女怪盗アクア 電子の監獄

司条西

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10:葉月国際美術館の罠③

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「はっはっはっ、大したものだ、さすが私のアクアだ」

葉月国際美術館、館長室。
ソファーに深く腰を落とした葉月が、大型のモニターを見ながら手を叩いて笑っている。

「彼女にかかれば最新型の防犯用ドローンも形無しだな。これをどう分析する、博士」

軽い口調で言う葉月の隣では、眼鏡をかけた白衣の男が指を噛んでいる。
彼の名前は白神。
葉月が出資しているテック企業の重役で、葉月国際美術館の防犯装置を設計をした技術者だ。

「申し訳ありません、ローターが弱点なのはわかっていました。しかしまさか、あんなカードごときで落とす方法があるとは思ってもいませんでした」

言い終わると再び白神は指を噛んだ。
歯の間に挟まった指からは血が出ていて、彼の悔しがりようがわかる。

「ま、いくら技術が進歩しても、機械は人間の閃きにはかなわんというわけだな」

「私の失敗です」

「いや、あれは失敗ではない」

そう言うと、葉月は勢いよく立ち上がった。

「むしろ大成功というべきだ、おかげで我々はあの女怪盗をさらに深く知ることができたのだ」

葉月は上機嫌で言った。
白神への慰めなどではなく、本気でそう思っている。

「天才の発想に凡人が勝利する方法は、膨大なデータの蓄積と分析、そして学習だけだ。それにより我々は初めて、怪盗アクアを捕まえることが可能となるのだよ」

モニターに映る青いレオタードの怪盗を見ながら葉月は言った。
その瞳は静かで、そして暗く、底が見えないような狂気と敬愛が伺える。

「博士、先ほどの戦闘データを館内にいる他のロボットが全て共有するまで、どの程度の時間がかかる」

「5分もあれば十分かと」

白神の答えに葉月は満足すると、モニターに映る女怪盗へ愛おしそうに語りかけた。

「さあ怪盗アクア、早くベテルギウスの輝きがある地下2階まで来ておくれ。そこに私が考えたとっておきのショーが用意してある。その時の君の顔が楽しみでならんよ、はっはっはっ」
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