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第二章 人間に崇拝される編
54.元世界でのツツミの試行錯誤
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「まあ、考えていたほど変わっていなくて安心しました」
一通り神殿を見て回ったレカエルが安堵の一息を漏らす。神殿の装飾品や絵画の数々も無事だった。天使たるレカエルが創ったものだ、そうそう朽ちるものでもない。
「変わってなくなんかないよ! 私が頑張って集めてきたコレクションの数々が……うぅ」
コレクションの喪失から未だ立ち直れていないのはツツミである。ツツミが葛籠で持ち込んだのは人間たちが買い求めているものと何ら変わらない。人が作ったものなのだ。当然年月を重ねれば劣化する。
「集めるの大変だったのに……。徹夜で並んでなんとか手に入れた初回限定版とかもあったのに……。どうしてこんな……」
ちなみに購入代金はウカノミタマからもらえるおこづかい、もっと辿れば人間が参拝するときのお賽銭である。人気の稲荷神の懐事情はなかなか潤っていた。
「あなた、仮にも神域の存在では……。人間界にわざわざ赴いてそこまでしていたのですか」
半ば呆れた口調のレカエルにツツミは食って掛かる。
「そこまでしなきゃ手に入らないんだから仕方ないじゃん! っていうか私は人間たちよりはるかに苦労してるんだよ! 今の人間はネットでほとんど何でも買えちゃうんだから!」
インターネット通販が隆盛を極める昨今。ツツミが愛するサブカルチャーにおいても例外ではない。
「高天原には電波届かないしさ……。基地局創ろうとしたこともあったけど、正直ちんぷんかんぷんで無理だったよ」
時々出している食べ物などとは違い、どういう理屈で機能しているか理解できない設備を創造するのはツツミには無理だった。
「人間界にいるとき用に回線契約しようと思ったら、身分証が必要でさー。ネットカフェ行こうと思ったらやっぱり身分証が必要でさー。ちょっと偽造してみたらウカノミタマ様にバレるし」
ツツミの主はいたずらに人間界をかき乱すことをよしとしない。
「あの……ツツミ? 何を言ってるかよくわからないのですが」
「まあいいから愚痴らせてよ。それでとりあえず中古のスマホ買って、フリーのwifiが繋がるとこでなんとか使えるようになったんだ」
置いてきぼりのレカエルを無視してツツミは話し続ける。エウラシアは聞いているのかいないのかわからない。
「で、そこで気づいたんだけど注文しても受け取る住所がないじゃん? 家借りるには案の定身分証が必須だし。けど人間はすごいね! 最近はコンビニで受け取れるサービスがあるんだよ!」
「……は、はあ」
ツツミの語りは熱を帯び始めた。対照的にレカエルがどんどんついていけなくなっていく。
「これだ! そう思ってネットショッピングサイトに登録しようと思ったらね。コンビニ受け取りでも登録時には住所が必要だったんだよ!」
なにかとトラブルを防ぐためなのか、サイト会員登録時には住所入力が必須だったのだ。嘘の住所を書いてもバレないかもしれないが、ウカノミタマに知られれば確実に怒られるパターンである。
「ここまで来て奈落の底に叩き落されたんだ。うぅ、この世に神はいないのか! 絶望する私」
「神はいるでしょう、あなたのすぐそばに」
おもわずいつもの悪魔云々を忘れてツッコむレカエル。
「でも私は諦めなかったよ! 私書箱を利用すればいいんだ!」
本人の代わりに郵便物や荷物を受け取ってくれる場所があるのだ。宛先となる住所も提供してくれる、ツツミのためにあるようなサービスである。
「喜び勇んで私は私書箱を作りに行ったよ! そしたら受付のお姉さん、なんて言ったと思う!?」
「……知りませんよ」
「『ご登録には身分証が必要です』だって!! ああ、身分証!! 私の行く手を遮るのはいつもお前だ!!!」
詐欺などの悪用を防ぐため、私書箱も本人確認が義務付けられている。ここまできて完全に心が折れたツツミだった。
「そんなこんなで、私はお店に並んで買うしかないんだよ。最近はネットに押されてお店も少なくなってきてるし……。こんなに困る人が出てくるのになんでかな?」
「ツツミ、あなた人ではないですからね。よくわかりませんが、普通の人間に便利なように人の世は変わっていくものです」
「うぅ……作品を愛する心はどんな人間にも負けないのに。よし決めた」
長い話を終え、ツツミは宣言する。
「もしこの世界に身分証が普及しはじめたら、私全力で阻止するんだ!」
妙なところで神域の禁忌が決まったのであった。
「ツツミのどうでもいい話は置いておいて、問題は人間ですね」
レカエルが長い脇道にそれていた話題を元に戻す。
「どうでもよくないんだけど……。確かに。なんかめっちゃ繁栄してるみたいだったね」
鳥たちの断片的な情報を垣間見ただけだったが、以前とは比べ物にならないほど人間の数が増えている。街もできていて、どうやら文明的な生活を送っているようだった。
「うー。私たちの。像も。あった」
「……そういえば」
広場らしき場所に三人の像があったのである。ツツミはテンションが上がった様子で言った。
「もしかして! 私たち崇められてる? いやあ、照れるね!」
「も、問題ではないでしょうか!」
一方レカエルはなにやら複雑な顔つきだ。
「私はあくまで使いであって神そのものではありません。我が主を差し置いて崇拝されるわけには……。いえしかし人間が崇める私が主を崇めているのですから問題ないのでしょうか? ううん……」
どうやら自分の主への忠誠心から素直に喜ぶことができないらしい。
「ひとまず。様子を。見に。いけば?」
エウラシアの提案はもっともだった。確かに実際に確認する必要があるだろう。
「オッケー。じゃあ、地上の視察に行くとしよっか!」
こうして三人はドキドキしながら地上へと赴いたのだった。
一通り神殿を見て回ったレカエルが安堵の一息を漏らす。神殿の装飾品や絵画の数々も無事だった。天使たるレカエルが創ったものだ、そうそう朽ちるものでもない。
「変わってなくなんかないよ! 私が頑張って集めてきたコレクションの数々が……うぅ」
コレクションの喪失から未だ立ち直れていないのはツツミである。ツツミが葛籠で持ち込んだのは人間たちが買い求めているものと何ら変わらない。人が作ったものなのだ。当然年月を重ねれば劣化する。
「集めるの大変だったのに……。徹夜で並んでなんとか手に入れた初回限定版とかもあったのに……。どうしてこんな……」
ちなみに購入代金はウカノミタマからもらえるおこづかい、もっと辿れば人間が参拝するときのお賽銭である。人気の稲荷神の懐事情はなかなか潤っていた。
「あなた、仮にも神域の存在では……。人間界にわざわざ赴いてそこまでしていたのですか」
半ば呆れた口調のレカエルにツツミは食って掛かる。
「そこまでしなきゃ手に入らないんだから仕方ないじゃん! っていうか私は人間たちよりはるかに苦労してるんだよ! 今の人間はネットでほとんど何でも買えちゃうんだから!」
インターネット通販が隆盛を極める昨今。ツツミが愛するサブカルチャーにおいても例外ではない。
「高天原には電波届かないしさ……。基地局創ろうとしたこともあったけど、正直ちんぷんかんぷんで無理だったよ」
時々出している食べ物などとは違い、どういう理屈で機能しているか理解できない設備を創造するのはツツミには無理だった。
「人間界にいるとき用に回線契約しようと思ったら、身分証が必要でさー。ネットカフェ行こうと思ったらやっぱり身分証が必要でさー。ちょっと偽造してみたらウカノミタマ様にバレるし」
ツツミの主はいたずらに人間界をかき乱すことをよしとしない。
「あの……ツツミ? 何を言ってるかよくわからないのですが」
「まあいいから愚痴らせてよ。それでとりあえず中古のスマホ買って、フリーのwifiが繋がるとこでなんとか使えるようになったんだ」
置いてきぼりのレカエルを無視してツツミは話し続ける。エウラシアは聞いているのかいないのかわからない。
「で、そこで気づいたんだけど注文しても受け取る住所がないじゃん? 家借りるには案の定身分証が必須だし。けど人間はすごいね! 最近はコンビニで受け取れるサービスがあるんだよ!」
「……は、はあ」
ツツミの語りは熱を帯び始めた。対照的にレカエルがどんどんついていけなくなっていく。
「これだ! そう思ってネットショッピングサイトに登録しようと思ったらね。コンビニ受け取りでも登録時には住所が必要だったんだよ!」
なにかとトラブルを防ぐためなのか、サイト会員登録時には住所入力が必須だったのだ。嘘の住所を書いてもバレないかもしれないが、ウカノミタマに知られれば確実に怒られるパターンである。
「ここまで来て奈落の底に叩き落されたんだ。うぅ、この世に神はいないのか! 絶望する私」
「神はいるでしょう、あなたのすぐそばに」
おもわずいつもの悪魔云々を忘れてツッコむレカエル。
「でも私は諦めなかったよ! 私書箱を利用すればいいんだ!」
本人の代わりに郵便物や荷物を受け取ってくれる場所があるのだ。宛先となる住所も提供してくれる、ツツミのためにあるようなサービスである。
「喜び勇んで私は私書箱を作りに行ったよ! そしたら受付のお姉さん、なんて言ったと思う!?」
「……知りませんよ」
「『ご登録には身分証が必要です』だって!! ああ、身分証!! 私の行く手を遮るのはいつもお前だ!!!」
詐欺などの悪用を防ぐため、私書箱も本人確認が義務付けられている。ここまできて完全に心が折れたツツミだった。
「そんなこんなで、私はお店に並んで買うしかないんだよ。最近はネットに押されてお店も少なくなってきてるし……。こんなに困る人が出てくるのになんでかな?」
「ツツミ、あなた人ではないですからね。よくわかりませんが、普通の人間に便利なように人の世は変わっていくものです」
「うぅ……作品を愛する心はどんな人間にも負けないのに。よし決めた」
長い話を終え、ツツミは宣言する。
「もしこの世界に身分証が普及しはじめたら、私全力で阻止するんだ!」
妙なところで神域の禁忌が決まったのであった。
「ツツミのどうでもいい話は置いておいて、問題は人間ですね」
レカエルが長い脇道にそれていた話題を元に戻す。
「どうでもよくないんだけど……。確かに。なんかめっちゃ繁栄してるみたいだったね」
鳥たちの断片的な情報を垣間見ただけだったが、以前とは比べ物にならないほど人間の数が増えている。街もできていて、どうやら文明的な生活を送っているようだった。
「うー。私たちの。像も。あった」
「……そういえば」
広場らしき場所に三人の像があったのである。ツツミはテンションが上がった様子で言った。
「もしかして! 私たち崇められてる? いやあ、照れるね!」
「も、問題ではないでしょうか!」
一方レカエルはなにやら複雑な顔つきだ。
「私はあくまで使いであって神そのものではありません。我が主を差し置いて崇拝されるわけには……。いえしかし人間が崇める私が主を崇めているのですから問題ないのでしょうか? ううん……」
どうやら自分の主への忠誠心から素直に喜ぶことができないらしい。
「ひとまず。様子を。見に。いけば?」
エウラシアの提案はもっともだった。確かに実際に確認する必要があるだろう。
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