109 / 125
陰謀
信頼されているカリーナ
しおりを挟む
「有難うございます、ヴェンデル。彼女はあなたの魔法のお陰で薬物の効果もなくなったでしょう。流石に疲労は残っているようなので、起きるまで休ませておきます。もしかしたらまたあなたにお願いに参る時があるかもしれませんが――体調が良くない時は、遠慮なく断ってくださいね」
目のやり場に困る下着姿の彼女にシーツをかけると、ジークハルトのマントを脇に抱えてギルベルトは申し訳なさそうに頭を下げた。
「いいえ、いつでも呼んで下さい。私、力になりますから!」
ギルベルトの手を取って、ヴェンデルガルトは力強くそう言った。その言葉に、ギルベルトは微笑んだ。
「あなたは、いつでも女神のように優しい――有難うございます。あ、あとお願いが一つあります」
「何でしょう?」
「この事は秘密で調査をしますので、彼女の世話をする口の堅いメイドが必要です。カリーナを暫く彼女につけさせたいのです」
確かに、女性の世話をするにはメイドが必要だろう。ビルギットはヴェンデルガルトを護る魔法を使う事が出来るので、彼女から離せない。そうなると、カリーナしかいない。カリーナはまだ若いが、ビルギットが褒めるほどよく出来たメイドだ。ただ、少し賑やかなのが難点だ。
「分かりました、カリーナにお願いをしておきます。ギルベルト様、ご無理なさらずに」
「あなたに心配して頂いたので、私は無事頑張りますよ。有難う、私の天使。この可哀想な人を、必ず助けます」
ギルベルトはヴェンデルガルトの額にキスをすると、愛おしそうに瞳を細めた。
「カリーナには、私からも説明します。ヴェンデルガルト様たちと、ご一緒に部屋に戻ります。そうして、カリーナを連れてきますね」
エルマーがそう言って、ロルフと共に目立たないようにヴェンデルガルトの部屋に戻った。エルマーはさっきの少女の様子にまだ動揺していて、深い呼吸を繰り返していた。
ヴェンデルガルトから離れるのは嫌だとカリーナは駄々をこねていたが、ヴェンデルガルトからお願いをされたのと薔薇騎士団からの命令という事で、仕方なくエルマーに連れられて医務室に向かった。
「昔、同じような事がありましたね」
ビルギットの言葉に、ヴェンデルガルトが頷く。その顔は、ひどく憐れみを含んでいた。
「二百年前にですか?」
ロルフの言葉に、ビルギットが口を開いた。
「まだ西に王国が沢山ある時――今は、バルシュミーデ皇国の植民地になっているんですよね? その王国があった時に、貴族のお嬢様を攫ってマッサという中毒性がある植物を利用して、薬漬けにして自我を無くして貴族相手の娼婦にさせていたんです。礼儀作法や一般教育を受けた娼婦は、高く買われたそうです。バッハシュタイン王国はそれを嫌い、西とはほとんど交流がありませんでした」
「身体の傷は癒えたけど――大丈夫かしら? 精神的な治療も、明日行って魔法かけてみようかしら」
ヴェンデルガルトは、沈んだ顔をしたままだ。
「そうしましょう。ヴェンデルガルト様は、今日は医務室まで行って戻ってこられました。随分体力が戻っています。歩く練習がてら、行きましょう。疲れたら、俺が抱えて帰ってきますから」
ロルフの、ヴェンデルガルトを気遣った言葉に、ようやく彼女は小さく微笑んだ。
「では、今日は完食出来るように頑張りましょう。今日のメインは、ゲルンの腸詰です――ああ、勿論血は入っていません。ヴェンデルガルト様は苦手ですものね」
ゲルンは、豚と猪に似た動物だ。この時期に、よく狩りで捕らえられる。腸詰にその血を入れる料理法もあるが、ヴェンデルガルトは血の味が苦手だった。それを聞いてほっとする。
「カリーナがいないと、寂しいですね」
ふと、料理を運びながらビルギットが呟いた。ヴェンデルガルトが南にいた時、泣いていたビルギットを一番励ましてくれたのは、カリーナだ。カリーナは騒がしいが優しく、我慢強い性格だ。ビルギットはカリーナを信頼していて、ヴェンデルガルトの世話を一緒にする相手は彼女しかいないと思っていた。
「カリーナにも、差し入れして励ましましょう」
「良いですね、俺朝一番に買ってきますよ!」
ヴェンデルガルトの担当は、皆に憧れられていた。ビルギットもカリーナも他のメイドには羨ましがられて、ロルフは同じ赤薔薇騎士団員から毎日のヴェンデルガルトの様子を教えてくれとねだられる。騎士団の中には、本気で彼女に憧れている人も多いとの事だ。
医務室は大変な事になっていたが、ヴェンデルガルトの部屋はいつも通り和やかな雰囲気だった。
「まずは、身体を拭いて服を着替えさせて欲しい」
ギルベルトはカリーナにそう頼むと、医務室にお湯を運ばせた。そうして男たちが部屋を出る。
「お可哀想に……」
簡単に話を聞いたカリーナは、治癒魔法をかけて貰った少女を優しくお湯で綺麗に拭いていく。身体を清めて綺麗な服を着せるまで、カリーナは黙ったまま丁寧に彼女を起こさないように作業をした。
目のやり場に困る下着姿の彼女にシーツをかけると、ジークハルトのマントを脇に抱えてギルベルトは申し訳なさそうに頭を下げた。
「いいえ、いつでも呼んで下さい。私、力になりますから!」
ギルベルトの手を取って、ヴェンデルガルトは力強くそう言った。その言葉に、ギルベルトは微笑んだ。
「あなたは、いつでも女神のように優しい――有難うございます。あ、あとお願いが一つあります」
「何でしょう?」
「この事は秘密で調査をしますので、彼女の世話をする口の堅いメイドが必要です。カリーナを暫く彼女につけさせたいのです」
確かに、女性の世話をするにはメイドが必要だろう。ビルギットはヴェンデルガルトを護る魔法を使う事が出来るので、彼女から離せない。そうなると、カリーナしかいない。カリーナはまだ若いが、ビルギットが褒めるほどよく出来たメイドだ。ただ、少し賑やかなのが難点だ。
「分かりました、カリーナにお願いをしておきます。ギルベルト様、ご無理なさらずに」
「あなたに心配して頂いたので、私は無事頑張りますよ。有難う、私の天使。この可哀想な人を、必ず助けます」
ギルベルトはヴェンデルガルトの額にキスをすると、愛おしそうに瞳を細めた。
「カリーナには、私からも説明します。ヴェンデルガルト様たちと、ご一緒に部屋に戻ります。そうして、カリーナを連れてきますね」
エルマーがそう言って、ロルフと共に目立たないようにヴェンデルガルトの部屋に戻った。エルマーはさっきの少女の様子にまだ動揺していて、深い呼吸を繰り返していた。
ヴェンデルガルトから離れるのは嫌だとカリーナは駄々をこねていたが、ヴェンデルガルトからお願いをされたのと薔薇騎士団からの命令という事で、仕方なくエルマーに連れられて医務室に向かった。
「昔、同じような事がありましたね」
ビルギットの言葉に、ヴェンデルガルトが頷く。その顔は、ひどく憐れみを含んでいた。
「二百年前にですか?」
ロルフの言葉に、ビルギットが口を開いた。
「まだ西に王国が沢山ある時――今は、バルシュミーデ皇国の植民地になっているんですよね? その王国があった時に、貴族のお嬢様を攫ってマッサという中毒性がある植物を利用して、薬漬けにして自我を無くして貴族相手の娼婦にさせていたんです。礼儀作法や一般教育を受けた娼婦は、高く買われたそうです。バッハシュタイン王国はそれを嫌い、西とはほとんど交流がありませんでした」
「身体の傷は癒えたけど――大丈夫かしら? 精神的な治療も、明日行って魔法かけてみようかしら」
ヴェンデルガルトは、沈んだ顔をしたままだ。
「そうしましょう。ヴェンデルガルト様は、今日は医務室まで行って戻ってこられました。随分体力が戻っています。歩く練習がてら、行きましょう。疲れたら、俺が抱えて帰ってきますから」
ロルフの、ヴェンデルガルトを気遣った言葉に、ようやく彼女は小さく微笑んだ。
「では、今日は完食出来るように頑張りましょう。今日のメインは、ゲルンの腸詰です――ああ、勿論血は入っていません。ヴェンデルガルト様は苦手ですものね」
ゲルンは、豚と猪に似た動物だ。この時期に、よく狩りで捕らえられる。腸詰にその血を入れる料理法もあるが、ヴェンデルガルトは血の味が苦手だった。それを聞いてほっとする。
「カリーナがいないと、寂しいですね」
ふと、料理を運びながらビルギットが呟いた。ヴェンデルガルトが南にいた時、泣いていたビルギットを一番励ましてくれたのは、カリーナだ。カリーナは騒がしいが優しく、我慢強い性格だ。ビルギットはカリーナを信頼していて、ヴェンデルガルトの世話を一緒にする相手は彼女しかいないと思っていた。
「カリーナにも、差し入れして励ましましょう」
「良いですね、俺朝一番に買ってきますよ!」
ヴェンデルガルトの担当は、皆に憧れられていた。ビルギットもカリーナも他のメイドには羨ましがられて、ロルフは同じ赤薔薇騎士団員から毎日のヴェンデルガルトの様子を教えてくれとねだられる。騎士団の中には、本気で彼女に憧れている人も多いとの事だ。
医務室は大変な事になっていたが、ヴェンデルガルトの部屋はいつも通り和やかな雰囲気だった。
「まずは、身体を拭いて服を着替えさせて欲しい」
ギルベルトはカリーナにそう頼むと、医務室にお湯を運ばせた。そうして男たちが部屋を出る。
「お可哀想に……」
簡単に話を聞いたカリーナは、治癒魔法をかけて貰った少女を優しくお湯で綺麗に拭いていく。身体を清めて綺麗な服を着せるまで、カリーナは黙ったまま丁寧に彼女を起こさないように作業をした。
1
あなたにおすすめの小説
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~
放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」
大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。
生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。
しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。
「すまない。私は父としての責任を果たす」
かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。
だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
召喚とか聖女とか、どうでもいいけど人の都合考えたことある?
浅海 景
恋愛
水谷 瑛莉桂(みずたに えりか)の目標は堅実な人生を送ること。その一歩となる社会人生活を踏み出した途端に異世界に召喚されてしまう。召喚成功に湧く周囲をよそに瑛莉桂は思った。
「聖女とか絶対ブラックだろう!断固拒否させてもらうから!」
ナルシストな王太子や欲深い神官長、腹黒騎士などを相手に主人公が幸せを勝ち取るため奮闘する物語です。
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです
きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」
5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。
その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?
旦那様、離婚しましょう ~私は冒険者になるのでご心配なくっ~
榎夜
恋愛
私と旦那様は白い結婚だ。体の関係どころか手を繋ぐ事もしたことがない。
ある日突然、旦那の子供を身籠ったという女性に離婚を要求された。
別に構いませんが......じゃあ、冒険者にでもなろうかしら?
ー全50話ー
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる