加護なし転生

ボロン

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episode 1 逃避

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夜が明けるのを待ち、槐槍を手にシェルターを出た。今日から食料探しだ。

巨木と水場を中心とした半径五十メートルほどの範囲を慎重に探索する。
原生林のように草木が生い茂り、一歩進むにも苦労する。

やがて、朽ちた倒木の傍らに、鮮やかな色のキノコの群生を見つけた。
腹の虫が激しく鳴る。が、僕は渋々ながら手を出すのをやめた。
毒きのこか否かを見分ける知識がない。
命を賭してまで、そのわずかな空腹を満たす価値はないと、、まだその時ではない。

「冷静に、冷静に……」

そう自分に言い聞かせ、茂みを払って進んだ、その時だった。

足元の草むらから、体長一メートルほどの蛇が鎌首をもたげた。
派手な模様もなく、おそらく毒はなさそうな、ごく普通の蛇に見える。
僕の動きは一瞬止まったが、すぐに本能が動いた。

「これだ」

逃せば今日の糧はゼロだ。
僕は躊躇なく槐槍を構え、その首元めがけて突き出した。
空腹と焦りが思考を止め躊躇を捨ててくれたのは幸運だったろう。
穂先は正確に蛇の頸部を捉え、地面に縫い付ける。
蛇は激しくのたうち、その死の影に本能的な恐怖と、生理的な嫌悪感が全身を駆け巡った。だが、ここで引くわけにはいかない。
僕は力を勢いのまま、近くにあった石を拾い上げ、蛇の頭を一気に叩き潰した。

ぐしゃりと、鈍い感触。

蛇の動きは止まり、僕の鼓動だけが激しく鳴り響いている。
槐槍から手を離し、僕は数歩後ずさった。

仕留めた獲物を前に、言いようのない居心地の悪さが胸中に広がった。
生まれてこの方、自分の手で命を奪ったことなど一度もない。
スーパーに並ぶ肉も魚も、誰かが代わりに手を汚してくれたものだ。
これは生きるために必要なこと。
そう頭では理解しているが、手に残る感触と、地面に横たわる死体を見ていると、背筋が冷えた。

触るのも怖い、でも、、やるしかない。
僕は、いつか見たテレビを思い出しながら皮を剥ぎ、内臓を取り出す。解体など初めての経験だ。
生暖かく、まだ動いている心臓に押し出される血液の滑りと驚くほどの熱、鉄の匂い。

汚い。触りたくない。

不器用で手間取りながらも、なんとか血抜きを終え、シェルターへと戻る。
他にまとわりついている血と匂いを嫌いに落としたかったが、水場を汚したくなくて土で汚れを落とす。
不衛生なのは分かってるけど、、、。

焚き火の周りに、枝を立てて串代わりに蛇をそれに巻きつけるようにして炎に当てながら焼いていく。
肉が焦げ、脂が滴り、ジュウという音が、それでも空腹をさらに刺激した。

焼きあがった蛇肉を恐る恐る口に運ぶ。
骨が多くて食べづらい。
味はひたすらタンパクで、お世辞にも「うまい」とは言えなかった。
それでも、僕は必死に食べた。
生きていくためのエネルギーを。
貪るように摂取した。

食べ終え、焚き火のそばで少し落ち着いた僕は、改めて周囲の状況を考察する。

二日間の探索で、僕は大きな動物の痕跡を全く見つけていない。それは、熊や狼といった捕食者と遭遇する危険が低いことを意味するだろうか?
同時に、鹿や猪のような大型の獲物も期待できないということだ。
つまり、このエリアの獲物は小動物だけなのかもしれない。

安全が完全に保障されたわけではない。
だが、少なくとも生命を脅かすような大型の捕食者の痕跡がない。
この過酷な状況下において、何にも代えがたい希望に思えた。

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