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15:戦争犯罪人の終戦
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懲役刑が決まったソフィアの身柄は、既決囚用の刑務所へと送られた。
そしてゲール軍基地の炊事場での労働を命じられる。
毎日朝5時に起きて、ひたすら何千人もの占領軍兵士の食事を作る重労働の日々が始まる。
懲役が始まってから1年後。
獄中のソフィアの耳に、バンナ島捕虜殺害事件で死刑からの減刑が認められなかった8名の刑が執行されたとのニュースが入ってきた。
最初に最も責任が重いとされたダニエル中佐、アイリーン大尉、スミス中尉の将校3名が絞首刑に。
続いて主体的に捕虜殺害に関与したとみなされたカミラ軍曹ら下士官5名が、刑場の露と消えた。
処刑の時、アイリーン大尉は絞首刑を免れた者たちに「裏切り者」と叫んで亡くなったと聞いている。
彼女がなぜ自分たちを裏切り者だと思ったのか、ソフィアは最後まで理解はできなかった。
3年後、ソフィアは洗濯場へと配置換えされた。
この頃にルイーゼから送られた手紙で彼女の結婚を知る。
軍を辞めた後のルイーゼは、内部告発者という悪評により良い就職口に恵まれず、しばらく苦しい生活をしていたらしい。
そのことはソフィアの心をとても苦しめていた。
しかし今は理解ある出版社に勤めることができて、生活も安定。
職場で知り合った雑誌編集者の夫も、正義感が強く彼女が尊敬できる人物で、ソフィアは親友の結婚を心から祝福した。
5年後、受刑態度が良好と認められたソフィアは、計算工へと配置換えされた。
この頃になると国際情勢の変化を受け、戦犯に対する扱いも緩やかになり、新聞や雑誌も自由に読めるようになる。
ソフィアの目を引いたのは、国会議員に転身したハンス弁護士の追及により、ゲール軍の汚職が暴かれた記事だ。
これにより次期参謀総長と言われていたゼップ中将が失脚する。
その後、ルイーゼからの手紙で、あのマクダ中尉が不名誉除隊となったことを知る。
理由は麻薬の乱用で、恋人であるグスタフ大佐を失った時から常用していたらしい。
死刑囚監房でマクダ中尉から受けた虐待、拷問は今でも夢に見る。
これは一生ソフィアの頭から消えることは無いだろう。
戦争さえ無ければマクダ中尉に憎まれることも無かったかと思うと、ソフィアはやりきれない気分になる。
6年後、ゲールを含めた交戦国とアルトリアとの間で正式に平和条約が結ばれた。
これにより戦犯に対する赦免、減刑を求める声が強まり、ソフィアも釈放を期待するようになる。
そしてソフィアが35歳になった、懲役7年目。
遂にアルトリア政府から戦犯に対する恩赦が下された。
3年早い釈放にソフィアは喜びを湧き上がらせる。
だがその一方で不安もあった。
(アレックスは本当に、迎えに来てくれるかしら)
優秀なエンジニアとなったアレックスは、その後独立して会社を立ち上げ、事業を見事に成功させている。
面会に来る度に彼は精悍な顔つきになっていて、もはやかつての頼りない新兵の面影は無い。
彼との会話はとても楽しかったが、自信にみなぎったアレックスを見る度にソフィア不安になった。
(こんないい男になった彼を、他の女性が見逃すはずが無い。それに引き換え私は……)
雑居房の鏡に映る自分の容貌は、小じわも増えて明らかに衰えている。
刑務所生活で肌のケアもろくにできないのだから無理もない。
自慢だったプロポーションも、維持には務めているが昔に比べれば崩れた。
「こんな私じゃ捨てられても当たり前よね、相手にだって選ぶ権利はあるもの……」
ソフィアはそう覚悟して釈放の日を待った。
そして出所の日。
世話になった看守に挨拶をしたソフィアは、自分と外界を7年間遮り続けた刑務所の扉の前に立った。
(本当に来てくれるのかしら)
待ち望み続けた外の世界だが、今は緊張で両足が震えている。
結果を見るのが恐ろしくてたまらない。
ソフィアの心の準備ができる前に、看守たちが大きな鉄扉をゆっくりと開く。
「おかえりなさい、中尉!」
ソフィアの目に最初に飛び込んできたのは、敬礼するかつての高射砲部隊の部下たち。
もう上官でなくなってから8年経つというのに、みんなで来てくれたのだ。
その中にはもちろん、待ち望んでいた顔もあった。
「アレックス」
7年間思い続けていた男に駆け寄る。
アレックスは優しくソフィアを抱きしめた。
ゆっくりと彼に身を預ける。
「中尉……」
「もう中尉じゃないわ、そう言ったでしょう」
「うん、お帰り、ソフィア」
ソフィアの頭に手のひらの感触がした。
刑務所で7年間待ち続けた、優しい彼の手。
(この人はどんな私も受け入れてくれる。大切にしなきゃ、この幸せは当たり前ではないのだから)
ソフィアはアレックスの顔にゆっくりと近き、二人は唇を重ねた。
この時、元アルトリア海軍中尉、ソフィアの長い戦争が終わった。
そしてゲール軍基地の炊事場での労働を命じられる。
毎日朝5時に起きて、ひたすら何千人もの占領軍兵士の食事を作る重労働の日々が始まる。
懲役が始まってから1年後。
獄中のソフィアの耳に、バンナ島捕虜殺害事件で死刑からの減刑が認められなかった8名の刑が執行されたとのニュースが入ってきた。
最初に最も責任が重いとされたダニエル中佐、アイリーン大尉、スミス中尉の将校3名が絞首刑に。
続いて主体的に捕虜殺害に関与したとみなされたカミラ軍曹ら下士官5名が、刑場の露と消えた。
処刑の時、アイリーン大尉は絞首刑を免れた者たちに「裏切り者」と叫んで亡くなったと聞いている。
彼女がなぜ自分たちを裏切り者だと思ったのか、ソフィアは最後まで理解はできなかった。
3年後、ソフィアは洗濯場へと配置換えされた。
この頃にルイーゼから送られた手紙で彼女の結婚を知る。
軍を辞めた後のルイーゼは、内部告発者という悪評により良い就職口に恵まれず、しばらく苦しい生活をしていたらしい。
そのことはソフィアの心をとても苦しめていた。
しかし今は理解ある出版社に勤めることができて、生活も安定。
職場で知り合った雑誌編集者の夫も、正義感が強く彼女が尊敬できる人物で、ソフィアは親友の結婚を心から祝福した。
5年後、受刑態度が良好と認められたソフィアは、計算工へと配置換えされた。
この頃になると国際情勢の変化を受け、戦犯に対する扱いも緩やかになり、新聞や雑誌も自由に読めるようになる。
ソフィアの目を引いたのは、国会議員に転身したハンス弁護士の追及により、ゲール軍の汚職が暴かれた記事だ。
これにより次期参謀総長と言われていたゼップ中将が失脚する。
その後、ルイーゼからの手紙で、あのマクダ中尉が不名誉除隊となったことを知る。
理由は麻薬の乱用で、恋人であるグスタフ大佐を失った時から常用していたらしい。
死刑囚監房でマクダ中尉から受けた虐待、拷問は今でも夢に見る。
これは一生ソフィアの頭から消えることは無いだろう。
戦争さえ無ければマクダ中尉に憎まれることも無かったかと思うと、ソフィアはやりきれない気分になる。
6年後、ゲールを含めた交戦国とアルトリアとの間で正式に平和条約が結ばれた。
これにより戦犯に対する赦免、減刑を求める声が強まり、ソフィアも釈放を期待するようになる。
そしてソフィアが35歳になった、懲役7年目。
遂にアルトリア政府から戦犯に対する恩赦が下された。
3年早い釈放にソフィアは喜びを湧き上がらせる。
だがその一方で不安もあった。
(アレックスは本当に、迎えに来てくれるかしら)
優秀なエンジニアとなったアレックスは、その後独立して会社を立ち上げ、事業を見事に成功させている。
面会に来る度に彼は精悍な顔つきになっていて、もはやかつての頼りない新兵の面影は無い。
彼との会話はとても楽しかったが、自信にみなぎったアレックスを見る度にソフィア不安になった。
(こんないい男になった彼を、他の女性が見逃すはずが無い。それに引き換え私は……)
雑居房の鏡に映る自分の容貌は、小じわも増えて明らかに衰えている。
刑務所生活で肌のケアもろくにできないのだから無理もない。
自慢だったプロポーションも、維持には務めているが昔に比べれば崩れた。
「こんな私じゃ捨てられても当たり前よね、相手にだって選ぶ権利はあるもの……」
ソフィアはそう覚悟して釈放の日を待った。
そして出所の日。
世話になった看守に挨拶をしたソフィアは、自分と外界を7年間遮り続けた刑務所の扉の前に立った。
(本当に来てくれるのかしら)
待ち望み続けた外の世界だが、今は緊張で両足が震えている。
結果を見るのが恐ろしくてたまらない。
ソフィアの心の準備ができる前に、看守たちが大きな鉄扉をゆっくりと開く。
「おかえりなさい、中尉!」
ソフィアの目に最初に飛び込んできたのは、敬礼するかつての高射砲部隊の部下たち。
もう上官でなくなってから8年経つというのに、みんなで来てくれたのだ。
その中にはもちろん、待ち望んでいた顔もあった。
「アレックス」
7年間思い続けていた男に駆け寄る。
アレックスは優しくソフィアを抱きしめた。
ゆっくりと彼に身を預ける。
「中尉……」
「もう中尉じゃないわ、そう言ったでしょう」
「うん、お帰り、ソフィア」
ソフィアの頭に手のひらの感触がした。
刑務所で7年間待ち続けた、優しい彼の手。
(この人はどんな私も受け入れてくれる。大切にしなきゃ、この幸せは当たり前ではないのだから)
ソフィアはアレックスの顔にゆっくりと近き、二人は唇を重ねた。
この時、元アルトリア海軍中尉、ソフィアの長い戦争が終わった。
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美人将校が戦争犯罪人として女囚しかも死刑囚に転落するというシチュエーションが斬新です。私的な復讐で全裸身体検査や足枷をされたり懲罰房に入れられ防声具を装着されるのも無残ですね。できれば回想シーンで逮捕や取り調べの様子、手錠をかけられた時の気持ち、収監後の身体検査などもお願いします。