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プロローグ

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ここはアルカナ王国が最近所有したダンジョンの開拓村。

村の名前はまだない。

理由は出来立てのダンジョンの性質がまだ定まっていないからだ。

ダンジョンは特徴、特性を反映した名前がつけられ、国が直接管理することになっている。
有名なのは、高温の窯に必要な燃える石が大量に取れる「鍛治の祝福」や、おぞましい魔物が定期的に溢れて魔物の狂乱スタンビートを起こす「侵略の穴」など、単純に多くの益をもたらすものから、ただただ迷惑なものまで様々だ。

ダンジョンができると監視員が送り込まれると同時に対処にあたる為に強制移住をが行われる。
利益があるにしても、ないにしても、、、ダンジョンに対して何もしないという選択はないのだ。

強制移住者は労働力の確保を目的とした犯罪奴隷。
その他に一攫千金や独立、あるいは探索者としての成功を求めて多くの人間が自然と集まり開拓村が形作られる。

ダンジョンが有益なものなら各地の商会が支店を開き、より大きく発展するし、危険なものなら軍の訓練を兼ねて国の直轄地になることが多い。

そして、、ぼくは、いや、ぼくらは成功を求めてやってきた三人組の探索者パーティだ。

同じ村で育ち、共に成功を夢みた仲間。

「いよいよ明日だな。」

そこにある希望と期待を胸に、まっすぐな視線を向けてくる彼は僕らのリーダーのカルロ。体格に恵まれ赤い瞳に赤い髪が相まって雄々しい印象を与える。

皆、年は同じで15歳。成人したてだ。

「そうだね。」

控えめな声。だけど、その響きを聞くだけで心が落ち着く気がする。神官のニーナは色白で癒しての神に愛されたと言われる薄く青い髪に葵い瞳を持つ少女。カルロの横に立つと余計に小柄に感じる。ゆったりした神官服を着た華奢な彼女は癒しの力でぼくらを支える生命線だ。

にこやかな微笑みで慈愛に満ちたその視線は、村の誰もが一度は恋したはずだ。

少なくともぼくはそうだった。いや、今でも、、、。

ついつい彼女に見惚れてしまうのは悪い癖だ。

「ん?わたしの顔に何かついてる??」

「いや、ごめん。ニーナを見てると安心するから、、さ。明日、いよいよ潜るんだな。少し、不安だよ。」

ぼくは素直に今の気持ちを伝える。

「何言ってんだ?確かに探索は初めてだけどよ、、戦士の俺に、癒し手のニーナ、魔道士のセド。こんだけバランスの取れたパーティで、しかも幼馴染だ。お互いがわかってる俺らなら大丈夫だろ?」

緊張を感じた事なんて生まれてこの方一度もないだろうカルロの一言に苦笑する。

魔道士のセド、それがぼくだ。初級の魔導は扱えるし、、初期のダンジョン攻略にこのメンバー構成で死ぬなんて事はないだろう。

「それでも、、、ダンジョンは危険だし、ぼくらは経験がないんだ。気を引き締めていこう。」

「だな。」

さっぱりした笑顔で応えるカルロ。

「ええ。3人で一流の探索者になりましょうね。」

そういうとニーナは僕らの手を取り

「癒しの神アルナの祝福があらんことを、、、」

祈りの祝詞を唱える。

「今日はゆっくり身体と心を休めましょう。」

「そうだな。」

「うん」




翌日 




「さすがに、、、出来たてのダンジョンとはいえ、、これはないよな。」

初期のダンジョンは魔物も弱く財宝もショボいのは常識だ。探索者は国にとって経済を回す為の潤滑油のようなものだ。

ダンジョンという資源の苗床へ自ら進み、その富を持ち帰るのが仕事だ。だが、危険も多い。

だからこそ、初期のダンジョンは経験の少ない探索者が優先的に入ることができ、ダンジョン攻略の基礎を学ぶのにうってつけなのだ。

たいていの初期ダンジョンは、魔物というより動物や昆虫(ただしデカい)が多く、正しく装備があれば死ぬ事はない。

また、資源も鉄鉱石やちょっとした魔道具、例えば通常より燃費が良くなるランタンなど、探索の補助になりそうなものが多く出現する。

理由はわからないが、ダンジョンにとって生きた人間は糧になるようで、贄として死んだ探索者が多くなればそれだけ力をつけると言われている。

肝心の探索者を多く集める為に、弱いうちは探索者にとって有利な環境を提供するのではないかと言われている。

弱く経験の浅い探索者は当然多い。不注意で死ぬ事もあるので、初期ダンジョンはその程度のおこぼれを狙っているのだろう。

それにしても、このダンジョンは異様だった。階層構造は複雑で中規模ダンジョンのようでありながら、、、魔物の類がいっさいいないのだ。

「なんつーか、、、歩き疲れるな」

それなりに戦闘をして、それなりの何かを手に入れる。その程度の期待で入ったが、、、ここまで戦闘らしい戦闘はない。

「そうね。もしかしたら、迷路のような構造で迷わして人を捕らえるダンジョンなのかもしれないわ。油断はなしよ。」

ニーナはそう言いながら探索マップを書き込んでいる。

「せめて、、、何か魔道具の一つくらいは欲しいよね。」

このままでは、ただ歩いただけになる。ぼくは都合の良い願望を口にして苦笑い。

「ふふ、そうね。」

ニーナの瞳を見ると、、、必要以上にながく見てしまうのは致し方ない。

「イチャつくのはいいけどよ、本当に何もなしじゃ来た甲斐がないぜ?」

不満を隠さぬカルロさんはぶっきらぼうに歩く。
その姿にはもう既に警戒心というものがなさそうだ。
気持ちはわかるけどね。。。

更に探索する事2時間、帰りを考えると今日の探索は打ち切るしかない。

「本当に、、ただ歩いただけになってしまうけどそろそろ帰ろう。」

「ちきしょー!やってらんねーよ。」

「今日は、、探索マップの作成スキルが上がった気がします。」

ですよねぇ。
ニーナは真面目なのでコツコツと探索マップを書き込んでいた。自分の歩幅から距離を測って記載しているのだろう。綿密で美しくすらある。

代わり映えのない土壁の通路。この先も似たような分岐が続くんだろうけど、何か一つくらい違いがあって欲し、、

「なぁ、、あれ見えるか?」

ぼくの一言に2人は視線の先を見る。

「ん?ありゃ、、なんだ?」

20mほど先の壁、松明の揺れに合わせるように小さな赤い光が反射している。

「鉱石、、かな?」

「とりあえず、、確かめてみましょう。」

4時間近く歩いてようやく見つけたかもしれない。

3人は足早に近づくとその輝きを放っていた石を手に取る。

「これ、、きれい。」

「ああ、初めて見るな。わかるか?」

ぼくも初めて見るけど、、もしかして

「これ、全体が赤く光るというより中に何か、、、閉じ込められているみたいにみえないか?もしそうなら、精霊石かもしれない。」

「精霊石、、そうね。よく見たら微かに揺れるような、、、間違いなさそう!すごい!」

ニーナは飛び跳ねるみたいに小躍りして魅入っている。

「精霊石って、、おま、、あれか?米粒大でも金貨で取引されるっていうあれか??」

光り物に興味のないカルロでさえ浮き足立っている。

「多分だけど、、でも、特徴は一致してる。赤いから炎の精霊石かな?鍛治だけでなく利用用途が多い割に希少だから、、かなり高値になるはずだよ!しかも、、この大きさ!やったな!」

ビー玉くらいの大きさだが、たったこれ一つで半年分の生活費にはなるだろう。宿だって共用の大部屋から個室に泊まれるだろうし、装備だって欲しかったものが買える。

「なあ、これ一つだと思うか?」

カルロはニヤリと笑いながら伺うようにいう。

「そうね、、ましかしたらまだあるかもしれない。」

「このダンジョンの特性が精霊石なら、、、可能性はある!」

残念ダンジョンかと思っていたけど、、まだ手に入るなら今帰るのは勿体無い!

「あっ、、、ねぇ、あれ見て。」

ニーナの指し示す先を見るとうっすらと赤い光りが見える。

僕ら3人は顔を見合わせ、、

「とりまくるぞ!」
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