三人娘が異世界を創る ゆるく まったり いとをかし!

市上 未来

文字の大きさ
55 / 67
第二章 人間に崇拝される編

55.オブジェ

しおりを挟む
三人がひとまず訪れたのは、タンチョウたちが暮らしていた集落があるあたりだった。

「……本当に街ができてる」

 上空から見下ろしながらツツミが呟く。大小さまざまな建物が密集していた。材質に統一性はない。レンガを組み上げたもの、石材のもの、木でできたものなどが入り混じっている。

 様式も色々で、純和風といった感じの屋敷から、エウラシアの国にあるような白く四角い石造りの建物、西洋風の家屋などごちゃまぜだった。

 そもそも街といったがちゃんとした境目もないようだ。城壁や門などがないので、どこまでが街であるという明確な区分がない。

「なんというか、秩序がないですね」

 レカエルの言葉通り都市計画もなにもあったものではない街である。

「まあこれはこれでなんかいいじゃん! さ、降りてみようか」
「ちょっと。待って」

 勇み足のツツミを引き留めたのはエウラシアだった。

「私たちの。像が。あるくらい。このまま。降りたら。うー。面倒に。なるかも」
「……たしかにそうですね」

 鳥たちの映像がいつ、どこのものかはわからないが、明らかにツツミたちをモチーフとした像があった。

「あ、そうだね。いやあ、女神降臨って騒ぎになっちゃったりして! ね、試しに一回だけこのまま行ってみない?」
「わざわざ厄介事を招く必要もないでしょう。はしゃぎすぎですよ」

 ツツミの提案は二人の同意を得られなかった。

「ツツミ、あなた人間界で遊ぶときはどうしていたのです?」
「ん? 耳としっぽだけ見えなくしてた」
「服装はそのままですか? あなたの国の一般的な恰好とはだいぶ違う気がしますが……。神職の女性が着る服だと前に言っていましたね」

 ツツミの巫女装束を見ながらレカエルが尋ねる。

「あー、大丈夫! うちの国の人間たちにはこういう文化もあるから。私がよく行く場所とか、巫女じゃないのにこの格好してる人結構いたし。写真を撮らせてほしいってよく言われた!」
「おや。なかなか信心深い人間がいるのですね。邪教とはいえ感心なことです」
「いや、信仰心から着てるわけじゃないんだけど……」

 ツツミはなんと説明したものか考えたが、長くなりそうなので諦めた。

「ま、まあ置いといて。とりあえず今回はこれでいいでしょ」

 ツツミは指をパチンと鳴らしてゆったりとしたポンチョを出した。足元まであるタイプのものである。フードもついているので耳も隠せるだろう。

「ではエウラシア。私たちも」
「……んー」

 レカエルとエウラシアも同じような服を出した。これでレカエルの背の翼も天使の輪も、エウラシアのツタが巻き付いたようないで立ちも目立たない。

「そういえば、エウラシアが服着てるってなんか新鮮」

 ツツミの言葉にエウラシアはどこか窮屈そうな様子だった。

「……うー。落ち着かない。服。きらい。……やっぱ。脱ごうかな」
「やめなさい。男性の目もあるのですから」

 エウラシアの扇情的な恰好で街に入れば、ニンフどうこう以前に良くないことが起こりそうな予感がするレカエルだった。




「おお。結構にぎやかになってきたね!」

 街の外れに降りたった三人は中心部と思われる辺りに向かってのんびり歩いていた。はじめは畑や家がぽつぽつとあるだけだったが、やがて道は舗装され、お店が立ち並ぶ大通りが広がり始める。

「人間も多いですね。取引も活発なようです」

 レカエルが言うように、大通りは商品を売る人、買う人で賑わっていた。往来から見える店の中には食べ物や服、家具や日用品が並べられている。

「それにしても、ここにいる人間たちは……。その、人種が様々というか……」
「う、うん。そうだね」

 行きかう人々の姿は様々だった。大きく分けて三タイプ。いわゆる純粋なヒューマノイド、角と蹄を持つ牛人、体の後ろを中心に羽毛を持つ鳥人である。

「……イヴとミノタリア、タンチョウによく似ていますね」
「そ、そだね。お嫁さん候補三人によく似てるね」
「……お嫁さん候補の中からアツシに一人選ばせる。そういう話でしたね」
「う、うんうんその通り! いやあ、アツシは誰を選んだのかな! 気になるね!」
「これは。どう。考えても。ハーレ……」
「やめなさい! ……まだそうと決まったわけではないのです。結論を出すのは後でいいでしょう」

 エウラシアの言葉をレカエルが遮り、この話は一旦中断となった。




「お、あれはもしかして広場じゃない? 鳥たちのイメージに出てきたやつだ!」

 通りを眺めながらてくてく歩いてきた三人。やがて街の中心らしい開けた場所に着いた。どうやら鳥たちが見せてくれた広場はこれらしい。

「イメージ通り噴水もありますね。地下水か、川から水路を引いているのかわかりませんが……。こういう風に水を使えるという事は、生活用水も充実しているのでしょう」
「そんなことより像! 私たちの像は!?」

 真面目に考察しているレカエルをよそに、俄然テンションが上がってきたツツミである。きょろきょろと辺りを見回して目的の物を探し始めた。

「ツツミ。あれ。じゃない?」

 エウラシアがとある方向を指さす。そこにあったのは確かに件の三体のヒヒイロノカネでできた像だった。

「おお! 確かにあれだよ! 見て、レカエル!」
「え、ええ。しかし我が主を差し置いてそんな、人間に崇められるなんて……。おや?」

 レカエルはまだ煮え切らない顔をしていたが、像の様子を見ていぶかしげな顔をした。

「きゃっきゃっ! わーいわーい!」
「みてみて! 上までのぼれたー!」
「おにいちゃんすごーい! わたしもわたしも!」
「わーい、おっぱいおっぱい」

 像の辺りに小さな子供が集まって遊んでいる。像を叩く、上に登る、色々な場所を触る、やりたい放題である。

「ほらー。あんまりはしゃいで落ちるんじゃないぞー」
「はーい!」

 近くにいた父親らしき牛人の青年が子供をたしなめる。とはいっても微笑ましく見守っている表情で、ことさら咎める様子もない。

「……なんか、崇められてるって感じじゃないね」
「え。ええ。きゃわいい子供たちが楽しそうでなによりですね」
「私。おっぱい。触られてる」

 どう見ても神聖さとか荘厳さとかとはかけ離れたほのぼの日常風景である。

 何とも言えない様子で子供たちを見つめる三人に気が付いたのか、先ほどの父親が近づいてきた。

「ごめんね、騒がしくしてしまって」
「い、いえいえ! 子供が元気なのは良いことです!」

 軽く頭を下げる父親にパタパタと手を振って言うレカエル。

「なにぶん遊び盛りでね……。はは」
「そ、そうだよね! ところでお父さん、あの像なんだけど……」
「うん? あのかい?」

 神像でもご神体でもなくオブジェときた。

「う、うん。あの、お、オブジェってなに?」
「あれかい? もしかして君たちは街の外から来た人かな?」
「え、ええ。そうなんです」

 ツツミとレカエルの質問に父親は優しく答えてくれた。

「この広場のシンボルみたいなものかな? なかなかよくできてるだろう。けっこう古い物らしいね」
「そ、そうなんですか。なんていう名前の像なんですか?」
「名前? 名前は……あるのかな? みんな『広場の像』とか『噴水の像』とか呼んでるけど」
「ねえ由来は? どういう由来で造られたの?」
「さあ……? なにせこの街より古いんじゃないかって話らしいからね。知ってる人は……いるのかな」

 どうやら市民の憩いの場にあるオブジェくらいの扱いらしい。

「では、信仰の対象となる神の像ではないのですね……」

 怒るべきか喜ぶべきか微妙な表情のレカエル。と、父親は不思議そうな顔をした。

「神様? 神様の像なら教会に行けばあるよ?」
「教会があるのですか!?」

 レカエルが勢い込んで尋ねる。どうやら自分の主を信じる人間が集う場所を想像しているのだろう。

「いやいやレカエル、それよりも神様にひっかかるべきでしょ。……お父さん、神様ってここにある像の三人じゃないの?」
「えっ? いや、これはただの美術品じゃないか」
「別に神様がいるの!? どんな神様!?」
「どんなって……神様といえば神様だろう?」

 どうも話がかみ合わない。釈然としない顔の父親にツツミ。こうなってしまっては聞くより見たほうが早い。

「お父さん! 教会の場所、教えて!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

『異世界ごはん、はじめました!』 ~料理研究家は転生先でも胃袋から世界を救う~

チャチャ
ファンタジー
味のない異世界に転生したのは、料理研究家の 私!? 魔法効果つきの“ごはん”で人を癒やし、王子を 虜に、ついには王宮キッチンまで! 心と身体を温める“スキル付き料理が、世界を 変えていく-- 美味しい笑顔があふれる、異世界グルメファン タジー!

