女怪盗アクア 電子の監獄

司条西

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9:葉月国際美術館の罠②

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「警察が、いない?」

葉月美術館の1階がある山頂。
立木の間に身を隠した弥生は、双眼鏡から目を離してそう呟いた。
美術館の周辺には、人ひとり見当たらない。
ふもとにあるチケット売り場の前も同様だ。
毎度毎度大挙して怪盗アクアを追いかけて来る警察官がまるで見当たらない。

「美術館の中で待ち構えているのかな? でも全く気配を感じない」

訝しみつつ弥生は背負っていたバックを下ろすと、バルーンと上昇用のガスを取り出して茂みの中へと隠す。
万が一の場合は、空へ飛んで逃げる予定だ。

「侵入経路よし、逃走経路の確保よし、これで大丈夫、もし罠があったとしても、その時はその時よ」

覚悟を決めて顔をピシャリと叩くと、弥生は人間離れした跳躍力で木の枝を掴んだ。
そしてグルリと1回転して枝の上に飛び乗り、赤外線ゴーグルを顔にかける。

「よし、下調べのとおり、屋根には赤外線の反応はないわね」

枝から枝へと飛び移り、葉月国際美術館の屋上を目指す。
山頂にある1階の建物は、赤外線センサーが張り巡らされた美しい庭園の中にある。
少しでもセンサーに触れれば警報が鳴り響き、強烈なライトで庭園が照らされ侵入者を発見する仕組みだ。
見つからずに忍び込む方法は、この上から近づくルートしかない。

「たあっ!」

美術館に最も近い枝から跳躍した弥生は、音もなく屋根の上へと着地する。
その身のこなしはまるで猫のようだ。
すぐに網を外して換気ダクトの中へと滑り込み、建物の1階へと潜入する。

「館内にも、誰もいないの?」

物陰に身を隠した弥生が、辺りを見回しながら眉をひそめた。
周囲を警戒しつつ、音もたてずに地下を目指す。
そしてスロープを降りて地下1階へと到着した、その時。

「……っ!」

真上からローターの回転音がした。
反射的に視線を上げると、2機ドローンがカメラの照準を合わせていて、目をマスクで覆った弥生の顔認証を行っている。

「侵入者ハッケン、侵入者ハッケン」

「くっ、やっぱり罠だったのね」

ドローンの先端にある銃口から、2本のワイヤーが付いた針が発射される。
弥生はとっさに横に飛んでそれを避けた。

「テーザー銃!?」

体にじみ出た汗が、青いレオタードを濡らす。
あの針が突き刺さったら最後、数十万ボルトの電流が体内に直接流れ込むことになる。
死にはしないだろうが、行動不能になるのは避けられない。

「こんな物騒な物を持ち出す所を見ると、どうやら今回の件、本当に警察は関わってないみたいね」

2機ドローンは弥生を追尾し、テーザー銃の照準を合わせようとする。
とっさに柱の後ろに身を潜めるが、AIで自動追尾するドローンは回り込んできて、すぐに女怪盗を発見した。
一度ターゲットを認識したドローンからは、決して逃れることはできない。

「こうなったら!」

弥生は胸元から青いカードを取りだすと、ドローンに向かって投げた。
しかしドローンの装甲はカードを易々とはじき返す。

「ちいっ、やはり撮影用のオモチャとは違うわね」

舌打ちする弥生の眼前で、ドローンが急角度で上昇した。
そして前傾姿勢となり、安全な真上から弥生を狙おうとする。

「しめたっ!」

弥生はその瞬間を見逃さず、角度を測ってカードを投げた。
カードはローターへと命中し、不安定な前傾姿勢から安定性を失ったドローンが床へと墜落する。

「あと1つ」

弥生はもう1機にも狙いを定める。
連携を崩されAIが混乱しているのだろう、ドローンの動きは先ほどよりぎこちない。
投擲されたカードがローターに命中し、動きが止まった所でさらに飛び蹴りを一発。
ドローンは地上に落ち、2機とも動かなくなった。

「ふぅ、危なかった」

額に流れる汗をぬぐう弥生。
そんな彼女の戦闘は、館内に仕掛けられたカメラによりしっかりと撮影されている。
見ているのはもちろんオーナーである葉月火虎だ。
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