戦争犯罪人ソフィア

司条西

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8:懲罰房

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「429番、お前を今から懲罰房で一週間の厳重拘禁とする。理由は言わなくても解かっているよね」

独房の床に跪かされているソフィアを、マクダ少尉が鋭い視線で見下ろす。
哀れな死刑囚は、これから身に起こる恐怖に体を震わせていた。



それは週に二度の入浴を終えた後。
些細な動作ミスをマクダ少尉に咎められたソフィアは、脱衣所で全裸のまま起立するよう命じられる。
そして2時間にわたる激しい叱責を受け、その間に頬を何度も張られ、胸や陰部を弄ばれ嘲笑される辱めを受けた。

「少尉、このままでは429番が風邪をひくかもしれません。そろそろ服だけでも着せた方がよろしいのでは?」

さすがに見かねたのだろう、付き添いで来たゲールの女兵士がソフィアに助け舟を出す。
しかしマクダ少尉はソフィアへの虐待を止めなかった。
それどころかこう言い放った。

「別に風邪くらいいいじゃない、どうせこの女はもうすぐ死ぬのよ」

それを機にソフィアの中で必死に耐えていたものが、堰を切るように溢れ出した。
頭が真っ白になり、言葉にならない悲鳴を上げてマクダ少尉に飛びかかる。
気が付いた時には、5人のゲール兵士に取り押さえられていた。
そして全裸のまま手錠を掛けられ、罰を受けることになった。



「ほらっ、アルトリアの雌豚、きびきび歩きなっ!」

「くっ、ぐうっ!」

マクダ少尉に尻を打たれたソフィアがバランスを崩す。
後ろ手に手錠を掛けられ、足枷まで嵌められた状態でまともに歩くことなど不可能だ。
何度も尻を打たれてようやくソフィアは懲罰房へと到着する。
すると放り込む、という表現がぴったりの方法で部屋へと入れられた。

「あうっ!」

ソフィアの体が床へと叩きつけられた。
両手を背中で縛められているため、受け身さえ取れない。

「どうだい、いい部屋だろう? あんたのような戦争犯罪人にはお似合いさ」

マクダ少尉の言葉にソフィアは奥歯を噛み占める。
懲罰房はひどく狭く、排泄孔が設けられている以外は何も無い暗室だ。

「それと新しい服も用意してあげたよ、気に入ってくれるといいんだけど」

嘲るような言葉と共に、ソフィアはその場でキャンパス地の拘束衣を着せられた。
両腕は幾本ものベルトで両手は背中の後ろで固定され、動かすことさえできない。
しかも腰から下は、足枷以外は何も着けることを許されない。
両腕が封じられたままでもトイレに行けるための処置とのことだ。

「うふふ、いい格好ね」

マクダ少尉がソフィアの剥き出しになった下半身を撫でまわす。
口を真一文字にして耐えるソフィアだが、辱めはこれで終わりではない。

「次はこれを付けてもらうよ、騒がれても面倒だからね」

マクダ少尉が持って来たのは防声具だ。
革製のマスクの戒具に顎と口を押さえつけられたソフィアは、声さえ出せなくなる。

「防声具は4時間おきに点検のため外してあげる。でも拘束衣は食事のときもずっとそのままよ。規律を乱すとどうなるか、この懲罰房で充分に思い知る事ね」

マクダ少尉はソフィアの姿を満足げに見下ろすと、懲罰房の重厚な鉄扉を勢い良く閉めた。

(暗い、それに息苦しい)

静寂と闇が、ソフィアの捕らえられている懲罰房を支配する。
明かりは点けられず、窓さえないので何も見えない。
聞こえるのは足枷の鎖の擦れる音と革ベルトの軋み、そして防声具から零れる微かな喘ぎ。
ソフィアの人生で最も長く感じる時間が始まった。

(苦しい、助けて)

芋虫のように転がりながらソフィアは悶えた。
せめて眠ろうと努力してみるが、上半身をきつく締め付ける皮ベルトがそれを許さない。
仕方なくソフィアは、拘束衣と鉄枷で全く身動きの取れない体を起こした。
そして一面にマットを張った壁に寄りかかり、足枷で縛められた両足を投げ出すような姿勢を取った。

「429番、防声具の点検よ」

数時間後、懲罰防内にマクダ少尉が現れた。
軍服姿でつかつかと入って来た少尉は、ソフィアの口にぴったりと被せられている革の戒具のベルトを弛めた。

「口を開けなさい」

ソフィアの口を覆っていた防声具が外される。
多量の唾液が口から溢れ、拘束衣の上に零れ落ちた。

「うぅ、はぁ、はぁ」

「ふん、汚いねえ」

嘲られるソフィアだが、もはやマクダ少尉を睨み返す気力さえない。
喘ぐことすら辛かった。

「429番、防声具に異常なし、水分補給を行うわ」

マクダ少尉はアルマイトの容器に入った水を、ソフィアの開かれた口の中に注ぎ込む。
最初の頃は意思に反して注ぎこまれる水を、ややむせながらも飲み込むことができた。
だが次第に腹が膨らみ始め、ソフィアの顔に苦悶の色が表われはじめる。

「うぇ、げほっ! げほっ!」

「こら、吐くな!」

「がはっ、ごふっ、ぷはぁ」

体を波うたせてソフィアが咳込んだ。
水の入った容器と唇の隙間から溢れた水が彼女の顔を濡らす。
吐き出された水の一部が鼻へと入り、ソフィアは涙を浮かべた。
それでもマクダ少尉は水を注ぎ続ける。

「ぐげぇ、げぶっ! ごほっ! ごほっ!」

ソフィアの体が跳ねた。
気管に水が入りこみ、焼けるように痛む。
浮んだ涙はすでに顔はびしょびしょで判別できない。
苦悶するソフィアへマクダ少尉が語りかける。

「苦しいかい? 悔しいかい? でもこの程度でグスタフの無念は晴れないわよ」

そう言うとマクダ少尉はソフィアへ水を注ぐのを止めた。
少し離れ、床に転がる恋人の仇を観察する。

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」

ソフィアは体を上下させながら細い息をついていた。
お腹は水で膨れあがり、乱れた前髪がべったりと額に張りついて、焦点を半ば失った瞳でただ宙を見ている。

「いつまで休んでいるの?」

マクダ少尉は右足を大きく上げると、ソフィアの腹を踏みつけた。

「がふっ、ぐげぇ、げぶっ!」

体重を掛けて腹を踏まれたソフィアの口から水が溢れる。
吸いこもうとした空気を逆流した水が防いでしまい、呼吸ができない。

「ははは、どう、水はたっぷりと飲めた?」

ぐったりとしたソフィアの腹を踏みつけながらマクダ少尉が低く笑う。
ヒューヒューと擦れた息がソフィアの口から漏れる。
マクダ少尉が足に体重をかけ度に、ぶるっと全身を震わせて口から水を吐き出した。
顔色は悪いとか青いとかを通り越していて、体も冷えきっている。

「飲めたか、と聞いているのよ!」

語気を強めたマクダ少尉がソフィアの腹に思い切り体重をかける。
口から水を吐き出し、ソフィアが目を見開く。
すると剥き出しになった足の付け根から、小水が零れた。
目を大きく見開いたままソフィアは辛そうに呻いた。

「あ、ああ、あ」

「あはははははっ、漏らしたの? まったくみっともない女ね」

楽しそうに笑うマクダ少尉に、ソフィアは睨み返す気力さえなかった。
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