17 / 19
解決編
その3
しおりを挟む
俺たちが新たに足を踏み入れたそのエリアはまさしく昭和三十年代の日本の港町そのものだった。
今とは比較にならないほど背の低いレトロな外観のビルが立ち並びその間を昔懐かしい市電がカタカタと走っている。
車道に面したアーチ型の入り口の中は左右に様々な商店が居並んだ商店街となっており大勢の買い物客で賑わっている。
そして気のせいか街の全体がセピア色の光で包まれていてここにやって来た来場客である俺たちをまるで過去の世界に迷い込んだかの様な不思議な気持ちにさせる独特な雰囲気をかもし出していた。
更にこのエリアの最大の特色といえばなんと言ってもここが実際に海に面した沿岸部である事で、その為、映画「クレクレ坂にて」に出てくる大きな船が行き交う港湾区域までもが忠実に再現されており倉庫や工場、はたまた船のドックなどの各種施設も本物そっくりに建てられていたのだった。
俺たち四人は大勢の来場客が行き交うレトロな街並みを山形刑事の先導で歩いていたのだがどうやら彼はその本物そっくりに造られている港湾地域の方へと俺たちを連れて行こうとしているみたいであった。
やがて風に乗った波音が俺たちの耳にかすかに響きそれと共に潮の香りがしてきた。
倉庫で囲まれた細い路地を抜けると前途が一気に開け俺たちの目には白い波が打ち寄せる港の情景が視界いっぱいに飛び込んで来る。
そこには大小の倉庫や船舶ドックなど港に付き物の各種施設が所狭しと居並んでおりコンクリート製の護岸に次々と波が打ち寄せている。
もちろんそれらの施設群は外観を似せただけで実際的な機能を持たないレプリカでありつまりはその港の全体がテーマパークの一部として造られたいわばまがい物であった。
そしてその擬態したまがい物の港の埠頭には一隻の船が停泊していた。
青い空を背に港のコンクリ製の護岸に横付けされた海に浮かぶその船こそー。
あの、サンタフェス号であった。
「あ、あれはサンタフェス号ー。なぜこんな所にー」
俺が港の埠頭に浮かんでいるその巨船を遠目で見上げながら搾り出す様な声を出すと俺の隣に立つなな子がなぜか大きなため息をついた。
俺は思わず隣にいる彼女の方を振り向いたが彼女は視線を前に向けたまま口を真一文字に結びずっと押し黙っている。
すると、少し離れた場所で偽物の港のコンクリで出来た護岸の上に同僚と共に立つ山形刑事が俺たちに向かって後ろから声をかけてきた。
「驚きましたかな。もちろん、海に浮かんでいるあの船は本物のサンタフェス号ではなく、テーマパーク用に作られたレプリカです。でもー。驚くのはこれからですよ。さぁ、行きましょうか」
山形刑事はそう言うと俺たち全員を引き連れて今度はコンクリートの護岸に接しながら海に浮かんでいる目前にそびえ立つそのレプリカの船に向かって歩き出す。
俺たちが港湾区域の埠頭の上をしばらく歩きその船に近づくとなんとコンクリート製の護岸に接している件の船の船尾の部分は大きな出入り口になっており港の埠頭から簡単に船内へと入れる仕様になっていた。
俺たち四人が連れ立ってそのぽっかりと空いた出入り口から船の中に入ると案の定というか内部には土産物店やレストランが居並んでおりどうやら船にそっくりなのは外観だけで実態は商店モールの入ったただのハリボテの建築物である様だった。
本来なら機関部があるであろう位置に設けられたそれらの来客用の商店の前の通路を通過した俺たちはやがて船内というか建物の中に設けられた上へと通じる螺旋階段のタラップのとば口へとたどり着いた。
その階段は本当に現実の船の内部に設置されている乗降用の金属製の螺旋階段と同じ造りになっておりどうやら上部の船の甲板を模した場所へと通じているみたいであった。
螺旋階段の前に立ち尽くしている俺たちに向かって先導役の山形刑事がどこか真剣味のある声で言った。
「さぁ、この階段を昇って上に行きましょう。船の甲板の上にね」
そして、俺たちは山形刑事を先頭に一列となりその狭い螺旋状の金属で造られた階段をゾロゾロと昇った。
