三人娘が異世界を創る ゆるく まったり いとをかし!

市上 未来

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第二章 人間に崇拝される編

56.神の正体

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教えてもらった教会は広場からそう遠くない場所だった。

「ここが……教会、ですか?」

 レカエルが不可解な顔をしたのも無理はない。元世界のいわゆる教会とはかなり違った建物だったのである。

「よ、様式はエウラシアが遊園地で創ったゲートっぽいね」

 デザインの基本形は大きな石柱が並ぶエウラシアの国の古代建築に似ていた。けっこう大きい立派な建物ではある。

「うー。こんなに。アレじゃ。ない」
「そ、そだね。ごめん。こんなにアレじゃないよね」

 悪いことを言ってしまい謝るツツミ。教会はなんというか……けばけばしかった。

 金箔やら銀箔やらが全体に張られていてピカピカだ。豪華かもしれないが目が痛い。ツツミの国にも金ピカの建物はあったが、教会はそれと違って悪趣味としか思えない。

「とりあえず、入ってみようか」
「あまり気は進みませんが……仕方ありませんね」

 渋々といった様子で扉を開けるレカエル。入ってみるとそこはだだっぴろい礼拝所のようだった。外観ほど派手ではない。

「……中は私がよく知っている教会に似ていますね」

 レカエルが辺りを見回しながら言う。豪奢なステンドグラスに彩られた壁。人々がたくさん集まることもあるのだろう、長椅子がいくつも並んでいる。奥の方には祭壇らしきものもあった。

「ようこそいらっしゃいました。お祈りですか?」
「あ、どうも。ちょっと見……学…………に……」

 入り口に、教会に仕えているらしい女性が控えていた。三十代後半位だろうか。入ってきた三人を見て話しかけたのだろう。ツツミは答えようとして言葉を失った。

「……? どうかされましたか?」
「い、いやいや! あの、その、なんというか……」

 ごにょごにょと口ごもるツツミ。レカエルが不思議そうな顔をしたが後を引き取る。

「こんにちは。私たちは初めてこちらに来たのです。ぜひ中を見学したいのですが……」
「あら、そうでしたか。では、私がご案内させていただきますね」
「ありがとうございます。あの、その服装は……」
「れ、レカエル!」

 慌ててツツミがレカエルを止める。

「ダメ! 服装にツッコんじゃだめだから!」
「ツツミ? しかし気になるではありませんか」

 街の人々は大半が、毛織物らしい二枚の布を両脇で縫ったワンピースのような服を着ていた。男性はその上にマントを羽織っていることが多いようだ。

 鳥人を中心に、和服をアレンジしたような恰好もチラホラいた。長い袴に牛革のブーツなど履いている姿はさながらツツミの国の百年前の流行のようである。

 しかしこの女性の恰好は全く趣が異なっていたのである。

「とにかく! これは触れちゃいけない話題な予感なんだよ!」
「なんですかいったい。なぜそんなに焦って……」
「あの……。何かお困りな事でも?」

 ひそひそ話すツツミとレカエルを不審に思ったのか、女性が尋ねてくる。今度は止める暇もなくレカエルが答えた。

「ああいえ。神に仕える方が水兵の服を着てらっしゃるのは珍しいと思いまして」
「水兵?」

 ツツミと女性の言葉は同時だった。一瞬間が合って、やや苦笑しながら女性が続ける。

「スイヘイ……というのはわかりませんが、こちらは神に仕える者が着る伝統ある衣装です。別の教会にも行かれたことがないのですね、では張り切ってご案内しましょう」

 にっこり笑って歩き出す女性。レカエルがまた声を潜めてツツミにささやく。

「よくわかりませんが……何という事もないではありませんか」
「そ、そうだね。水兵の服が教会の標準装備なのは不思議だけどそれだけだよね!」
「まったく……行きますよ」

 レカエルは女性の後を追った。ツツミもそれに倣って歩き出す。と、今度はエウラシアが話しかけてきた。

「ツツミ。どうか。したの?」
「……エウラシア。うちの国だとあの服、セーラー服は学校に通う十代の女の子が着る服なんだよ」

 女性は白いシャツに紺のスカート、赤いリボンまでついた立派な女子高生姿だった。足の黒のソックスにローファーまで完璧である。

「きれいな人なんだけど……。あれくらいの年の人がセーラー服姿なのは……なんか違和感がすごい」

 下手におばさんと言えないくらいの年頃の女性である。それが逆になんというか怪しさを増している。

「うん? ツツミの。国の。女の子の。服?」
「うん」
「ツツミの国。つまり。アツシの国?」
「う、うん」
「ここは。神様の。教会で。それに。仕える。人が。あの服を。着てる?」
「……うん」
「……おー」

 ポン、と手を打つエウラシア。彼女はめんどくさがり屋なだけで頭の回転は速いのだ。

「つまり……」
「い、いやいやいや! まだわかんないから! 水兵の方が由来かもしれないから!」

 再びひとつの結論を出そうとしたエウラシアをツツミは遮った。もっともツツミの中でも仮説が状況証拠によって固められてきているのだが。

「二人とも! 早くついてきなさい! いつまでこちらの方を待たせるのですか」
「構いませんよ。今日は礼拝される方も少ないですし……。告解される方がいらっしゃったら中座させていただくかもしれませんが」
「告解? 失礼ですがあなたが?」

 告解とは自分の罪を教会で告白し、神の許しを請うことである。レカエルの方の習慣で、教会の一定以上の地位の者相手に行うのだが……。

「うふふ。これでも司祭を務めているのです」
「そうでしたか! 申し訳ありませんでした。それにしても、女性も司祭になることができるのですね」

 レカエルの主の信仰者の間では、基本的に男性しか司祭にはなれない。しかし女司祭はきょとんとした顔で言った。

「教会に務める人は女性が多いですよ? まあ、神も殿方ですもの。婦女子に囲まれたほうがご機嫌も麗しいかもしれませんね、うふふ」
「……神は男性なのですか」

 レカエルが女司祭に聞こえないくらいの小声でつぶやく。追いついてきたツツミにエウラシアがまたささやいた。

「うー。状況証拠。追加」
「ま、まだまだ。決定的とは……」

 首をぶんぶんと振るツツミ。と、前を歩いていた女司祭が立ち止まった。

「まずは祭壇をご覧ください。こちらです」
「こ、これが……! 神、ですか!?」

 レカエルが驚愕の声を上げる。ツツミとエウラシアも祭壇に目をやってうわぁといった表情になった。

「おー。決定的な。証拠」
「……あー。やっぱりね……」

 まあ覚悟していたことでもある。女司祭は祭壇を飾っているいくつかの絵画のうち、ひときわ大きい絵を指して説明した。

「こちらが偉大なる英雄にして我らの守り手、この世界に生きるすべての者の父祖。アツシ神です」
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