落ち着く……と、言いたいところですが」

 レカエルが辺りを見回して一つため息をつく。

「なんだか静かすぎて逆に落ち着きませんね」
「……うん。確かに」

 このところ六人でわいわい楽しく過ごしていたのである。半分に減った人数の周囲はなんだか寒々しくさえ見えた。

「……あ。しまった。忘れ。てた」

 エウラシアが急に思い出したように呟いた。

「なに? なんか忘れ物でもしたの?」

 ツツミの問いにエウラシアはゆっくりと頷く。

「タンチョウ。から。報酬。もらうの。忘れてた」
「……あっ」

 そういえばそんな話もあったと思い出すツツミ。自分も人身御供になる約束だった気がする。頬にたらりと一筋の汗が伝った。

「そ、そっかー忘れてたんだー。ま、まあ仕方ないね! 今度地上に戻ったときにでも……わひゃっ!」
「とりあえず。今。払える。分だけ。うー。もらう」

 悪徳高利貸しのようなセリフを吐いてエウラシアはツツミの首根っこを捕まえた。

「くっ……。タンチョウがかわいそうだからって付き合わなきゃよかった。しょうがないか、まあちょっともふもふするだけなら今更……」
「タンチョウと。約束で。むにゅむにゅと。ぺろぺろも。追加」
「むにゅむにゅにぺろぺろ!?」
「あと。ぽよぽよも」
「ぽよぽよ!? 何それ!?」

 謎の擬音の連発に危機感が募る。逃げようとするがエウラシアの力は思いのほか強い。

「では。いただき。ます」
「ちょ、ちょっと待ってエウラ……! い、いやぁああああ!!」
「……ごゆっくり」

 いろいろ過激なスキンシップが繰り広げられる現場を、レカエルは静かに見守った。




「はぁ、はぁ、もうお嫁にいけない……」
「ああ、終わりましたか」

 息も絶え絶えといった様子で倒れているツツミに、レカエルは事もなげに言った。

「ひどいレカエル! 何度も助けてって言ったじゃん!」
「いえ……さすがにとは思わず同情もしましたが……。飢えたケダモノを私が制すことができるかと考えると……」
「……まあたしかに。犠牲者が増えるだけな気がしてきた」

 もはやケダモノ呼ばわりまでされるエウラシアだったが気にしていないらしい。

「ふぅ。堪能。した」
「タンチョウ、次エウラシアと会った時死んじゃうんじゃないかな……」

 いろいろ免疫のないタンチョウがエウラシアの欲望にさらされて無事でいられるかどうか。割と真剣に心配だ。

「……今頃アツシが起きているころでしょうか。なにかとうまくいっていればいいのですが」
「レカエル、心配するの早すぎ。お母さんじゃないんだからさ、いやある意味お母さんみたいなもんだけど」

 気づかわし気に下界を見下ろすレカエル。今は夜。月の馬車が空を駆ける時間帯である。

「こうして見るとこの世界はまだまだ暗いですね。元の世界では人間たちの灯りが一晩中ともされていたものですが」
「うーん。確かに月明りも乙なものだけどね……。そうだ!」

 ツツミはガバッと立ち上がって宣言した。

「星を創ろう!!」

 地上にいた頃からなにか夜空に足りないと思っていたのだ。満天の星空が必要である。

「おー。星。創るの? じゃあ……」
「うん! 夜空に星座でお絵かきだ!」

 エウラシアの言いたいことを引き継ぐツツミ。レカエルはあまりピンと来ていない。

「星座というと……星々の配置を動物などに見立てるあれですか」
「うん。いろんな国の人間がやってたみたいだけど、一番有名なのはエウラシアのとこのヤツかな」

 ツツミの国でも毎朝占いのネタになるほど、オリンポス発祥の星座は定着している。

「この世界はまだいっこも星がないから自由に創れるよ! じゃあまず私から……」

 ツツミは軽く意識を集中させると下界に手をかざした。

「……よっ。ほっ。はっ!」

 ツツミの腕が舞うたび、暗い夜空に星々が現れる。いくつかの光ができたところでツツミは動きを止めた。

「できた!」
「え。もう完成ですか? なんの星座です?」
「私!!」

 この世界初の星座、ツツミ座の出来上がりである。しかしレカエルは眉をしかめながら星座を見下ろした。

「あれがツツミですか? ただの星々の集まりにしか見えませんが……」
「えーとね、あっちのちょっと青いヤツふたつが耳でしょ? で、そこから下がって顔があって……」
「……あの、まったくわからないのですが」

 レカエルは説明されても全然理解ができていないようだ。……言われてみればツツミも自信がなくなってきた。

「い、いいんだよこういうのはなんとなくで! 元の世界でもそうだったじゃん。ね、エウラシア?」
「……まあ。だいたい。無理が。ある」

 そういうわけであまりこだわらないことになった。三人は思い思いの星座を構築していく。まずは自分たちからだ。

「こ、こんな感じでしょうか?」

 レカエルが見様見真似といった様子で自分の星座を創った。一応翼や天使の輪があるらしいがやはりわからない。

「うんうん、レカエルが自分だって思って創ったんならそれがレカエル座だよ! エウラシアはどう?」
「おー」

 エウラシアは夜空の一点を指した。星が二つ並んでいる。

「お、あれが眼かな? で、このあとどうするの?」
「あれで。完成」
「……えっ?」
「エウラシア座」
「あの、エウラシア。どうみても二つしかないんだけど」

 ツツミとレカエルはそれぞれ七、八個くらいの星で自身の星座とした。エウラシアが創ったのはただ二つ、結んでも直線にしかならない。

「大丈夫。……子犬。だって。二つの。星で。子犬。だから」
「そ、そうなんだ」

 元世界のこいぬ座も星が二つ並んでいるだけらしい。しかし仮にもこの世界で数多を想像した神域の存在として、ちゃちな星座でいいのだろうか。

「あれで。いい。……めんどくさい」

 怠惰でいられるかが優先されたエウラシアだった。ツツミとレカエルは他にも星座を創っていく。

「うーんと、できた! リス座」
「それっ。 ……よし、レバノンスギ座です」
「おおー、スギはなんかスギっぽい。ほらエウラシアもせっかくなんだからさっ」
「うー。……コケ座」

 だんだんと活気づいてきた夜空である。エウラシアの創る星座は全て二つの星を結ぶ直線だったが。

 やがて対象は地上のお嫁さん候補たちになった。

「タンチョウはすっごく派手にしてあげよう! 本人嫌がるかもだけどまあいいや!」
「イヴは……こんな感じでしょうか」
「できた。ミノタリア」
「エウラシア。やっぱ直線でしかないよそれ。あ、イザナミさんもつーくろっと」
「そうだ! 大事な二人を忘れていました!」

 こうして創造を進めていると、レカエルが大声を上げた。

「コガネちゃんとシロガネちゃんを創らなければ! ふふ、喜んでくれるといいのですが」

 気合を入れなおしてレカエルはコガネ座、シロガネ座を創りはじめる。

「造形はきゃわいくしなければいけませんね……。ここはふんだんに星を使って誰が見てもあの二人だとわかるようにしましょう。ええと、ここをこうして……」
「おー張り切るね。ってレカエル? ……レカエル!?」

 できかけの星座を見てツツミは慌ててレカエルを止めた。

「なんです? 今大事なところなのです、邪魔をしないでください」
「いやいやいや。確認するけど、コガネとシロガネだよね?」
「ええ。きゃわいいでしょう?」

 ……クッキーづくりと今回から得られる考察。どうやらレカエルはかわいいものをつくろうとすると、見るものを不安定にさせる何かを生み出してしまうらしい。

「ほ、ほら、二人とも一応隠しキャラだからさ! 顔とか有名になったらまずいでしょ? もうちょっとぼかして創ろうよ! 星の数ももうちょっと減らそ?」
「……まあ確かに。下界の全ての人間が見ることになるのですからね」

 ツツミの咄嗟の機転により、コガネとシロガネが泣き出すことはなくなった。




「あれ? あのおっきな星は?」

 しばらくして、ツツミが上の方を指さした。

「なんであんな高いとこに創ったの? 下界から見えないかもしれないよ?」

 かなり明るい大きな星は天界よりもはるか頭上にある。

「私ではありませんよ? エウラシア、あなたですか?」
「うー? 違うよ?」

 どうやら二人が創ったものでもないらしい。星はだんだんと輝きを増すかのように明るくなった。……いや、実際に光が強く、大きくなってきている。

「ねえ……なんかあの星、近づいてきてない?」

 ツツミの言葉通り、光が増したように見えるのは星が近づいてきていたからだった。よく見ると色は一色ではない。赤、青、その他たくさんの色に変化してまるで虹のようだ。

「に、逃げたほうがいいのではないでしょうか」
「う、うん」

 しかしそう思った時には星はかなり至近距離まで来ていた。体感的には加速したようだが、もともとかなりのスピードだったらしい。

「あの。光は。確か……」
「エウラシア、危ない!!」

 エウラシアが何か言うより早く、星はもう天界に衝突するように近づいた。もう星として認識できない。眼前がすべて虹色の光で包まれる。

「う、うわぁああああああ!!!」
「きゃあああああああああ!!!」

 目を開けていられず、危険に備えて体を縮める事しかできないツツミたち。一際光が強くなり、爆発するかのように四散して……。

「わあああああぁぁぁぁ……ぁ?」

 やがて収まってきた。覚悟していた衝撃もない。そうこうしているうちに虹色のひかりはどんどん薄くなり、視界が戻ってくる。

「って、あれ? ここって……」
「やあ。おかえり、ツツミ」

 目の前に広がるのは天界ではなかった。見慣れた光景ではあったが。そして聞きなれた男の声。

「ウカノミタマ様!?」

 ここ、高天原に住むツツミの主ウカノミタマは、微笑んで三人を出迎えたのだった。
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