するとー。
その階段を上り切り四角い出入り口から外に出るとやはりそこは船の甲板の上であった。
そこには船室らしき部屋の扉が並んだ大きな建物が中央に設けられておりその両脇は人が二人やっと並んで通れるくらいの狭い通路になっている。
船の外縁部にはそれに沿うみたいに白い落下防止の金属柵がズラリと取り付けられており舳先を頂点として甲板をぐるっと囲む様に設けられたそれには「本物」の白い波がとうとうと押し寄せていた。
「ううーっ!!」
それを見た俺の口から思わずうめき声が漏れる。
俺の眼前に広がるその光景はまさしく一か月前、俺が日本から遠く離れた海の上を運行していた本物のサンフェスタ号の船上で見た光景に瓜二つであった。
まるで時間を巻き戻したかの様にー。
ただ一つだけ違いもあり確かあの時は船の長い甲板はその後ろ半分が立ち入り禁止区域に指定されており柵で厳重に閉鎖されていた筈だ。
だが今はその柵がスッパリと取り払われており船の船尾の方にも自由に行き来出来る状態になっていた。
俺は思わずみんなと一緒に立っていた地点から駆け出すと船の舳先付近へと駆け寄りそこに設けられた白い欄干をギュッと掴むとそこから見える景色に目を馳せる。
その瞬間、俺の脳裏に更なる衝撃が走る。
「こ、これはーっ」
そんな素っ頓狂な声を上げた俺に対して背後から山形刑事が静かな口調で言葉をかける。
「どうです?本当に船が海の上を走っている様に見えるでしょう。実際にはこの船というかそれを模した建築物は桟橋近くの水上に釘付けになっていてそこでただ浮いているだけなんですがね」
偽のサンタフェス号の舳先に呆然と立つ俺はそこに滔々と打ち寄せる波の合間に聞こえる老刑事のその声を何も言わずただ無言で聞いていた。
船の外周部に取り付けられた鉄柵を血の気が無くなるほど強く握りしめながらー。
[続く]
今とは比較にならないほど背の低いレトロな外観のビルが立ち並びその間を昔懐かしい市電がカタカタと走っている。
車道に面したアーチ型の入り口の中は左右に様々な商店が居並んだ商店街となっており大勢の買い物客で賑わっている。
そして気のせいか街の全体がセピア色の光で包まれていてここにやって来た来場客である俺たちをまるで過去の世界に迷い込んだかの様な不思議な気持ちにさせる独特な雰囲気をかもし出していた。
更にこのエリアの最大の特色といえばなんと言ってもここが実際に海に面した沿岸部である事で、その為、映画「クレクレ坂にて」に出てくる大きな船が行き交う港湾区域までもが忠実に再現されており倉庫や工場、はたまた船のドックなどの各種施設も本物そっくりに建てられていたのだった。
俺たち四人は大勢の来場客が行き交うレトロな街並みを山形刑事の先導で歩いていたのだがどうやら彼はその本物そっくりに造られている港湾地域の方へと俺たちを連れて行こうとしているみたいであった。
やがて風に乗った波音が俺たちの耳にかすかに響きそれと共に潮の香りがしてきた。
倉庫で囲まれた細い路地を抜けると前途が一気に開け俺たちの目には白い波が打ち寄せる港の情景が視界いっぱいに飛び込んで来る。
そこには大小の倉庫や船舶ドックなど港に付き物の各種施設が所狭しと居並んでおりコンクリート製の護岸に次々と波が打ち寄せている。
もちろんそれらの施設群は外観を似せただけで実際的な機能を持たないレプリカでありつまりはその港の全体がテーマパークの一部として造られたいわばまがい物であった。
そしてその擬態したまがい物の港の埠頭には一隻の船が停泊していた。
青い空を背に港のコンクリ製の護岸に横付けされた海に浮かぶその船こそー。
あの、サンタフェス号であった。
「あ、あれはサンタフェス号ー。なぜこんな所にー」
俺が港の埠頭に浮かんでいるその巨船を遠目で見上げながら搾り出す様な声を出すと俺の隣に立つなな子がなぜか大きなため息をついた。
俺は思わず隣にいる彼女の方を振り向いたが彼女は視線を前に向けたまま口を真一文字に結びずっと押し黙っている。