一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?

たまご
ファンタジー
 アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。  最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。  だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。  女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。  猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!! 「私はスローライフ希望なんですけど……」  この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。  表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。

『異世界に転移した限界OL、なぜか周囲が勝手に盛り上がってます』

宵森みなと
ファンタジー
ブラック気味な職場で“お局扱い”に耐えながら働いていた29歳のOL、芹澤まどか。ある日、仕事帰りに道を歩いていると突然霧に包まれ、気がつけば鬱蒼とした森の中——。そこはまさかの異世界!?日本に戻るつもりは一切なし。心機一転、静かに生きていくはずだったのに、なぜか事件とトラブルが次々舞い込む!?

田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした

月神世一
ファンタジー
​「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」 ​ ​ブラック企業で過労死した日本人、カイト。 彼の願いはただ一つ、「誰にも邪魔されない静かな場所で農業をすること」。 ​女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。 ​孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった! ​しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。 ​ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!? ​ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!? ​世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる! ​「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。 これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

元王城お抱えスキル研究家の、モフモフ子育てスローライフ 〜スキル:沼?!『前代未聞なスキル持ち』の成長、見守り生活〜

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
「エレンはね、スレイがたくさん褒めてくれるから、ここに居ていいんだって思えたの」 ***  魔法はないが、神から授かる特殊な力――スキルが存在する世界。  王城にはスキルのあらゆる可能性を模索し、スキル関係のトラブルを解消するための専門家・スキル研究家という職が存在していた。  しかしちょうど一年前、即位したばかりの国王の「そのようなもの、金がかかるばかりで意味がない」という鶴の一声で、職が消滅。  解雇されたスキル研究家のスレイ(26歳)は、ひょんな事から縁も所縁もない田舎の伯爵領に移住し、忙しく働いた王城時代の給金貯蓄でそれなりに広い庭付きの家を買い、元来からの拾い癖と大雑把な性格が相まって、拾ってきた動物たちを放し飼いにしての共同生活を送っている。  ひっそりと「スキルに関する相談を受け付けるための『スキル相談室』」を開業する傍ら、空いた時間は冒険者ギルドで、住民からの戦闘伴わない依頼――通称:非戦闘系依頼(畑仕事や牧場仕事の手伝い)を受け、スローな日々を謳歌していたスレイ。  しかしそんな穏やかな生活も、ある日拾い癖が高じてついに羊を連れた人間(小さな女の子)を拾った事で、少しずつ様変わりし始める。  スキル階級・底辺<ボトム>のありふれたスキル『召喚士』持ちの女の子・エレンと、彼女に召喚されたただの羊(か弱い非戦闘毛動物)メェ君。  何の変哲もない子たちだけど、実は「動物と会話ができる」という、スキル研究家のスレイでも初めて見る特殊な副効果持ちの少女と、『特性:沼』という、ヘンテコなステータス持ちの羊で……? 「今日は野菜の苗植えをします」 「おー!」 「めぇー!!」  友達を一千万人作る事が目標のエレンと、エレンの事が好きすぎるあまり、人前でもお構いなくつい『沼』の力を使ってしまうメェ君。  そんな一人と一匹を、スキル研究家としても保護者としても、スローライフを通して褒めて伸ばして導いていく。  子育て成長、お仕事ストーリー。  ここに爆誕!

異世界に召喚されたけど、戦えないので牧場経営します~勝手に集まってくる動物達が、みんな普通じゃないんだけど!?~

黒蓬
ファンタジー
白石悠真は、ある日突然異世界へ召喚される。しかし、特別なスキルとして授かったのは「牧場経営」。戦えない彼は、与えられた土地で牧場を経営し、食料面での貢献を望まれる。ところが、彼の牧場には不思議な動物たちが次々と集まってきて――!? 異世界でのんびり牧場ライフ、始まります!

処理中です...