すると、少し離れた場所で偽物の港のコンクリで出来た護岸の上に同僚と共に立つ山形刑事が俺たちに向かって後ろから声をかけてきた。
「驚きましたかな。もちろん、海に浮かんでいるあの船は本物のサンタフェス号ではなく、テーマパーク用に作られたレプリカです。でもー。驚くのはこれからですよ。さぁ、行きましょうか」
山形刑事はそう言うと俺たち全員を引き連れて今度はコンクリートの護岸に接しながら海に浮かんでいる目前にそびえ立つそのレプリカの船に向かって歩き出す。
俺たちが港湾区域の埠頭の上をしばらく歩きその船に近づくとなんとコンクリート製の護岸に接している件の船の船尾の部分は大きな出入り口になっており港の埠頭から簡単に船内へと入れる仕様になっていた。
俺たち四人が連れ立ってそのぽっかりと空いた出入り口から船の中に入ると案の定というか内部には土産物店やレストランが居並んでおりどうやら船にそっくりなのは外観だけで実態は商店モールの入ったただのハリボテの建築物である様だった。
本来なら機関部があるであろう位置に設けられたそれらの来客用の商店の前の通路を通過した俺たちはやがて船内というか建物の中に設けられた上へと通じる螺旋階段のタラップのとば口へとたどり着いた。
その階段は本当に現実の船の内部に設置されている乗降用の金属製の螺旋階段と同じ造りになっておりどうやら上部の船の甲板を模した場所へと通じているみたいであった。
螺旋階段の前に立ち尽くしている俺たちに向かって先導役の山形刑事がどこか真剣味のある声で言った。
「さぁ、この階段を昇って上に行きましょう。船の甲板の上にね」
そして、俺たちは山形刑事を先頭に一列となりその狭い螺旋状の金属で造られた階段をゾロゾロと昇った。
するとー。
その階段を上り切り四角い出入り口から外に出るとやはりそこは船の甲板の上であった。
そこには船室らしき部屋の扉が並んだ大きな建物が中央に設けられておりその両脇は人が二人やっと並んで通れるくらいの狭い通路になっている。
船の外縁部にはそれに沿うみたいに白い落下防止の金属柵がズラリと取り付けられており舳先を頂点として甲板をぐるっと囲む様に設けられたそれには「本物」の白い波がとうとうと押し寄せていた。
「ううーっ!!」
それを見た俺の口から思わずうめき声が漏れる。
俺の眼前に広がるその光景はまさしく一か月前、俺が日本から遠く離れた海の上を運行していた本物のサンフェスタ号の船上で見た光景に瓜二つであった。
まるで時間を巻き戻したかの様にー。
ただ一つだけ違いもあり確かあの時は船の長い甲板はその後ろ半分が立ち入り禁止区域に指定されており柵で厳重に閉鎖されていた筈だ。
だが今はその柵がスッパリと取り払われており船の船尾の方にも自由に行き来出来る状態になっていた。
俺は思わずみんなと一緒に立っていた地点から駆け出すと船の舳先付近へと駆け寄りそこに設けられた白い欄干をギュッと掴むとそこから見える景色に目を馳せる。
その瞬間、俺の脳裏に更なる衝撃が走る。
「こ、これはーっ」
そんな素っ頓狂な声を上げた俺に対して背後から山形刑事が静かな口調で言葉をかける。
「どうです?本当に船が海の上を走っている様に見えるでしょう。実際にはこの船というかそれを模した建築物は桟橋近くの水上に釘付けになっていてそこでただ浮いているだけなんですがね」
偽のサンタフェス号の舳先に呆然と立つ俺はそこに滔々と打ち寄せる波の合間に聞こえる老刑事のその声を何も言わずただ無言で聞いていた。
船の外周部に取り付けられた鉄柵を血の気が無くなるほど強く握りしめながらー。
[続く]
0
あなたにおすすめの小説
熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)
MisakiNonagase
現代文学
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる